私撰和歌集
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春歌
啓蟄に
芽吹きいづ春待ちくさのよろこびし 囀る鳥のにぎやかさかな
夕暮れの外を思ひつつ
あかつきを覚えぬ春の時数へ 宵の訪れただ待ちはべりぬ
題「早よ来ぬか」
花咲きて夜匂はしき恋したり ぬばたまの君がかほりきくまで
題「ひろまさ」
すめらぎの末広まさにめぐりあひ 請ひても忍ばむ花の蔭にて
夏歌
藤棚に行きて詠める
藤波のわたる瀬風にたなびけば なほなつかしききみの香ぞする
にほひたつ花ふさよするふぢ波の ひとひら流るたそかれの空
丙申年牡丹華 仁和寺瓦奉納にてよめる
おむろ寺に南風ふきゆれる葉さくらの 梢の下に夏来るらし
大國魂神社の暗闇祭を見て詠める
くらやみに灯り浮かびて神迎ふ 人の縁ぞまことをかしき
千光寺ケーブルカーの出発を車内にて待ちたる時
をのみちのまつはしづかに並び立つ たゞ虫の音を時と数へば
陽炎の立ちたるを見て
かぎろひの心燃えども数ならぬ 身さへ霞めば訪はぬものを
人に別れ告げきて
君がためこひたちぬれば忘れ草 こよひかぎりとさきはべるらむ
かへし
忘れじのかたきゆくすゑおぼえども かれたちけるをいかでしのばむ
若狭国名田庄土御門殿に行きて
いにひへの面影見ゆる若狭路に 夏越祓の声ぞ響きぬ
秋歌
いと暑しかりて縁に出でて風を求むるに
秋立つと知れども瓜ぞこひしかる 明日のすゞ風あふぎ待つかな
秋立ちたる日流星群を見る
涼風の至れる空に星流る 虫の音聞けば秋は来にけり
盆に帰りて
燃ゆる火とたなびく煙の静けさや 在りし日しのぶ君が送り火
今朝の月を見て
山のはにまさにかくれむ望月の かげにひそめし我がこゝろは
望月の歌詠める
鏡月みちるおもわのみあらかに しのぶる草の影さへも照る
七夕の雨に
催涙の雨にわが身を染めつつも 君濡らすまいと傘譲りあう
催涙の雨にくもりし天のかは 月人をとこの舟も渡らず
催涙雨やみて
立ちこきて河霧渡るみふねこそ 月弓なれば打ち鳴らすべし
名月に
あさましき我が影をだに照らしたる 天つ空なる月のおもては
暮れゆく秋に
ゆく秋の散るいてふやもみぢ葉の いろにも消えぬこひのみづゆれ
冬歌
積もりたる雪に
雪つみし庭のつばきや南天の をとめが頬に映えむ紅さよ
恋歌
恋の道に落ちたる人
下みづの流るぞ愛し五百瀬川 求めばほぐる道のまにまに
題知らず
恋を知り恋知らぬ頃の恋うたの 真っ直ぐな言葉胸突き刺さる
命日に
馴れ初めを頬染め語る祖母の眼に 在りし日祖父の面影を見る
記念日に
鈍すぎると君に怒られ告白され 抱きしめられたあれは今ごろ
物離れて
ながめをば悔ゆることはあらねども つのる心の行くかたもなし
寂しさも袖濡るるごとに薄らげば ただ懐かしく想ふものかは
離れたれど思ひ絶えざるゆえに生ゆ 忍び草葉に露ぞ落ちたる
結ばれぬ玉緒差し汲む由あらぬ 涙川にぞうち流るゝ
雑歌
題「物部氏」
いにしへも今も変はらずの都路の 遥かとほくへ続きけらまし
北鎌倉の晴明石碑を巡りて詠める
いにしへの君が足あと訪ねては 旅路の理由を探らむとする
題「ありがとう」
あまねかる理なぞおひて見書き開く 止め処にまはる有為の輪の中
題知らず
いにしへのたゆなき人の縁にぞ 時のしるべも流るゝものかは
夢見の悪き時に
夢うらのあまたあれども数ならぬ うつゝ違へば留まざりけり
本歌取り
世の中に誰がかけたるしがらみに とゞむしかなき我が身なりけり
白たへの衣ほすてふ山辺に みどりあやなし夏は来にけり




