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いんがおうほうのかじつ。


 光沢のある清潔感のある真っ白い部屋だ。部屋全体が光っていて眩しさを感じる。


 その清潔感とは対照的に、どこからか不快なすえたような臭いが漂ってくる。


 目を覚まして数秒の間、私はそれを噛みしめるように認識した。


 が、しかし。


 なぜ、自分がこの部屋にいるのかがわからない。

 落ち着こう。思いだせるところから思いだしていこう。


 自分の名前…は思いだせる。スンゴウ・ナオリ。三十二歳男性で独身、彼女もいない。そこそこ高給の会社員で、セキュリティの行き届いたマンションの最上階に 住んでいている。イタリアのスーツとワインが好きで、愛車もアルファロメオ・スパイダー。趣味はワイン、ドライブ、スポーツ全般、美術館巡り、化石収集。


 …そして、うふふふ…これはおおっぴらには言えないが、人を生きたまま蝋細工にすることも趣味としている。これは非常に芸術性の高い高貴な趣味だと自負している。私は彼女たちの時間をもっとも綺麗な形できりとっているのだ、が…ふむ…そうか思いだしてきた。私は私の「コレクションの一人」の家族の罠にはまり、まんまと囚われの身になったらしい。


 道理ですんなり「素材」が手に入るはずだ。あの「女」もグルだったのか。素材としてのクオリティの高さに目をくらんでしまったのが失敗の大きな要因だ。反省せねば。


 で、この部屋に閉じこめられた、と。ふむ、若干の混乱と記憶の齟齬はあるが、大体の状況はつかめてきた。即座に私を 警察に突き出さないところをみると、どうやら私的に復讐をするつもりらしい。段階的に私に苦痛を与え、最終的には命を奪うつもりか?


 だが甘い。


 相手が接触してきた時がチャンスだ。たとえそれが声だけでもいい。話さえできればなんとできる自信が私には充分あった。中途半端な社会の正義に縛られた人間を欺く方法は何通りでもある。


 無論このまま部屋にガスを流して私を殺すという選択肢もあるわけだが、それは無いだろうと私は踏んでいる。そうするくらいなら私を捕まえたときに殺せば済む話だ。絶対に恨み言の一つも私に言いたいはずだ。絶対に。私は待てばいい、相手が接触してくるその時を。


 そこまで考えた時、私は若干の空腹を覚えた。…このまま餓死させるというのもひとつの方法だが…それもありえないなと苦笑しつつ部屋を見渡すと、壁際に白い立方体があった。


 その立方体の上にはリンゴに似た見たことが無い赤い果物がぽつんと一個置いてある。

 これが食事、か。

 少ないな。まあ、贅沢を言える立場ではないしな。


 まさか、毒を仕込んでいるわけでもあるまい。

 毒殺をするなら私が気をうしなっている時にいくらでも与えることができただろう。

 この果実に毒を盛る意味はほぼ無いだろう。


 私は無駄な心配をやめてその果実に手を伸ばした時、初めて自分の袖口と手と、爪が伸びて酷く汚れていることに気がついた。


 はて。


 捕まった時、爪は切ったばかりのはずだし、こんなに汚すほど抵抗をした覚えは無いが。


 着替えと、できればシャワーに入りたいが、これも無駄な希望だろう。今は相手からの接触を待つのみだ。


 カシュリ・カシュリ・カシュ。


 名も知らない果実は大層甘く、瑞々しかった。美味い。さて…次の食事の時にでもなんらかの接触があるだろうか…と意味も無く天井を見上げつつあごを撫でると、ざらりとした違和感が。…髭だ。それもかなり長い。


 自分の?いやそんなはずはない。私は毎朝髭剃りを欠かさない。気を失っていかほどの時間が経過したのはわからないが、こんなに伸びるほどの時間が経過したとは思えない。いったいどういうことだ。


 ぷしゅー。


 白い立方体から二〇インチほどのディスプレイがでてきた。そしてそこには到底信じられない文章が羅列される。


『私たちは貴方に復讐をする。あなたが食べた果実には効能が五つある。ひとつはあなたを生かすための栄養。ちなみにこの果実は体内で完全吸収されるので排泄を必要としない。ふたつめはありとあらゆる病気の予防と治療。 みっつめは、貴方の新陳代謝の遅延。最後は、これがもっとも重要な要素だが、この果実を食べてから三分後にこの部屋で記憶したことをすべて消去をする。これは別に信じても信じなくてもいい。事実は事実だ。あなたは私たちの娘の時間を、人とは思えない残酷な方法で止めた。私たちはあなたとは違った形であなたの時間を止める。それが私たちは貴方に対する復讐だ』


 こいつは、何をいっているんだ?私の時間を止めるだと?


 ぷしゅー。


 再び白い立方体からなにかが出てきた。


 鏡だ。そこには、五十がらみの髪や髭が伸びほうだいに伸びた垢じみた男が───。


 私は悲鳴を上げ──────。



***



 光沢のある清潔感のある真っ白い部屋だ。部屋全体が光っていて眩しさを感じる。


 その清潔感とは対照的に、どこからか不愉快なすえたような臭いが漂ってくる。


 目を覚まして数秒の間、私はそれを噛みしめるように認識する。

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