まじょののろい。
若者がぼんやりと森の小径を歩いていると、突然ほうきに乗った魔女があらわれました。
魔女はうれしそうに持ってた杖をえいやっと若者へふりかざすとこう宣言します。
「のほほほほ。お前の両腕に何をたべても味がしない呪いをかけてやったわえ。筋肉の一筋一筋、骨の一本一本に刻みこんでやったから、もはや儂でももう、解くことは叶わんわ。一生砂を噛むような食事を楽しむがええて。のほほほほ」
そう言うだけ言うと魔女は満足そうに空へ飛びさっていきました。
若者は、試しにと持っていた干し肉をかじってみるとまったく味がしません。
これは困ったなあ、と呟きながら家に帰りました。
翌日、若者は昨日あったできごとを、幼馴染のリズに話しました。
「ちょっと待ってね」
リズはそう言って、家に帰ると昨日の夜に作ったシチューと銀のスプーンをトレイに載せて戻ってきました。それを見て若者は両手をあげて、リズを押しとどめようとしました。
「いや、本当に味がしないんだよ。パンを食べてもミルクを飲んでも果物をたべても、まるで紙を食べているみたいな…いや、正確には紙もあれはあれで味があるからね。正真正銘混じりけなしに無味無臭なんだ。正直これほど食事が苦痛になるとは思わなかったよ…」
若者は消え入るように弱音を吐きました。
それを見てリズは悪戯っ子のように微笑んで、シチューを一匙すくうとこう言いました。
「はい。あーんして」
こうしてこの村に、幼馴染の夫婦が誕生した。
健やかなるときも病めるときも、愛情深く夫に食事を食べさせてあげる妻の姿をみて、周囲の人々は、なんとも仲睦まじい夫婦だなあと噂し合ったそうな。