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SOR.  作者: 黒江茶々
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嵐の前の静けさ

サブタイトルとか、タイトルとか、キャラ名だとか、技名だとか武器名だとか、ああいうのってセンスがいりますよね。

私には無理でした。

 身体が揺れる。視界が揺れる。

 だが、吐き気を催すほど強い揺れではない。むしろ、睡魔が眠りへ誘いをかけてくるような、心地のいい揺れだ。

 彼、宮ケ原賢木みやがはらさかきは眠気を追い払うように小さくあくびをし、先ほどまで読んでいた本から目を離して、窓の外を見た。

 外はいつの間にか人混みが多く、高層ビルが建ち並ぶ都会の街並みに変わっている。

 今日が週末で、時間帯がお昼を少し過ぎているせいか、横断歩道を渡る人の数も多い。

 腕時計を見ると、現在は15時27分。しかし、まだその程度なら少々渋滞などに巻き込まれようとも、約束の時間には余裕を持って間に合うことができるだろう。


「ご心配なく、賢木様。必ず時間までに到着させます」


 そう賢木が頭の中でスケジュール管理をしていると、前の運転席から声がかかった。

 見ると、ルームミラーに機械のように冷たく、鋭い目付きの女性が映っている。

 グリーディー対策本部、という仕事場で賢木の秘書役を務めている氷上咲ひかみさきだ。

 容姿端麗、頭脳明晰、品行方正で運動神経も抜群。出るところは出て、引っ込むところは引っ込むという男女共々羨むボディを持ち、職場でも賢木の秘書というトップに近い位置に納まっている完璧ウーマンである。が、あまり人と関わることがないせいで、プライベートの私生活は謎に包まれている、と彼女に興味がある男性諸君はここぞって言うであろう。

 賢木も、その評価にはある程度同意している。

 咲とはプライベートでも深い交流と付き合いがあり、仕事柄というだけの仲ではない。むしろ、賢木にとってはもはや家族という立ち位置が近い。彼女もそういう認識をしているだろう。


「安心しろ。今回は時間に余裕を持って行動している。橋架もいるからな。交通事故等の厄介事に巻き込まれない限り、予定に遅れるなどということは断じてない」

「失礼しました。では、引き続き運転に集中します」

「ああ、任せた」

「はい、お任せを」


 無駄な会話を省き、賢木は再び窓の外を眺める。

 道行く人々が目視できる場所、首や腕などにSORと思わしき宝石が入った装身具を必ずつけており、ところどころに設置されている巨大テレビは最新型のSORのCMを流している。

 バッテリー容量が従来の何倍持つようになっただとか、以前のバージョンよりコンパクトになって持ち運びが楽になったとか、機種が増えただとか、その他の色々なことを実際に装着してみせたり、動画を流して宣伝している。

 しかし、そのことに賢木はあまり興味を持てなかった。


「当たり障りのないことばかりだな。正直、つまらん」


 溜息を吐き、ぽつりと呟く。

 彼らを乗せた車が交差点を右に曲がる。


「武装の威力の違いなどを公の場で公開することは難しいでしょうし、そもそも民間人には説明する必要もないでしょう。仕方のないことです」

「まぁ、そうだが」

「大体、SORの中身自体、変な気を起こした輩に解析されないよう、ブラックボックス化されていているではないですか。一介の商人程度が知っているはずがありません。よって当たり障りのないことしか話せません」

「くくく、製作に関わった奴らがほとんどいない今、あの中を完全に知っているのは俺だけだろうな」

「当然です。SORの発案をしたのは賢木様ですし、制作でも指示を出すリーダーでした。そして、何より設計をしたのは賢木様ではありませんか」

「ああ。あいつらが攻めて来ない限り、現状あまり意味はないのが残念だがな」


 咲に褒められ、まんざらでもないと意地の悪い笑みを見せる賢木。


 SOR、グリーディー専用に作られた、装着型汎用兵器。

 内蔵されたトランスシステムというものを起動することにより、日本国内でのみ、手元に剣や銃などといった武器が出現する。この武器はグリーディー達の『攻撃を無効化する』という特性を無視することができる。

 更に、使用者の身体を一時的に超人的なまでに強化することもでき、彼らに迫る身体能力を得ることも可能になった。

 しかし、SOR自体は電気で動いており、トランスシステムはその武器の維持に大量の電気を使う。

 なので、トランスには制限時間があり、今も戦えて精々2時間ほど。最初は30分やそこらが限界だったので、技術進化は目まぐるしいと言えるだろう。

 彼らが攻めて来た時の防衛のために今では国民全員がSORの装着を義務付けられ、どこの学校でも基本の操作は教えられる、悪用する輩が出ないように法律が追加される、と、一般市民にも近い存在となっている。


 賢木はそのSORの製作により、ようやくグリーディーと同じ土俵に立つことが出来たと世界から賞賛され、今は知らない人はいないと言うまでの有名人だ。

グリーディー特別対策本部を作った内の一人でもあり、支援だけでなく、昔は自ら前線に出ることもあった。

 少し自尊心が強いが、仕事はしっかりとこなす為、社内でも信頼している人は多い。

 しかし、その他の製作メンバーが原因不明の失踪を遂げている為、巷では名声を欲しがった賢木が全員を殺害したという噂が流れている。

 そのせいで、一時期は探偵に追われたり、警察に署への同行を頼まれたり、製作メンバーの家族や友人に迫られたこともあった。

 だが、どこを叩いても決定的な証拠が出て来ることはなく、アリバイもあった為、賢木は関係ないということで事件は収拾された。

 他人の妬みなど気にする必要はありません、と咲は言うが、賢木は今でもあまりいい気はしていない。


「賢木様、もうすぐ空港です」

「そうか。では橋架を起こそう。ちょうど、この変わらない街並みを見続けるのは飽き飽きしていたところだ」


 膝下に散らばっていたレポートを集め、読み終わった本と一緒にカバンへとしまう。

 そして、賢木は先ほどからドアにもたれかかり、死んだように眠る同伴者へと目を向けた。

 今年で高校2年生になる歳相応の顔立ちと身長だが、身体は細く、華奢な印象を相手に与える。

 しかし、顔は酷く青ざめており、精気があまり感じられない。


「橋架、そろそろ空港だ。さっさと降りる準備をしろ」

「……………」


 しかし彼は一言も返事をせず、無言でゆっくりと頷いただけであった。

 寝ているわけではなく、どうやら薄目で起きてはいるようだが、とても反応が悪い。


「賢木様、橋架様は今、どのようなご容態なのですか?」


 顔を上げると、運転席から首だけを曲げて咲がこちらを見ていた。

 恐らく赤信号で止まっているのだろう。止まっている車の先に、何人もの人が道路を渡っていく様子が見える。


「先日医者にも見せたが、さっぱりわからないと言う。使えん奴だ。だが、俺の予想だとこのままだと数日で廃人同然になるだろう」

「あと数日ですか」

「むしろ2年も持った方が奇跡というべきだな。既に身体にはガタが来ているだろうに、橋架の奴もよく耐えている。」

「何か、対抗手段はないのですか? このままでは橋架様がお亡くなりになってしまうのでは?」

「フッ、よくぞ聞いてくれた」


 そう言うと、賢木は上着の内ポケットからメモ帳のようなものを取り出し、乱雑に文字が書かれた1ページを乱暴に破り取り、咲に手渡した。

 咲はそれを受け取り、書かれた内容に目を通す。顔は相変わらずの無表情であったが、目からは若干の困惑が見て取れた。


「賢木様、これは?」

「言わずもがな、今回の計画だ。しかも、橋架の身体も治せる一石二鳥の話でもある。……本当は俺一人でやるつもりだったのだが、ちょうどいい。旅は道連れ、世は情けと言う。お前にも手伝ってもらおう」


 これから起こる出来事を想像し、目を細めて再び意地の悪い笑みを浮かべる賢木。

 しかし、その傍ら、咲は口元を一文字に結んでいた。眉を若干ひそめているところを見ると、嫌悪感を抱いているのかもしれない。よく見ないとわからないが、紙を握る手も小さく震えていた。


「賢木様」

「なんだ」

「この計画、負傷者や死者はいかほど出るのでしょうか。賢木様のお答えによっては、私、無礼を承知で――」

「それを聞くのはいいが、信号、青だぞ。いい加減クラクションがやかましい」


 気づけば赤信号は青信号になっており、前にいた数台の車は既にどこかへ行っていた。後ろからは「何をやっているんだ、早く行け」とばかりにクラクションが鳴らされている。

 はっと気付いた咲はとりあえず紙を胸ポケットにしまうと、急いでハンドルを握り、アクセルを踏んだ。十字路を真っ直ぐに進み、その場から逃げるように立ち去る。

 サイドミラーで後ろを覗くと、どうやら、ちょうど青信号の限界時間ギリギリだったようで、咲達以外の車は再び赤信号に阻まれていた。

 バックミラーへと目を移すと、同じくサイドミラーを覗いていたらしい賢木と目が合った。先ほどよりも意地の悪そうな目付きで咲を見ている。


「フッ、哀れな奴らだ。一度で済むところを二度も赤信号で待たされるとは。……そういえば、あの信号機は周辺で一番赤信号の時間が長かったな。小さなことだが同情する。お前もそう思わないか? 咲」


 早い話が「お前のせいであいつらが可哀想だ」と煽っているのだが、残念なことにこの手の挑発、というより賢木との会話に咲は慣れていた。


「そこまで信号機の点灯時間を把握してらっしゃるのに、私にあのようなものをあのタイミングで渡す賢木様の方がどうかと思います。……図ったのですね」


 そう言い返すと、おっと、口が滑ったな、と賢木は小さく笑い出した。

 その様子を見て、咲は「本当にこの人がSORを作ったのだろうか」と不思議に思うのであった。


「くっくっく……いや、すまなかった、ほんの冗談のつもりだ。あまりにも全てが予想通りだったので、ちょっと調子に乗ってみたかった」

「悪戯が過ぎます。悪い噂が広がるといけませんので、プライベートでも控えて下さい」

「分かっている、相手は選んでいるさ。表向きはどんな疑いもかけられない完璧人間でいないとな」

「はい。それで、話の続きですが――」


 片手間に運転をしつつ、胸ポケットから少しシワの寄った紙を取り出す。

 時間と場所、そして計画の内容が書かれたメモ紙には爆破、施設崩壊、など物騒な言葉が並んでいた。

 咲の話したがっていることはこの部分の事だろう。


「大丈夫だ。それだけは断言できる」


 咲の言葉を押さえ、力強く言い切る賢木。

 が、次の瞬間に弱気になり、自分の発言を否定する。


「いや、この計画は奴らの暴れ具合にもよるから、死者はともかく、負傷者はわからんな。下手をすると本性が出て、全員が生き埋め状態になるかもしれん」


 再びバックミラーを見ると、先ほどまで人を小馬鹿にして笑っていた賢木はいず、いつもの仕事モードに入っている真面目な賢木がいた。左手で口を押さえ、悩むように上を眺めている。

 それにつられ、自然とハンドルを握る咲の肩にも力が入る。

 遠くには巨大な空港が見えてきていた。もう間もなく着くだろう。


「まぁ、恐らく大丈夫だろう。殺すな、とは伝えていないが、そんな無駄なことをする奴らじゃないはずだ」

「本当、ですね」

「気に入らなさそうだな」

「……いえ、そんなことはありません」


 判断に困り、咲が返事を誤魔化していると、突然携帯電話の鳴る音が聞こえた。

 咲のではない。とすると橋架……は「通話履歴を見ると掛けてくる相手が俺しかいない」と賢木自身が語っていたので、消去法で考えると賢木の携帯電話に違いない。

 電話を取った電子音が鳴る。


「俺だ。……なんだ、お前か。何か用か?」


 仕事の話かと思わせ、車内が神妙な空気になりかけたが、賢木の声がワントーン上がったところを見ると、電話の相手はどうやらプライベートか何かで仲の良い友人のようだ。仕事の場合、賢木の声のトーンは低いので、簡単に見分けることができる。

 音量が大きいのか、素の声が大きいのか、携帯から声が駄々漏れしており、何かを怒鳴っている。乱暴な相手ですね、と咲は眉をひそめた。


「……ぼちぼちと言ったところだ。そっちはどうだ? 俺が渡した地図は役に立ったか? ……そうか、ならいい。俺が奴らに見つからないようにあのおちゃらけた妖精と交渉しただけはあったようだ。まぁそうでないと俺が困るのだがな。これから先、俺の計画の一翼を担うのはお前らなのだから。……ああ、利害関係の一致って奴だ。俺も間もなく開始する。お前らこそ、余計な事をするなよ? お前の相棒によく言っておけ。目的はあくまでも奪取であり、破壊はおまけだと」


 そこで一旦会話が止まる。どうしたのだろう、と気になった咲が再びバックミラーを見ると、それを待っていたかのようにこちらを見ていた賢木と目が合った。

 ふん、と鼻で笑われる。


「負傷者はともかく、死人なぞ出されたら俺が困るんだ。……ああ、健闘を祈る」

「………」


 携帯電話を切り、思い切り溜息を吐く賢木。

 それを見て頃合いだと思い、咲は口を開いた。


「すみません、先ほどの電話、この計画についてのことでしょうか」

「そうだ。気性の荒い奴らだが、俺の言うことにはしっかり従ってくれる、今のところはいい手駒だ」


 その代わり、報酬という名の相応の対価が必要だけどな、と言って苦笑する。

 もう空港は目と鼻の先というところまで来ていた。車を駐車場に停めるため、手頃な駐車場を探して車はさまよう。


「それよりも、俺のことは信用してくれたか?」

「……不肖、氷上咲、今回もこの命を失う覚悟で計画を手伝わせていただきます」

「それはなんだ? 部下の私情を優先して、大事な計画にもし支障が出たら後味悪いから頑張ろうってことか?」

「どうでしょうね」

「素直じゃないな」

「部下は上司に似る、と言いますから」

「ああ言えばこう言う奴だ」

「それで、この計画がどう橋架様に関係するのですか? そして一石二鳥とは?」

「ああ、時間がないからざっと説明するぞ。いいか? 分かっていると思うが、まず橋架を蝕んでいるこのエネルギーだが――」


真面目率4割。

後半ら辺が処理に困って手抜き処理になりました嘘ですごめんなさい。

これからも不定期で更新して行こうと思います。

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