変化
私が現世に幽霊として舞い戻ってから一カ月が過ぎた。厳しかった残暑もようやく和らぎ、少しずつ秋を感じられる日も増えた気がする。
だけど、私個人はこれといった変化もなく、ただただ私はお寺のお手伝いなどをして過ごすだけだった。
朝は怜治さんと昴君を朝食の用意の合間に起こし、さらに昴君のお弁当を作る。お昼には怜治さんの分の昼食を用意し、その後は怜治さんと一緒に境内の掃除。それが終われば、私は少し休憩をする。
ちなみにその間、怜治さんは洗濯をしている。「私がやりましょうか?」と尋ねたが、やんわりと断られた。最初はまだ何かしら疑われてるのかと思ったけれど、よくよく考えてみると洗濯物には下着とかもあるわけで、私がそれを洗って、ましてや干すとなるとやっぱり気まずい。きっと怜治さんはそれを察してくれたんだろう。
休憩を終えると、夕食の用意を始める。そして大体このころに昴君が帰宅。夕食の支度が終わったら、二人を呼びに言って夕食をとる。これが私の生活。
しかしそれは突然変化を迎えた。
「え……? 学校ですか?」
怜治さんの言葉に私は箸でつまんでいたご飯を落っことした。幸い、下にお茶碗があったためテーブルを汚さなくて済んだけど。
「そう、学校。いくら詩織さんが幽霊だといっても、もう一か月もこうして普通に生活しているわけだし、いつ成仏できるかも、何もわからない。だったら学校に行ってみるのもいいと思ってね」
怜治さんの言葉は頭の中でぐるぐると響いているけれど、あまりにも突然のことで思考が追いつかない。
「そういえば、詩織は一体歳はいくつなの?」
昴君は今日の夕食の唐揚げを箸でつまんだまま、視線だけを私に向ける。
「あ、あれ……」
私はまたもや言葉に詰まった。
「まぁ、覚えてないなら別にかまわないけど」
そのまま視線を唐揚げに戻し、パクリと口に入れた。
「詩織さんは大体……十代半ばくらいかな。ただ、幽霊の見た目は当てにはならないけど……。もし、詩織さんが学校に行くなら昴と同じところにするつもりだよ」
だから何も心配することはない、と怜治さんは続けた。