混濁
お久しぶりです、すみません。
リーダーの男のため息混じりの声がぼんやりと聞こえた。その声に反応したガリのっぽは私に浴びせていた拳を止める。
「痛めつけるのが目的じゃないだろ?」
「……あぁ、そうだったな」
押さえつけられ身動きが取れない。
「大人しくしろよ」
低く冷たい声でガリのっぽはそう言った。その手には、どこからか出したのか刃渡り20センチくらいのナイフが握られていた。
恐怖で身がこわばる。まるで筋肉が動いてくれない。
「ようやく大人しくなったか……」
ガリのっぽは左手で私にナイフをつきつけたまま、器用に右手のみで私の服を脱がしていく。
嫌だ、やめろ、私に触るな。
頭ではそう思っているのに、体は魔法にでも掛かってしまったかのように全然動いてくれない。
私が抵抗しないのをいい事に、ガリのっぽはついに私の素肌に触れた。
――途端、触れられたところから形容しがたい嫌悪感が体中に広がっていく。
「触るな!」
随分とうわずった声だ。
怖さに気持ち悪さが勝ったためか、動かなかった体が動いた。勢いよく振り上げた手が相手の顔を打つ。
「てめぇ!」
あ、と思った時には遅かった。
ガリのっぽは鬼のような形相に変わり、左手に持っていたナイフを素早く右手に持ち替え、そして私に振り下ろした。
一瞬の出来事のはずなのに、刺されると思った時と刺されたと思った時の間には確かに間があった。
頭で理解して、その後に熱さが私の腹部に広がる。あんまり痛みを感じない。
けれど確かな違和感を覚えているし、なによりも私はこの目ではっきりと見ているのだ――ナイフが振り下ろされる瞬間を。
あまりの事に、自分の身に起きている事が夢か現実かわからない。
段々と意識がフワフワしだし、声や音が小さくなっていく。体はすでに横たわっているはずなのに、さらに床にめり込んでいく感じがする。
目も……開けえていられない。
堕ちていく意識に逆らえず、私は気持ちのいい眠りについた。