三度目
「私?」
「うん、いいよね? まだ時間あるし」
そう言って、校舎に取り付けられている大きな時計を見た。
八時十五分。三十分からホームルームだから確かにまだ時間はある。
「――うん」
反射的に返事を返してしまった。「あ!」と思った時にはもう遅い。
「じゃあいつもの所に行こう?」
すずらんちゃんは急かすように私の手を取って歩き出した。
「ちょ……」
「詩織!」
隼人が呼んだ。するとすずらんちゃんの足がピタリと止まり、
「隼人君、心配し過ぎだよ。別に取って喰おうってわけじゃないんだから」
振り返りながらそう言った。
顔に張り付いた笑顔が怖い。そう、思った。
最初に受けた可愛らしい印象はなく、昼ドラにでも出て来そうな、まさしく女だった。
「行くよ!」
再度引っ張られ、つんのめりながらもなんとか付いて行く。
校舎裏に来るのはこれで三度目だ。全てすずらんちゃん絡み。
じめじめとした雰囲気がすずらんちゃんに馴染む。
「詩織ちゃんさー、まだ隼人君と登校してくるとか……一体どういうつもりなの?」
妙な迫力を感じた。私は何も間違ったことをしていないはずなのに、何故だか言いくるめられてしまう様な威圧感。
「は、」
私はかすれた声を治すために、そして冷静になるために唾を飲んだ。
「隼人は私にサッカーの知識がなくても良いって言ってくれたもん!」
「だから何? ないよりあった方が良いに決まってるじゃない」
ふと、ある事に気が付いた。
「隼人が、サッカーの知識のあるすずらんちゃんよりも、私を選んだって事は……つまり、私の事をすずらんちゃんと比べるまでもなく好きだって事じゃないの?」
ただなんとなく思った事を口にした、それだけだった。けれど、すずらんちゃんの表情は固くなり。徐々に怒りが読み取れるようになった。
「な……!」