尋ねて来たわけ
「実は僕が来た理由は詩織さんに会うためだったんです」
一夜明け、私達(私と昴君といちさんと怜治さん)はテーブルを囲んでくつろいでいた。
穏やかな静寂を破ったのは、何やら荷物整理をしていたいちさんだった。
「私に、ですか……?」
「はい。この前、会いに行くと言ったじゃないですか」
この前この前この前……?
幽霊として舞い戻ってから今日までの記憶をたどるが、全く覚えがない。
「いつの話ですか?」
「ついこの間ですよ。もしかして、覚えてないんですか?」
うーん、と脳みそをしぼり上げるが、成果は上がらなかった。
「ほら、僕が間違えて詩織さんの夢に入っちゃったじゃないですか」
「え? まさかあの時の」
「――ちょっと待ちなよ」
至極当然のことのように、さらりと衝撃の事実を言い放ついちさん。あの夢に出て来たのはいちさんだったのか。そう言えば会いに行くとか言っていたような気もする。
ようやく話が見えて来た。そう思い口を開くが、残念ながらそれは昴君によってはばかられた。
「なんで詩織の夢に入ったの? 貴方は知らなかったはずだよね、詩織がここに居るなんてことは」
「あ、それ父さんが話した」
と怜治さん。
昴君はいつの間にか読んでいた本を机に置いていた。昴君も怜治さんも聞いていないようで聞いていたのか。
「詩織さんの事を聞こうと昴君の夢に入ろうとしたら間違えちゃいまして――」
「待て。また僕の夢に入ろうとしてたわけ?」
「いいじゃないですか、便利なんですから」
段々と二人の会話はわき道にそれていき、電話代や交通費、睡眠時間の話になった。
ヤンヤヤンヤと言い合う二人は兄弟の様に見えた。こんなこと言ったら、いちさんはきっと喜ぶだろうけど、昴君は不機嫌になるだろうな。
「それで――」
静かな、それでいて存在感のあるテノールが、二人のくだらない口論を打ち止めにした。
「いちくんは、詩織さんに何を伝えたくて、ここまで来たのかな?」