口ひげのおじさん
謎の少年の家に連れられて行くと、口ひげが特徴的で人の良さそうなおじさんが出迎えてくれた。
「ただいま、父さん」
「おかえり、昴。――ん? そっちの女の子は?」
会話から察するに、この口ひげのおじさんは謎の少年のお父さんらしい。あまり似ていない。そして謎の少年の名前が昴だということも分かった。
私はおじさんの視線を受け、自分の置かれた状況を説明しようと、躊躇いながらも口を開いた。
「あ、あの私、」
「墓荒らしだよ。例の墓の前に立ってたんだ」
「ち、ちがっ……!」
私の言葉は昴君に見事に遮られた。
このまま覚えのない罪を着せられては敵わない。その一心で、潔白を証明しようと再度口を開くが、私自身、私が何者であんな所で何していたかが分からない。そんな状態で上手く説明できるわけもなく、結局なんの弁解も口にする事が出来なかった。
ふぅ、とため息が一つ。私のものじゃない。顔をあげてみると昴君のお父さんが目を閉じたまま、眉間に深いしわを寄せていた。
何か言われるのか。それとも、警察につきだされるのか。いずれにしても私にとっていい事ではない。
次に発せられる言葉に内心、(悪い意味で)ドキドキしながらおじさんを見ていた。
「まさか、信じられない……」
と、おじさんはポツリとこぼした。
何が信じられないのか。おじさんの考えている事の見当がまるでつかない。
おじさんは私をチラッと見ては口を開きかけるが、言葉が出てくる事はなかった。それが数回繰り返された。
「……ねぇ。いい加減にしてくれる?」
記憶に新しい苛立ちを含んだ声。昴君だ。
「さっきから口を開いたり閉じたり。言いたい事があるならさっさと言ってよ」
昴君の言葉を最後にシンと静まりかえる室内。
おじさんがゴクリと唾を飲むのが分かった。
「昴。お前、幽霊って信じるか?」
またも部屋には沈黙が訪れた。一つ違うのはその沈黙がさっきよりも間の抜けたものだと言う事。
「何言ってるの、父さん」
頭は大丈夫か、と昴君が冷たい視線を向けるが、おじさんの方はそんな冗談も耳に入らないほど真剣な顔をしていた。