素直じゃないですね
顔を上げるのが怖かった。また拒絶の言葉を吐かれたら、きっと私はこの場から逃げ出してしまう。
黙りこくっている私を後押しするかのようにいちさんが、ほら、と声を掛ける。私は臆病な自分の心を無理矢理押し込めて呼び掛けた。
「昴君――」
「どこ行ってたの?」
私の言葉はいつものように昴君に遮られる。そう。いつものように。
何事もなかったかのような態度に、半分安心した。残りの半分は心配してもらいたかったという、私のわがままだった。
「あ、えと……公園に……」
「ふぅん。こんな時間まで?」
「ご、ごめんなさい」
やっぱり怒っている。怖くて顔を見ることができないから、昴君がどんな表情をしているのかは分からない。けれど、淡々としたいつもと変わらぬ口調の中にいつもとは違う冷めたものを感じるのは私の中の罪悪感のせいだけだろうか?
「昴君も素直じゃないですね」
「何が言いたいの?」
呆れた、とため息交じりのいちさん。その様子とは対極に、苛立ちを全面に押し出す昴君。
私に話をしていた時よりも、数段不機嫌な声だった。
「素直に心配した、って言えばいいじゃないですか」
「……っ!」
昴君が口ごもるのを感じて、私は顔を上げた。見ると、珍しく顔を赤くした昴君がいた。
「うるさいよ。ほら、詩織も! いつまでもぼさっと玄関に居ないで、入りなよ」
昴君はクルリと方向転換して、そのまま家の中へと入って行ってしまい、一度も振り向かなかった。
状況はさっきと似ているのに、全然苦しくない。
私は赤面していた昴君を思い出して頬が緩むのを感じながら、昴君を追った。