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僕の胸をお貸しします

「何かあったんですか?」

 数分の後、私の横に腰を下ろした彼はポツリと言った。

「いいえ……」

 何があったかなんて初対面の人間に語る事じゃない。それに私が幽霊だということもある。

 簡単に話せる話じゃないので、私は追及を覚悟しながらも軽く否定するだけにとどめた。しかし私の予想に反して、彼は

「そうですか」

とだけ言った。

「僕、今日は親戚の家に遊びに行く途中だったんですよ」

「はぁ……」

 彼は唐突に自分のことを語り出した。

「その途中で貴女を見つけました。このベンチで一人で座っている貴女は今にも消えてしまいそうに儚く見えて、放っておけなかった」

 薄く笑うその姿に、何故か昴君の笑顔が重なった。その笑顔が、短いけれど濃い昴君との思い出をフラッシュバックさせた。

 ジワリと目と鼻が熱くなるのを感じた。だめだと思っても目に涙がたまるのを止められない。

「なッ! なんでこのタイミングで泣くんですか!」

 まるで僕が泣かしているみたいじゃないですか、と言う彼の声は耳に入ってはくるものの涙を堪える事はできない。

「す……」

 声が濁る。

「すみません……」

 次々に溢れては流れる涙は枯れることを知らないらしい。

「あぁ、もう!」

 声が聞こえたと同時だった。私は見ず知らずの彼の腕の中に居た。

「僕の胸を貸しますから、とっとと泣ききって下さい」

 ――人の体温とはなんと安心するものだろう。

 相手は友達でも恋人でも家族でもない。本来安心する要素は何もないはずなのに、不覚にもそのぬくもりを求めてしまった。

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