置いてかないで
妙ないざこざに巻き込まれてしまった結果、すっかり日が傾いてしまった。
西森君とはあの倉庫の所で別れ、私と昴君は商店街で買い物を済ませた。時間は予定よりも大幅に短くなってしまったけれど、メモしていた物は一通り買いそろえる事が出来た。
そっと横目で昴君を見た。その両手には重そうな買い物袋が握られている。重い方の買い物袋は昴君が持ってくれている。私が押し付けた訳でも、昴君がわざとらしく持ち始めた訳でもない。気が付いたら昴君が持っていた、という感じだ。こういうさりげない優しさを持ち合わせている昴君がさっきの様な非情な考え方をするなんて信じられない。
「全く、」
昴君は視線を前に向けたまま口を開いた。私はハッとして視線を昴君の顔へと上げる。
「詩織は僕が思っていた以上に頭が弱かったみたいだ」
「な……!」
唐突に罵られて、私は思わず声を上げた。立ち止まり、まじまじと昴君を見上げる。昴君も立ち止まり、私の顔を見下ろした。
「なんであんなよく知らない奴についていったのさ」
そう言った昴君はピリピリとした空気を纏っていて、とても強くは出られない。
「だって、昴君が待ってるって聞いて……」
あぁ、ダメだ。どうしても最後まではっきりと発言できない。
「なにそれ。そんな誘いについていくなんて、三歳児よりも危機感が足りないね」
「そんな言い方……!」
「本当のことでしょ」と、昴君は淡々と続ける。
「はぐれたからって知らない人間についていくなんて、どういう神経してんのさ」
「――知らない人じゃなかったもん。同じ学校の人だったもん」
口を尖らせつつ反抗するが、昴君には全く気にしていないみたいだ。
「じゃあ君は日本人だったら皆、良い人だとでも言うの? 私は犯罪者じゃないから、同じ日本人なら皆犯罪者じゃない、って」
「そんな事は言わないけど……」
「それと一緒。いくら同じ学校の人間だって簡単に信用するなんて、短絡的すぎる」
昴君はそこまで言い終えると、止めていた足を動かし始めた。
「待って」
言われたことと、置いていかれそうになった事で、鼻の奥がツンとし始めていた。わがままを言って、親においていく振りをされている子供の様な気分。待って、行かないで、と必死で昴君の後を追った。