西園寺昴と西森隼人
「俺がそういうやり口が嫌いなの、忘れたわけじゃないよな?」
と、西森君は唸るような声で言った。
「す、すみませんでした!」
一人が声を震わせながら頭を下げると、それに続けとばかりに謝る不良達。
「……二度と忘れるなよ」
許しを得た彼らは後ずさりながら、ありがとうございます、と叫んだ。西森君の怒りにそれ以上耐えられなかったのだろう。早々に倉庫から飛び出していった。
「悪かったな西園寺」
不良達の姿が完全に見えなくなった後、西森君はポツリと言った。
「……なんで、西森君が謝るの?」
「それは――」
「それはこいつがあいつらと同類の生き物だからだよ」
西森君の声にいきなり声がかぶさった。その声にはよく聞き覚えがあったし、この状況から、誰だか見当も付いた。
「昴君?」
私は倉庫の外にひょこっと顔を出すと、壁にもたれかかっている昴君を見つけた。足元には不釣り合いな買い物袋が無造作に置かれている。
「言ったでしょ。西森隼人はろくな奴じゃないって」
と、ため息混じりに言い放った。
「おい」
先程ほどと同じ、とまではいかないが低いトーンで昴君に呼びかける。
「何言ってんだ。今回はてめぇが要因で起きたことだろうが」
「でも彼らは君の仲間だろう? 君も同罪だよ」
「元はといえば、お前の横暴な取り締まり方が奴らの反感を買ったんじゃねぇか」
「生徒会役員が校則違反者にそれ相応の処罰を下すのは当然のことだよ」
「やり方ってもんがあんだろうが!」
「言っても聞かないから、実力行使に出たんだけだよ」
「ちょっとちょっと、二人とも!」
終わりの見えない言い合いに、仕方なしに割って入る。
「もういいじゃない。結果的には西森君のおかげで誰も被害を受けなかったんだから、ね」
「別に。こいつがいなくても、僕一人でもどうとでもできたさ」
いつまでも意地を張る昴君。いや……もしかしたら本当に、昴君一人でも解決できたのかもしれない。不良が何人も集まっていながら、私を人質にしたのがその証拠だ。
「そりゃあお前一人なら何とかなったかもしれないけどな」
「今回は詩織が居た。だから僕が抵抗できない。とでも言いたいの?」
「事実だろ」
「馬鹿馬鹿しいな。僕は誰が人質に取られていようと、それに屈するような人間じゃない」
と、昴君は鼻で笑いながら言った。
昴君は日頃から厳しい人だけど、まさかここまで冷たい人とは思わなかった。
「……ッチ! もういい。お前の考えはよーっく分かった」
西森君はクシャッと髪をかき上げると、視線を昴君から外した。
「とにかく……無事で良かったな」
西森君は、見る人に畏怖を抱かせる風貌に似つかわしくない柔らかい微笑みを浮かべていた。
「あ、ありがと!」
よく考えたら西森君が来てくれなかったら最悪の状態になっていたかもしれない。私はもう一度、本当にありがとうと、言った。
すると西森君は少し悲しそうな顔をした。