予想外
息をひそめていると、他愛のない物音にすらも敏感に反応してしまう。
扉が開き始めるという、そのタイミングが大事。早すぎれば、扉が開ききらないだろうし遅ければ、扉を開けた奴らの仲間に待ち構えられてしまう。
ガシャンと、扉が震えた。
――今だ!
私が地を蹴り、走り出すと、それから一瞬遅れて声が上がる。
「お、おい! 待て!」
そんな声を気にして待つわけがない。私は開いていく扉に突っ込んで行った。
しかし――
「あ!」
一歩遅かった。目の前にはすでに人が立ち塞がってしまっていた。顔を見ると、まさかの人物。そんな、どうして――
「……西森君」
見間違えるわけもない、赤い髪。哀しさを含んだ、グレーの瞳。
「どうして……!」
昴君は関わるなって言ったけど、『絶対良い人だ』って、根拠はないけど信じてたのに。
逃げられないとか、昴君はどうしたとか、そんな事はどうでもよくて、ただただ目の前の事実が受け入れられない! 受け入れたくない!
「西園寺……」
私の顔を見ると、西森君は微かに笑っていた。
「隼人さん!」
西森君が何かを言おうとしたが、後ろから駆け寄ってきた不良達によって遮られてしまった。
「隼人さん、どうしてここに?」
「あぁ、実はな――」
『どうしてここに』確かにそう聞こえた。
その言葉にすごく、すごく安心した。仲間であるならそんな事を言うはずがない。西森君はこの人達の仲間じゃない。
「そこでこいつらに会ってな」
西森君の視線が指したのは、倉庫の外。何があるのか、と私達は視線を追った。
「すんません……」
申し訳なさそうに頭を下げて現れたのはあまり見覚えのない人。たぶん不良仲間の人だろう。
「実は昴に話してたところを、隼人さんに見つかってしまいまして……」
「話聞いたら、人質とってるって白状してな。ったく、てめぇら何やってんだよ?」
眼光がひと際鋭くなると同時に、声のトーンが下がる。その憤りが私に向けられているものでないのは判っているのだが、背筋に冷たいものが走るのを感じた。