美少年
声変わりを終えているであろう低い声。それでいながら、今まで聞いたことがないほど澄んでいた。(実際は記憶がないので、聞いたことがないほどかは分からないけど)
「ねぇ、聞こえてる? 何してるのかって訊いてるんだよ」
と、かかった声はさっきよりも若干苛立ちを含んでいた。
右も左もわからないようなこの状況でこれ以上彼の機嫌を損ねるのは得策ではないと判断し、美声の彼の方へと振り返った。
「すみません。少し考え事をしてしまっていたので」
視界に入って来たのは、予想通りに男の子ではあった。しかし、驚いた。その容姿に。
サラサラの髪は無造作に、かといっていい加減ではなく、切りそろえられていて、前髪から2つの切れ長の瞳を覗かせていた。
夜の漆黒と相まって、その姿は絵本の中から出て来た妖精かと思うほど神秘的で美しいものだった。
「で、結局貴女はそこで何してるの?」
問われて、ふと現実に引き戻される。
質問の答えを考えてみたが、全く思い当たらない。むしろ私が知りたいくらいだった。
「えっと……名前は詩織です」
と、とりあえず知っている事だけ伝えてみた。
「そんな事を訊いてるわけじゃないんだけど……。まぁ、いいか」
グイッと腕を掴まれ、おもむろに引っ張られる。細身に似合わず案外力が強い。って、そんな場合じゃない。
「ちょっ……! 何するんですか!」
「うるさいな。不審者である君をうちに連れていくんだよ」
話している間にも、ズルズルと引きずられ、足元に敷き詰められた形の良い小石達が私の足が通った所に道を作っていた。
「なっ! 嫌だ! 家になんか連れ込んで何するつもり?」
言った後、しまったと後悔したが、遅かった。
振り返った彼は、目を細めると同時に私の頭に拳骨を振り下ろした。
脳天に響く衝撃。痛くはなかったけど、首が縮むかと思った。
「バカ言わないでくれる?ほら見て、うちって言うのはそこ」
そう言って彼はピシッと指差した。その先に目をやるとそこにはお寺とそれに隣接するように立っている家が一軒。
「僕、ここの寺の住職の息子なんだ。うちに着いたら、何をしようとしてたのかあらいざらい吐いてもらうよ」