知らない人について行ってはいけません
「ここだよ」
誘導というか、無理矢理手を轢かれてというか、ともかく連れて来られた場所は商店街から少し離れた廃ビルだった。
「あの……」
さすがにおかしい。こんな、いつ崩れるかも判らないような建物に昴君が居るわけがない。
「連れて来たぞ」
だだっ広い部屋には数人の高校生。ニタリと笑うその顔を見た時、ようやく自分の置かれた状況を理解した。
理解すると同時に、血がすごい勢いで全身を駆け巡る。手足が震えて言うことをきかない。寒さのせいじゃない事ははっきりと分かる。
その場に崩れ落ちると、そのまま自分の体を抱え込んだ。
「っんだよ、震えてんのか?」
ポンッと軽く肩に乗せられた手を私は振り払った。まるでその手が、毒をもつクモやサソリであるかのように大げさに。
「何だよ全く。別に何もしねぇって!」
「嘘だ!」
嘘だ、嘘だ、嘘だ、と私は連呼した。こんな誰も来ないような場所に連れ込んでおいて何もしない訳ない。逃げ出したくて、必死になって足に力を込めるが、まったく言うことをきかない。
「待て! こっちへ来い」
逃げられるわけもなく、私はあっさりと捕まった。そのまま、ものを扱うかのように乱暴に奥へと投げられる。周りには私とは比べものにならない位がたいのいい男たち。
――逃げられない。
その非情な現実をつきつけられて、私は声も出なかった。
「大丈夫? 西園寺さん」
一人の男が顔を覗き込みながら訊いた。よく見ると、見覚えがある。私服だから最初は分からなかったけど、この人達、うちの学校の不良グループの人達だ……!
「安心してよ。本当に西園寺さんには手を出すつもりはないんだ」
「そうそう、俺らの目的は昴だけだからさ」
ここまで聞いてようやく合点がいった。昴君の性格を考えると、相手が不良だからってものおじするとは思えない。きっと校則違反を注意したとかで理不尽な恨みでもかってしまったのだろう。