迷子
十二月に入ると、ちらほらとクリスマスを感じさせるイルミネーションが飾られ始めた。
「ったく! 昴君ってばどこ行っちゃったんだろ……」
今日は珍しく――というか初めて――昴君と一緒に買い物に来ていた。しかし、この人込み。昴君とはぐれるまで、そう時間はかからなかった。
かれこれ三十分も、この寒空の下で昴君の姿を探しているがいっこうに見当たらない。そろそろ指先も冷たくなってきた。
先に帰ってしまったのだろうか? 私も帰ってた方が良いだろうか?でも、昴君も私を探していたとしたら? ――絶対に後から文句を言われる。
心の中で溜息をつきながら、もう一周その辺を見て回ろうかと歩き出した。
「ねぇねぇ、西園寺さん……だよね?」
目の前の男の子が、私の行く手を阻むようにして立ちふさがった。顔を上げると、そこには見た事がある様な気がしないでもない人がいた。
「西園寺さんだよね?」
……あぁ。私のことか。教室では、昴君との差別化のために、『詩織』と呼ばれる事が多いため『西園寺さん』だなんて呼ばれてもピンとこなかった。
「……」
「……」
互いに見つめたったまま沈黙。
だめだ! 思い出せない。私のことを知っているという事は、きっと学校の生徒だ。思い出せなくて、ごめん!
「あ、ごめん。西園寺さんは俺のこと知らないよね?」
困った様に眉を下げて笑った。
「――すみません」
「いいって、いいって! 普通の生徒同士ってそんなもんだよ。西園寺さんは転校生だったし、あの昴の親戚だって言うから、ものすごく校内で有名になったけどね」
その一言で熱が一気に顔に集まった。私ってばそんなに名前が知れ渡ってたの? しかも昴君の親戚としてだなんて、すごく嫌だ。
あんな、間違って三次元に出てきてしまった様な二次元の妖精さんと親戚だなんて、私は一体どれだけがっかりされるのさ。
「それよりさ、昴があっちで待ってたぜ」
彼は踵を返すと同時に私の手を取って歩き出した。
「あ、ありがとうございます!」
とりあえず、これでようやく昴君と合流できる。
私は手を振り払わなかった。人の親切心を無下にできないから繋いだままにしておいただけで、決して寒いからじゃない。