謎の声
フワフワと体が浮くような奇妙な感覚。普段感じた事のない感覚に戸惑った。
「おや? 貴女は誰ですか?」
「――誰?」
耳から聞いてるものじゃない、頭の中に直接響いてくる声。
「おかしいですねぇ。僕は昴君の夢とつないだつもりだったんですけど」
夢とつなぐ? 一体何を言ってるんだ、この人は! いや、それ以前に、相手は人なのか?
「あの! 誰なんですか、貴方は!」
「貴女こそ誰なんですか? 昴君の知り合いですか?」
「……人にものを訊く時は自分から名乗るのが礼儀だと思います」
めずらしく警戒心が働いた。相手が誰なのか分からない状態で自分の事について喋るのはあまりにも無防備だと思ったので、どうしても相手から話させたかった。
しかし、「じゃあなおさら、貴女から名乗るべきだ」と至極もっともな事を言われてしまった。――仕方ない。
「私は西園寺にお世話になっているものです」
幽霊だという事は伏せておいた。まぁ、どっちみち信じないだろう。
「――あぁ、なるほど」
と、何かを思いついたように彼は言った。
「では、貴女が詩織さんですね」
「……っ!」
いきなり名前を言い当てられて、声(声なのか何なのか実際は分からないけど)も出ない。
「怜治さんから聞いていますよ」
この人は一体、何者なの? 怜治さんや昴君の名前が出ている事を考えると、そこまで怪しい人間ではないのかもしれないけど。
「どうやら、幽霊だというのは本当の様ですね。思わず引き寄せられてしまいました。――実に興味深い」
謎の声はクククッと声を漏らした。顔は見えないし、何考えてるのか分からない。それが余計に私の不信感をあおる。
「直接会った方がよさそうだ。近いうちに会いに行きます」
頭に響いていた声が一気に遠くなる。
「ちょ――!」
伸ばした手は妙に重かった。気がついたら、いつも通り布団に横たわっていた。目の前には目標を失った手が見える。きっと昴君が今の様子を見たら、冷めた目で見るだろう。
「夢……?」
そんな馬鹿な。あんなにリアルだったのに。
伸ばしていた腕を風がなでた。
「……ックション!」
流石に夜は冷える。私は急いで腕を引っ込めて、寝返りを打った。