西森隼人
夕食を終えた後、部屋に戻った私は教科書を床に並べた。真新しいそれらは光に照らされて、キラキラとしている。
高校といえば、すでに義務教育は終了している。教科書代だってばかにならないはず。なのに、怜治さんは何も言わずに買ってくれた。
怜治さんの懐の深さに感動している時、コンコンコンッとドアが鳴った。
「ねぇ、詩織」
戸をあけて入って来たのは、怜治さんの息子の昴君。恩人である怜治さんの息子だから、返事を待たずに戸をあけた事を注意する事も出来やしない。着替えてでもいたらどうするんだ。漫画やアニメでお約束の展開にする気か? などといいたい事はいくつかあったがをそれをすべて飲み込んで、
「何?」
とだけ言った。
「今日、西森隼人と話してたでしょ」
彼の口から出た名前は、あの赤い髪の彼のものだった。
「うん。話したけど――」
あの後二言三言は言葉を交わしたけれど、他のクラスメイトに比べたらそれほど話していないような気がする。
「悪い事は言わないから、あいつとは関わらない方が良い」
「……うーん」
あえて『なんで』とは言わない。西森君の風貌を見れば、積極的にかかわるべきでない人間である事は一目瞭然なのだから。
「なにその返事。関わらないって誓いなよ」
「誓いなよ、ってそんな無茶な」
昴君には悪いけど、関わらないなんて言えない。
確かに見た目は怖いけど、あんな悲しそうな表情見ちゃったら、なんとかしてあげたいと思ってしまう。
「――もし、あいつに関わるんだったら覚悟しなよ?」
「なんの覚悟?」
「死ぬ覚悟だよ」