あなたは気付かなかったの?
英次は一人、セーフハウスから出ようとすると絵里が玄関の前に立っていた。
「梨華さんに英次さんが外に出るようならば、出る理由を聞いてくれって」
「あいつは神様か?」
何でも知っている。と苦笑すると、絵里は「そうみたいです」と同じように笑った。
「私たちは神の子ですが…人を愛して、愛を求めてしまう。壊れている神様なのかもしれませんね」
「自分の事を神の子だなんていう奴は、大抵そうじゃない」
「だったらいいんですよ。人の形をして、人の心を持っているならば、人間であるべきなんです」
絵里の言葉に英次は思考を巡らせて止めた。絵里の言葉の裏を取る必要はない。彼女はどこまでも真っ直ぐに、そして少し不器用で…。そんな妹だ。
「那由他へ向かう。龍騎士の情報が欲しい」
「宮廷秘密書架に接続する権限は私と梨華さんしか学園内では持ち合わせていませんので、同行いたしましょう」
「感謝する」
英次が敬礼すると、絵里は恥ずかしそうに頬を赤くして答礼した。
「立場がいつの間にか、逆になってしまったんですね」
一魔導師である英次が第四王女である絵里に敬意を払うのは当然のことだが、二人の関係上、それは今までありえないことだった。英次が上官で絵里はその部下に当たる。
「最初から逆だったんだ。それを俺たちは嘘で隠していたってことさ」
「嘘は…嫌いだったんです」
絵里は少しだけ悲しそうな表情をして、英次はぽんと絵里の頭を撫でてやると、絵里は俯いて涙を流した。
「全部、嘘だったら良かった」
那由他も、自分の境遇も。
ただ無音の投擲槍としていられたら…。
普通の人として生きていられたら…。
「お前も知ってるのか?」
「お姉ちゃんが後、少ししか生きられない。私も長くてあと五年。英次さんは…」
知っている。
全部知っている上で、笑顔を作り…部隊のために家事の全てを請け負い、察せられぬよう振る舞い続けた。
十と幾許の少女が演じ続けた舞台。
どんなに過酷でも、眠るとき以外は演じ続けなければならない。
「心なんてない、完璧な神様だったら良かったんです」
動くことも無い、ゆれることも無い。ただ現実を直視したところで不動であれば、どんなに楽だっただろうか。誰にも明かせぬ思いなど、最初から無ければ…。
「完全であることを望んだ時点で、神ではない、な」
英次の言葉に絵里がきょとんと目を丸くする。
「安心しろ、俺もそろそろ、そうなる」
死ぬにせよ、龍騎士になるにせよ、人の分類からは除外されてしまう。それは絵里…そして梨華に近付ける。そういうことだ。
魔導師は死に方が人とは異なる。死んだ後残るはずの魂の器は瓦解して完全に消え去るのだ。その瓦解した破片、ガラスの中にコアが残る。その人物の魔法や魔術が刻印されているコアは深紅に輝き、それもしばらくすれば完全に消失してしまう。その前に自分の魔導師としての行いを誰かに知らせなければ、完全に消えてしまう。
それ以外には前に友樹が受けた伝授を受けなければ生きていた証は一切この世界に残せなくなってしまう。
「案内します」
「よろしく」
絵里に連れられて一路、限られた人間のみが向かえる魔法、魔術(マジック、プログラム)に特化した文明、箱庭である悠久の那由他へと英次は向かう。
◆◆ ◆◆
外交特権による無罪。
更紗はそれを受けてため息を吐いた。これでは国会や国際法の矢面に立つのは日本だ。
個人に与えられたオフィスの中。時刻は深夜を回ったが更紗はそこで書類の整理を淡々とこなしていた。
前線で動いていたことに比べて書類整理が増えた。世界各国の魔導師の犯罪やそれに対応するための人員派遣や被害状況の整理。担当部署の報告を見てはその判断が正しいかどうかを判断しなければならない。
「ご苦労様です」
降矢がにこやかに微笑み、更紗は見知った顔に安心した。知らないような人間ばかりを相手して来たのだから、知り合いに合えれば嬉しいと感じるようになったのはつい最近だ。
「学園司令、お疲れ様」
「その呼び方は慣れてないんですよ。北半球司令補佐官殿」
降矢の嫌味に更紗は苦笑すると降矢は室内を見回している。
「盗聴や盗撮の類は私が嫌うので、一切ありません」
更紗の言葉に降矢は「そのようですね」と頷く。友樹の一件から更紗はずっと情報漏洩に関しては厳しく監視を続けていた。
「絵里さんの処遇をどう見ますか?」
「那由他側から申告ですからね。無罪放免でしょう。そもそもこっちは未だに恵まれた子供案件に対しての結果を提出できないでいる以上、逆らう事は出来ません。那由他はいつでもこちらを殲滅できるんですからね」
「脅迫、ですか?」
降矢は面白くなさそうな顔をしているが、更紗は当然だと思っている。脅迫の類ではない、これは列記とした警告に部類するはずだ。
実際、向こうはアメリカと中国が奇跡的な共同戦線を張ったのを見越して、攻撃に対する脅威を薙ぎ払ったのみ。その結果、世界中は恵まれた子供案件に対して本腰を入れるようになり、グランベック複合企業体は強硬姿勢を徐々に解除して傭兵企業に成り下がる傾向にある。
アメリカ合衆国は解体し、ユーロ圏の監視の下にアメリカ連邦帝国になった。中国の基本体制は変わっていないが、日中の関係に前進を見せさせる結果となり、今では反日感情ですら収まりつつある。魔導技術支援という画期的な支援体制が功を奏したと言っても過言ではないが、それは更紗の指示によるものでもあった。
「那由他と日本がくっつき、日本の不良債権をほとんどが魔導部によって返済されている。これでは後の総理大臣も狙えますね」
更紗はそう言われても興味がなさそうに首を横に振った。確かに今のこの揺れ動く時勢を乗り切る事が出来たら、世界から更紗を優秀な人材だと称賛を浴びる事になるだろうが、更紗は今のところは魔導部意外には興味がなかった。
「実行部隊であった私は少なからずとも、人を殺すことに加担している。それを国民がどう思うか、ですよ」
「おや。興味がなさそうですがしっかりと勉強なさっているようですね」
「そういう意味じゃないの。私もあなたと同じ、高度に政治的な問題を露呈させる可能性があるから勉強しているだけ」
更紗は淡々と書類を裁いていると、降矢は背中を扉に預けて寄りかかった。
「絵里さんの無罪放免。英次くんの那由他渡航許可。梨華さんの友樹、彩香さんの再教育。これをどう受けますか?」
高度に政治的な問題を孕む新無音の投擲槍の結成に降矢が尋ねると、更紗は眉を顰めた。書類に目を通しているものの、その表情は険しい。
「国家転覆とかそういうレベルの目論見があるわけでもないのに、戦力が集中し始めている。そもそも無音の投擲槍は火力の過剰集中で目を付けられているのだから、それに対してまた増員と教育はおかしいと言う声が学園内でも浮上しています」
「そこに私やあなたの名前が無い。新しい無音の投擲槍は政治的に関与していない人間が集められている」
更紗の言うとおりだった。少なくとも日本の体制に賛同していない部員ばかりが集結しているのは面白くはない。
「梨華さんは何を目的としているのかわからないから怖いわね」
更紗が本音を零すと降矢も同意するように頷く。
「個人捜査権限が与えられていることはご存知ですか?」
「…ええ」
降矢の問いに更紗が頷く。限定的ではあるが役職を放棄してでも自らが調査を行いに外出する権限が与えられている。その場合は代理を立てなければならなかったり、捜査状況を逐一上司に報告しなければならなかったりする義務が発生してしまうし、プライベートは一切許されないなど制約も大きいが、それを行う権利は確かに存在していた。
「私は有給消化もかねて少しばかり那由他へ向かいますが、渡航許可がないんですよね」
「一緒に那由他へ向かって欲しいと?」
更紗が単刀直入に尋ねると、降矢は首を横に振った。
「一緒では困る。私は渡航がしたい」
二人の間に沈黙の空気が張り詰める。互いの頭の中を読み合うその空間。
「じゃあ、那由他側から提出しましょうか」
その二人の間に割り込んで梨華がにこりと微笑む。
「侵入探知警報をかいくぐって短距離跳躍ですか」
更紗が呆れると梨華は「ふふ」と笑う。
「私にいけないところはないの」
「でしょうね」
更紗が机の引き出しから拳銃を取り出して梨華に向ける。
「不法侵入です。射殺しますよ?」
「殺すときに警告はいらないわ。だからあなたはそうしようとは思っていない」
梨華は銃口を向けられつつも更紗の顔を真っ直ぐに見ながら作業机の前まで優雅に歩き、その目の前で止まった。
「それに私を殺した瞬間に那由他は箱庭の水球の惑星を完全に抹消するように指示を出してあるの。おわかり?あなたが世界を終わらせる引き金を引くの」
更紗は引き金から指を離すと、悔しそうにそれを机の中にしまった。
「グランベック複合企業体の調査は順調?」
「そういう話はアポを取ってから正式にしましょう?」
更紗に言われて梨華は首を横に振った。
「他の人間がいたら面倒でしょ?組織なんてわずらわしいの。おわかり?」
梨華の高圧的な言い方に更紗と降矢が怪訝な顔をする。何かに焦っているようにも見えた。進展がないこの状況に焦るほど梨華は愚直ではない。時期を待っているようにも見えた梨華の態度がおかしい。
「悪い方向には行っていないけれど、よくもなっていない。その上で私は一つの結論に達した」
梨華の口が一言、圧倒的に不利な条件を生み出す。それが今の外交だ。更紗は梨華の一挙手一投足に怯えていなければならないが、そういうことはないはずだ、と心の中で梨華を信頼していた。
「世界中で秘密裏に行われていた恵まれた子供計画の一部分。恐らくこれは龍騎士に関する研究だと思われるの」
「その単語はいくつかキャッチしているけれど、その内容がまったくわからないのよ」
更紗が確定情報以外を梨華に流していないために、梨華が知りえるはずのない龍騎士の単語を口にして確信した。那由他にはその技術を保有している。
「計画の一部分というより全てなのかもしれない。那由他創世神話に出現してくる神を殺す能力を保有するのが龍騎士だとされているわ。恐らくその能力を人と親和させることが恵まれた子供計画だったのね」
「神話を実行するほど、世界の魔導技術は夢を見ているんですかね?」
降矢の言い回しに梨華が苦笑する。
「私たちをこっちに引っ張り込んできた人は恐らく、那由他に偶然接触してしまった。そしてその全くの別世界を脅威に感じた。だからこそ、その神話のような話を実行に移そうとしてしまったんじゃないかしら?」
今でこそ現実だが自分たちの住む場所以外にも世界があり、そこに人が住んでいたなどとは百年前には妄想のレベルだっただろう。同じように魔術、魔法(プログラム、マジック)もここ二十年でその現象が確認され、技術と呼ばれるレベルに到達した。
人が空を飛び、自然現象を誘発させるなどとは夢でもなんでもなかった。そんな思想を思い描いている人間は少なからずとも、危険人物にさえ見られていたはずだ。
「接触しなければ、こんなことにもならなかった?」
更紗の問いに梨華が頷いた。
「私がこっちに居なければ…それ以前にこっちに訪問されなければ、二つの世界は無関与のままにいられたはずだけれど、今となってはそんな過程は意味を持たないでしょうね」
意味を持たない過程を梨華が口にするのだろうか。
更紗はその違和感に唇を噛む。もしかしたら梨華は何かの目的のために再起動しているのかもしれない。
そんなことを思いながら更紗は最悪な事態を一つ、想定していた。
◆◆ ◆◆
絵里の先導による那由他訪問。
英次はその作業を見てまるで祈りを奉げる修道女のように見えた。
ドームの中。大してせまくもないし広くもない様なその半球の部屋に閉じ込められて、絵里は両膝を床について背筋をピンと伸ばし、胸の前で手を合わせて目を閉じ、何かを口にしていた。魔術言語とも違う、何か別の言葉。
「行きます」
絵里の一声に英次が無意識に息を止める。緊張していた。
何度か那由他に訪問してはいたが、城内のみに行動を制限されていたのだし、今ですら絵里の監視付きだ。不用意な行動は即、その当事者の身の安全を保障出来ない状況になる、とまで脅されているのだから仕方がない。
「楽にしてくださいね」
絵里の言葉と同時にドームの中が閃光に包まれると、空気が変わった事に英次が気付いた。眩しさに目を閉じていたが、瞼の向こうで光が止んだ。
ゆっくりと瞼を開くと那由他の城内にいることに気付いた。
「英次さん、ようこそ」
シュナスリィヤに出迎えられて英次が目を丸くすると、他にも数人の魔導師の制服を来た軍人がこちらを見ていた。友好的、とはさすがに思えないが、自分と同じくらいの少年少女が正規軍のしかも中枢にいることに毎度驚かされる。
王家が通る専門ゲートだ、と絵里に説明された。
外なのだが、周囲を石造りの壁で囲まれている緑のある中庭の様な場所で、ゲートガーデント呼ばれている城の中央付近だ。
那由他は元々、水球の惑星側の歴史観からして中世ヨーロッパくらいの景観だった。
「アリカ」
「はい」
絵里をあえてこちらの名前で呼ぶと、シュリが微笑む。出来る限り、絵里や梨華をその名前で呼んで欲しくないとシュリが言っているので、英次はそれを了承していた。
「お姉さま、英次さんが竜騎士になりたいと」
「あら」
さすがに周囲も驚いたのかざわめきが広がる。
「ここではなんですから、お部屋にどうぞ」
「私のお部屋で」
シュリに絵里が言うと、シュリが頷く。
「こちらへどうぞ」
絵里を戦闘にシュリ、英次が続く。英次の右前、左前と真後ろに魔導師がぴったりとくっつくき監視されて、英次は緊張した面持ちで廊下を進む。
真っ赤な絨毯が敷き詰められた廊下、小型だが手を抜いていない装飾のシャンデリア、確かに中世ヨーロッパの豪華な王城であることは伺える。
遠くで虫の鳴く声が聞こえた。
「そろそろ夜も深くなる時間帯ですので、本当ならもう少し早い方がよろしかったのですがね」
シュリは別に嫌味を言うつもりでもなかったのだろうが、英次はPDAの時計を見ると午後二十二時を回っていた。
「英次さん、気を付けてくださいね」
絵里が背後で魔力を感じて英次に警告する。英次がポケットに手を突っ込んだ瞬間、衛兵たちが英次に攻撃をする準備をしたものだった。
英次もそれに気付いていながら苦笑する。
「攻撃の意思はないって言っても聞いてくれないんだな」
「当たり前です」
絵里がうんざりとしたように呟くと、英次はため息を吐いた。
絵里の部屋の前に到着すると、部屋の番をしている女性の衛兵が両開きのドアを開けて、絵里、シュリ、英次が中に入る。
他の衛兵たちも外にいるらしく、三人は部屋の中央にあるテーブルを囲むようにしてソファに座った。
英次の隣に絵里が座り、対面にシュリが座っている。
「サラスティアのことで」
「梨華でいいですよ。言いにくいんでしょう?」
シュリが困ったように言うと英次は「申し訳ない」と頭を下げる。梨華を別の名前で呼ぶ事にはどうしても違和感があって舌が回らない。
「部外者がいないときだけ、梨華お姉さま、絵里、でよろしいかと」
シュリの好意に英次が頭を下げる。
「梨華の寿命が短い事は知っているな?」
「報告で見ました。延命措置を行う必要がある、とのことですね」
「那由他にはその延命措置技術はあるのか?」
「それを知って居てこちらに来たのでは?」
シュリのはっきりしない物の言い方に英次が苛立ちを覚える。自分の命が絡んでいるからではない、純粋に好きな女の命がかかっている上に、那由他の要人ではないのか?とさえ思える。
「頼って来た。俺を龍騎士にして梨華をマスターにすれば、梨華は助かるんだろう?」
「あなたも助かりますよ」
シュリに言われて英次が絵里の横顔を見る。絵里も驚いた様な顔をしている。
梨華の情報は逐一、シュリに知らされている事は既に知っているが、英次の情報もこちらに流れているとは思わなかった。
「龍騎士の話は誰に?」
「梨華に聞いた。俺に人間をやめろと言ってね」
「でしょうね」
そこまで知っているのならば話は早い、とシュリが絵里を手招きする。絵里がそっとソファから立ち上がってシュリの隣に跪くと、シュリが白い右手を絵里の頭に乗せた。
「時間がないのはわかるけれど、焦ってはだめ」
「はい」
シュリになだめられるように言われて、絵里がゆっくりと頷く。
「確かにお姉さまがお亡くなりになる、というのは私たちにとっては国家の一大事ではあるのだけれどね」
「シュリはどこまで俺のこと知ってるんだ?」
英次が友達のように尋ねるとシュリが苦笑する。この人に礼儀や作法はあまり関係ないようだ。だからこそ、サラスティア…梨華がこの人に魅かれているのかもしれない。
「梨華姉さまがあなたに龍騎士になれと命じられたなら、あなたはその資質を持ちながら早期に死ぬ可能性がある、くらいだったのだけれど、こうして話をしていれば大体詳しい事もわかって来ますね。例えば、あなたの寿命が残り二カ月とか」
「え?まじで?」
英次は自分でも気付かなかった、思ったよりも短い制限時間に驚くが、それがどうしてか軽く見えるのは絵里だけではないはずだった。
「あなたの体内にある魔力、そのものの総和異相が生命活動量の限界点に近いですからね」
「あーよくわからないけど、やばいってことか?」
「魔術を使い続ければ二ヵ月…私は専門ではないのだけれど、それくらいはわかるわ」
シュリに言われて絵里が首を傾げる。
「あなたは気付かなかったの?」
「全く」
絵里が申し訳なさそうに小さくなると、英次が苦笑する。
「さすがに人の死期まで見抜けるとは…那由他の女王はすげぇんだな」
「万人の死期が見抜けるわけではありません。強大な魔力を消費するために媒介として使う生命力を酷使し過ぎている者ならば、その死期をおおよそ判断出来るだけです。我が国ではそう言った死を回避する必要がありましたからね」
「なるほどね。その手の話はいいや」
英次が暴虐武人にも手を振って話を蹴っ飛ばすと、シュリは涼しい顔をして「そうですね」と頷く。
「はい、終わりましたよ」
絵里は言われて立ち上がると、うーん、と唸り声を挙げて難しそうな顔をする。
「この子に直接龍騎士になるための条件を入力しましたから、あとはあなたの覚悟が決まり次第、この子に付いて行って下さい。那由他、帝国ゲートの他に『龍の巣』のゲートパスも準備させていただきました」
「えっと…お姉さま?」
絵里がしどろもどろになりながらも言い難そうにしていると、シュリが察したように真剣な顔をして小さく頷いた。
「何かあったのか?」
緊迫した空気に英次が絵里に尋ねると、絵里が言葉を選んでいるように視線を泳がせた後に口を開いた。
「私たちが行く『龍の巣』は通称、ヘブンズゲートって呼ばれていて」
「なんだよ」
龍騎士、とか言う大層な名前を付けられている者になるのだから、それくらいの迷信、おとぎ話的なゲートの名前でもかまわない、と英次は失笑する。
「五十四年前に一度開かれて、それ以降のログがないの」
「なんだって?」
英次もさすがに嫌な予感がして顔を顰めると、シュリも緊張した面持ちで頷いた。
「この世界を主幹世界として、他にも世界があるとしたら、あなたはどう思いますか?」
彼女の試すような視線に、英次は息を呑むしかなかった。




