だから、戦い続けるんですか?
十四、五人はいるだろうか。
マスターと梨華に連れられて『発令部区画』に入った更紗は周囲をきょろきょろと見回していた。英語でもない、地球上では使われていない言語が所々に見受けられる。ただそこにあるものは規模こそ違えど潜水艦の構造とよく似ていた。
「基本的な旧式の潜水艦システムに魔力妨害や武器管制が多く揃えられているってことでいいですかね?」
これを一人で操作しろ、と言われて更紗は目を回しそうになったが、前線管制にいくつかの『付与』を与えるとそう難しくないように思えた。
「その考えでいいわ。それにしてもあなたが将来、この船の艦長になると思うと、私は楽しくてしょうがないわね」
「私が艦長でも、あなたが提督でしょ?沈まないことを祈りますけどね」
更紗は球体の中に身体を収めながら、前後左右のタッチパネルを操作しながら皮肉る。
「言語の違いは大丈夫?」
「一応、変換ソフトも那由他から頂きましたから、対応できそうですね。スペックから見て、これ一つで世界征服も夢じゃないですよ。むしろ、それをしないほうが不思議です」
「いいわね。じゃあ今からやる?世界の半分をあげるわよ」
「…遠慮しておきます」
どこかのラスボスみたいなことを言われて思わず更紗は言葉を詰まらせる。相変わらず梨華の考えている事は読み切れない。
本気なのか冗談なのか付かない顔でさらりと言われて、更紗は苦笑する。
「私は『自国』に戻ってシュリと会ってくるわ」
「シュリって…?」
更紗が手を止めると、梨華がにこりと微笑む。
「この戦艦をこっちに寄越した親玉の暫定女王よ。シュナスリィヤ・フォルテ・アインリヒ暫定女王。昔は泣き虫で奥手だったのに、ここまで積極的になるなんてね」
「知り合いですか?」
「妹なの、何年も会ってないけどね」
梨華が更紗に「後はよろしくね」と言うと、更紗は首をかしげた。
◆◆ ◆◆
マスターの誘導を受けて降り立った場所は高い天井にシャンデリアがぶら下がっている部屋だった。目の前に大きな椅子が一脚据え付けられており、梨華とマスターはかなり距離を置いて待たされている。
「謁見の間、って感じよね。いかにも」
「ええ、そうですね」
マスターが頷くと、梨華は部屋の内装を見て無駄が多い、と思っていた。
エンタシスを意識して作られた柱に、左右対称に設置された花瓶やら何やらが沢山置かれているが、あれを武器にされて襲い掛かられたらどうするのだろうか?と思えるような剣なども壁にかけられている。誰かが座るにしても三メートルを超える背もたれはその中で異様に大きく、その背後の壁には二人の天使が、これもまた左右対称に翼を広げて祈るように手を組み、向き合っていた。
どこから入ってきたのか、椅子に向かって左側から梨華に似た少女が黒いドレスを着て入って来る。ところどころにきらきらと光る装飾がされており、頭部には重たそうなティアラを乗せていた。
マスターは左ひざを立てて、右足を地面にして跪く。中世の騎士のようなその仕草を梨華は怪訝な顔をして見下ろすと、シュナスリィヤが「いいですよ」と凛とした声でマスターに声をかけると、マスターが立ち上がった。
「お顔が見えないので、こちらへ」
そりゃ見えないわよね。
梨華が心の中で毒づく。シュナスリィヤとこちらの距離は二十メートルほどある。マスターが先導して梨華がその後ろを歩き、互いに五メートルほどの距離で顔を向かい合わせると、シュナスリィヤはにこりと微笑んだ。
「サラスティアお姉様、よくお帰りになられました」
「だれ?」
梨華が首を傾げると、マスターが困ったような顔をする。
「サラスティア・フォルテ・アインリヒ第一女王はあなたのことです」
「ああ、私か」
梨華が「忘れちゃってね」とどうでも良さそうに腕を胸の前で組む。
「梨華って呼んでくれる?私は招待されたから着たけど国連魔導軍空戦特務部隊(UNマギナリースカイナリーズ)である無音の投擲槍としてここに来てるの。ちなみにさっそくで悪いけど『公務』の話をしていいかしら?」
「はい」
シュナスリィヤは梨華の態度に嫌そうな顔を一つせずに話を聞き、それを裁いていく。
一時間、二時間。
梨華が立ちっぱなしで話を続けると、マスターは梨華の評価を変えた。
◆◆ ◆◆
「以上」
梨華とシュナスリィヤの話が終わったのは四時間以上経過していた。
ここでは時間がよくわからないが、向こうの世界では既に朝日が昇っている時刻になるだろう。
「強硬手段なんてして、本当にあなたシュリなの?」
「ええ、そうですよ、姉様によくいじめられていたシュリですよ」
シュリがにこりと微笑むが、梨華はまるで自分を見ているようでどことなく落ち着かなかった。妹である絵里はまだ幼くて愛らしいが、シュリはどことなくこちらを伺っているようにも見える。
メモリーサーキットがリンクしている…。
マスターは梨華のその言葉にじっと梨華を見据える。
ああ、私もこう見えるのか。
梨華はなんとなくそう思うと、シュリが眉を顰めて首をかしげる。
「あっちの世界で義父さんに保護されて、私が信用できる人だから、その人に魔導兵器の輸入管理をしてもらうっていうことで了承してもらったけれど、それはいいのね?」
「ええ、構いませんよ。こちらでは旧時代の兵器しか転出しませんから。最新型は私たちが使っていますし、脅威ではありませんしね」
「なるほどね。こっちの旧式は向こうじゃ飛びぬけているものね」
梨華はそう言いながら、どうにも話し辛い感覚が抜けなかった。
要するに二人のキャラがかぶっているということだ。
「私たちの先遣隊が学園に駐留できるように配慮していただけたことに対しての見返りが兵器輸出ですからね。梨華お姉様の思惑はなんにせよ、私たちにデメリットになると思ってはいません」
「そうね。使う人次第でしょうけど恵まれた子供は私の複製みたいなものだから、それに対応するために兵器がいるのよ。兄弟が沢山増えて嬉しいでしょ?」
「…」
シュナスリィヤは気味悪そうに梨華の表情を読もうとするが、それも諦めた。梨華は自分の冗談を理解していないシュナスリィヤにため息を吐いた。
姉様って変なことを言うのね…、というシュナスリィヤに対して、つまらない子だこと、と梨華。
「梨華さんは正統女王位継承権を…」
「聞いても無駄」
シュナスリィヤの言葉を遮って、梨華は王位継承を断るとシュナスリィヤはすっと立ち上がった。
「これは誰にでも与えられるものではありませんし、拒否も出来ませんよ」
ティアラを外して椅子に置き、シュナスリィヤが退席していくのを横目で見て、梨華は小さくため息をつく。
「戴冠式だったわけ?」
「…」
マスターは何も言わずに梨華の前に跪いて手を差し伸べ、梨華はその手を受けるとマスターが立ち上がり、無言のまま椅子の前に立たされた。
「お座りください」
「遠慮しておきたいのだけどね」
マスターは手を離すと、梨華はティアラを取って頭に乗せる。
「お似合いですよ」
「ん、でもいらない」
ぽい、と梨華が投げ捨てるとカランとティアラが悲しそうな音を立てる。マスターは仕方なさそうにそれを拾い上げると、梨華に手渡した。
「一度座ってみたかったけど、私には少し座り心地が合わないみたいなのよね」
梨華は立ち上がると、ふう、と息を着いてからPDAを取り出す。
箱庭についての説明も受けて、何から話すべきか迷う。英次を呼び出しても接続ができずに梨華はPDAをポケットに戻す。
「梨華さん、国内を見て回ったらいかがですか?」
「そうね。いきなりここに直接送り込まれて見る暇もなかったからね」
マスターに連れられて外に出ると、シュナスリィアが立っている。簡易甲冑をその身体に包み込み、剣を下げているシュナスリィヤは梨華を見て頭を下げる。
「やはり王位は継承してくださらないんですね」
「私にはまだやるとこがあるからね」
「わかりました」
シュナスリィヤが先導して梨華を連れて歩くと、沢山の兵士たちが梨華の前を歩いていく様を見て、梨華は隣を歩くシュナスリィヤを鬱陶しそうに見る。視線に一瞬気付いたシュナスリィヤは梨華の睨む様を何処吹く風と受け流して城の庭園を抜けてまた建物の中に入る。荘厳な建物の中に庭があり、それを囲むように更に建物が立っているのは簡易的な城の内壁、最奥の庭園を守っているような気がした
その建物も城というだけ、贅沢を山ほど詰め込んでいる。
城門をくぐって城下町に出ると、街の民は何事かと二十余名を先行して歩くシュナスリィヤの姿を見つけては拍手喝采する。老若男女様々な人々に声援を受けてシュナスリィヤがそれに上品に手を振って答えるとまた喝采が上がった。
「人気者じゃない」
「王女とはそもそも、そういう象徴ですから」
シュナスリィヤは笑顔を崩さず、梨華を見ずに答えた。その視線は声援を送っている民に向けられている。まるで必至に何かを追い求めているような瞳に梨華は何処となく不安になった。
「止まって」
シュナスリィヤは広場の中央でその足を止めると、人々が何事かと集まってくる。大衆のしかも城下町の中央広場などという露天商の多い雑多な通路に暫定女王が顔を見せるなど、今までに一度もなかった。
「私の隣にいるのは、私の姉であり正当女王位継承権を持つサラスティア・フォルテ・アインリヒ第一王女にあられます」
シュナスリィヤを取り囲むように集まった民衆、その数百数人。何事かと野次馬で集った者や行商に来ていた商人、またその買い物客や旅芸人たちが一瞬にして無言になると梨華を見た。
「わけあって姿をお見せできませんでしたが、第四王女のアリマルテルカ・フォルテ・アインリヒの活躍により、彼女を見つけ出すことが出来ました。皆様、私の姉であり皆様の母に盛大な声援と喝采を」
静かに、よく通る声で民衆の中に吸い込ませるような言葉遣いはさすが暫定女王を名乗るだけあり、誰もがその声を聞いていた。
そしてまばらに起きる拍手と地響きにも似た喜びの嬌声に梨華は目を丸くした。
「なに、これは。一種の集団ヒステリーなの?」
梨華の呟きは民衆の怒号にも似た花火のような拍手にかき消された。
戸惑う梨華に民衆たちがどよめく。
「可愛そうに、低俗な箱庭に連れ去られてしまって以来、宮廷での暮らしを忘れてしまっているようなんだ」
「梨華という名前を与えられて、さぞ屈辱だったでしょうね」
「ここにいれば安心です姫様!」
民衆たちが梨華を持ち上げるようにして叫び、哀れみを込めた目で見てくる。
何だと言うのだろうか。
微かに思い出した王族としての記憶よりも、梨華にはこの民衆の勢いに飲まれてしまいそうになた。
私の知らない、私の帰りを待ち望んだ人々だというの?
梨華がめったに見せない怯えた表情にシュナスリィヤは兵士に手を広げるようにして指示を出すと、民衆を下がらせる。
「これでもまだ、統治をしないつもりですか?」
「…私にはわからない。どうして人一人がこんなに影響力を?」
「人ではありません。あなた一人が影響力を与えるのはあなたが『女王』であるからです。決して人々と同列ではない」
「それがわからない。女王だって人よ?あなたも、私も人なのに、どうして人は人を支配するの?」
梨華の潤んだ瞳にシュナスリィヤは「そうですね」と考えるそぶりを見せる。
「あなたが支配に対して抵抗した記録は『絵里』から聞いていますの」
あえて絵里と言ったのは梨華にその人物が誰だかすぐにわかるようにしているのだろう。
「支配を嫌うあなたは、支配する側に立つ人間であり、支配する責任を自覚しているからではございませんか?私にはそう思えますよ」
言われて梨華は支配する者の義務というものを心のどこかで考えていたことに思い至った。支配する側は、自らが支配するものをよりより良い環境で生育に励み、将来に希望を持っていなければならず、支配する者は独善によって支配を私有化してはならないと思っていた。だからこそ国連魔導軍(UNマギナリー)の支配を極端に嫌っていたのだ。
そんな梨華に英次たちの無音の投擲槍は違う意味を持っていた。支配を嫌い、支配されることを好まず、現状の支配に対して疑問を持っていた。だからこそ、そこに共感したのかもしれない。
支配に対抗するには、強固に支配力を広げているものに対して、それを穿ち抜く力が必要で、那由他はそれを確かに保有していた。
だけれど…。
「私の力は、きっとあなたたちがよく知っているかもしれないけれど、私の欲しいものはここにはないのかもしれない」
梨華の声を待ち望むかのように静まり返った聴衆たちに梨華は返す言葉を見失っていた。
呆然と、まるで人形の少女のように立ち尽くす梨華は、危うげで風が吹けば倒れてしまうような印象すら受ける、華奢な体つきのただの女性になっていた。
それでも…。
「私は悠久の那由他の王女として、皆に再び会えた事に喜びを覚えるが、それと同時に水球の惑星に感謝もしている。なぜならば、そこには親しき友人と呼べるものが確かに存在していた。時間はさほど長く過ぎていないが、彼らは私を信頼し、私は彼らを信頼している。事の発端はどうであれ、私は支配を望まない」
梨華の発言に民衆たちが顔を見合わせると、シュナスリィヤは少し驚いたように梨華の横顔を呆然と眺めると、すぐに顔を引き締めた。
「彼らは友人であり、私たちは家族である。故に支配ではなく融和を求めるものであり、私の発言が属国支配を望んでいないことをここに表明する」
「と、いうことです」
シュナスリィヤは梨華がこれ以上『余計なこと』を言わないうちに梨華の口を塞ぐように間に入り込む。
「失望した?」
民衆たちは梨華がそう言うなら、と同意し、また叫び声を挙げ始める。まるで熱狂的な信者のようだ。その中で梨華はシュナスリィヤに尋ねた。
「いえ、私は安心しました。身勝手で自分本位な姉の意見は聞き慣れていましたからね」
「ひどい言われようね。昔の自分を少しだけ知りたくなくなったわ」
「興味などないのでしょう?過去に」
シュナスリィヤは意味深に微笑むと、梨華は「そうね」と目を逸らす。
「今の私は、今の私だし、きっと過去の私を知ったところで今の私が変わるわけではないのだから、知らなくてもいいことだとは思っている」
梨華が断言すると、シュナスリィヤは少しだけ悲しそうな顔をした。
「それでも那由他は上位世界であることは変わりません。支配だろうと融和だろうと、逸れは絶対的に力の差と文明の差がある以上、綺麗ごとでは計り知れません」
梨華はそういわれて、確かにそうだろうと頷く。それは間違いない。
「問題を一つ、あなたたちの力で片付けてください。その友人と言う方々と協力して。そうすれば私はあなたを完全に信頼しますよ」
シュナスリィヤはそういうと、細かい内容を宮殿に帰ってから梨華に伝える。
◆◆ ◆◆
英次のセーフハウスに戻った梨華たちは世界情勢の変化に一通りの週末を見て、互いに顔を見合わせては安心した。
「結局、那由他は恵まれた子供計画をどうにかしないと、何もしないってことになった」
友樹が「ばんざーい」と明らかに適当にもろ手をあげて、ワザとらしく悪態をついた。
「引っ掻き回すだけ回して、梨華姐ぇと絵里がお姫様だったって事実と箱庭っつー別の世界があるっていう事実だけを残して消えてった」
友樹が梨華と絵里の顔を交互に見ると、絵里が小さくうなずいた。
「時間制限のある時限爆弾は今年一年。来年の桜が咲いた時期までに恵まれた子供の全ての保護か、破壊を実行しなければ那由他は水球の惑星を無人衛星にするって物騒な約束までして」
友樹が文句を言いたい事はよくわかる。これは全部、梨華が無音の投擲槍として受けて来た任務だった。今でも学園には少数の那由他の『指導教官』が滞在している。
騒がしい一週間で終えた事は、移動要塞が学園の真上にいるということで、それを梨華たちが自由に使っていいということだけだった。
「まずは恵まれた子供に関して作業を進めなきゃいけないんですよね」
更紗がどうすればいいか、と首を捻って悩むと、降矢が「急展開する話でもありませんしね」と諦め半分に呟く。
「学園に出席しつつ、色々と考えましょうか」
梨華がぱんっと手を叩くと、全員がどっと疲れが噴き出したかのように、だらりと自然体になる。切り替えの早さも優秀な部隊員にとっては大事なことでもある。
「学園に在籍している生徒にも協力を仰ぐ必要がありますし、梨華さんは指導生徒を増やし、英次さんも別に指導をしてみてはいかがですか?」
降矢に言われて梨華と英次が顔を見合わせる。その必要性がわからないし、自分の部下を増やすようなことは今まで必要ないと思っていた。
「これから私たちは余計に動き難くなるとは思いませんか?」
「そうね。世界中に似た顔が放送されたわね」
シュナスリィヤの顔が各国首脳や政府をジャックして放送されたことで、梨華はそのよく似た妹のお陰で、この一週間、シュナスリィヤに似ていると人々に着目されていた。更に無音の投擲槍を国交の窓口とすると発表されているので、迂闊に部隊章をつけて歩けない。学園の生徒たちには無意味だが、英次たちは外に出る場合、制服の部隊章が外されたものを着用していた。
「そこで、学園で無音の投擲槍の下部組織を作るように生徒会側が案を出してきました。生徒会側から三名、執行部側から三名、計六名を選出するようにとのことです」
「権力争いか?」
英次がご苦労なこったと苦笑する。
「権力争いといえば国連魔導軍(UNマギナリー)も無音の投擲槍を『空戦特務外交執行部隊』に配置換えしました。国連内部で唯一の部隊ですが、これは私たちが完全に那由他へ向かわないようにするための処置でしょうね。英次くん、更紗さん、友樹くん、そして私に対しての外交特権が与えられ、諸外国との連絡や要求が必要なときは独自の判断が出来るようになりました」
「えっと?いまいちよくわからないんだけど、使える権利なのか?」
「外交に無知な方にはあるだけかと」
友樹に降矢が苦笑すると、友樹は「犬もくわねぇ」と呆れてみせる。ちなみに降矢の挙げたメンバーの中で外交に無知なのは自分だけだろう。
「友樹にだって使えるはずだけれど、もう少し勉強したら?」
「へーい」
梨華に言われて友樹はだらしなく手を挙げると拗ねるように机に突っ伏した。
「梨華姐ぇと絵里にはどうして権限がないんだ?」
「元々、お姫様ですから、外交特権なんてなくても自由に外交できる立場にあるでしょうし、諸外国は二人が那由他の特使であると認めているから、世界は二人との話し合いを求めるでしょう。そういうことです」
「へぇ」
友樹は興味なさそうに呟いて絵里を見る。絵里は見られて首をかしげながら微笑むが、その無邪気な笑みは大切な話し合いが到底できるようには思えない。
大荒れに荒れている軍事バランスを前に戦争がよく起こらないものだ。
「戦争が起こってもおかしくないタイミングで、那由他が出現したことが一番大きいのか」
友樹が呟くと、更紗が友樹の発言に興味深そうにしている。
「いや、まぁ…恵まれた子供のことで国連が大きく揺れて『世界に対する魔導的支配力』が分散したじゃないですか。恵まれた子供を計画していた企業至上主義と俺たちみたいな『世界保全主義』っていうのか、保守的な考えの部隊で真っ二つ」
「企業至上主義…いい表現をしますね」
降矢が確かに企業、資本主義よりももっと別な企業主体の思考を持っている今の反魔導軍(AUN)は企業を元に連携を取っているようなものだ。大企業ではあるが、政経に食い込めていない企業たちが反魔導軍(AUN)に名を列ねている。
「正直な話、俺たちは反魔導軍(AUN)の鎮圧に目を向けていたけど、そこら中で戦争を従っていた連中はこの混乱に乗じて宣戦布告できたか、その準備を出来たんじゃねぇかなって思ってさ。その戦争はどこで起こるかわからなかったけど、結局、那由他っつーもっと大きい国家が出て来て、戦争も出来なくなったんじゃないか?って思って」
友樹の考えに更紗が頷く。
「今、ひょっとしたらと思って国連魔導軍(UNマギナリー)に蓄積されているデータを解析しましたが、中国が近隣の国に対しての防備を固めていました。中東は相変わらず紛争していますが…。ロシアと中国がイギリスに対して動きを見せていました」
「隣国が、ね。面白くないわね」
梨華がそうなれば、日中関係も危険になると考えてため息を吐いた。中国が韓国と共同して北朝鮮を新地にしたばかりで、中国は社会主義の新しい形を見出していた。中国は韓国を併合しようとしたところで、アメリカの介入を受けて戦線を五分に戻し、今では停戦協定を結んでいる。そこに日本は日本の出撃を援助していたため、日中関係は今最悪になっている。
「千人の兵士を送っても二人の魔導師に迎撃されるなんて理不尽な戦果を叩きつけられた中国が日本に手を出せないのも無理はないけれど、今は少しどうなるか怪しいわね」
梨華が英次と更紗を見ると、二人が苦笑する。
その二人の魔導師とは英次と更紗のことだ。日本艦隊が日本海に展開し、海上補給を米国に行っているときに攻撃を受け、その迎撃に向かった二人は航空部隊をことごとく撃破、空母四隻、イージス一隻を撃沈。輸送船六つを航行不能にさせ、その後日本海上自衛隊が拿捕している。そのまま湾岸配置部隊を強襲、一個師団と援軍を全て抹殺したのは記憶に新しい。
「日本は魔導師が豊富な国だからな。今はどこと戦争しても負けないだろうが…戦争はしないだろうな。電子戦や核の時代は終わって魔導師主体の攻撃基盤ではあるが…」
「そうですね、戦闘魔導師は日本に多いけれど、結局のところはそれをサポートする対外情報部がないのが一番の問題点です。中距離魔導弾道弾攻撃や長距離魔導弾道弾などの戦略的な攻撃を行うために必要な情報収集能力が対外に対して全く持ち合わせていないので、防衛は出来ても正確な攻撃が出来ません。それこそ…」
英次、更紗の懸念する、攻撃手段はあってもそれを使えない状態は深刻でもあった。
「戦術核クラスの魔導弾道弾を絨毯爆撃すればいいのだろうけど、そうすれば日本は最悪な結果を招くわね」
梨華が更紗の言い淀んだ思考を口にした。今は全く意味をなさない戦術核ではあるが、魔導弾道弾においても戦術核という表現はよく出てくるのは、その恐怖が未だにしっかりと伝えられていた。人には使用してもいいものと悪いものの区別をつけることが出来た。たとえそれがどんなに凶悪でも、使って良いものと悪いものは分けられている。拳銃がよくて、ミサイルがダメ、という理論に梨華は納得できないが、世界はそういう矛盾を多く孕んでいることは否定できない。
「でも良く考えてみたら、日本ってその両方を持っているんですよね」
絵里が「うーん」と人差し指を顎に当てて、空を見上げるようにして呟く。
「私と更紗さんが電子機器の役割をして、私と梨華さんが砲台になれば完成ですよ。私たちが攻撃を受けても防壁である降矢さん、英次さん、友くんがいますし…」
高速で動く防御装備をした移動砲台。それが無音の投擲槍の名が示す元でもある。
「正確には日本ではなく国連魔導軍(UNマギナリー)よ。だからこそ国連魔導軍(UNマギナリー)は私たちに対して装備をいちいち指示してくるでしょ?」
装備、とは使用可能な魔術を指すが基本的に英次たちはそれを守ったためしがない。
「あー」
絵里はいまいち納得できていないように首をかしげる。
「とりあえず、普通に生活しましょ。普通に」
梨華がそういうと、友樹と絵里は顔を見合わせると不安そうな顔をした。
普通の生活など、出来るわけがない。
「普通って…なんだろう」
小さな声で不安そうに呟く絵里。一度銃を手にして、力を示してしまった自分たちが何を普通として生活すればいいのか、そういう不安があった。
「絵里…」
友樹はどんな言葉をかけていいのか、わからなかった。
◆◆ ◆◆
久しぶりに学園に登校すると、絵里は彩香の質問攻めを受けていた。任務の後はいつもそうだった。何処で何をして来たのか、などをいつも聞いてきて、その後に不在の学園で何が起こったのかを教えてくれるのも彩香だった。
「もう、貴公子なんて大騒ぎよ。絵里を助けるんだって部隊を召集してみたり、まぁ健気なのかもね」
彩香が身振り手振りまで加えて大騒ぎして見せても絵里は曖昧に返事をするだけでいまいち浮かない顔をしている。
「ねぇ…聞いてる?」
「聞いてるよ。でもほら」
絵里が周囲を見回すとクラスメートたちは絵里の視線から逃げるように顔を背けている。
「仕方ないわよ。上層部や学園が『梨華さんと絵里さんは女王で、那由他の要人だから鄭重に扱うように』なんて宣言したのが少し前だから、どう接して良いのかわからないんじゃない?」
人事のように彩香が言うが、当の彩香は今までとそう変わらない。
「いいんちょーは私のこと怖かったりしない?」
「なんで」
真顔で見下ろされて絵里は返答に困った。
「だって私の気分一つで、学園壊せるんだよ?」
「そうだねー。っていうか絵里ちゃん、あんた何その今更な発言」
彩香がけらけらと笑うと、びっと絵里に指を指す。
自分は既に殺されかけた身だ。恐れているならこの距離には絶対に入らない。
「あんた一人で学園を潰すなら、高高度からの強力な魔力弾一発で十分でしょ。ぶっちゃけ、あんた一人で学園を潰すっていうなら、二秒いらないわけ、わかる?昔も今もあんたは何も変わっちゃないでしょうに」
絵里がきょとん、とするとクラスメートたちが顔を見合わせる。あえて全員に聞こえるように彩香が言い放った事は確かに事実だった。
「上がなに?国連魔導軍(UNマギナリー)が何か言ったって?そもそも無音の投擲槍が本気を出したら学園どころか日本だって沈没しかねないでしょ?地球政府の危機?英次さんと梨華さんが前にやったことってなんだったの?」
「前に?」
絵里が首を傾げると、彩香が「そ」と頷く。
「地球地軸を変更して異常気象に対して積極的なアプローチを行った結果、異常気象は軽減されたわよね。ってことは、あの二人が本気を出せば、逆に異常気象で人類滅亡なんてことも出来るってわけじゃない?前までは怖くなくて、お姫様だから怖いなんておかしい話だと思うのよねー」
確かにそんなこともあったなーと絵里は思い出した。当時の梨華は無音の投擲槍ではなく、企業の魔導師だったが…。
「まだまだあるでしょ。絵里ちゃんが女神の瞳を無作為に使えば、プライベートなんて関係ない。更紗さんもそうだよね。情報管制の能力があれば私たちの行動なんて筒抜け。んで、いつでも殺そうと思えば一人から数百人を一気に殲滅できる手段も同時に持ってる。私たち魔導師はそういうもの。今更何を恐れろというの?恐れるのは個人じゃないわよ。個人を殺そうとする政府よ」
「彩香さーん、その発言は問題発言ですよー?」
クラスの男子の誰かがそう叫ぶ。
「うっさい。あんたらもびびってないで普通でいいじゃない。その結果、絵里が全面攻撃指示出したら」
彩香が絵里の頭をぽん、と叩く。
「あたしが止めたげるよ」
真摯な瞳で見下ろされて、絵里は苦笑する。彩香は本気だった。
「できるのー?いいんちょーに」
「できる、できない、って言うよりは…やるしかないっしょ」
彩香は隣の席に座るとぐでーっと机の上に上半身を乗せて伸びをする。
「大体、あんたがお姫様ってムカツクのよ。お似合いでさ」
「えー」
絵里は目を細めて唇を尖らせて不服そうにすると、彩香が苦笑した。
「天使とか、お姫様とかあんたの代名詞ってけっこうかわいいんだよね」
「物語の上では可愛いかもしれないけど、けっこう嫉妬深い女神さまだったり、人間を食う天使もいたりするんだけどな」
友樹が教室に入って来てぽん、ぽんと彩香、絵里の頭を撫でる。
「友樹くん、どうしたの?」
「学園から絵里の護衛を任されて、今日からこの教室の後ろで遠隔授業を受けながら、ここで生活しろってよ」
「ぇー」
絵里がぶーぶーと抗議するが、友樹はため息を吐く。
「梨華さんとこなんてひでぇぞ?英次さんは同じクラスだからいいけど、更紗さんが今日から一個スキップして上の学年に編入されてんだ。俺は一個落ちたけど」
がくり、と肩を落として教師が新しい机と椅子を一番後ろの掃除用具の隣に置く。
「あれだぜ?掃除用具と一緒の扱い」
友樹がおどけて見せると彩香が苦笑する。
「まぁみんな集まってんのかな?」
友樹が教室の中を見ると、下級生たちが友樹を見て首をかしげている。
「たぶん、みんないると思うよ。あと十分でホームルームが始まるから」
絵里に言われて友樹は「サンキュ」と言うと、教壇の上に立った。全員が友樹を見てざわめく。
「全員、聞け。このクラスから一名、人員を選出する。選出対象は魔導師であること。そして戦闘に参加したことのない部隊に所属していないこと。選出された人員は無音の投擲槍の下部組織に当たる部隊になることが決定されている」
「え?私やるー」
はいはい、と彩香が挙手すると、友樹がにやりと笑う。
「本当は二人が選出対象だったんだけど、彩香は俺が推薦してある。だから一人」
友樹が教室の中を見回すと、クラスメートたちがざわついた。
「極秘事項に触れることも多々あるけど、梨華さんのことは知ってるだろ?」
友樹が言い聞かせるようにクラスを見る。
「俺たちは顔と名前が知られすぎてて、行動すればすぐに察知される。俺たちが動いてかき回して、安全がそれなりに確保されたら突入してもらう部隊になる。梨華さんのことってのは恵まれた子供計画のことだ。それの調査をしたい」
「何も知らないまま、長距離魔導弾道攻撃され続けた。絵里や梨華さんを狙って…。私たち学園の生徒はみんな家族なんだ。家を守ろうとするために力を貸してあげようよ」
彩香が立ち上がってみんなに声をかける。
「こんな、無茶苦茶なことになってるわけだが…まぁ嫌なやつがいたって仕方ない。ただ、生まれて素質があって魔導師になった奴だっている。人に出来ないことが出来るだけで、それ以外は普通の人間だ。死ぬのが怖いんだって、それも普通だ。強要はしない」
友樹は壇上から降りると、教室の机に花の刺さった花瓶がおいてあるのを見つけた。
「前回の長距離魔導弾道攻撃で一人…」
彩香が友樹に告げると、友樹の瞳が揺れていた。動揺しているのか、悔しがっているのか…。
「俺は那由他の人間じゃないし、かと言って元々国連魔導軍(UNマギナリー)に在籍する前は反魔導軍(AUN)の組織に加入しててね」
「友くん!だめだよ!」
絵里が慌てて友樹を止める。前科のない友樹がすんなりと無音の投擲槍に加入できたのは、友樹の前歴が完全に伏せられていたからに他ならない。ここで友樹が自らの過去を口外してしまえば、状況は一気に変わってしまう。
「いいんだ。俺がどうして戦うのかって言う疑問はみんな持ってるはずだ。理由なく戦うことなんて出来ないからな」
「でも…」
絵里がぐっと何かを我慢するように、そっと自分の椅子に戻る。
「俺は反魔導軍(AUN)でガキの頃から戦線に出てたよ。中東戦線、リバブール戦線とかまぁ魔導師戦線が展開されているところを転々としてた。なぜ戦ったかって言うと」
友樹は絵里を見る。
「知ってたんだ。向こうのほうじゃ魔導師の人権なんてなかった。兵器の発展系くらいにしか考えられてなかったんだよな。実験や訓練を強制的に政府が行って、無理強いしてた。可愛そうな子供が多すぎたんだ。自分も元々そんな感じで、そういうのが嫌いだったんだよな」
友樹はそれで、強制的に実験を施される子供たちの施設を強襲して回っていったことを告げる。
「学園っていう場所は同じような場所だって思ってて、英次さんに拾われてから、同じように苦しんでる奴がいたら暴れてやろうって思ったんだけど、ここは違った。だから俺はここを守ろうと思った。それだけ。だからなんつーか、力を貸してもらいたい」
花瓶に活けられた花にそっと触れて、友樹はその花弁を指で突いていた。
「それでも守りきれなかった。俺一人じゃ無理なんだ。ほら、リーグ戦で味方にぶっ飛ばされるくらいだからな」
友樹が笑うとクラスメートの何人かが苦笑した。
「リーグ戦って言ってもトーナメント形式だから、上に上がればもっと強い奴がいるんだろうな。戦うことって正直、怖いぜ?自分も痛いし、相手も痛いんだから。でも、痛みを伴った戦いの先に、守りきった人たちの笑顔があれば俺はそれでいいと思ってる」
「だから、戦い続けるんですか?」
彩香に尋ねられて、友樹は頷いた。
「俺は、最後にこいつを拾ったときに思ったんだ。世の中には化け物みたいな奴がいて、独りじゃ何も出来なかったって」
「私を拾ったとき、友くんは反魔導軍(AUN)としての最後の戦争をしてたんだね。私を国の施設から回収して国連魔導軍(UNマギナリー)と戦ってて、英次さんと戦った…」
絵里が真実を明かすとクラスがざわめいた。友樹と英次が敵同士だった、などとは誰もが予想しなかったことだ。
「化け物だったよ。絵里を抱えて逃げることもできない。んで、言われたんだ「戦うことは守ることではない」ってな。俺はずっとあのときの英次さんの言葉がまだ理解できてない。わからねぇんだ。戦い続ければ、いつか何かが変わるんじゃないかって、今も思ってる。でもそれも違うと思い始めている」
「じゃあなぜ、私たちに戦うことを求めるんですか?」
彩香が尋ねる。英次にしても友樹にしても「戦うことが守る」ことではないと言うのならば、戦線に参加を求めること自体が矛盾しているようにも思えた。
「んー、俺はなんとなくだけど『一人で戦う』ことが不正解で『みんなで戦う』ことが大切なんだと思うんだ。だから、英次さんはいつも『みんな』と行動してる」
「…」
彩香が絵里を見ると、絵里が頷いた。
『はーい、友樹くんの演説でしたー。今回、私たち無音の投擲槍は下部組織の部隊を募集していますが、選出されなかった人も学園を防衛する部隊に…』
スピーカーから更紗の暢気な声が響いて友樹が目を丸くすると、クラスメートたちがざわつく。
「え?」
友樹が「どゆこと?」と絵里を見ると、絵里はPDAを取り出してオンラインになっていることを友樹に知らせる。
「私が止めようとしたときに、PDAがオンラインになってるのに気付いて、きっと更紗さんが学園の全校放送をジャックして、友樹くんの話を流してたんだと思うよ」
絵里が苦笑すると、友樹が顔を真っ赤にした。
「はめられた!」
「見事な手腕ですね」
彩香もまさか、自分をダシにされているとは知らなかった。
『よって、志願兵を募りますが、私、更紗のPDAに質問等を送付していただければ随時返答いたします。締め切りは特に設けておりませんので、お気軽にどんどん、参加してください。さぁじゃんじゃん応募してみよー』
まるで学園の体育祭のノリで更紗が言うと、更紗から英次の声に変わった。
『隣にいる奴が、明日も隣にいるように望むこと。それにどんな悪がある?俺たちにはそう願い、実行し、守り続ける力がある。ならば、そうしようじゃないか』
放送が切られると、友樹が苦笑する。
「かっこいいー」
彩香が呟くと、絵里はため息を着いた。そして次に梨華の言葉が放送に載った。
『と、隊長は申しておりますが、きれいごとです。死にます、痛いです。覚悟なさい』
「うわー」
クラスメートが梨華に「だいなしじゃねーか」と苦笑する。相変わらずの凸凹隊長コンビに友樹が唖然とする。あの二人は同じ事を考えていても、言葉がまったく違う。
「降矢です。大学部の学生は先日、全員が戦線参加に承諾していただきました。後輩であるみなさんを守るべく、己の血を流すことに誇りを覚えた、と。私たちは強要しませんが、守られるだけに満足していると言うのならば、私はあなたたちを守りましょう」
放送が切られると、PDA更紗からのメール。
最後にあなたが何か言いなさい、とのことだ。
絵里はPDAを取って息を吸い込んだ。
緊張する。
「私は中等部一年。無音の投擲槍の絵里です。そして…悠久の那由他の『第四王女』であるアリマルテルカ・フォルテ・アインリヒと申します」
「なげー名前だ」
とクラスメートが呟くと絵里が苦笑する。
「国の概念を超えて、私たちは学園と共同戦線を行います。理由は恵まれた子供計画という、人を人を殺すためだけの道具に変えようとした非道な研究を阻止するためです。私たち無音の投擲槍は前回の長距離魔導弾道攻撃で学園を攻撃され、後手に回ってしまいました。失態だと言われれば私たちはそれを受け入れます。ですが、友人を失った悲しみはみなさんと同じはずです…。私の級友も一人…」
絵里が花瓶の乗った机を見ると、クラスメートが視線を落とす。泣き出しそうになる女生徒もいた。
「友人を失い続けるわけにはいかない。私はそう強く決意しましたが、私たちだけでは決して被害ゼロで進む事はできない。みなさんの協力が必要です」
絵里は一度間を空けて、息を吸い込んだ。
「アリマルテルカ・フォルテ・アインリヒはみなさんと常に共にあります。人が人であるために戦うことは誰に咎められるでしょうか!みなさん、私に力を貸してください」
絵里がPDAを机の上において、目を閉じた。
「さすが王女様、言うことが違うね」
友樹が茶化してクラスメートが笑う。
「こういうのは本国で子供のころに何回かやってるんですよー」
「そんなネタバレはいらないってーの」
彩香が小突くと、クラスメートたちが絵里を見る。
「絵里ちゃん、かっこいい」
「姫様かぁ。俺たち親衛隊ってこと?」
クラスメートたちが口々に何かを言い出して、友樹が目を細める。
「簡単なことじゃあない。死ぬかもしれないし、まじで危険なんだ」
「でもセンパイ、俺たちだって戦えるし、何も知らないまま蚊帳の外で満足なんてしてないんすよ」
男子が友樹を睨むようにして呟いた。
「俺、そいつのこと好きだったんす」
「えええええええっ」
花瓶の乗った机を見て言った男子生徒に絵里が声を上げる。
「ゆっきー、最近付き合い始めた男子がいるっていってたけど、あんた?」
彩香が尋ねると男子生徒が頷いた。
「そっか…」
彩香は頷くと、男子生徒が苦笑した。
「まぁ、みんなやらねぇってんなら、俺がやりますよ。志願します」
「かっこつけんなアホ」
「うちらもやるに決まってんじゃん。絵里姫のご要望だよ」
男子、女子が口々に言うと、絵里と友樹が顔を見合わせた。
これで…いいのだろうか…。




