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それじゃあ哀し過ぎます

 やわらかい緑の芝生を踏みしめて、噴水のある中庭を歩く。桜吹雪の中、少女は足を止めて周囲に視線を動かした。


 じっと見られている。視線を感じる。


 場所の特定は出来ないが自分を監視しているものとは少し違う視線。


 梨華はそれを受けてふと立ち止まった。


 完全な造形美。神話の女神か、絵画の美女か。そこからまるで抜け出したかのような整った顔立ちは男女関わらずふと足を止めてしまうほどだった。チェック柄の紺色のスカートに紅色のブレザーとシャツを着用し、見事なプロポーションであることが制服の上からでもわかる。脚線を黒いニーハイのソックスで隠しながらも浮かび上がったシルエットはモデルのようにすらりと伸び、革靴の先端を地面にトントンと叩く。


 世界屈指の魔導師育成機関である学園(アカデミー)の内部ならば国連魔導軍(UNマギナリー)や日本魔法省から攻撃されることはないと義父に言われて入学したのだが…。


 見られているのね、私は。


 優雅に左右を見回すように梨華が首を振ると春の風が梨華の長い髪を鋤いた。


 学園(アカデミー)の中等部二年校舎前には中庭が広がっている。噴水の音が遠くに聞こえ、隠れる場所はたくさんあるが、その視線はもっと違うところからこちらを見つめているようにも思える。


「ねぇ、無音の投擲槍(サイレンスジャベリン)って監視も任務になっているの?」


 学園(アカデミー)内唯一の国連魔導軍(UNマギナリー)所属の空戦特務部隊(スカイナリーズ)である無音の投擲槍(サイレンスジャベリン)は熱心に自分の勧誘を行っていた。そのうちの一人の視線を確かに感じていた。


そして視線の主が答えた。


「監視は国連魔導軍(UNマギナリー)全体の任務なんすよ」


 中等部二年校舎の屋上からふわり、と少年が着地してにこりと笑うが、幼い顔立ちに獰猛な目付きをしたギャップがどことなくかわいい。


「あら、友樹くんじゃない」


 梨華が友樹をぎゅっと抱きしめると、友樹が胸の中でわたわたと暴れる。


「梨華さん、やめて!やめてくださいよっ!」


「そう」


 梨華が涼しい顔をして友樹を解放すると、顔を真っ赤にした友樹がぜぇぜぇと息をして身震いした。


「なんでそう、いつも急に抱き付くんですか?」


「かわいんだもの」


 梨華が拗ねるように言うと友樹がため息を吐いた。毎回この調子だが、言っている内容とは裏腹にいつでもこちらを首き殺せる力を持っている事を友樹は知っている上で、油断は出来なかった。


「で、私を見て面白いことでもあるのかしら?」


「別に…他の生徒たちは学園(アカデミー)部隊(チーム)であっても国連魔導軍(UNマギナリー)』の指揮下にはないですからね。だから俺たちが梨華さんを監視と保護するんですよ」


「小さな騎士様ってことでいいのかしら?」


「…まぁ」


 友樹が頷くと梨華は納得したように頷く。


「あなたの恋人は何をしてるの?」


「恋人…?」


 恋人、と言われても友樹には思い当たる人物が居らず首を傾げると、梨華は困ったように微笑む。


「あの小さな子」


「絵里っすか?更紗さん?」


「そういえば…小さい子は二人居たわね」


 梨華は人差し指を唇に当てて無音の投擲槍(サイレンスジャベリン)のメンバーを思い浮かべる。


 一人は初等部の生徒のようにも見える絵里で、無邪気な笑顔をした天使のような女の子で、もう一人は中等部くらいの生徒で更紗、どこか裏があるような生真面目な生徒。どちらも可愛いと言えばそうであるが、絵里は純真無垢で更紗は腹黒いイメージがある。


「初等部の子のほう」


「絵里は中等部一年ですけど…」


 友樹が「やっぱりそう見えるか」と苦笑する。


「中等部の子の方はさっき高等部の校舎ですれ違ったけど…?」


「それは高等部一年で更紗さんっすよ」


 友樹が二人の年齢を訂正すると、梨華は「へぇ」と呟く。


「てっきり二人とも幼いから勘違いしてたみたいね。ほら無音の投擲槍(サイレンスジャベリン)って、みんな若いじゃない。降矢教授なんて二十歳くらいに見えるしね」


「降矢さんは犯罪的な若作りの天才ですから…」


「後ろ」


 梨華に言われて友樹が振り返ると、爽やかな笑顔をした青年がスーツを着て友樹の真後ろに立っていた。


「若作りの天才の降矢教授、こんにちは」


 梨華がにこやかに微笑むと、降矢が頭を下げる。


「あ、いや、その深い意味はないんです」


 友樹が後ずさると降矢が「そうですね」と微笑む。いつも微笑んでいて考えていることが今一わからない人物でもある。


「梨華さん、身体検査の記録を受け取りに来て頂きたいんですけど、よろしいですかね?」


「編入時から変わったのは胸囲くらいだと思うけど?」


「まだ成長してるんすか、それ」



 友樹がまじまじと梨華の豊満な胸を見つめると梨華が苦笑する。


「冗談よ」


「そっすか…」


 どこか残念そうに友樹が呟くと降矢がため息を吐く。


「友樹くんは得ですよね、その顔と年齢のお陰でセクハラにはなりませんから」


「そうねー」


 降矢に同意した梨華に友樹は「セクハラねぇ」と思ったままのことを口にする。自分には無縁の言葉だと首を横に振る。どちらかと言えば梨華に逆セクハラをされているのだから、最近は困っているのだ。


「梨華さんが無音の投擲槍(サイレンシュジャベリン)に加入すると同時に、今までの前科が全て帳消しにされるっていう話は?」


「耳に挟んではいるけれど、私は正当防衛のつもりだったのよ。意味もわからず拘束されてしまうなんて、私には怖かったのよね」


「千百人以上を(サウザンドオーバー)撃墜(デストロイ)した記録保持者(レコードホルダー)が何を…」


 友樹がうんざりとすると梨華が「やりすぎちゃったかしら」と腕を組む。


「とりあえず学園(アカデミー)は治外法権で、超法規的にあなたを保護していますから、加入をきっかけに劇的に何かが変化するということはありません」


 降矢に説明されて梨華は「そうね」と頷く。例え保護されていなくても梨華ならば襲撃を受けたところで返り討ちにするのは目に見えているのだから、友樹にとってはそんなことはあまり意味がないような気がした。


「私にメリットがないことは興味がないのだけれど…」


 それだけじゃない。劇的に何かが変化することはない?それは誰にもわからないはずだった。


「英次くんもそう言ってましたよ。梨華さんはメリット、デメリットで物事を判断するだろうから、加入を求めても却下されるだろうと…。私たち無音の投擲槍(サイレンスジャベリン)は戦力強化を目的としてあなたに加入を求めているわけではありませんしね」


「はっきり言うのね」


「絵里が…梨華さんを欲しがってるんですよ」


 友樹が口を挟むと、梨華は目を細める。


「あの子、私を見て『お姉様』って口走った子よね。私に妹がいるかどうかすら、記憶にないんだけど…」


「聞いてますよ。三歳の時に研究所から脱走して国連魔導軍(UNマギナリー)の追撃を尽く撃破したっていう伝説は」


 友樹が資料を見せられたときの悪寒は凄まじいものだったと追想する。一番過激なのは国連魔導軍(UNマギナリー)に加入していた『アメリカ魔導軍第三魔導大隊』の二千五百人包囲網を単独突破(ソロブレイク)した記録だ。記録されている梨華の装備は軽装、ないし無装備で魔術(スキル)魔法(マジック)のみで突破している。


「話し合いって大切よね」


 梨華が白々しく言うと、英次の交渉手腕に友樹は感謝する。下手に梨華に接触した場合は学園(アカデミー)が炎に包まれることになっただろう。




 教室で梨華が帰宅の準備をして立ち上がると、同じクラスに在籍している少年が少女二人を連れて梨華の行く道を塞いだ。


 気だるそうな顔をした青のブレザーに紺のズボンを履いた同級生。後ろに控えているのは同じく制服を着た人形のような少女たちだ。


「英次くん、私は外に出たいんだけど、そこにいると出られないわ」


「おや、そうかな?こっちは梨華に用があるからここに立ってるんだけどね」


 教室の中で梨華に話しかける人物はおらず、美貌と能力で全員が梨華を腫れ物のように扱っていた。英次の行為は明らかに爆発物に手をかけたの如く、全員が二人の同行を見守っている。


「話があるなら、ここでいい?別段用事があるわけでもないんだけれど、移動するのも少し面倒だと思うのよ」


「別にいいさ」


 後ろの絵里と更紗を見ながら尋ねる梨華に英次が同意する。


「梨華さん、ぜひ私たちの部隊(チーム)である無音の投擲槍(サイレンスジャベリン)に加入していただきたいんです」


 必至な形相、とでも言えばいいのか、絵里が祈るように懇願して梨華が不満を露にすると、更紗が英次の前に出た。


「ここでの戦闘行為は双方に利益がありませんので、悪しからず」


 更紗に言われて邪魔をしている者を薙ぎ倒してでも外に出ようとした梨華が魔力(マギウス)を抑えると、教室に残った生徒たちが唖然とする。


「話し合いって大事だよな?」


 英次が苦笑すると梨華も苦笑する。


「そうね、あなたたち国連魔導軍(UNマギナリー)が武器を持たずに交渉(コンタクト)して来るとは夢にも思わなかったからね…」


 梨華が本音を口にすると英次が頷いた。


「今までの君に対する非礼、国連魔導軍(UNマギナリー)を代表して謝罪する。すまない」


「軽い謝罪ね。とは言え私に支払った対価の大きさは謝罪できるレベルを簡単に超えてしまっているわけだし、私はその謝罪を素直に受け入れるわけにもいかないのだけど?」


 梨華の物言いに絵里が理解出来ないのか首をかしげる。言葉のままの意味では英次と梨華の会話の内容を図り知るには少々難しい。二人とも一言で言えば『偏屈』な人間に分類される。


「君の前科は無音の投擲槍(サイレンスジャベリン)加入後、超法規的処置が取られることになる。梨華の加入を求め、同意が成された場合、梨華を全ての罪から開放させたいと要望書を上に出したらなんて言われたと思う?」


 英次が悪戯っぽく尋ねると、梨華が一瞬諮詢した。


「梨華を加入させることなど出来るわけが無い。やって見せたらその案を承認しよう、だとさ。小馬鹿にされたが、その通りだとも思うわけだ」


 英次はわざとらしく両手を広げるアクションをする。やれやれだ、とでも言いたいのだろう。


「メリットになるかどうかはわかりませんが、社会的人権の復帰をあなたに約束します。追われる事はもうないでしょう。学園(アカデミー)の外でも通常の生活が出来るはずです」

 

更紗に言われて梨華は首を横に振る。


「邪魔をするなら排除するだけ。私は法を遵守したことがない。今までも、これからも」


「それじゃあ哀し過ぎます」


 絵里に言われて梨華は首をかしげる。


「あなた、どうして私をそんなに…」


「お姉様ですから」


「意味がわからないわ」


 梨華が苛々したように絵里を見下ろして睨みつける。


「私に妹なんていないし、信じられないわ」


「信じる信じないは君の自由だ、が…梨華の十三歳の写真と絵里の写真を比較した結果、姉妹である可能性は否定できないそうだが?」


 英次に言われて梨華は言葉を詰まらせる。自分自身、幼い頃の自分と良く似ているとは思っているから完全に否定することができなかった。

 



 英次が更紗と絵里を教室に連れて来たことを思い出して梨華はうんざりした。学園の生徒を人質にとって交渉を決裂させるつもりだったが、英次はその気力すら失せさせ、こちらをコントロールするように話を進めていた。


 結果的に加入を保留するに留まったわけだが、姉妹だのという問題は解決していない。


「降矢教授は私と絵里の姉妹説をどう評価します?」


「梨華さんは全対応型(オールラウンダー)魔導師(ウィザード)ですからね。絵里さんのように火力重視で細かい制御の出来ない魔導師(ウィザード)とは間逆の性質を持っていますが…遺伝による技術の差異は別に問題ではないんです」


「回りくどいのは嫌いなのだけど?」


「どの口がそう言うんですかね。梨華さんだって十分回りくどいっすよ」


 友樹が不満そうに言うと、梨華が友樹を抱きしめて頭を両腕でロックする。


「うごー」


 胸の中で暴れる友樹に梨華はにやりと笑うと、降矢が苦笑する。


「口は災いの元ですね。まぁ、私も絵里さんの発言は気になっていたので調べましたが、百パーセント姉妹です」


 遺伝子による検査で結果が出てしまった以上、梨華は認めるしかなかった。


「絵里さんは恵まれた子供(エレメンツ)計画の最終製造番号(ラストロットナンバー)で、梨華さんは試作製造番号(プロトロットナンバー)でしたね?」


「ええ、そうみたいね。私には恵まれた子供(エレメンツ)計画っていうものがわからないのだけど…」


「国連魔導軍(UNマギナリー)が情報を開示していませんが…恐らくあなたたちは通常の人間よりも強い魔力(マギウス)を保有していて、それを実験するために施設に入れられた可能性があります。それは絵里さんが証明していますが…」


「絵里って何をどこまであなたたちに話したの?私にはあの子がまだ何か隠しているような気がするんだけど」


 一目見てそう思った。直感を口にすると降矢が「鋭いですね」と呟く。


「…絵里の話はどうでもいいじゃんか。梨華さんよ」


 抱きしめられたまま動かなくなった友樹が梨華の腕の中で口を開く。梨華は友樹を解放すると、友樹は憮然とした顔をしている。


「気になりませんか?あなたと絵里さんが関係している恵まれた子供(エレメンツ)計画」


 気にならないと言えば嘘になってしまう。梨華は降矢の目を見ると、降矢はまっすぐに梨華を見ていた。


「梨華さん、絵里だって家族といたいはぶっ」


 梨華は友樹を抱きしめてまた口を塞ぐ。感情のまま発言する友樹の言葉は真っ直ぐ過ぎて梨華には少し辛かった。真摯な眼差しで『姉』と叫んだ絵里は認めて欲しくて必至だったはずだ、が梨華はそれを覚えていないと一蹴してしまった。


「私が記憶にあるのは四つの時よね。なんであの子が私を知ってるの?あの子生まれたてじゃない」


 ずっと感じていた違和感に気付いて梨華が疑問を口にすると、降矢が頷いた。


「絵里さんの話ではあなたが一番上の姉だそうで、間に姉、兄がそれぞれ一人いるそうです」


「待って、話がややこしくなるわ」


「でしょうね。私たちにも絵里の言っていることが妄想ではないのか、と思えるときがある。でも事実、あなたと絵里さんは姉妹だった」


「姉妹であるが故に私を部隊に勧誘するっていうのも納得できないのよ。何故?」


 梨華の質問も最もで、英次は聞いても何も答えず、本人に聞くわけにも行かない。更紗は意図的に梨華に接触しようとしていないので捕まえることが出来なかった。降矢は全体を知っているような気がして尋ねてみた。そして梨華の思惑は正解だった。


「友樹くん、絵里さんは英次さんの養子というか、保護監督下にあります。この子等には両親が居ない。国連魔導軍(UNマギナリー)に在籍する単独任務可能執務執行官(シングルインスペクター)には様々な権限がありまして、英次くんは十二歳のときに二人を保護しています。ちなみに男女二名の保護観察が前提で、同じく十一歳で単独任務可能執務執行官(シングルインスペクター)だった更紗さんも二人の養育監督官になっています」


「エリート二人ってことね」


 梨華が納得すると降矢が頷いた。エリートという言い方は確かに間違いではない。二人ともかなりの実力者であるが故に過酷な人生を歩んでいる。


「そろそろ、死にますよ?」


 降矢が梨華の胸に抱かれた友樹を指差すと、梨華は「忘れてたわ」と両腕を開くと友樹が酸欠で頭をふらふらさせた。


「英次さんと更紗さんも両親がいないから施設で育ったって聞いてるけど…。きっと一人でいるって寂しいことっていうの知ってるんじゃないすかね」


「私は周りが放っておいてくれないから、けっこう忙しかったけど」


 梨華の物言いに友樹はため息を吐く。


「いいわよ。何だかしつこそうだから、加入を承認します」


 梨華が何処と無く演技っぽく言うと、友樹と降矢が顔を見合わせる。


「どういう心境の変化で?」


「加入するって言えば逆に疑うのね」


 梨華が「めんどうな人たちね」と呟くと、友樹が「だってさ…」と口籠もる。


「あんだけ嫌がって、急にオッケーなんて疑うだろ」


 友樹の言い分も最もで梨華が苦笑する。


「ん、まぁ友樹をいじめて楽しもうとか、そんな理由じゃダメ?」


「ダメじゃないっすか?そりゃ」


 友樹が後ろに下がって警戒すると、梨華が「残念」と呟いた。


「絵里さんとの関係や恵まれた子供(エレメンツ)に興味がある、が本音ですか」


 本心を突かれて梨華が目を細め、諮詢した後に頷いた。


「敵だった国連魔導軍(UNマギナリー)の配下に入ることで得られる情報って、少ないだろうけど無理益ではないって思ったの。どうにもキナ臭いのよ」


「私もそう思います。幸い学園(アカデミー)は国連とは別系統の組織ですから、私たちのような国連魔導軍(UNマギナリー)にも認可された部隊(チーム)は身動きがとりやすい。英次くんはそれも考慮して国連魔導軍(UNマギナリー)入りしましたしね。絵里さんの恵まれた子供(エレメンツ)計画を調査する予定だったのでしょう」


 降矢に言われて梨華は首をかしげる。


「何故英次はそこまで恵まれた子供(エレメンツ)計画に執着するの?」


「執着しているとは言ってませんが、彼が部隊(チーム)を創設して矢継ぎ早に功績を挙げ、さらに国連魔導軍(UNマギナリー)入りした。私から見れば彼は権力や組織を少なからずよく思っていない人種だ。目的のための手段だとしたら、私は彼の行動が一貫性を持っているようにも見える」


「裏がある、と?」


「どこにでも裏がある。今回はそれが国連魔導軍(UNマギナリー)にあるのではないか?ということです。彼は何かを嫌っている。それが何かは私たちにもわからないが…」


 降矢は口を止めると更紗と絵里を引き連れた英次がこちらに歩いて来ている。


「今日も女の子を連れていい身分ね」


 梨華が口にすると英次が苦笑した。


「私も参加していいかしら?」


「え?」


 梨華に絵里が目を丸くし、更紗が英次の顔色を伺う。


「ようこそ国連魔導軍(UNマギナリー)の空戦特務部隊(スカイナリーズ)である無音の投擲槍(サイレンスジャベリン)は君を迎え入れよう」


「どうぞ、ごひいきに」


 梨華と英次が左手を差し出して握手する。




 学園(アカデミー)は広大な敷地面積を持つ。校舎や体育館を始め、実験施設から演習場。飲食店やアクセサリーショップまで何でも揃っている。誰かが学園都市(アカディメイア)と言っていたがそれも間違いではない。生活に必要なものなら学園の敷地内で用が足せるのだから不自由などなかった。


 学園(アカデミー)の制定する部隊(チーム)という制度も学園都市(アカディメイア)では重要視されていた。


 それぞれの部隊(チーム)は三人以上が原則で、部隊(チーム)を設立する責任者を隊長(リーダー)とし、後見人を一人立てるか、簡易任務を三つ以上こなす必要がある。後見人は大学生の三年以上、成人した人物が必要で、教職を行っている高等部教師はそれに含まれないため、学園大学部の教授か助教授に後見人を依頼するケースが多い。


功績(リザルト)ポイント制っていうのは理解したけれど、学園(アカデミー)を解した依頼をこなすことでポイントを獲得して、学園(アカデミー)内の施設を使用するのにポイントを使うのよね」


 英次のセーフハウスに引っ越して数日が過ぎて、梨華が部隊(チーム)の様々な利点を調べていた。


「そうですね。例えば娯楽施設の利用などは基本的に学園は認めていませんから、学園都市内にある施設の利用におけるポイント制は誰もが欲しがるんですよね。カラオケボックスもある程度ポイントがないと使用できないですし」


 絵里に説明されて梨華はなるほど、と呟く。


「私たち無音の投擲槍(サイレンスジャベリン)部隊階級(チームランク)がSSだから最上級部隊なのよね」


「はい。英次さんと更紗さんが複合(ユニゾン)の試合に参加してますから、そこでポイントをかき集めてますね。このポイント、換金出来るので生活費は基本、二人が稼いでるんです」


「…」


 梨華は自分が住むことになったマンションの最上階。ワンフロア全てが自宅と言う英次の豪勢な生活ぶりにやっと納得が出来た。一ヶ月数億かかると言われている高級マンションに部隊員が生活している環境は、学園(アカデミー)の生徒にとっては夢のまた夢でもある。


 そもそも学園から出て生活するのにも功績ポイントがかなりかかる。その上こういう高級な住居で生活するとなれば、話は別だ。


「絵里ちゃんも学園(アカデミー)主催の競技に参加してるの?」


「私は今年中等部に上がったばかりなんで、まだ参加するかどうか決めてないんですが単独(シングル)の試合に参加しようかと思いまして」


 単独(シングル)…。


 梨華は不慣れにも絵里のPDAを操作して学園(アカデミー)主催魔導師試合(マッチング)単独(シングル)項目(タブ)をタッチする。


「中等部以上、魔導師階級(ウィザードランク)三等魔術師(サーディアン)部隊(チーム)に所属している人なら参加できるってこれ?」


「ですね」


 絵里が頷くと、梨華はランキングを確認すると中等部、高等部、大学部の連中も沢山名を列ねている。


「あなたの階級(ランク)って…?」


「私は三等魔導師(サーディアン)なんで最下位リーグからの参加になりますね。所属している部隊(チーム)部隊(チーム)なんで、敬遠されちゃうかもなんですけど…」


 絵里がしゅんと小さくなると梨華が苦笑する。確かに中等部の最年少とは言え無音の投擲槍(サイレンスジャベリン)の名前を出すだけで周囲の部隊(チーム)が萎縮するような存在感がある。敬遠されてしまっても仕方が無い。


 学園(アカデミー)だけではなく、その名前は梨華にとってあまりいい思い出はない。何度も邪魔をされ、何度も煮え湯を飲まされて来た。逆に無音の投擲槍(サイレンスジャベリン)からして見ても、梨華には何度も防衛拠点全滅や、引率部隊殲滅の冷や水を浴びせられている。


「英次さんと更紗さんは複合(ユニゾン)のXリーグで王位ですからね。防衛戦でも莫大なポイントを稼いでいるんですよ。それぞれ単独(シングル)複合(ユニゾン)部隊(チーム)のリーグが開催されています。私は友樹くんと複合(ユニゾン)に参加するつもりだったんですけど、友樹くんが複合(ユニゾン)は無理難題過ぎるって取り合ってくれなくて」


 梨華はそれを聞いて友樹の判断が正しいと思った。例え上位に食い込んで英次と更紗のXリーグに到達したところで王位を奪うのは至難だろう。


「オープンリーグって何?」


 梨華がPDAに記載されている別項目を指差して尋ねると、絵里が「ああ」と呟いた。


学園(アカデミー)主催ではありますけれど、他の軍隊出身の人や他国のリーグ戦を勝ち抜いてきた魔導師(ウィザード)も参加しているリーグですね。最も…職業魔導師(ジョブウィザード)軍人魔導師(ソルマギウス)の人が多いですから、学生徒である私たちには厳しいんです」


「英次と更紗は参加してるんでしょ?」


「はい」


 絵里が困ったように微笑む。


「あの人たちは規格外ですから…オープンリーグ最年少覇者にして五年連続防衛を記録していますね。中等部に上がってから無敗です。戦跡は確か…」


 梨華はPDAを操作して複合(ユニゾン)のランキング一位に登録されている英次、更紗ペアをタッチする。


戦績五百二十四戦無敗(オールウィン)。TKO記録五百二十四。最短試合時間四秒三。最長試合時間二分ジャスト。化け物みたいね。周りのレベルが低いってことはあるの?」


 梨華が余りにもおかしな時間に疑問を抱くと、絵里がぶんぶんと首を横に振った。


「少なくとも私が口出し出来るレベルの戦闘ではないんですよ。英次さんは魔導師階級(ウィザードランク)一等魔導師(ファスター)で更紗さんも同等の一等魔導師(ファスター)なんです。魔力階級(マギランク)に至っては英次さんは測定不能(アンノウン)で、更紗さんはSS(ダブエス)プラスプラスです。世界中で探したって十人いるかいないかの数値ですよ?」


「あら…そう…なの…」


 梨華が歯切れを悪くすると、絵里が首をかしげる。


「ちなみに身体測定で結果が出てるはずなんですけど、姉様の数値は?」


「姉様はやめて」


 梨華が絵里を嗜めると、絵里は「ごめんなさい」と頭を下げた。妹であると認めはしたが、未だに姉と呼ばれることには抵抗があった。


「私も英次と同じ一等魔導師(ファスター)測定不能(アンノウン)よ。残念なことにね」


 梨華が「ふふ」と意味深に笑うと、絵里がぱっと笑顔になった。


「やっぱり梨華さんもすごいですね。安心しました」


「はい?」


 何がやっぱりで、何が安心したのか、梨華が怪訝に思うと絵里が「こっちの話です」と慌ててPDAを横から操作した。


「でもそうすると、梨華さんも単独(シングル)で出場しますよね?」


「…興味ないけど」


 梨華が正直な感想を言うと、絵里が「もったいないなぁ」と呟く。


「梨華はいるかー?」


 玄関の開く音と同時に英次の声が聞こえる。


「いないわよ」


 梨華が面倒そうに言うと英次がリビングに顔を覗かせる。


「絵里のPDAを使ってたのか」


 英次がポケットからPDAを取り出して梨華に投げる。梨華はそれを受け取って首をかしげた。


「梨華の専用端末。俺からの『入隊祝い(プレゼント)』ってことで」


 英次がテーブルの向かいに座ると、絵里がにこにこと微笑む。


「私のアドレスと通信識別コードを送信しますね。セットアップは…」


「セットアップは終わってるよ。部隊員全員のアドレスと識別コードも入ってる」


 英次が「ぬかりはないさ」とPDAを取り出して操作すると、梨華と絵里のPDAが着信を知らせる。二人が回線を開くと液晶に二人の顔が表示されて、オンラインになった。


「便利ですよね。これで会話も出来ます」


 絵里が嬉しそうに言うと、梨華は「首輪を与えられた気分よ」と縛られるような感じがして素直に笑えなかった。


「あとはこいつか」


 英次がポケットから卵を半分に割ったような機械を机の上に放り投げる。


「あ、インカムですね」


 絵里がポケットから同じ機械を取り出して左の耳にかちり、と嵌めると左目にHUDが出現した。


「PDAと機器接続して、ハンズフリーで通信できるようにしてある。更紗の前線管制(ウォッチ)情報管理(コマンドタスク)もそこに表示されるから、作戦行動中は常にそれを使用してくれ」


「了解であります、隊長殿(リーダー)


 梨華は嫌味っぽく言うと左耳にインカムをセットする。国連魔導軍(UNマギナリー)の連中も同じ装備をして連携を取っていたことを思い出すと、インカム自体はいい思い出がない。


「よろしくな、副隊長殿(サブリーダー)


「はい?」


 梨華がしかめっ面で英次を睨む。


 今なんて言ったの?


「梨華は無音の投擲槍(サイレンスジャベリン)の空位だった副隊長(サブリーダー)に就任を命じ、ポジションを全対応型(オールラウンダー)とする」


 英次の発表に絵里が「おー」と拍手する。


「陣形の説明だ」


 梨華の左目にはインカムからHUDが表示されて、点が複数出現していた。


 上から一番目の点に降矢、ポジション威力前衛(アグレッシブフォワード)と表示され、次に友樹に能動前衛(ポイントガードフォワード)、その下に更紗の前線管制(ウォッチ)情報管理(コマンドタスク)、最後に絵里に後衛狙撃(フルバックシューター)制圧(デストロイ)、と名前とポジションが表示され、その周囲を動く形で全対応(オールラウンダー)と書かれた二つの点が動き回っている。


「各セクションに援護(カバー)が必要な場合、俺と梨華はそこのサポートに入る形になる。基本、この形で奇襲ないし作戦を遂行するので忘れないように」


「それはいいけど、私に広い視野を求めるチームプレイを最初から求めるの?」


 梨華が不満を口にすると、英次は梨華を真正面から見つめる。


「梨華、出来ないとは言わせない。一人で何十人、何百人を相手にして来た経験は誰にでもあるものじゃないはずだ」


「好き好んで何十人も何百人もダンスパートナーに選んだつもりじゃないのだけれど」


 梨華の言い方に英次が苦笑すると、絵里がうーん、と唸る。


「このPDAとインカムでポイント消費量けっこうかかりますよね?」


「あ?まぁまたすぐに取り戻せると思うし、気にしないでいい。つーか絵里も欲しいものがあるならポイント使え。通貨に変換して食費にしてるだけだろ?」


「無駄遣いはダメですよ」


 絵里が頬を膨らませて怒ると英次が苦笑する。


「うちの財務省はお堅いからな。絵里は自分の装備以外に金を使ってるところなんて見たこと無い」


「私は装備自体がお金かかるんで…」


 絵里が「私、不器用なんで」と小さくなる。


 ころころと表情の変わる子だこと…。


 梨華はそんな絵里を見て面白い子だなと思うと、友樹と更紗が帰宅してくる。


「お、梨華さんPDAもらったんすか?」


 友樹がPDAを取り出して梨華のアドレスを確認すると更紗も同じようにPDAを操作している。


 英次の隣に更紗が座り、梨華の隣に絵里、そして絵里の隣に友樹が座る。梨華の目の前にいる英次はPDAを全員が取り出したのを見て全員が梨華の名前を確認してテーブルの上にPDAを置くのを待っていた。


「っと」


 英次は忘れていたことを思い出したかのように足元に置いていた紙袋を持ち上げると、兜を冠した女性の横顔のシルエットがデザインされた肩章を机の上において梨華に差し出した。


「こいつが部隊章(エンブレム)で、制服の左肩に縫い付けるんだ」


「私がやりますね」


 絵里が「後でブレザーを貸してください」と告げると梨華は頷く。


「この肩章、学園(アカデミー)の生徒のほとんどがつけているから何かと思ったけど部隊章(エンブレム)だったのね」


 今まで別段興味もなかったが、これがそうだと知ると英次の姿を見て上級生ですら道を開ける理由がよくわかった。


部隊(チーム)のシステムについての説明は?」


「絵里ちゃんにずっと家庭教師してもらったから大体わかったわ」


 梨華の返答に英次は満足すると、更紗がインカムをセットすると、HUDの画面が切り替わる。


精神感応(メンタルリンク)でHUDが切り替わります。基本的に身体情報や精神情報などを表示します」


精神感応(メンタルリンク)…」


 梨華が欲しい情報を頭の中に思い浮かべる。


「…何を見てるんですか何を!」


 更紗がばんっと机を叩いて激昂すると、梨華が苦笑する。


 梨華が閲覧している情報は、更紗の年齢で本当に高等部一年なのか確認しているのだ。他の部隊員(チームメンバー)は梨華の調べている情報を知る事は出来ないが、更紗は自分を介入して情報を送信しているので梨華の調べていることがわかる。


「思ったんだけど、情報管理(コマンドタスク)魔導師(ウィザード)ってどうやって膨大な情報を管理してるの?」


 梨華の質問に更紗は椅子を引いて目を閉じると、球体のようなものが更紗の周囲に展開される。


 三百六十度ディスプレイが構成されて、更紗はその中にいた。


精神情報網(ネットワーク)接続(リンク)してリアルタイムな情報を全員に送信するのが私の前線管制(ウォッチ)情報管理(コマンドタスク)の能力です。精神情報網(ネットワーク)から電子情報網(インターネット)にアクセスすることも可能ですね」


 梨華のHUDにテレビの動画が再生される。


空戦特務(スカイナリー)に必要な技能の一つである『早期警戒管制』を担当しています」


「監視レーダー?」


 梨華のピンポイントな質問に更紗が頷く。


「三万六千キロ上空にある監視衛星(サテライト)、地上にある管制機。各国軍隊に配備されているアクティブセンサーとも連携しています。まあ、強制介入(インターセプト)していると言っても過言ではありません」


「イージスシステムとも連携しているのかしら?」


 梨華の質問に更紗は英次と顔を見合わせる。


「なぜそれを聞いたか俺は気になるけどな」


「私はいくつかの戦艦を沈めてきたからね。学園(アカデミー)にも不気味なレーダードームがあると気になるでしょ?イージスシステムと同じものが…ね?」


「ご存知ですか」


 更紗が参ったと降参するかのように苦笑すると、展開していた魔術(スキル)を不可視モードに切り替える。


「AN/SPY-1(アクティブ)レーダーよね?三箇所にあるの。接続されている兵装は未確認だけど、魔導兵器と連携しているし、学園(アカデミー)の地下にあるのは…原子融合炉?」


「そこまで知ってるなら話は早いな。学園(スクール)関係者は完全にその事実を公表してないが、国連魔導軍(UNマギナリー)主導で行われた極東方面に関する防衛計画において、学園(アカデミー)は拠点として認識されてるんだ。魔導先進国である日本は特に重要な拠点だからな」


 英次が説明すると友樹が「へぇ」と興味なさそうに呟く。


「梨華さんの予想通り、私はフェーズド・アレイ・タイプのレーダーとも連携を取っています。それとは他に…」


 更紗は絵里を見ると、絵里が小さく頷く。


「今、降矢さんって講義をしてるんですよね」


 絵里が呟くと、HUDに教鞭を振るう降矢の姿が表示される。


「絵里さんの『女神の(ガディスアイ)』という対象を目視する能力を私に転送し、私が画像処理をしてみなさんに転送することも可能です」


「機械的と目視による双方の目標の確認が可能ってことね」


「そういうことになります」


 絵里が『女神の(ガディスアイ)』を停止するとHUDが停止する。


「人のプライベートの…なんだっけ」


 絵里が舌を出して「てへ」とごまかし笑いをすると、更紗がため息を吐く。


「簡単に言ってしまえば、プライベートに干渉してしまうので絵里さんの『女神の(ガディスアイ)』は作戦行動以外の使用は禁止されています。使用許諾は隊長(リーダー)副隊長(サブリーダー)の指示が無ければいけません」


「です」


 絵里がうんうん、と頷くと、梨華は「それよ」と呟く。


「更紗、あなたは無音の投擲槍(サイレンスジャベリン)の創設初期メンバーよね。それなのに私が副隊長(サブリーダー)で異論はないわけ?」


「ありません。私がそう進言したんで」


 更紗がはっきりと言うと梨華はなお、納得が出来なかった。


「権限の分散なんです。私が副隊長(サブリーダー)であり管制官(コマンダー)であることがまず問題。間違った指揮を三者が三様に多感的に物事を捕らえ判断することが望ましい、違いますか?」


 確かにそう言われてしまえば何も言い返せない。


「私じゃバカなんでよくわかりません」


 絵里がにこにこと笑い、友樹が「確かに絵里じゃ無理だろうな」と言うと絵里が友樹を睨み、友樹は気付いていないようにそっぽを向く。


「俺は前衛(フォワード)だからな。後衛(バックス)のほうを守る事は出来ても管制まで頭が回らないし、もっと前にいる降矢さんだって無理だ。そうなると梨華さんしかいないってことになるんだ」


「なるほど…絵里ちゃん、顔、怖いわよ」


 梨華が絵里に言うと、絵里が顔をぱんぱんと二回叩いてにこりと笑うが、目が笑っていない。


「で、無音の投擲槍(サイレンスジャベリン)は国連魔導軍(UNマギナリー)に所属する空戦特務部隊(スカイナリーズ)なのに、どうして任務の依頼がないわけ?」


 梨華が一番気になっているところを口にする。作戦の依頼も無ければただの仲良しチームに成り下がってしまう。国連魔導軍(UNマギナリー)からの直接指令を受けられる立場にいても、実際に命令がないのならば意味がない。


「俺たちは結局、正規軍じゃない『傭兵(マーセナリ)』みたいなもんだ。依頼があれば『準正規軍』として作戦に従事するが、金がけっこうかかる。功績を挙げていけば評価も上がるし、評価に見合った報酬を払うって自分で決めた国連の連中だったが、今度は高くなりすぎた報奨を支払うのを嫌がって、指示を出さない。そんなところだな」


 英次が「そこで」と更紗を見ると更紗が頷く。


「私たちは個人からも依頼を引き受けています。個人、法人、政府からの依頼を受け、国連魔導軍(UNマギナリー)の制定する報酬よりも値段を下げて…ですがね。日本魔法省もそこには含まれます。最近増えてきた企業間におけるテロ行為の護衛も私たちに依頼が入ることがあります」


 企業間テロ、とは時代が時代で相手の生産工場を直接攻撃して相手を潰そうとしたり、市場を奪おうとする企業も増えてきている。それらに対して企業は魔導師(ウィザード)を雇い防衛をしているのだった。


「私たちは基本的に防衛を主体としていますが、相手が明らかになったところで相手を潰すこともしますから、血なまぐさいですね」


「それ以外の依頼なんてあるの?魔導師(ウィザード)なんて人を殺しあうほうが多いでしょ」


 梨華の言っていることも最もで無音の投擲槍(サイレンスジャベリン)も攻撃的な部隊編成になっていることは否めない。


「まぁ…特別な例としては『深緑の治癒術師(クレリック・リーフス)』っていう部隊がありますよね。擁護担当としてリーグ戦ではけっこう怪我人を治したりして駆け回ってます」


 絵里が戦うだけの魔導師(ウィザード)ではないと強調するように言うが、結局は怪我をするようなことをした後に動き回っている部隊(チーム)なのだから、それもそれでどうかと思う、と梨華は失笑する。


「結局のところ、人の命が金で守られるっていうことには変わりないんだ」


 英次がまとめると誰も異議異論を口にしない。


「学生であっても任務中の免責特権が行使されるから、授業の出席に影響が出ることは無

いってことだけが俺の利点だったりもするんだけどなぁ」


 友樹がうんっと伸びをすると絵里が「ダメですよ、授業は受けましょう」と友樹を嗜める。


「お買い物があるので、席を外しますね」


 絵里が立ち上がると「手伝うよ」と友樹も部屋を出て行く。


「あの子達のほうが私よりも兄妹っぽいと思わない?」


 梨華が何の気なしに呟くと英次が梨華の表情を盗み見る。


「そうですかね?年齢が近いだけあって気楽なんだと思いますよ」


 更紗は別段、兄妹だの姉妹だのに捕らわれて考える必要がないようにも思えた。自分と英次も常に一緒にいるが兄妹だとは思わない。


「更紗、私、学園(アカデミー)主催の単独(シングル)のリーグ戦に参加しようと思うんだけど登録お願いできる?」


「構いませんけど、急にどうしたんですか?」


 突然の話に英次も事の顛末を知りたいのか黙って梨華を見ている。


「どうしたもないのよね。絵里ちゃんも参加するって言ってるから、私は上で待ってようかなって」


「上でって…負ける事は考えてないんですね」


 更紗がさすがは撃墜の記録保持者(デストロイレコードホルダー)だ、と苦笑する。普通の人間ならば負けることも考慮するだろうし、事前情報も集めずに上で待ってるとはいえないだろう。



 


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