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第七話 「必要ない」

 宿の一階。


 夕食時の酒場は騒がしかったが、俺たちのテーブルだけ妙に静かだった。


 ダグは言葉を選ぶように何度も口を開きかけては閉じている。


 リナは不安そうに俯き、エミルは完全に目を合わせようとしない。


「……それで?」


 沈黙に耐えきれず、俺が先に口を開いた。


「話ってなんだ」


「その……」


 ダグが深く息を吐く。


「レイン。俺たち、ちゃんと感謝してるんだ」


「は?」


「知識も経験もあるし、助けられた場面もあった」


 当然だ。


 今さら何を言っている。


「でも……ちょっと、合わないと思う」


 一瞬、言葉の意味が理解できなかった。


「……何?」


「最近、みんなかなり疲れててさ」


「疲れてる?」


「ずっと怒られてるみたいで、正直きついんだ」


 呆れて物も言えない。


「怒ってるんじゃない。指摘してるだけだろ」


「でも、俺たちのやり方全部否定するじゃん」


「未熟なんだから当たり前だ」


 ダグの表情が曇る。


 リナが小さく肩を震わせた。


「俺たちなりに考えて動いてたんだ。でもレインは、全部間違ってるみたいに言うから……」


「間違ってる部分が多いから言ってるんだよ」


「そういう言い方だって!」


 珍しくダグが声を荒げた。


 周囲の客がちらりとこちらを見る。


「俺たち、レインの部下じゃない!」


 空気が凍る。


 数秒、誰も喋らなかった。


「……本気で言ってるのか?」


 ようやく出た言葉は、それだった。


「本気だよ」


「お前たち、自分がどれだけ未熟か分かってるのか?」


「だからって――」


「俺がいなかったら、ゴブリンに囲まれてた」


「あれは偶然だろ!」


「偶然じゃない。俺が気づいたんだ」


 ダグが顔をしかめる。


 まるで話が通じない相手を見るような顔だった。


 なんなんだ、その顔は。


「……レインさん」


 今度はリナが恐る恐る口を開いた。


「私たち、もっと楽しく冒険したいんです」


「楽しく?」


「はい……強くなるのは大事です。でも、毎日ずっと怒られてるみたいで……」


「だから怒ってないって言ってるだろ」


「でも怖いんです」


 その瞬間。


 頭の奥で何かが切れた気がした。


「怖い?」


 思わず笑ってしまう。


「お前らのためを思って言ってるのに?」


「レイン、落ち着けって」


「落ち着いてる」


 嘘だった。


 全然落ち着いていない。


 胸の奥が熱い。


 イライラする。


 まただ。


 また同じだ。


「結局、お前らもそうなんだな」


「……何が?」


「耳障りのいいことしか聞きたくない」


 ダグの眉が寄る。


「厳しいことを言われると逃げる。成長する気がない」


「そういう話じゃ――」


「《銀翼の剣》もそうだった」


 気づけば口が勝手に動いていた。


「俺が正しいこと言っても、最後には全員で俺を悪者扱いした」


 セシルの嫌そうな顔。


 カイルの疲れ切った声。


 全部脳裏によみがえる。


『もう限界なんだ』


 あの言葉が、急に腹の底を焼いた。


「……もういい」


 ダグが静かに言った。


「レイン。悪いけど、今日で抜けてくれ」


 沈黙。


 周囲の喧騒が、妙に遠く感じる。


「…………は?」


「報酬は分ける。違約金も払う」


「お前、何言って――」


「これ以上、一緒にやれない」


 その声には、はっきり拒絶があった。


 リナもエミルも俯いたまま何も言わない。


 否定しない。


 つまり同意している。


 胸の奥が冷たくなる。


 理解できなかった。


 なんでだ。


 俺は正しいことしか言っていない。


 こいつらを強くしようとしていた。


 未熟な部分を教えてやっていた。


 なのに――。


「……そうかよ」


 気づけば立ち上がっていた。


 椅子が乱暴な音を立てる。


「分かった」


 怒りを押し殺しながら荷物を掴む。


「好きにしろ」


 ダグが何か言いかけたが、聞かなかった。


 酒場を出る。


 夜風が冷たい。


 だが頭の中は、それ以上に冷えていた。


「……クソが」


 吐き捨てる。


 結局こいつらも同じだった。


 自分たちの未熟さを認められない。


 だから、正しいことを言う人間を排除する。


 《銀翼の剣》と同じ。


 全部同じだ。


 ――いや。


 違うな。


「……あいつらが、何か吹き込んでるのか?」


 ふと、そんな考えが浮かぶ。


 カイルたちだ。


 俺の評判を落として回っている。


 だから周囲が妙に俺を避ける。


 だからどいつもこいつも、最後には同じ反応になる。


 そう考えると、全部繋がった。


「……なるほどな」


 自然と笑みが漏れる。


 そこまでして俺を潰したいのか。


 だったら――。


「こっちにも考えがある」

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