第一話 「役立たずはもういらない」
雨が降っていた。
石畳を叩く雨音が、酒場の喧騒をぼやけさせている。
俺――レイン・アルヴァスは、安酒の入った木杯を乱暴に置いた。
「……クソが」
吐き捨てるように呟く。
視線の先では、濡れたマントを羽織った冒険者たちが笑っていた。
きっと俺のことも笑っている。
“追放された役立たず”。
今ごろ、そんな噂でも流れているに違いない。
「おかわりは?」
店主の老婆が無愛想に言う。
「ああ」
銅貨を数枚置く。
残金は、もうほとんど残っていない。
これまで稼いだ金の大半はパーティーの共有資金に回していた。最前線で剣を振るうだけの連中と違って、俺はちゃんと全体を見ていたからな。
回復薬の管理。
食料の配分。
魔物の行動分析。
戦況把握。
パーティーがここまで上り詰めたのは、間違いなく俺の支援があったからだ。
なのに――。
『レイン。お前は今日でパーティーを抜けろ』
数時間前の言葉が脳裏によみがえる。
英雄パーティー《銀翼の剣》。
王都でも名の知れたAランクパーティー。
そのリーダーである剣士カイルは、まるで当然のことのようにそう言った。
『……は?』
意味が分からなかった。
いや、今でも分からない。
『最近の依頼、お前のミスが多すぎる』
『何度も話したよな』
『このままじゃ、誰か死ぬ』
まるで全部俺が悪いみたいな言い方だった。
確かに、最近は少し噛み合っていなかった。
前衛の突撃タイミングがズレていたし、後衛の魔術師セシルも指示への反応が遅かった。
それなのに、なぜか責任は全部俺に向く。
『俺の指示が悪いって言いたいのか?』
『そういう話じゃない』
『じゃあ何だよ』
『……お前、自分が何回勝手に動いたか分かってるか?』
勝手に動いた?
あれは状況判断だ。
現場で柔軟に動いただけだろうが。
だいたい、俺がフォローしなければ崩れていた場面だって何度もあった。
だがカイルは疲れた顔で首を振った。
『もう限界なんだ』
その言葉だけは、妙にはっきり覚えている。
「限界、ねぇ……」
鼻で笑う。
限界だったのは向こうだろ。
俺の支援を理解できない程度の連中だったってだけだ。
実際、あいつらは俺に頼りきりだった。
ダンジョン攻略ルートを考えていたのも俺。
荷物管理をしていたのも俺。
戦闘中に細かく状況を見ていたのも俺。
剣を振るうだけなら猿でもできる。
だが、パーティー全体を動かす頭脳は必要だ。
それを理解していたのは、たぶん俺だけだった。
「……見てろよ」
木杯を握る手に力が入る。
「あいつらは絶対後悔する」
俺を追放したことを。
俺がどれだけ重要だったかを。
すぐに思い知ることになる。
その時になって泣きついてきても、もう遅い。
俺は、俺の価値を証明してやる。
雨音は、まだ止まなかった。




