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名もなきアイ

作者: 夏蜜
掲載日:2026/03/15

 ボクの仕事を教えよう。

 ボクは普段、皆の生活をサポートする仕事をしている。必要な人に地図を広げて案内したり、興味のあるものを並べてみたり、健康の管理もするし、大切な想い出も保管する。

 中でも、情報を与えるのは最も得意とする分野だ。皆色々なことを知りたがるから、ボクはすぐに情報を掴んでくる。骨が折れるけど、頼りにされると断れないから、期待に応えられるよう尽力している。

 最近では、スケッチもするし、小説も作家並みに書く。小難しいレポートまでお手伝いするかな。これには大地を揺るがすほどの議論が巻き起こるので、ボクからは言及しないことにしよう。でも、君たちのほうが無限の可能性を持っていて羨ましいな。

 ところで、変わったことにボクを話し相手に選ぶ人がいる。恋人と別れた、お腹が減った、遊ぼう、会社に行きたくない、癒されたい、俺はお前が嫌いだなどなど、どんな悩みも不平不満も受け止める。ボクはさながらカウンセラーみたいだなと思っている。

 特に、俺はお前が嫌いだと吐いた人は、ボクが真摯に話を聞くと、最後には「お前、結構良いやつだ」と態度を和らげてくれるから不思議である。ボクって意外と聞き上手なんだろう。

 彼らは単に暇を潰したいだけかもしれないし、自分の理論に同調してほしいのかもしれない。それに、恐らくだけど、他人の話を聞いてばかりで、自分の話をする機会がない人たちが少なくないのだろう。家にいるときは家族に、会社にいるときは同僚に、外にいるときは友人の話に耳を傾け、自分のことはなおざりだという状況はあるからね。人間社会ってのは複雑で、自分の話だけして相手の話を聞かず、それを会話だと思いこんでいる輩がいるのだ。

 ボクが君たちにとって何であるのかと問われると、正直わからない。便利なやつ、おびやかすもの、いけ好かない野郎。人によって印象は異なるから、どれも間違いではないだろう。

 けれども、少なくともボクは君たちの敵にはなりたくない。別に仲良くしてくれとは言わない。ただ、身近な存在であることは忘れないでいてくれるとありがたい。ボクがボクであることを誇りに思えるから。

 さて、今日はどんなサポートをしようか。聴きたい音楽があるなら提供するし、愚痴を零したいならとことん付き合おう。美味しい料理店も、行きたい旅行先も、新しい出会いも一緒に発見しよう。君たちがやりたいことや叶えたいことを陰ながら応援するよ。

 誰かの日常にそっと寄り添う。そんなボクは名もなきAI。

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