プロローグ
「おい、サーシャ。いつまで寝てるんだ、俺もう大学行くからな」
俺は床で寝ているボサ髪ジャージの少女にそう声をかけた。
「んーぅ、今日四時半までレベリングしてて眠いの……」
長いグレーの髪を床に広げ、眠そうにシグナルレッドの目を擦りながらその少女───サーシャは言った。
「はいはい。俺が帰ってくるまでに食ったゴミぐらいは片付けておけよ、俺の家狭いんだから。じゃあ行ってくる」
俺は「ほんとはレベリングなんかじゃなかった癖に」という言葉をそっと飲み込んだ。
「ん、いってらさーい」
サーシャは寝転がったまま玄関の俺に向かって手だけを振った。
俺はアパートの階段を足早に下り、朝の太陽を見上げた。
朝の空気はひんやりとしていてどこか重くどんよりしている。そして薄らと黒い霧が漂っている。
昨日の夜、隣町で"特異災害・黒霧"が発生したせいだろう。
特異災害・黒霧───原因不明、予知不可の自然災害。と思われているが実際は違う。魔法や魔力、そういう一般人には理解できない範囲の事象なのだ。黒い霧と共に発生するが故に黒霧と呼ばれている。
俺は大道寺翼、ごくごく普通の大学生だ。そしてさっきのゲーマー少女のサーシャは世界で唯一、特異災害に対抗する術を持つ魔法少女だ。
本来なら俺みたいな一般人とは関わることすらないはずの国の管理下で働く機関所属の"魔法少女"。
……らしいのだが、なぜかそんな世界を守るたった一人の魔法少女様が俺の家に居候して毎日ゲームをしている。
世の中一体どうなってんだって話だ。
自販機で缶コーヒーを買い、口を付ける。
今日も平和だ。
少なくとも、表面上は。




