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野木

女の戦いが始まってから3日が経った金曜日。


「はぁ、今日は良い感じに描けたな……」

佐藤晴大は自分の絵にうっとりしていた。

時刻は19時14分。旧美術室には佐藤晴大ただ1人。


ガラガラガラ


窓の開く音がした。

「やぁ、晴大くん!まだ残ってたんだね!一緒に帰ろうぜ!」

相変わらず元気良く話しかけるその男は、野木駿介だ。

「あ、野木さん……」

あの日初めて話して以来、全く関わりが無かった。

佐藤晴大は時計に目をやり「もうこんな時間か……」と呟きながら、帰る身支度をした。

その間、野木は大きく伸びをしながら語った。

「ねぇねぇ、あーちゃん最近どう?」

佐藤晴大は見当たらない鉛筆を探しながら答えた。

「え、まぁ元気ですよ。」

「はは、それは知ってる。」

「そうですか……。」

佐藤晴大は椅子の下に転がっていた鉛筆を見つけてホッと胸を撫で下ろし、リュックを背負って外に出た。

―――――――――――――――――――――――

「あ、晴大くん!こっちこっち」


佐藤晴大は下駄箱から外に出た。外は既に真っ暗で、冷たい空気が肌にしみる。佐藤晴大は肩をすくめながら校門前に立っている野木の方へと歩いて行った。


「晴大くんは地下鉄?」

「はい、そうです。」

「一緒だ!」

というわけで、佐藤晴大と野木駿介は同じ方向へと歩き出した。少し歩いたところで、コンビニに入った。野木は肉まんを2つ買い、佐藤晴大に1つをあげた。

「あ、ありがとうございます…」

「これ、あーちゃんが好きなやつ。」

「……へぇ。」

佐藤晴大は渡された肉まんに目をやる。新宮あまねが肉まんを食べるところを想像して、何だかおかしく思った。


「う〜ん、美味しい〜!」

野木は肉まんをもの凄い勢いで頬張る。

「あ、そういえば晴大くん。最近あーちゃんが楽しそうなんだけど、何か知ってる?」

野木は肉まんをぺろりと食べ終わると、佐藤晴大に尋ねた。佐藤晴大は口に入れた肉まんを飲み込んで、答えた。

「ああ、何だか菊田さくらとゲームしてるんです。」

「ゲーム?え、てか菊田さくら?」

野木は何が何だか、という様子で瞬きをした。

「はい、何だかよく分からないですけど。テストの点数競ってるみたいですよ。」

佐藤晴大はなんてこと無い顔で肉まんを頬張った。

「あぁ、それでかぁ…」

野木は何かを納得した。佐藤晴大はその様子を不思議に思い、野木をじいっと見つめた。

「ん?いやぁ、あーちゃん友達いないからね〜。いっつも1人で勉強して、当たり前に1位を取って……」

野木はふっと笑った。

「つまらないって思ってたのかもねぇ、あーちゃん。」


佐藤晴大は肉まんの温かさを感じながら、口を開いた。

「野木さんは……新宮さんのこと何でも知ってるんですね。」

野木は佐藤晴大の意図を掴めずにキョトンとしていた。佐藤晴大は慌てて言った。

「いや、別に特に意味は無いですけど…!…ただ、」

「ただ??」


「…ただ、あの日、野木さんが来た日。新宮さんの顔が少しだけ晴れやかになった気がしたんです。野木さんの顔を見て、少し気持ちが和らいだ、みたいな….」


野木は黙って佐藤晴大を見つめる。


「その理由が少しだけ、分かった気がするんです。」


佐藤晴大はそう言うと、残りの肉まんを全て口に放り込み、もぐもぐと咀嚼した。

―――――――――――――――――――――――

地下鉄のホームに着いた。

「俺はこっち側だけど」

「あ、僕は反対側です。」

「あぁ、そっか。」


しばらくして、電車が来た。佐藤晴大は野木に別れを告げ、電車に乗り込んだ。


野木は佐藤晴大に手を振り、にこりと優しく微笑んだ。そしてホームの椅子におもむろに座り込み、ため息を吐いた。


「何でも知ってる……か。」


野木はホームの電光掲示板に目をやった。


「……何にも分かってないのにな。」

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