幼馴染
「噂流したって……」
佐藤晴大はよく分からずに突っ立っていた。
するとその男は笑って言った。
「そんな顔すんなよ〜!幽霊って言ったのは悪かったけどさぁ〜」
そして頬杖をついて言った。
「いやぁ、君が一生懸命何か描いてるのをずっと見てたからさぁ。誰にも邪魔させたくないと思ってねぇ」
「は、はぁ……」
佐藤晴大がいまいち理解できずにいると、新宮あまねが呆れた顔で
「理解しようとしなくて良いよ。この人意味分からないから。」
とため息まじりに言った。
そこで佐藤晴大は、先ほど生じた疑問を思い出した。
「あの、2人はどういう関係…」
佐藤晴大がおどおどとした口調で聞くと、男はニカッと笑って答えた。
「ん?兄妹!!」
すかさず新宮あまねがその男の肩をバシッと叩いた。
「全く血の繋がりはありません。ただの幼馴染です。」
するとその男は叩かれた肩を摩りながら言った。
「ふふふ。まぁそんな感じ!俺が高3、あーちゃん高2。」
(あ、あーちゃん……)
佐藤晴大は新宮あまねをチラリと見た。新宮あまねは恥ずかしそうに下を向いていた。
「あ、そうそう!名前、聞いてなかったね!」
「あ、僕ですか?」
「うん、あ、じゃあ俺が先にしようか。」
その男はゴホンと咳払いをすると、佐藤晴大を真っ直ぐ見つめて言った。
「俺は野木駿介!3年5組でスポーツ選抜!部活は陸上部です!よろしく!」
「2年2組の佐藤晴大です。よろしくお願いします。」
そう言うと、野木は晴大に手を差し出した。晴大は恐る恐る手を差し出すと、力強く、だけど優しく握られた。
(元気な人だな……)
晴大にとってその人間は、ただの明るい体育会系男子で、自分とは一生関わることの無いタイプだと思っていた。
「おい野木ぃぃぃい!!サボりか〜〜??」
突然外の遠くから声がした。野木は声のした方に顔を向けて、うえぇと嫌な顔をした。
「そんじゃ、行くわ」
野木がそう言い、新宮あまねは「二度と来んな」と言い放って窓を閉めた。
「えっと……」
晴大は非常に気まずく思い、どこに目線をやろうかとキョロキョロしていた。
だがそれは新宮あまねも同じだった。新宮あまねは床に目をやり、問題集に目をやり、そして男に目をやった。
「……あ、あのさ!」
思いのほか大きな声が出たことに驚き、顔を赤らめた。
「な、何ですか?」
新宮あまねは勇気を出して言った。
「また、ここに来ても良い、ですか……??」