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優等生

「特待生?だから何よ。それで教師がチヤホヤするからまた勘違いするんでしょうが。」


自習室の空気は最悪だった。

(早く帰りたい……)

男はそう思いながら、かといってこのタイミングで動くような勇気も無かった。


プルルルル


突然スマホの鳴る音がした。すると男のすぐ近くに立っていた美女がポケットからスマホを取り出した。


「うん、あ、了解〜!じゃあすぐ行くね〜!」


女はそう言うと、男に向かって言った。

「それじゃあ、私は仕事だから行かなくちゃ。」

「…仕事?」


女は一瞬ぽかんとして、すぐにふふふと笑った。

「あ、言ってなかったか〜!」


女は男に少しだけ顔を近付けてそっと言った。

「私は2年4組菊田さくら。女優です!」


女はそう言うと、教室の扉まで歩いて行った。かと思えば振り返り、教室全体を見渡した。

「あ、皆んな勘違いしないでね!私はその人に落とし物届けに来ただけだから」


そう言って、女は男に何か小さな物を投げた。

男は慌ててそれをキャッチした。

(何で投げるんだよ……!)

男はキッと女を睨みつけるが、女は既に教室を出ていた。仕方なく手の中の何かに目をやった。


(……あ)

男はそれを見てため息を吐いた。

それはマゼンタのアクリル絵の具だった。

―――――――――――――――――――――――

そのあとすぐ、男は旧美術室へと足を運んだ。あの重い空気から一刻も早く逃れたかったのもあるが、それとは別に理由があった。


男は手に握った絵の具にそっと視線を下ろした。数週間前から無くしていた絵の具だ。旧美術室の中を隈なく探したつもりだったが、どこか見落としていたのだろう。

(お礼言えなかったな………。)

男はそう思いながら、旧美術室の前まで来ていた。


ガラッ


男は扉を開け、絵の具を大量に入れた箱のもとへと足を動かそうとした。


「ずびっ」


(……ん?)

誰かがいるらしかった。男はそろそろと足を進める。


誰かが机に突っ伏していた。だが男の足音に気が付いたのか、急に顔を上げた。


「……あ。」「……あ。」


新宮あまねだった。


彼女は机に問題集とノートを開き、先ほどまで勉強をしていたらしかった。

彼女の顔は少し紅く染まっているように見えたが、男は気のせいだと思った。


「……なんでこんなところにいるの。」

「いや、それはこっちのセリフですよ。」

男はそう言うと、キャンバスの方へ近付いた。

それを見て新宮あまねは何かを悟ったのか、

「ごめんね。お邪魔しちゃって。」

とだけ言った。


男は気にせずに絵の具を箱に戻し、これから何をしようかと悩んでいた。

「あの、絵を描いてても良いですか?」

男は新宮あまねに聞いた。新宮あまねは一瞬固まったが、すぐに「好きにして」とぶっきらぼうに言った。


男は新宮あまねを気にすることなく、ひたすら絵に夢中になっていた。

一方、新宮あまねは勉強をしながらもチラチラと男を気にしている様子だった。

「やっぱりどこか行きましょうか。」

男は気を利かせて聞いた。新宮あまねは驚き、そして俯いた。

「大丈夫。ただ、良いなと思っただけだから。」

「…良い?」

男には新宮あまねの意図が分からなかった。新宮あまねは黙って勉強を続けた。男はただ不思議そうに新宮あまねを見つめていた。そのとき突然、


ガラガラガラ


と窓の開く音がした。

男と新宮あまねは同時に窓の方に顔を向けた。


するとそこには、陸上部の練習着を着ている、こざっぱりとした男が顔を出していた。


「うわ……」

新宮あまねはその男と顔を合わせないように、どこか別のところに視線をやった。


「ちょっとちょっと、今何で目を逸らしたの!」


(知り合いなのか……?)

佐藤晴大は2人の様子をじっと見ていた。

すると突然窓の向こうの、その男がこちらを見て叫んだ。


「あ!幽霊くん!!」

「いや、あの幽霊じゃない……」


「ぷっ、ははは!知ってる知ってる!」

「は、はぁ……?」

その男は豪快に笑った。佐藤晴大はポカンと固まってしまった。


「いやぁ、ごめんごめん。幽霊の噂流したの、俺だから。」


(………はい??)

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