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眼鏡をかけた女の子

「秘密の隠れ家…って」


男は考えた。この場所が自分だけのものではなくなるかもしれない。この落ち着いた空間に身を置くことが、男にとって何よりの癒しであった。


「何するつもりですか!」


気付けば男は叫んでいた。ここは渡さない、と言わんばかりに。だが女は気にせずあっけらかんとした顔で言った。

「私ちょっとした有名人だからさぁ、常に誰かに見られてるんだよね〜。ほら、たまには誰にも見られずぼぉっとしていたいじゃん?」


そして女はキャンバスの絵を覗き込んだ。

「わぁ、凄いね君!自分で描いたの?これは……海?」


男はキャンバスを手に取り、女から絵を隠した。

「見ないでください。見せるようなものではないので。」


男は女の目をじいっと見つめた。できる限りの睨みを利かせて。


「ふぅん、見られたくないんだね。だからこんな所で描いてるのか。」


女は窓の方へと歩いて行き、窓の外を眺めた。後ろ姿しか見えず、どんな表情をしているか分からなかった。

「君は美術部じゃないよね?」


女が突然そう言った。


「それが何ですか?」

男は抱えていたキャンバスをスタンドに置き直し、女の背中を見る。


「別に、何って訳じゃ無いけどさ。気になるじゃん?ほら、これから隠れ家の仲間として一緒にいることも多くなるでしょ?」


女は元気良くそう言った。それと対照的に、男の心は穏やかではなかった。

「僕は誰かと一緒にいるなんて好きじゃないです。」


男はそう言うと、自分のリュックを背負い、部屋を出て行った。

―――――――――――――――――――――――

男は自習室へと向かった。絵を描けないのならば旧美術室にいる意味がない。学校の中で比較的静かな場所、思い付いたのは自習室だった。


海月高校の自習室は、通常の教室を改良したような形になっており、教室3つ分ほどの広さである。定期テスト直前には自習室の全席が埋まり、特別措置として他複数の教室が自習室として開放される。


ガラガラ……


男は自習室の扉を開けた。今日は定期テスト2週間前。教室のほとんどの席が埋まっていた。男は空いている席を探しキョロキョロと辺りを見回す。


すると、一つの空席が目に入った。机と机の狭い空間を器用に通り抜け、男はその席に座った。右隣には頭の良さそうな眼鏡を掛けた女子が、カリカリとノートに書き込みをしている。その人間からは、何か言葉で言い表しようの無い殺気が感じられた。

男は思わず息を呑み、出来るだけ物音を立てないように細心の注意を払った。


(音を立ててはいけない……!!)


男がそう心に誓った、その時だった。


「えっ!!ちょっと待って!!」


突然後ろの方で声がした。その場にいた全員が振り返った。見ると、後ろの扉に先ほどの女が立っていた。


(何で……!?)


驚く男には誰も気付かず、教室内の皆んなが女を見ては騒ぎ立てた。中には「サインくださいっ」など、まるで女が芸能人であるかのような態度をとる者もいた。


(あの後すぐ着いてきたのか……)


男は呆れた。だがしかし、それにしても生徒たちの異常な反応はどうも不可解である。


男は女と目が合った気がしたが、すぐさま目を逸らした。女が男の方へずんずんと歩いて来る。それに従って、生徒の黄色い歓声もどんどん高まっていく。


「君、ちょっと…」

女が微笑みながらそう言いかけた時だった。


ガタン!!


突然、右隣から大きな音が響いた。見ると、眼鏡をかけたその女子がそこに立っていた。全員の視線が一気にそこに集まる。


「あのさぁ、うるさいんだけど。こっちは真剣にやってんの。邪魔だから消えて。」


何とも冷淡な声だった。その場が静まり返る。だがただ1人、その怪しげな女だけは笑顔を崩すことはなかった。

「ごめんね、私が来ちゃったから〜」


(それは煽りになるのではないか……??)

男は心の中でツッコミを入れるが、女は続けて言った。

「いやぁ、そこの男の子にちょっとだけ用事があっただけなの〜!」


男は思った。

(僕を関わらせるな……っ!!!)

だが女はそんなのお構い無し、という風にこちらを笑顔で見つめている。すると、眼鏡の女子も男の方をチラリと見て言った。


「別にそんなのどうでも良いんだけど。早くどっか行ってよ。」


その眼鏡女子はそれだけ言うと、再び椅子に座り勉強を始めた。教室には冷たい空気が流れ出した。


「あんなに言う必要ある……?」「何様だよ」


そんな声がちらほら聞こえる。だがその眼鏡女子は何とも無い顔をして問題集を解いていた。

(何か言うべきか…?いや、言うべきではないな。言ってはいけない。)

男は居心地が悪くなり、自習室を出ようと思った。だがその時、


「あんたさ、ちょっと頭が良いからって何を勘違いしてんの?」


1番後ろの席で踏ん反り返る女が、冷徹な目で眼鏡女子の背中を睨んでいた。その間、眼鏡女子は黙々と手を動かしていた。


「聞いてんの?消えるならあんたが……」

「はい、それだけ言うなら消えましょう。こんな馬鹿しかいない空間で勉強しても、身につかないので。」

「…は?」


眼鏡女子はサッサと問題集や筆箱を鞄の中に入れると、早歩きでスタスタと教室を出て行った。


「ちょっ、やばいよ千鶴!あの子先生に好かれてるんだから〜!」

踏ん反り返る女の隣に座っている女子が、慌てて言った。

「はぁ?あんな奴が教師に好かれる訳ないでしょ」

「何言ってんの!だってあの子ってさ…」


「海月高校唯一の特待生・新宮あまねだよ?」

最初に書いた「さくらキャンバス!」では新宮あまねは最初から良い人枠でしたけど、かなり性格が変わってしまいました!

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