取り巻き令嬢イザベラの失恋と幸せ
さぁ、お茶会の支度支度ですわ〜
今日はついに、ランバルト侯爵家御子息ルビウス様のお屋敷に初めてお呼ばれ。
皆さまと同じ流行りのドレスでも、少しばかり目立つように気合いを入れて準備しないと。
皆さまと一緒にとはいえ――
好きな人のお屋敷に行くんですもの。
今までで一番楽しい嬉しいお茶会。
まだ、取り巻きの一人としてですけれど。
今日も沢山お話できるかしら?
さぁ、つきましたわ。お茶会の場〜!
ここがルビウス様のお屋敷の庭園……
広い芝生に、優しい色の花々が咲いている花壇に、さわやかな木立。理想通りの美しい庭園ですわ〜。
なにより、ルビウス様にお似合い……黒髪なのに陽の光に当たると眩しく輝いていて、宝石のような緑の瞳の、優しい微笑みの、私と同い年なのに大人びた穏やか空気のルビウス様にぴったりの庭園ですわぁ。
「よく来てくれたね、レディ達。ごきげんよう」
「ルビウス様〜、ごきげんよう〜!」
今日は特に微笑みが完璧に見えるルビウス様!
やっぱり庭園が似合っていますわ〜!
一人テンションが上がってしまいそうですわ〜!
皆さまに合わせて落ち着いていないと。
ルビウス様もいつも落ち着いていらっしゃる。
それなのに――
「ごきげんよう、イザベラ嬢」
いつも優しい笑顔で気さくに話しかけてくださるの。
「ごきげんよう〜、ルビウス様〜」
私も気負わず自然な笑顔で、自然にお話できる。
最近は――取り巻きの中で一番私がルビウス様とお話している気がしますわ……
「素敵な庭園ですわ、ルビウス様によくお似合いです〜」
「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ。イザベラ嬢にも似合っている」
「光栄ですわ〜」
私にも似合っている?
侯爵様であるルビウス様の庭園が……?
改めて眺めてみると、特別な気分に浸れますわ〜
「好きなだけ散策してくれ。お茶とケーキもあるよ」
「いただきますわ〜」
足が早くもテーブルの方へ。
ルビウス様も一緒に来てくださってる。
「イザベラ嬢はピーチケーキが好きだったね」
ルビウス様!
以前何気なく話しただけなのに、覚えていてくださったの!?
「はい〜! 大好きです〜」
「では、これを食べてみてごらん」
「ありがとうございます! いただきますわ〜」
ピーチがお花のように盛られた綺麗なケーキ!
これを私のために……
「ん〜! 美味しいですわ〜!」
「それはよかった! 気に入っていただけて嬉しいよ」
ルビウス様……
嬉しそうな笑顔、私がピーチケーキを気に入ったことがそんなにも嬉しいのですか〜?
「好きなだけ食べてくれ」
「ありがとうございます……」
ここにあるピーチケーキ。
私のために用意してくださったんじゃ?
そう思いたくなるくらいですわ〜!
幸せな気分でケーキをいただいて。
庭園も散策してみましょう〜
ルビウス様と歩きたいけれど、他の取り巻きの方と話していますわ。仕方ありません。
とりあえず、一人でゆっくりと――
「イザベラ嬢」
わぁっ
後ろから急に呼び止めてきたのは、
「クロード様〜、ごきげんよう〜」
メテオール侯爵家の御子息クロード様。
珍しい輝きを放つ赤銅色のサラサラの髪、氷のような色素の薄い瞳、私と年齢も変わらないのに大人びた強さのある方。
眼差しも笑顔もクールな感じ、ルビウス様の穏やかな空気の後だとよくわかりますわ。
ですが、
「庭園を散策するのか? 一緒にいいかな?」
「ええ、もちろん〜」
クロード様も気さくで話しやすいですわ〜
ルビウス様と同じで一度打ち解けたら優しくて。
並んで歩く足取りも気取って無くて、自然に隣に居られて話してくださる。
「イザベラ嬢」
「はい?」
「ピーチケーキばかり食べていたね、私の開くお茶会でも沢山用意しておくよ」
「ありがとうございます〜、楽しみですわ〜」
クロード様の言い方は力強くて――
つい豪華なケーキを期待してしまいますわ。
信じて楽しみにしていましょう〜!
それにしても、クロード様まで私の好きなケーキを。
まさか……お二人とも私を?
そんなことあり得ませんわよね、あってくれたら夢のようなのですけれど……
ケーキくらいで私ったら〜!
「ケーキも楽しみですけど、庭園も楽しみですわ〜」
「手入れしておかないとな、花壇の花は――イザベラはどんな花が好きなんだ?」
「私は〜……」
ルビウス様の花壇――
私の好きな花が咲いていたりしないかしら?
バラにデイジーに……
「そうですわね〜」
「何を悩んでいらっしゃいますの〜?」
「あら、皆さま〜」
取り巻きの皆さまに殿方に、ルビウス様も!
「どんなお花が好きかってお話を〜」
「そうでしたの〜」
「クロード様はどんなお花が好きですか〜?」
「私は、そうだな……」
あら、クロード様が皆さまに囲まれて。
取られちゃいましたわぁ〜
「イザベラ嬢、こっちへ来てごらん」
「えっ」
ルビウス様が手招きしていますわ……!
「何でしょう〜?」
体がふわふわと花に惹かれる蝶のように〜
ルビウス様の元へ行ってしまいますわ〜
そのまま、二人でどこへ?
並んで庭園を歩いて花壇を抜けて、皆さまから離れていく。
木立の下に来ましたわ。ここで二人きりで?
「見てくれ、イザベラ嬢」
「え?」
ルビウス様、木の下を指さしている。
木陰に何か?
「スミレが咲いているよ」
「えっ、スミレが?」
本当ですわ。
紫の綺麗なスミレが咲いている――
「スミレが好きだったね?」
「はい〜……」
そうでしたわ、自分でも忘れていましたのに。
ルビウス様、それも覚えていてくださったの。
「これを見せたかっただけなんだ、驚かせたね」
私ったら目を丸くしちゃって!
「いえ〜、驚きましたけれど……わざわざ連れてきてくださって、とても嬉しいですわ。ありがとうございます。ルビウス様……」
「喜んでもらえたなら私も嬉しいよ、それじゃ――」
照れたような笑顔で去っていくルビウス様……
ついて行きたいけれど。
せっかく、教えてくださったスミレ。もう少し見ていましょう。
――私のために見つけてくださったのかしら?
永遠にここに居たくなりますわ〜一生の思い出ですわ〜
ルビウス様……スミレが似合いますわ……
スミレよりもっと好き……
「イザベラ嬢」
わぁっ!?
「ク、クロード様!」
浸っているところを見られてしまいましたわ。
まさか、ルビウス様が好きだと気づかれたかしら?
ドキドキですわ〜落ち着いて〜
クロード様の様子を確認……何か、怒っていらっしゃるの? 顔つきが険しいですわ。
「ルビウスと一緒に居たね?」
「は、はい」
「それなのにどうしたんだ? 今は一人で。置き去りにされたのか?」
去って行ったルビウス様のほうを見て。
勘違いして怒っていらっしゃるのね。
「いえ、置き去りになんてされていませんわ! スミレが咲いてると教えてくださったのです」
今度は私が指さしてあげましょう〜
「スミレ?」
「ええ、私が好きな花で。ここまで連れてきてくださったのですわ。それで眺めていましたの〜」
「そうだったのか……」
わかってくださって、顔つきが戻りましたわ。
「スミレが好きなのか」
「そうですの。さっき聞かれた時は浮かばなくて、皆さまも居らして」
「あぁ、話しの途中で残念だったよ」
「そう、ですわね……」
確かに、ああいう風に間に入られるのは残念ですわよね。
離れ離れにされたみたいで。
クロード様と離れ離れ……なんだかロマンチックな……
「けれど、こうして君の好きな花がわかってよかった」
クロード様もスミレに興味を持たれたみたい。
膝を折って、眺めていますわ。
真剣な横顔のクールなクロード様と可憐なスミレ。意外性があって、なかなか似合いますわ。
「スミレとはこんな目立たないところに咲いて、花壇には咲かないのか?」
「花壇に咲いていることもありますが、こうして木の陰に咲いているのが可憐で美しいのですわ〜」
「そうか……そうだな」
笑顔でうなずいていますわ。
「私の庭園でも木の陰に咲かせよう」
クロード様の庭園にもスミレを――
「咲いたら見に来てくれ」
「はい〜喜んで〜!」
ルビウス様のおかげで、スミレが色んなお屋敷で見れるようになりますわ〜
ふぅ、楽しい一日でした。
部屋に戻ったら窓辺に座って。
今日も、お茶会を回想して幸せに浸りましょう。
ルビウス様〜〜……
あら、クロード様まで出てきましたわ……
そういえば、ルビウス様とお話した後必ずクロード様がお話にいらっしゃるわ。
今日だけでなくだから――お話する順番を決めていらっしゃるのかしら?
もしそうなら、困りましたわね〜
ルビウス様とお話して二人きりの世界に浸ったまま、帰りたいのですが……
クロード様とお話ししないように身をかわして帰るしかないかしら?
いえ、そんな避けるような失礼なことをしては……
クロード様は悪くないし、お話も楽しいし……
でも今は……!
ルビウス様と二人きりの世界に居たい!
決心して来た、ゴールド公爵様のお茶会。
取り巻きの一人として、いつも通り振る舞いつつ。
ルビウス様とも楽しくお話できて――やっぱり。
クロード様がこちらに来る気配をみせましたわ!
サッと、さり気なく視線と体の向きをクロード様からそらしてと。
ごめんなさい! クロード様!
距離を取りながら取り巻きの皆さまに、
「わ、私、今日は用があるのでこれで失礼しますわ〜」
お伝えして、馬車まで急いで!
ふぅ、無事に発車しましたわ。上手くいきましたわ。まだドキドキしていますがこれで――
ルビウス様とお話したままの世界に浸れる……
その前にクロード様……
私が避けてしまったこと気づいていましたわね。
驚いて呆然としている様子が視界に一瞬映っていましたもの。
ショックを与えて傷つけてしまいましたかしら?
怒らせてしまいましたかしら?
あぁ〜〜! クロード様のことばかり気になる!
ルビウス様のことだけを考えるためにしたことなのに……
クロード様を振り切ってまで無理矢理一人先に帰ったりして愚かだったかしら?
ルビウス様はまだ他の令嬢とお話しているだろうし。
私が先に帰ったこと気にしてくださるかしら?
気づいて追いかけて来てはくださらなかったし……
なんだか、恋心が暴走というか迷走していますわ……
今日は、ルビウス様のお茶会にお呼ばれ!
今回は、落ち着いて普段通りに振る舞いましょう。
一人だけ取り巻き行動を途中離脱したりして。
そんなことをして、変に思われたくありませんもの。
私は恋で変になってる、それを自覚して慎重にならなければ!
さぁ、いつもの私でルビウス様の元へ〜
「ごきげんよう〜、ルビウス様〜」
取り巻きの皆さまと一緒にご挨拶。
ここまでは上手に出来ましたわ。
さぁ、ここから、ルビウス様と二人で話す時に普段通り振る舞わなきゃ〜
ルビウス様がこちらに……!
私に微笑んでくださった! 微笑み返さなきゃ!
上手に出来た!?
ルビウス様は自然な笑顔のまま、私から視線をそらして手を差し出した……?
手を取ったのは取り巻きの中の――ミルドレッド様?
取り巻きの中から抜け出して――
ルビウス様の隣に並んだ?
「皆様、聞いて下さい。私、ルビウス•ランバルトはミルドレッド•オスカー嬢と婚約しました!」
えっ、そんな……ルビウス様!?
「わぁ〜〜!」
取り巻きの皆さまが歓声をあげてる、私も……
「おめでとうございます〜!」
私も……
「おめでとうございます……」
なんとか笑顔で口にできたけれど。
唇も体も震えて、上手に動けない。
乾杯だけどうにかこなして……
「わ、私、今日も用事で……失礼しますわ〜」
また途中で帰らせていただきますわ。
ごめんなさい、クロード様。
また気にさせてしまうかもしれませんが、私もう耐えられませんの。
さようなら、皆さま、クロード様、ルビウス様……
なんとか家に帰ってこれましたわ。
しばらく、部屋から出たくありません。
ルビウス様……
途中で帰った私に気づいて気にしてくださるどころか……
私が帰った後、ミルドレッド様と過ごしていましたの?
私への今までの態度は何だったんですの?
親しくお話してくださったり、好きなものを覚えていてくださったりしたのは?
ただの気遣いだったということ……?
ただ、仲良くしてくださっていただけ?
私……恋のために周りが見えなくなっていて気づかなかっただけで。ルビウス様は取り巻きの皆さまにも私と同じように接していたのかもしれない。
思い返せば、そんな記憶が沢山ある……!
私だけ特別だと、そう思い込みたかっただけだったんですわ……
ミルドレッド様とはもっと仲良くしていて。もっと特別なことをしてあげていたのかしら?
そうとも知らず、私一人で舞い上がって恋に翻弄されて……
ルビウス様のために……
何の罪もないクロード様を避けたりまでして!
本当に愚かでしたわ!!
その結果、失恋して一人で部屋に居て惨めですわぁ〜〜
涙がでますわ……止まらない、顔グシャグシャ。
恥ずかしくて、もう誰にも会いたくないです。
だけど、会わなければ――取り巻きですもの。
これからも社交界でルビウス様とミルドレッド様を、幸せな二人を見なければならないなんて、辛いですわ。
「――あぁ〜」
窓の向こう青空の果て。
どこか、遠くへ行きたいですわぁ。
遠い遠い土地に住む辺境伯様と結婚したくなりましたわぁ……
こんな私を知っている人の誰もいない世界に連れて行ってほしいですわ……
こんなこと願ってみても、都合よく現れてはくれませんわよね。
さぁ、次のお茶会も張り切って参加ですわ〜……
今日は、クロード様のお茶会にお呼ばれ。
まだ失恋から立ち直れていないし、クロード様には失礼な態度を取ったまま謝れてないしで……
どんな顔をして行けばいいかわかりませんわぁ。
せめて、元気よく。
気合いをいれて支度して。
少しばかり皆さまより綺麗にして。
さぁ、行きますわよ〜
「ようこそ、レディ達」
「ごきげんよう〜、クロード様〜」
ご挨拶は上手に出来ましたわね。
お客様の殿方とも、ルビウス様とも……
なんとか皆さまと同じ挨拶ができて、これを乗り切ったからには取り巻き行動も余裕かもしれませんわ。
「よく来てくれたね、イザベラ」
「クロードッ様〜……」
さっそく、動揺して笑顔と声がうわずってしまいましたわ〜
ルビウス様より先に来てくださるなんて初めてだから……もう当然ですわよね。ルビウス様はもう私の元に来る必要なんて無いのだから。
「この間は、急に帰ってしまったね」
「あっ、ええ……」
ルビウス様に聞かれたかったこと……
クロード様に先に聞かれるなんて思いませんでしたわ。ですが、聞いてくるのも当然ですわよね。目の前で帰ってしまったんですもの。
逃げ帰るような真似した失礼をお詫びしなきゃ!
「ごめんなさい……用事がありまして……ご挨拶もせずに帰ってしまって」
「そうだったのか」
怒ったりしないで微笑んでくれてる……
クロード様とお話してから帰ればよかったですわ。
「今日はずっと居られるかな?」
「はい〜!」
笑顔を交せましたわ、心からの。
楽しさが戻ってくるような感覚ですわ――
「約束通り、ピーチケーキを沢山用意したよ」
「あっ、ケーキ〜」
失恋なんて、ケーキで忘れましょう!
テーブルには本当に色んなピーチケーキ。
期待通り豪華ですわ〜!
「綺麗ですわぁ――それに美味しい〜」
「喜んでいただけて嬉しいよ!」
ケーキは最高の癒やしをくれるし。
クロード様は変わりなく接してくださるし。
これで辺境伯様がいらしてくれたらいいのですけど。
やっぱり都合よく居ないですし、後からいらっしゃるなど無いですわよね……
あっ、あぁ、周りを見なければよかった。
ルビウス様とミルドレッド様が視界に入ってしまいましたわ……楽しそうな御様子……辛いですわ……
私、今日も途中で帰らせて……
「イザベラ嬢」
「クロード様……」
クロード様の視線まで、お二人に――
「好きだったのか? ルビウスのこと」
バレてしまいましたわ!!
お恥ずかしい、失恋が!
クロード様の顔も見れないし、言葉も出ない。
今すぐどこか遠くへ行きたいですわ!
ここにも来なければよかった――
「私は、イザベラ嬢が好きだよ」
え?
グチャグチャな思いを突き抜けて――
今の言葉、心に届きましたわ……
私が好き?
見つめてくるクロード様の氷のような瞳、真っ直ぐで強くて。
こんなに見つめ合ったことはルビウス様ともない。
本当に? 嘘をついているとは思えない。
でも――
お慰めの言葉かしら?
これも、お気遣いで本気にしてはダメ?
「ありがとうございます……」
いつもの優しい笑顔――
いつもより強く響いた優しい声……
涙が出ますわ……
「泣かないで――行こう」
クロード様……
皆さまから見えないように涙を拭いてくださり、こんな私の足取りに合わせて歩いてくださる……
庭園を歩いて花壇を抜けて木立の下、なんだか既視感がある場所に来ましたわ。
「イザベラ、あの辺りに――」
クロード様が指さした先は木陰。
何もないけれど……?
「スミレの種をまいたよ」
スミレ。話していた通りに――
「咲いたら一緒に見てほしい、イザベラ」
「……ありがとうございます、クロード様」
ルビウス様との思い出が薄らいでいきますわ。
「喜んで、一緒に見ますわ……」
嬉しいのにまた涙が出そうですわ。
クロード様の優しさが包んでくれて。
失恋で傷ついて痛む体と心がじんじんしてくる……
「イザベラ」
見つめてくださる真っ直ぐな瞳に映る私。
せめて、笑顔でいましょう。
これ以上、私のせいでクロード様を傷つけたり気にさせるような真似したくありませんから。
「私と婚約してくれ、イザベラ」
えっ!?
「クロード様!?」
慰めるための冗談でもなく?
真剣な顔……
「ルビウスより幸せにするよ」
「クロード様……」
「初めて会った時から好きだった。私が君を幸せにしたい」
クロード様が私を?
こんな、熱い眼差し見たことないですわ……
私の心までグラグラ燃えてきそうですわ〜
こんな恋、初めて……
「ありがとうございます……」
ルビウス様に対抗意識? を見せてくださるなんて。
こんな方が居てくださったなんて。
こんなに優しくて、強い人。初めてですわ。
「光栄ですわ……ですが……」
これ以上、私の失恋の巻き添えにするのは……
ルビウス様のことばかり気にさせてしまうなんて。
良くないですわよね……
「もう、ルビウス様のことは気になさらないでください」
「イザベラ? だが……」
クロード様、戸惑っていますわ。
急に吹っ切れたから驚かせてしまいましたわね。
「いいのか?」
「ええ。クロード様のお気持ちだけで私今、誰よりも幸せですわ。喜んで、婚約のお申し出お受けいたします!」
「イザベラ!」
私のために差し出された手。
しっかり握って、離したりしませんわ。
それに――
「クロード様、あなたとの間にルビウス様も誰も入れずに、こうして向き合っていたいですわ」
いくらロマンチックでも。
クロード様と離れ離れになるのは嫌ですわ。
ずっと一緒に居たいですわ。
「これからのことは……私達二人だけのことですもの」
誰も入れないように――距離をもっと近づけて。
「そうだね――私達二人だけのことだ。私と居ればルビウスも他の誰も間に入れないし、完全に忘れさせてあげよう」
「クロード様〜」
対抗意識はそう簡単には無くなりませんのね〜
強気な眼差し、触れる手は優しいけれど力強くて。
キスも強気な感じがしますわ。
おかげで目が覚めたような気分です……!
本当にさようなら、ルビウス様。会ったこともない辺境伯様も。
私はクロード様に身を任せて行きますわ。
誰も知らない二人きりの世界へ〜〜!!