第1章第1話 ある朝 女の子になったおれ
「現代社会を舞台として、男だった少年が途中で女の子になってしまい、紆余曲折あって男の人と結ばれる話」
それは突然だった。
あまりにも突然のこと過ぎてなんの準備も理解すらできてはいなかった・・・・・。
「明良~。朝よ~」
いつも通り。
いつも通りの母さんの声で目を覚ます俺・・・・・・。
高校生になって早数か月、俺の朝はこうして母さんの下から呼ぶ声によって起こされることから始まる。
自分で起きれないわけではないのだが、どうしても実家暮らしの恩恵というか、そういうものを今だけは許してほしい。
そして・・・・・・。
「あ~うん~今行く~・・・・・・・・・・。んん???」
そして、いつも、そうしているようにおれは階下にいるであろう母さんに聞こえる声量で、起きたことを知らせるのだが・・・・・。
「あーあーあー・・・・・・・・・え!?は!?」
おかしい・・・・・・・。なにかが明らかにおかしいことに気付く俺。
いつも通りの日常が今日も始まったはずなのに、出鼻を挫くかのような違和感・・・・。
「あ~あ~あ~、なななんだよ・・・!?この声!?」
何度も何度も違和感が単なる勘違いなのだと思いたい俺の気持ちを否定するかのように、自分の声、自分の口を使って出したはずの自分の声は明らかに違和感たっぷりなものへと変り果て、思わず、その不満を言ってしまっていた。
「なんでこんな女みたいな高い声に・・・・・・・。あ~なんだろう、この気持ち悪さ・・・。自分が話しているはずなのに、全部女の声にしか聞こえない・・・・・。気持ち悪い・・・。」
自分の声がいきなり女の声になっているのだ。
ひどく気持ちが悪い感覚に苛まれてしまう俺、元々の自分の声が野太い部類のザ男の声という感じだったこともあり、この甲高くもあり甘ったるい子の声に対する違和感は果てしなく高い。
(一体、何が原因でこんなことになっているのだろうか・・・。)
風邪を引いた時でさえ、こんな風に声が高く変わるなんてことはないだろう。
むしろ、風邪を引いたらいつにもまして低い声になってしまうものなのだが・・・。
「う~ん・・・・・。」
悩んでいるときの自分の声も、完全に悩ましい女の子のような感が強くなってしまう。
「気持ち悪い・・・・。」
もちろん、そんな不満を漏らす声も女の子ボイスに変換された。
「はぁ~・・・・。とりあえず飯を食べに行くか・・・・。こんなところで悩んでいたって何にもならんし・・・。それに最悪、遅刻するのも嫌だし・・・。」
自分の発する言葉の数々はいつも通りのはずなのに、その声は女の子という違和感が付き纏いながらもとりあえず、布団を横にずらし、身体を起こす俺・・・・・。
しかし・・・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。は?なんだこれ・・・・・・。」
身体を起こすまで気付かなかったといえば嘘になるのだが、自分の心がどうしてもその違和感を見て見ぬふりをしたかったのだろうか、明らかに声以外にあった違和感に気付かないよう脳が処理をしていたのかもしれない。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
状況を一刻も早く飲み込むための沈黙・・・。
そして・・・・・・。
「なんで俺の胸にこんなものが付いてんだ!? いてっ」
状況を飲み込もうと思ったものの、どうにもこうにもできるわけがない。
おれは突如として自分の胸部に現れた二つの球体を乱暴につかみながら、比較的大きな声を発して・・・・。
瞬間、そこから走る痛みに言葉を飲み込む羽目になってしまった。
「痛い・・・・・・・・。なんだ、今の痛み・・・。」
乱暴に扱ったのだから、そう感じるのも半ば仕方のないことなのだろう。
しかし・・・・・・・・。
「感覚があるってことは、これ・・・・・・。紛れもなくおっぱいじゃん!?!?」
ありえない、全くもってあり得ない
男の俺にあるはずのないものの存在が今ここにあることに困惑し、脳が処理を諦めたように放心状態になってしまう
ただ・・・・・・・・。
ドタドタドタドタドタドタドタドタ
さっきの声はさすがに階下にいるであろう母さんの耳にも届いていたのだろう。
すごい音を立てて階段を駆け上がってくる音が聞こえてきて・・・。
かと思えば・・・・・・・。
ドン
「明良!?どうしたの!?すごい女の子の声がしたんだけど!?・・・・・・・・・・。へ?どなた?」
ドアを勢い良く明ける音と共に母さんが心配そうに入ってきたのだが・・・・・。
母さんはベッドの上にいる俺を見たかと思いきや、視線を彷徨わせ、不思議なことを言ってくるのだ。
「ど、どなたって母さん、それはさすがにひどくない?そりゃさ、俺だってこんなにも変に高い声になっているし、おっぱいみたいなものがいきなりついていたりしたら驚くよ?でもさ、だからってさ、息子に対してどなたってそれはさすがにないんじゃない?俺だって傷つくよ・・・。」
まくし立てるように今起きたこと、そしてそれに対する母さんの態度に対する不満を発していく俺・・・。
しかし、やはりその声は誰がどう聞いても女の子の声にしか聞こえなくて、女の子が怒っているようにしか聞こえないとは思う・・・。
ただ・・・。
「・・・・・・・・・・・・・。も、もしかして、あなた明良なの!?!?」
なにを言っているんだ母さんは・・・。
そんな頓珍漢なことを聞いてくる母さんに少しだけ怒りを覚えてしまう。
そりゃ、身体も声もいつもと違うのかもしれない。
ただだからって自分のお腹の中から産んで、大体16年間育ててきた我が子の顔を忘れるだなんて・・・・・・・・。
(もう母さんもボケ始めているのかな・・・。)
「・・・・・・・・・・・。なに言ってんだよ・・・・・・。母さん・・・・・。明良に決まってるじゃん・・・・・・・・。なに、違うものにでも見えたわけ?」
思わず諫めてしまう俺・・・。
流石に少し傷ついたわけだし、このくらいは許してほしいものだ。
しかし・・・・・・・・。
「でも、あなた、女の子じゃない・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・んえ!?」
母さんの言葉に耳を疑った
(女の子じゃない・・・・・?っては?)
言っている意味がまったく分からない。
ただ、母さんのこの表情から冗談を言っているようには思えない。ただ単純に、言いにくそうなことを言ってきたときのようなそんな雰囲気だ・・・。
しかし・・・・・・・・。
(俺が女の子って・・・・・・。は?母さん、本当になにを言っているんだよ・・・。声も胸も完全に女の子のものになってはいる、それは認める、でも、だからって・・・。)
「おれは男だ!!!女なんかじゃない!!!」
思わず、そんなことを叫んでしまう俺
だってそうだろ、今まで一緒に過ごしてきた、それどころか、きっちりと付いていることを産まれたときに確認していることだろうし、それをもとに育てていたであろう息子をあまつさえ、女の子だなんて…。
俺はショックで仕方がなかった。
まさか冗談ではないにしろ、家族に、それも母さんにそんなことを言われてしまったそのことに。
「女なんかじゃないって・・・。でも、その・・・・・。う~ん・・・。」
しかし、母さんは未だに俺を女の子だと思えて仕方がないのだろう。
俺の顔や体を何度も何度も舐めるように見ながら、首を傾げている。
そんな母さんの様子を見ているとふつふつと怒りが湧きあがってきて仕方がなかった。
そして・・・・・・。
「あ!!そうだわ、あなた、そのスマホのカメラ機能で顔を見てごらんなさいよ・・・。」
と、母さんはいい案を閃いたとばかりにそんなことを言ってくるのだが・・・・・。
「なんなんだよ!!!!!おれは女の子じゃないって言ってんだろ!!!ふざけんな!」
他人行儀に言ってきたことがとどめになったのだろう。
俺は思いきり叫び声のような金切り声のような声を上げて怒鳴ると近くにあったクッションを母さんに向けて投げつけた。
流石に冗談でも笑えない。
こんなにも自分に起きている異変に戸惑っているっていう時に、母さんまでもが耳を疑うことばかりを言ってくるものだから。
「ちょ、ちょっと、やめなさい!!!」
しかし、さすがにここまでされて母さんも黙っていられるほどに優しくはないのだろう。
これまでにないほどの怒鳴り声に一瞬身を竦ませてしまう俺・・・。
「か、母さんが悪いんだ・・・。おれのこと、息子のことを女の子だなんて言うから・・・。」
「だ~か~ら~!!!あ~もうっ!!!あなたがそうやって自分で見ないんだったら、私が見せてあげるわよっ!!!」
母さんはもうこのままやっていても埒が明かないと判断したようで、おれのベッドの上からおれのスマホをふんだくるとその画面を俺に向けてくる・・・。
その画面は、ロックが掛かっていることもあり、中身の写真や待ち受けが映らないにしろ真っ暗な画面が反射するようにおれの顔を映して・・・・。
「か、返せよ・・・。そんなことしたっておれはおと・・・・・・・・・・。は?」
母さんの手から自分のスマホを取り返そうと手を伸ばした俺。しかし、その目線の先、暗い画面に映り込んでいたものを見た途端、思わず動きも、そして声までもがフリーズした。
「は?へ?え、なんで女の子が映り込んで・・・・・・?」
いったい何が起きているのかわからない。
ただ確かなことは自分の姿が映るはずの暗い画面に反射しているのは誰がどう見ても女の子の姿だけ・・・・・。
そこに自分の姿などはどこにもない。それどころか画面の中の女の子は俺の今の心境をトレースしているかのように困惑していて・・・・・。
「え、は、え、まさかこれ・・・・・。俺!?!?」
俺はこれまでにないほどに驚いた声を上げていた・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。それで、あなた、本当に明良なのね?あの子が勝手に連れ込んでいた彼女さんとかじゃなく・・・?」
「うん・・・・・・・・・・・・。自分でも信じられないし、信じたくないけど・・・・・。そうみたい・・・・・・。」
さきほど、とはいっても1時間も前の、母さんに向かって怒鳴り声をあげていた頃の自分とは打って変わってしゅんッとしながら、母さんの問いかけに答える俺。
あの後、おれは一種のパニック状態になりながらも、これは夢なんじゃないか、または何かの間違いなんじゃないかと、一種の希望に縋るように洗面所に向かい、鏡に映し出される自分の姿を見たり、思いきり自分の身体に痛みを与えることをしたのだが・・・・・。
鏡に映るのは自分の顔や体とは思えないほどに可愛らしい顔つきに出るとこはきっちり出ているのに、引っ込むところは引っ込んでいるなんともスタイルのいい身体つきの女で、痛みを与えるたびにその可愛い顔が苦痛に歪んで行く様で、ここが現実であることは紛れもない真実なのだとも教えてくれるのみ・・・・。
「え、は、おれ、ほんとに女になってるの!?」
そしてやはり声も透き通った高い女の子の声で・・・・・・・。
正直、ここまで自分が女であることを証明するような事項が並べられたとしたら認めざるを得ないだろう・・・。
もちろん、下着の中に隠れているであろう男の象徴ともいうべきあれも消えていたし・・・。
正直、訳が分からない。
なにが原因でこんなことになったのかも、どうして俺がこんなひどい目に遭うのかも・・・。
ただ・・・・・・。
そのまま途方に暮れていても、ましてや絶望に打ちひしがれて泣いていたってこの状況が変わらないのも事実なわけで・・・。
母さんは最初こそ、全く信じてはくれなかったものの、なんとか今は信じてくれたようだ。
まあ、おれが母さんの立場で息子がいきなり女の子になったなんて言われたら信じられないに違いないのだが・・・・・。
「それで・・・・・・・。明良は・・・・・・・・。う~ん・・・・・・。」
母さんはなにかを言おうとするたびに、おれの顔を見ては首を傾げてくる。
なにを言おうとしているのかはわからないまでも、そのなんとも言えない気持ちはわからんでもない。
息子であるとは思ってはいても、見ず知らずの他人の女が目の前にいるというこの状況は、まあ、なんと話を続けるのがいいのかわからないのだろう。
俺もいまだになんて言っていいのかわからないし。
いや、それよりもこのいまの自分の声で話すことが違和間しかないのだが・・・。
「・・・・・・・・・・。それで・・・・・・・。明良・・・・・・?は今日は学校は・・・。」
「ああ、うん・・・・・・・・。学校か・・・・・・・。」
完全に忘れてた・・・。
あまりにも自分に起きた事態が大きすぎて、学校に行くために朝に起きたということ自体が完全に抜け落ちていた・・・・・。
しかし・・・・・・・・。
「うん・・・・・・・・・。今日は休むかな・・・・・・。こんなんじゃいけないし・・・・・・。」
当然といえば、当然のことだろう。
いきなり女体化したのに平然といつも通り学校に行くという強メンタルは俺にはなかった。
「そっか・・・・・。そうよね・・・。」
そして、さすがに母さんもこんな異常事態で学校に行くようには言えないのだろう。
納得したような声を上げながら頷いてくれた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「それで・・・・・・・。その明良は・・・・・・・・・。身体的には大丈夫なの?なにかこう吐きそうとか気持ちが悪いとかそういうのは・・・・・・。ない?」
俺がだんまりと、いやぼ~っとしていたからなのだろうか。
母さんは、歯切れが悪くなりながらも、そんなことを聞いてくる。
未だに俺が息子なのか、確証が取れていないのだろうか、心なしか他人行儀な気がしなくもないが・・・・・・・・・。
「あ~、うん・・・・・・・。まあ、この身体になった以外には体調が悪いとかは・・・・・。まだないかな・・・・・・・・。まあ、未だにこれが自分の身体なのか、現実味がないんだけどさ・・・・・・・・・・。はぁ・・・・・。」
一応、女になったということ以外に特段の変化があったわけではない。
まあ、”女になった”と言うこと自体が前代未聞の一大事なわけなのだが……。
おおむね、健康ではあるとは思う・・・。
「そ、そうなのね・・・。それならよかったわ・・・。あ、朝ご飯作ったから一応食べておきましょっか・・・。」
そして、母さんはひとまず俺が健康であるということに安心したのだろう。
こんな状態になってはいても、母さんにとっては、おれは一応息子なのだ。
そう思うと心なしか嬉しいと思ってしまう自分がいる。
それにしても・・・・・。
「結構胸って重いんだな・・・・・・・。」
そんなことをぼそりと呟いてしまう俺
そこまで巨乳とは言えないサイズ感ではあるものの、男の胸部についていていいようなサイズ感のそれを見据え、そして触ってしまう。
これがしっかりと女の身体であるのだと如実に表している部位の一つだった。
「まあ、そうよね・・・・・・・。」
そして、そんな俺の発見に対しても、すかさず相槌を打ってくれる母さん。
まあ、母さんからしたら、そんな感想は胸が膨らむ以前以来のものなのだろうけど・・・。
俺としては今まで、そこにはなかったはずの部位がいきなり存在感を発揮していることで違和感でしかないのだが・・・・。
「あ・・・。んっ///・・・・・・・あっ///・・・・・・・・・。ん・・・・・///。」
「ちょ、明良、変な声出さないの」
階段を下りながら、おれの胸は上下に揺れていた。
小刻みに、まあ、せめてもの救いが巨乳と呼ばれるようなサイズ感であったことだろう。
これがもしも、もっとサイズ感があったとしたら、この揺れる感覚も重さももっと計り知れないものになっていたことであろうから・・・。
まあ、一段一段、段差を下りていくたびに胸に刺激が走り、聞きようによっては”喘いでいる”ようにしか聞こえない声についてはなんとかしないといけないとは思う・・。
母さんが諫めるように言ってきたこともあるが、それ以上に羞恥心がすごいから・・・。
「はぁ・・・・・。」
もう朝起きてから何度目のため息なのだろうか・・・・・・。
「明良・・・・・・。気持ちはわからんでもないけど・・・・・・。」
ご飯を食べている間も絶えずため息を吐き続ける俺に心配の眼差しを向けてくる母さん
心なしか、ご飯を食べる手の動きも遅くなっていたのだろう、その視線に気づき、食器の中を見ると、全然その中身は減っていなかった。
「大丈夫・・・・・・?食欲ない?」
これほどまでに心配されたことがあっただろうか・・・。
「うっうっ・・・・・。」
「あ、明良!?」
そんな母さんの優しさを過剰に感じてしまったからなのだろう。
不覚にも涙が込み上げてきて、そのまま机の上を濡らしていく。
「そ、そうよね…。大丈夫なわけないよね・・・・。いきなり身体が変わっちゃったんですもん・・・。」
母さんはそんな俺を見て、なんて思ったんだろうか。
いきなり泣き出した俺を見るや否や、背中に回って俺の背中を優しく慰めるように撫でてくれた。
「ありがとう……母さん、ありがとう・・・・・・。」
「落ち着いた?」
「うん・・・・・・・・・。ごめん・・・・・・・。」
あれから数分間、泣き続けていた俺だったのだが、母さんの慰める声や行動のおかげでなんとか、これ以上机を濡らさない程度まで涙は抑えることができたようだ。
「それにしても・・・・・。服とかどうしようかしらね・・・。」
ピクリ
思わず反応してしまう俺・・・。
母さんは泣き止んだ俺の身体を一通り見た後、そんなことを言ってくるのだが、その視線はおおよそ一点に、傾いていた・・・。
「・・・・・・・・・・・・・。やっぱり、胸・・・・・・・・・。気になるよね?」
「そうね・・・・・・・。」
母さんも本音を言えば、こんな現実を突きつけるようなことを言いたくないのかもしれない。
ただまあ・・・・・・・・・。
「はぁ・・・・・・・・・・・・。やっぱり、ブラがいるのかな・・・・・・。」
自身の胸を持ち上げながら、ややため息交じりに呟く俺。
そうなのだ・・・・・。
おれの胸は巨乳ではないにしろ、明らかに”ある”方であり、今みたいに男の時のシャツなんかを着たりしていると明らかにその形が浮き出てしまう、それに階段を下りるたびに、重力の影響を受けてなのか上下にブルンブルン揺れて、正直痛かった。
「う~ん、多分、いると思うのよね・・・・・・。わたしの見立てだと、CかDはあると思うのよね・・・。あぁ、でもきっちりと測ってみないことにははっきりとは言えないけどね・・・。」
「はぁ・・・・・・・・・・・。そんなにもあるのかよ・・・・・・・。」
おれは何度ため息をつけばいいのだろうか。
今日に入ってもう何度目かわからないため息をつきながら、母さんの言った言葉を咀嚼して、さらに大きなため息をついてしまう。
おれだって男だから、Dカップの胸が目の前にあったとしたら喜んでしまうに違いない。
ただ・・・・・・・・・。
(それがまさか自分の胸につくとは思わなくない!?!?)
「はぁ・・・・・・・・・。ブラか・・・・。嫌だな・・・・。」
「でもね・・・・・・・・・。痛くなるし・・・・。形も崩れるわよ・・・。」
母さんは努めて冷静に返してくれるわけなのだが・・・。
形が崩れるとか、男であるはずの自分には到底関係のない言葉であり、正直こうも面と向かってそこに言及されてしまうと、ほんの少しだけ心苦しくなってしまうもの。
ただ、だからといって、このまま元の男の身体に戻らないかもしれないということを考えると、ずっと胸が揺れるときに感じる痛みに苛まれ続けるというのも避けなければいけないことで・・・・・・・・・・。
「ん~~~~~~~~~~~~~~~~~」
正直ブラを付けるか付けないかなんて健全な男子の俺が考えるような、むしろ考えたくない事案なのだが・・・・・・・。
「一緒に買いに行く?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。ん~、そうだね・・・・・・・・・。はぁ・・・・・・・・・。」
母さんの提案はたぶん善意しかないだろう。
まあ、俺が母さんの立場だったら、こんな息子にブラを付けることを、それどころか一緒に買いに行くことを提案するなんてできやしないだろう・・・。
母は偉大とはよく言ったものだとは思う・・・。
ただ、まあ、ブラを付けるために買いに行くのはおそらくもう決定事項ではあるのだが・・・。
「あ、でも今日はちょっと無理かも・・・。少し落ち着いて考えたいし・・・。その、もしかしたら明日には男に戻っているかもしれないし・・・・・・・。」
最後のは完全に希望的観測だった。
もしかしたら、また明日になったら、元の、昨日までの男だった自分に戻れているかもしれない。
もしも、そうなれば、ブラなんて絶対に不要なものなのだから・・・。
ただまあ・・・・・・・・・。
(なんとなくだけど、元には戻れない気がするんだよなぁ・・・。)
漠然とした考えではあった。
ただ、なんとなく、明日起きたら男に戻っているわけがない、そう思ってしまう自分もいた。
だから、正直、”一度落ち着きたい”と言うのが本音だ。
こんな女体化なんてことをものの1時間で受け入れることができるわけがないのだから
「そうね・・・・・・・。今日はゆっくりと考えようか・・・。」
母さんはおれの意図をきっちりと汲んでくれたのだろう。
元に戻るということには触れないでいてくれた。
まあ、母さんとしても元に戻ってほしいという想いはあるものの、なんとなく、それはないのだとわかっているのかもしれないが・・・。
「はぁ・・・・・・・。」
「明良・・・・・・・・。またため息・・・・・・・・・。」
無意識だったが、またため息が出てしまっていたようだ。
母さんも、さすがにこう何度も何度もため息を目の前で吐かれてしまうと、思うところもあるのだろう。
諫めるような声だった。
「母さん・・・。ごめん・・・。でもさ・・・・・。女の子になっちゃったんだよ・・・。俺・・・・・。」
「そうね・・・・・・・。そんなことがあったのだからため息が出てしまうのもわからなくもないわね・・・。でも、その、あんまりため息ばっかりついてると幸せも逃げていっちゃうわよ・・・。」
母さんの言いたいこともよくわかる。
ため息ばっかりしていると幸せが逃げるともよく言うし・・・。
だけど、こんな、身体の性別がいきなり何の前触れもなく反転するという不幸を味わった後では、幸せがなんなのか、わかるわけもないわけで、今更どれだけ幸せが逃げていこうが、関係ない。
「明良・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・。はぁ・・・・・・・・。」
母さんの心配する声に反応する気力もため息をつくたびに減っていくのだろうか。
その声には何の反応も返すことができなかった。
「それにしても・・・・・。ほんとどうしたものか・・・・・。」
あれからどれほどの時間が過ぎたのだろう。
ふと時計を見ると、ご飯を食べ終わってからもう3時間という時間を無為に過ごしていたようだ。
母さんはおれのことを心配しつつも、今は夜ご飯の買い出しに行っており、一人静かにソファの上に寝転がりながら、今後のことについて考えていた。
「こんないきなり女体化しました。なんて学校に行って、説明して誰が信じてくれるんだよ・・・。」
少し考えただけでも頭が痛くなってしょうがない。
幸いにも今日は金曜日だから、考える時間はたっぷりあるといえばたっぷりある。
「とりあえず、男装でもして学校に行くかなぁ・・・・・。う~ん、でもなぁ、この身体予想以上に女女しているからなぁ・・・・・・・・。絶対に男装しているって傍から見れば一目瞭然だし、そうなったら目立つんだろうなぁ・・・・・それはなんとしてでも避けたいんだが・・・・・・。いや、だからといって、女の子の服を着て、通学するというのも・・・。そもそも、女子制服なんて持っているわけもないし・・・・・・・・。はぁ・・・・・・・・。」
考えれば考えるほど、底なし沼にハマったかのように悩みがどんどんと出てきてしまう・・・。
男装して登校するにはどうしても、この胸が邪魔だし・・・。
そもそも、男だった俺が”男装”っていうのもだが・・・。
それに、女の子の服を着て行くにしても、おれの部屋に女子制服があるはずもなく・・・。
「う~ん・・・・・・・・・・・。わかんねぇ・・・・・・・・・・。どうすればいいんだよ・・・・・。マジで・・・・・・・・。」
本当にどうしたらいいのかわからなかった。
こんな状況に直面するのも初めてで、何にも解決案なんて頭に降りてはこなかった。
「はぁ・・・・・・・・・。なんで、俺、女になったんだよ・・・。」
そんな今日何度目かわからないため息と言葉を吐くしか俺にはできなかった。
「ん、あ、この体勢痛いかも・・・・・・。」
それは、ソファにうつぶせに寝転がろうとした矢先のことだった
胸がソファのクッションに触れたその瞬間に、身体の体重が胸に傾いたせいなのだろうか、それとも乳首というか胸全体の感度が男だった頃に比べて敏感になっているからなのだろうか・・・。
声に出てしまうほどに、ビリッとした痛みが神経を駆け巡った。
まあ、胸の大きさから考えて、当然のことなのかもしれないわけだが・・・。
「あ、う・・・。女の胸ってこんなにも敏感なのか・・・・・・・。」
男の頃では考えられないようなことを言ってしまう俺・・・。
実際、男の頃に胸というか胸筋に物が触れたというそれだけでは刺激を感じることも痛みを感じることもなかった俺にとっては、はじめての経験であった。
まあ、もちろん、ドッジボールなんかで胸部にボールを受け止めた際には痛みを感じることもあったが、こんな軽微な、それも寝返り程度の刺激くらいで声にまで出てしまうなんて、今までの経験からは到底考えられなかった
「なんか生きづらいな・・・・・・。」
ふと、そんなことを口走ってしまう。
元々ずっと女の子だった人間からすれば、こんな痛みなどは日常茶飯事で、そこまでの感情を抱くこともないのかもしれないが、昨日まで男だった俺にとってはこんな些細なことでさえ、今までの差異として現れるもので、それ故だった。
そして・・・・・・・・。
「はぁ・・・・・・・・・・。」
またため息をついてしまう自分に辟易としてしまう。
「明良~、帰ってきたわよ~身体は大丈夫そう?」
と、胸の痛みに驚き、困惑している間にも母さんは買い出しから帰ってきていたのだろう。
玄関のドアが開いたかと思えば、そんな心配をしてくる母さん、
「うん、まあ、ボチボチ大丈夫かなぁ」
おれはさっき感じた胸の痛みはあえて報告しないことにした。
「それにしても・・・・・。明良、アンタすごく可愛いわね~普通にアイドルみたいな見た目で、昨日までのアンタとは全くの別人じゃない・・・・・・・・。」
多分、もう母さんの中で、俺が明良なのだと納得してくれたのだろう・・・。
買い出しから帰ってきた母さんは、おれの頭から足までを一瞥するや否や、今まで通りの感じに戻って、そんなことを言ってくる。
「あ、アイドルってそれはさすがに言い過ぎじゃ・・・。まあ、おれもきっちりまじまじと自分の姿を見てないから、よくは分かんないけどさ、そんなことはないんじゃ…。」
「いや、あるわよ!!!もうすごく可愛いわよ!!!私が嫉妬するくらいに」
なにを言っているんだ、母さんは
男の俺に可愛さで嫉妬って・・・・・・・。
あまりの剣幕で言われたこと、そしてその内容に困惑してしまう俺・・・。
そんな女性の母さんに嫉妬されるくらいの外見って、アイドルみたいって・・・。
「ちょっと確認してくる」
「うん、確認してらっしゃい、きっと自分でも驚くと思うから・・・。」
「そんな馬鹿な・・・」
俺は半信半疑で、家の中で一番大きな鏡のあるお風呂場へ向かう・・・。
その間も、どうせ母さんの誇張表現なのだろう、そうたかを括っていた
のだが・・・・・・・・。
「!?!?!?」
あまりにも驚きすぎて、瞬間的に言葉を失ってしまう俺。
鏡に映る今の自分自身の姿をその目に映し、その場で何度も何度も目を擦ってしまう。
「え、は、え・・・・・・・。なにこの美少女・・・。」
やっと失っていたものを取り戻したのか、はたまた脳があまりの衝撃にショートしていたのだろう、数瞬の時間を置いて出た言葉は小学生がいいそうなくらいの稚拙なもので・・・。
「えええええええええええええええええええええええええええ、これが俺!?!?」
今日、何度目かわからない大きな叫び声をその直後にあげていた。
「落ち着け、俺、これは紛れもない今の俺なんだ・・・。落ち着け・・・・・。」
鏡の中の美少女も一緒に動いているので、自分なのは確かなのだが、未だに信じられない。
というか・・・・・。
「直視できない・・・・・・・・!!!」
多分、傍から見れば非常に奇天烈な行動をしているように映ることだろう。
鏡に映る自分の姿を見るだけだというのに、まるで、クラス1の美少女に話しかけた時のような緊張感を感じてしまい、少し鏡を見ては目を逸らしてしまう俺・・・・・。
「ダメだ、これは本当にやばい・・・。可愛過ぎだろ。俺(仮)!!!」
本当に自分でも、いまの俺はやばいと思うくらいの美少女で、母さんの言っていたアイドルという言葉がピッタリとあてはまるようだ。
髪の毛は黒髪で、肩よりも少し長く、顔は目がクリっとしていてパーツパーツが整っていて、それでいて、身体のほうも出るところは出て、引っ込むところはきっちりと引っ込んでいるという俗にいうボンキュッボンってやつで・・・・・・・・・・。
せめてもの救いは、服がいつも俺が着ているような男の服装であることで、これがもしもオシャレに気を遣った女子が着ているようなものだったとしたら、間違いなく鼻血を垂らしながら卒倒していたことだろう。
それくらいの美少女が今、目の前にいる。
普通の男子高校生ならば、歓喜してしまうようなシチュエーションがここにはあった。
ただ・・・・・・・・・・・。
まあ、その美少女が”俺”だっていうのがなんかのバグなんじゃないだろうか・・・。
「ふ~ふ~、このまま鏡の前にいたら、俺の脳がおかしくなってしまう・・・。」
いったん、鏡の前から退散することにした俺
こんなにも可愛い美少女を今までの人生の中で長時間直視したことのなかった俺にとってはこのくらいがもう限界だった。
「はぁはぁ・・・。」
「どう?わたしの言ってた通りだったでしょ」
リビングになんとか戻ってきた俺を見た母さんはほら見たことかと言わんばかりの顔をしている・・・。
「うん・・・・・・。本当にあれが俺なのか嘘みたい・・・。」
自分の姿を確認した後だからこそ、はっきり言えることがある。
母さんのあの最初の態度はなんらおかしいものなどではなかったのだと・・・。
俺が母さんの立場でもしもいきなり息子の部屋にこんな美少女がいたりしたら、そりゃ驚くし、他人だって思ってしまうわな、というか、俺だったらそれこそ、有無を言わさず家から追い出していたに違いない・・・。
「母さん、ありがとう・・・。信じてくれて・・・・・・・・。」
思わず、感謝が出てしまっていた。
「え、なによ、いきなり・・・・。おかしな子ね~」
母さんもまさかそんな言葉が返ってくるとは夢にも思っていなかったのだろう。
目を見開いていた。
ただ、こんな息子を騙る美少女の言うことを信じてくれたその懐の深さに感謝せざるを得なかった。
この人が俺の母親でよかった。
ピンポーン
と、母さんに対して深い感謝を感じていたちょうどその瞬間だった。
インターホンの音が鳴り響いたのは・・・・・・・。
「え、なんだろう・・・・・・・・・・・。って、ん!?拓夢!?!?」
画面に映っていた人の姿を見た瞬間、驚きのあまり変にすっとんきょんな声を出してしまう俺
画面に映っていたのは見知った顔、それどころか、親友と呼べるような間柄の中の友達だったのだ。
「え、なんで・・・・・・・・・・。どうして・・・・・・・・・?」
あまりにも動揺しすぎて、おかしな言動をしてしまう俺。
それもそのはずで、俺の知っている拓夢という人間は友達が休んだって見舞いになんて行かない、そんな男だから・・・。
そんな拓夢が何のわけでなのかはわからないが、学校終わりのこの時間に家のインターホンを鳴らしているというこの事実に驚きを隠せなかった。
「ど、どうしよう・・・・・・。」
そして、そうこうもじもじとしている間にも、拓夢はドアの向こうで首を傾げている。
多分、一向に呼びかけに応じないことを不思議に思っているのかもしれない。
出たい気持ちはある。
せっかくお見舞い?に来てくれたのであろう友人を無碍にはしたくない。
ただ・・・・・・・・・・・。
(このいまの状況をどう説明したらいいんだよ!!!)
(朝、起きたら女の子になってました~、てへぺろっとでも言えばいいのか・・・・・。それとも・・・。お姉ちゃんがいたってことにして、それの振りをするか・・・。でも、このままもし元に戻らなかったとしたら、このまま登校しなきゃいけないわけで、そうだったら、今、ここで、拓夢にだけは知ってもらった方が・・・・・・・・・・。あ~、どうしたらいいんだ!?)
どうするのが正解なのか全くもってわからないおれ・・・。
またしても軽いパニック状態だった。
なんか女の子になってからというものよくパニックになっている気がするものの、今はそれどころではない
(どうしたらいい・・・・・・・?どうしたらいい・・・・・・・?)
頭の中で拓夢への対応を考えれば考えるほど、全然整理ができなくてめちゃくちゃになっていく。
ピンポーン
そして、また鳴り響くインターホンの音
後押しとばかりの音についついビクンとしてしまう
「明良・・・・・。出たくないの??」
そして、そんなこんなで画面の前で右往左往している俺の様子を見て、心配をしてくれたのだろう。
母さんの助け舟・・・。
「で、出たくないわけじゃないんだけど・・・。その、どうしたらいいのかわかんないから・・・。」
「そうなのね・・・・・。とりあえず出てみたら?それでどうするか決めたほうがいいと思うわよ、お友達もこんなところで待ちぼうけ食らってたら可哀想だし・・・。」
それが俺の背中を押してくれる最後の一押しになった。
俺はピッと応答ボタンを押すと、未だに慣れない自分の声を出すために口を開け・・・。
「はい・・・・・。」
それは今までの、女の子になった時からこの時間に至るまでに出してきた中で最もか細くて弱弱しい、まるで女の子みたいな声だった・・・。
(まあ、身体は紛れもなく女の子なんだけどさ・・・。)
「え、あ、あの・・・・・。立隅明良君のお母さんですか?あの、明良君、今日休んでたんで、お見舞いというかプリントを持ってきたんですが・・・・・・・。」
一瞬、拓夢の声に困惑の色が滲んでいた気がした。
(まあ、俺の家族構成には母親しか女はいないと思っているんだろうな・・・。)
俺は少し悩んだ・・・。
さっき考えていたみたいに架空のお姉ちゃんの振りをするべきかと・・・。
ただ・・・・・・・・・・・。
結局いつかはバレてしまうことだろう・・・。
それに母さんに目配せをしてみると、嘘はつかないようにねと言ったような顔をしてこっちを見ていることもあり、覚悟を決めることにした。
そして・・・・・・・。
「少し待ってて、今開けるから・・・。」
今度はさっきみたいなか細い声などではなく、はっきりとした声量と抑揚をつけて画面越しの拓夢に向けて伝え・・・・・。
ガチャ
数歩先にあるドアのかぎを開けると、そのままドアノブを押し込んで開いていき・・・。
「拓夢・・・・・・・。俺、女の子になっちゃったみたいなんだ・・・。」
俺は正直に、その顔を見て、女体化したことを親友に告げた。
「・・・・・・・・・・・・・。それで、ほんとに君があの明良なんです・・・。なんだな?」
「そ、そう言ってるだろ!!!俺たち親友なんだからもうそろそろ信じてくれよな・・・。」
あの後、おれの顔を見て呆然となっている拓夢をやや強引に自室まで連れてはいったのだが・・・・・・・。
未だに信じられないのだろう、拓夢は首を傾げながらこちらを見てくる。
(なんか、母さんと同じような反応をしてくるな・・・。こいつも・・・。まあ、無理もないか・・・。)
拓夢に、女の子になったことを告げながらも、ひたすらに信じられるわけがないよなと思ってしまう自分がいた。
というか、自分が拓夢の立場で、もし拓夢が「女の子になったんだ。信じてくれ」って言われたって多分、信じないだろう・・・。
というか、今置かれているこの状況にあってもなお、俺だけは信じれるとはいえないし・・・。
「そっか・・・・・・・。お前があの明良ね~」
「な、なんだよ・・・・・・・・。」
どうしてなのかはわかんないが、拓夢の視線がおれの胸に突き刺さっているような感じがして、ぞわっとした。
「まだ信じ切れないけど・・・・。まあ、家もここが明良の家だったわけだし、お前に姉ちゃんがいたなんて話聞いたことはないし・・・・・・。まあ、一応、信じるわ」
「ほ、ほんと?」
ギュっ
思わず信じてくれたことが嬉しくって拓夢に抱き着いてしまう俺・・・。
なにやってんだ、俺・・・・・・・・・。男相手に・・・・・。
そんなことが不意に頭の中を駆け巡るものの、ちらりと拓夢の顔を見ると、それはもう見事に顔が赤くなっていて、そんな顔を見ると急にまあ、いいかくらいの気持ちになってしまう。
おれはもしかしたら、おかしくなっているのかもしれない・・・・・。
「それで・・・・・・。お前はこれからどうするんだ?その女の子になっちまってさ・・・。」
照れ笑いを浮かべながら、そんなことを聞いてくる拓夢・・・。
どうにもこうにも、俺は周りに恵まれているのかもしれない。
母さんにしても、拓夢にしても、こうも女の子になったことをすんなり受け入れてくれた上で、今後のことを考えてくれようとしているのだから・・・・・。
「う~ん、それは・・・・・・・。おれも悩み中かな・・・・・・。どうするのがいいのかわかんないし・・・・・・。こんな”女の子になる”なんてあり得ないことが起きたんだし、まあ、ゆっくり考えるよ・・・・・・・・。」
「そっか・・・・・・・。まあ、そうだよな・・・・・・・。ま、俺にできることがあるかはわかんねぇけど、なんか困ったことがあればいつでも言ってこいよ!!」
なんて拓夢はいいやつなんだろうか
いいやつ過ぎて、男なのにドキドキしてしまったじゃないか・・・。
(まあ、いまの俺は普通に女の子なんだし、そう思うのも無理ないか・・・?・・・・・・・。ないのか!?)
「それじゃあ、まあ、病気~とかではなさそうだし、俺そろそろ帰るわ。また学校でな・・・・・・・・・。ってあ、そうか、学校はまあ、落ち着いてから来てもいいからな」
「え・・・・・・・・・?あ。ああ・・・・・・・・。」
拓夢が立ち上がった。
ただ、それだけのはずなのに、さっきまであった温もりが腕の中からなくなっただけなのに、なぜだか寂しいような悲しいようなそんなおかしな感情を抱いてしまう俺・・・。
これには、拓夢もなんだかえ?みたいな顔をして、俺の顔を見つめてくる。
(そんなにも、俺、顔に出てたってこと・・・・・・・???)
「大丈夫か?」
「う、うん!!!大丈夫だから心配しないで・・・。」
拓夢の案ずるような声に返す俺の声・・・。
いつも通りの感じで言ったはずなのに、その口調は女の子になってしまったからなのだろうか・・・。
どことなく弱弱しく、俺だったら抱きしめそうなそんな声になってしまっていた・・・。
「そ、そうか・・・。それじゃあ、俺は帰るから・・・。またなんかあったら電話かメールでもしてくれ・・・。できる限り出るようにするから・・・。」
「お、おう・・・。」
拓夢はそう言うと、帰っていった。
(俺、いったいどうしちゃったんだろう・・・・・。)
拓夢が帰っていったのを確認した俺は部屋に戻り、さっきの自分の態度について考えてしまう。
(普通、嬉しかったからって男に抱き着くか・・・・・・?それになんで、アイツが帰るって言っただけで、俺、あんなにも寂しいって思っちゃったんだろう・・おかしい・・・。こんなの、こんな気持ち、ほんとうに女の子みたいじゃん・・・・。もしかして、俺の心まで・・・・・・・。女に・・・・・・・・・?い、いや、そんなわけない!!!それはないだろ・・・・・・・・。ないよな?普通に・・・・・・。)
「明良~ご飯できてるわよ~」
そうして悶々とさっきのことを考えていると、思いの外時間は過ぎていたのだろう・・・。
母さんの呼ぶ声が聞こえてきて、ハッとして立ち上がり・・・・・。
「今、行く~」
「さてと・・・・・・・・・・。これからどうするか・・・・・・。」
夕食も食べ終わり、あとはお風呂に入って寝るだけ・・・。
それだけのはずなのに、なぜか緊張してしまう・・・。
もしかしたら、明日戻っているかもしれないのだが、今の身体はれっきとした女であり、股のほうはトイレに行く際にこの大きくなった胸と胸の隙間から見て、なんとか慣れることはできたのだが・・・・・・・。
ただ、胸となると話は別・・・・。
男であれば多分、皆が憧れるであろうし、見たいと願ってやまないだろう胸が自分にもあり、それをお風呂に入るのであれば、絶対に見なきゃいけないわけで・・・・・。
正直、彼女のいない俺にとって、初めて生で見るおっぱいが自分のものというのは少々思うところはあるのだが、耐性がない自分が果たして、見て、耐えられる自信がどこにもなかった
ただ、だからといって、お風呂に入らずに寝るというのは正直、今日如何に外に出ていなかったにしてもそれは嫌なわけで・・・・・・。
「よ、よし!!!」
俺は覚悟を決めると、脱衣所の扉を閉める。
鏡を見ると鏡の中の自分も緊張しているのか、顔をこわばらせていた。
3度目となる自身の美少女フェイスとの対面ではあったものの、今はこれから訪れる衝撃に備えてなのだろうか、最初にまじまじと自身の顔を見た時よりかは自分の顔をきっちりと見れていた。
「ぬ、ぬ、脱ぐぞ・・・・・。」
誰が見ているわけでもないというのに、声を震わせながら実況してしまう俺・・・。
いつもと同じ男物のTシャツとその下に普通のシャツを着ているわけなのだが、ブラを当然つけていない俺はその旨の膨らみがどの程度のものかは、言うまでもなく知っている。
ただ、緊張のせいか、プルプルと、脱ごうとしてつまんだ指先が痙攣していて、時間がいつもの脱衣の倍以上かかってしまう。
「んぁ、よいしょ・・・・・・。」
なんとか、Tシャツを脱ぎ、足元に置くのだが・・・・・・。
「え、やばっ」
思わず、そんな声が漏れてしまう。
鏡の中の自分も呆気に取られている感じだ。
それもそのはずで・・・・。
Tシャツを脱ぎ、普通のシャツだけになった自身の胸部は、ただ一枚布がなくなっただけだというのに、異様な存在感をそこに露わにしていたのだから・・・。
「へ、へぇ・・・・・・。こ、子、これが俺の胸か・・・」
またもや動揺のあまり、声を震わせてしまう自分に我ながら哀れさを感じてしまう。
その存在感の大きさは昔ちらりと見てしまったAVやグラビア雑誌に出てくるようなそんな大きさで、布越しだというのにその大きさや柔らかさが伝わってきて、仕方がない。
というか、乳輪と言っていいのかわからないその部分のせいもあり、目を凝らせば透けて見え・・・・・・・・。
「あ~ダメだあああああああああああああ」
そんなみっともない叫びをあげてしまうくらいの衝撃だった。
知らず知らずのうちに冷や汗をかいていたのだろう。背中をひんやりとした液体が伝う。
「お、落ち着け、俺、落ち着くんだ・・・。深呼吸して・・・。スーハースーハー
これは俺の胸、これは俺の胸・・・・・・・。よし、ぬ、脱ぐぞ・・・・・・。」
多分、もしも目の前にこんな男物のシャツ一枚だけ着て、胸のサイズも今の自分と同じくらいの女性が立っていたとしたら、迷わずその胸を揉みしだいていたのかもしれない
もっと言えば、野獣になっていたかもしれない。
だが、今見ているこの胸は紛れもなく自分のものなのだ・・・。
お風呂に入るために、ここは絶対に脱がなければいけない・・・。
俺は深呼吸をすると、遂に覚悟のまま、一思いにシャツに手をかけ、脱ぎ・・・・・・。
そして・・・・・・・・・・・・。
(あ、これはだめな奴・・・・・・・。)
まだ彼女の類もいなかった俺にその衝撃は耐えられなかったらしい。
一瞬だけ、自分のものではあれども、大きな胸とそこに付随する乳首が目に移り込んだその瞬間、脳が処理落ちを起こしたのかだろう・・・・・・。
おれの意識はあっけなく、虚空の中へと引きずり込まれていった・・・。