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【第一話】BLゲームのテストをするバイト


『――グレイグ・バルティミア。お前との婚約を破棄する』


 この場面、何回見たんだったか……。

 俺は、シナリオや設定の内容は、もうほぼ完ぺきに頭の中に記憶している。

 王太子ルートと逆ハーレムエンドの場合、必ずこのBLゲームの夜会イベントにおいて、グレイグ・バルティミアという公爵令息は、幼少時よりの許婚である王太子に婚約を破棄される。うっかりスチルを回収し忘れたりするせいで、俺は何周もするハメになっている。


 そもそも俺は、あまりゲームが得意ではない。

 そんな俺であるが、ゲームのテスターという在宅のバイトに応募して採用された為、現在もパソコンでゲーム中である。


 家から出ないスタイルで可能なバイトを探した結果、唯一見つけたのがこのバイトだった。俺は俗にいう腐男子ではないが、特にボーイズラブというジャンルにも偏見は無い。


 現在、大学三年生の俺は、春休みを迎えている。

 四月になれば、四年生だ。


「それにしてもDom/Subユニバースなんて、初めて聞いたな」


 俺は無事に逆ハーレムエンドのスチルの全回収に成功したので、手元の解説書を見た。今回俺がテストをしている【月の旋律 ~ 魔法の言葉 ~】というBLゲームは、端的に言えば、西洋風異世界の魔法学園が舞台の恋愛シミュレーションゲームなのだが、その要素として、Dom/Subユニバースという価値観が入っている。


 性別と聞いた時、俺は男女を連想するのだが、このBLゲームには、そもそも女性が出てこない。そしてDom(ドム)Sub(サブ)といった性別が存在している。


 Domは、基本的に、支配する事で満たされる人々なのだという。

 Subは、その反対で、支配される事が好きな人々らしく、適度に支配されないと不安定になる場合もあるようだ。


 他にも、Switch(スイッチ)という、DomにもSubにも自由に性を動かす事が可能な者もいるという。ただし圧倒的多数は、Usual(ユーズアル)と呼ばれる普通の人々らしい。支配する事もされる事も、特に不要な立ち位置のようだ。


「俺だったら、Usualがいいな」


 支配と聴くと、どことなく怖い。なんでも、Domは【命令(コマンド)】を言葉で放つようだ。Subはそれに従う。そうすると双方ともに満たされるのだという。他にもDomは、【Glare(グレア)】という独特の力を放つ事が出来たりするようだ。


 そしてこの内、DomとSubとSwitchには、【ランク】という個人の資質があるらしい。今回俺がテストしているゲームにおいては、基本的にこれは『強い魔力』と同じ意味合いだった。S・A・B・C・D・Eのランクがあるのだが、例えば『SランクのDom』であれば、『非常に強い魔力を持つ。支配欲求もそれだけ強い』という設定だった。そしてSランクは、基本的に、代々Sランクを多く輩出している家柄に生まれる事が多かった。そこから、世界観の貴族制度が生まれ、高位貴族ほど、Sランクの資質……高魔力の持ち主が生まれやすいという設定である。基本的に平民はUsualで、魔力も持たないようだ。支配したりされないかわりに魔力も特にないという設定だった。


 さて、ゲームの舞台であるが、『ルナワーズ魔法学園』である。この魔法学園は、十三歳から十八歳までの五年間通う『義務過程』と、十九歳から二十二歳までの間に通う『高等課程』の二つが存在するそうだが、高等課程の方が主要な舞台となる。


 ルナワーズ魔法学園がある年、平民の魔力持ち――要するに平民の中に稀に生まれる高ランクのDomやSub、Switchを受け入れる事に決まり、主人公の『クリフ』が入学する。クリフは(ハイ)ランクのSubだ。そしてこのクリフが、王太子やその他の攻略対象と恋愛を繰り広げるのが、このBLゲームの内容である。


 そのクリフに対し、『平民なのだからわきまえて節度を持て』と繰り返すのが、王太子の許婚であるグレイグだ。バルティミア公爵家の次男である。王太子もグレイグもDomであるが、二人は許婚だそうだ。このゲームの中では、結婚相手は家柄が釣り合う者同士の政略が多く、それとは別に、皆がDomやSub、あるいはどちらかに転化したSwitchの恋人や愛人を持つらしい。R18の肌色が多めのゲームである。


 なお、学園の在学中から、義務過程在学中の十五歳の誕生日には、『月の徒弟』と呼ばれる制度に基づき、パートナー候補を選定するそうだ。その際、このゲームの世界では、DomがSubよりも圧倒的に少ないため、Domは複数のSubを候補者として徒弟にして良いという校則が存在するし、卒業後も複数のSubを結婚相手とは別に従えておくというのも普通の世界観らしい。特別な間柄のSubにのみ、【首輪(カラー)】をプレゼントするようだが。


 さて、この、主人公にとっての悪役であるグレイグであるが、Domであるにも関わらず、月の徒弟を持つ事もせず、同じDomである王太子のロイをひたすら愛してきたという設定だ。だが、その愛は届かず、婚約破棄される。


 なおBadエンドだと、グレイグの手で、クリフが【Sub drop(サブドロップ)】させられるというエピソードなどもある。【Sub drop】というのは、DomとSubの間に信頼関係がないにも関わらず、Domが無理な命令をしたり、強い【Glare】を浴びせてぶつける事で、Subが簡単に言うと不安が極まって闇落ちしレイプ目になるというような現象のようだ。その逆が、【space(スペース)】で、こちらは信頼関係もある上、ふわふわとした夢見心地の気分になるらしい。


 他にも設定は色々あるようだが、ゲーム自体は、他に述べるとすれば、『子供は教会で祈りを捧げると生まれる』という非常にふんわりとした設定だろうか。あとは、学園が舞台なので直接は出てこないが、設定上は、世界には魔物という脅威がいるらしい。宮廷魔術師や騎士団が戦っているようだ。絶対王政であり、貴族がすべてを取り仕切っているという話もあるが、あまりゲームには関わってこない。


「はぁ。テスト結果を、まとめないとな」


 そう呟いてから、俺は立ち上がった。その前に、珈琲でも飲もうかと考えて、二階の自室から階下へと向かう。そして階段の前に立った時――愛猫を踏みそうになった。咄嗟に避けた結果、俺は階段から落下した。


 ――俺の、俺としての記憶は、そこで途切れた。






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