しっこ2
※全然ミステリーじゃない気がしますが、推理の余地はあると思うので推理ジャンルにしました。
※前作はこちら『しっこ』N9163II
「だから、6階から女性が落ちてきたんですってば!」
「いや、11階です!」
「いや9階でした! 私この目でちゃんと見ましたから!」
「4階です!」
「7階だってばよ!」
「3階だよ」
「10階!!!!!」
「はぁっぱ かけたげーる♪」
「それは十戒!」
「8階から飛び降りたんですよ!」
「最遊記の豚?」
「それは八戒!」
「5階に1票」
「2階に2票」
「1人で2票入れるな!」
「1階だと思います」
「それ落ちてないから!」
「やっぱ6階だと思いますよ!」
「いや、11階です!」
「うるさい!!!!!!!! 2周目入るな!!」
今日も鼻森岡は頭を抱えていた。目撃者11人が11通りの証言をするからだ。
「僕とこの人とこの人とこの人はうるさくなかったと思いますけど。全員まとめて『うるさい!!!!!!!!』なんてひどいですよ刑事さん」
「それは確かにそうでした。失礼しましたな」
今から15分前、13時18分に事件は起きた
その時、ある11階建てマンションの前を通っていた11人の人間が、それぞれ違う階の角の部屋のベランダから同じ女性が飛び降りるのを見たというのだ。
しかし、鼻森岡たちや救急隊が駆けつけたところ、それらしき女性の遺体は見当たらなかった。
女性の特徴は20代後半から30代前半くらいの痩せ型で、長い黒髪に黄色い全身タイツだったと全員が証言したが、口裏を合わせているだけの可能性もあったため、鼻森岡は彼らの接点を調べた。
その結果、全員が全員他人だった。街の監視カメラを確認しても、その場で11人が集まっている様子などは見当たらなかった。
「警部! しっこの成分は検出されませんでした!」
署に戻った耳筍が鼻森岡に報告した。11人の証言の中に、「すげーしっこの匂いがした」というものがあったため、彼が調べていたのだ。
「今日は雨も降っていないし、その時にしっこがあったのなら痕跡が消えるなんて有り得ないもんな⋯⋯これはアイツの出番だな」
「そうですね」
鼻森岡はスマホを取り出し、ある人物に電話をかけた。
その人物が来るまで暇だった2人は、部屋に置いてあったオセロをして時間を潰すことにした。中盤で耳筍が真っピンクにして完全勝利した。
鼻森岡が4連敗したところで、『ピンヌポンヌ』というドアを叩く音がした。
「お、来たな!」
鼻森岡がドアを開けるとそこには、身長1メートル130センチの黄色い大男が立っていた。尿探偵・疾虎である。彼は鼻が敏感で、特に尿を嗅ぎ分けることに長けているため、尿の関係する事件に呼ばれることが多いのだ。本名は疾虎である。
「で、今回はどんな事件なんです? 僕に協力できることがあったらなんでも言ってください」
「ああ、ありがとう。助かるよ」
「それにしても今日すごいですね、こんな大人数集めて何やってるんですか? 皆さん静かですね」
「さっきまでうるさかったんだけどな、俺が怒鳴ってやったら鶴の一声よ」
「僕そういう大人嫌いです」
「嫌いで結構。とにかく、事件の概要を話すぞ。かくかくしかじかモグラモグラ」
「なるほど、それは気になりますね。11人が11人しっこの匂いがすると言ったのに無いなんておかしすぎますもんね」
「うん、そういうことなんであとは頼んだぞ。俺らそろそろ飯食いたいから」
「えぇ!? なんですかそれ! 僕1人で11人相手にしろって言うんですか!? AVでもありませんよこんなの!」
「AVってお前なにするつもりだよ。ま、とにかく任せるわ」
「やです! 知らない11人と僕だけ置いていくなんて絶対にダメです! 帰りますよ!」
「よし、じゃあこうしよう! もし協力してくれたらヒソヒソ⋯⋯来週あそこのホテルで俺の娘とヒソヒソ⋯⋯ヒソヒソ⋯⋯ヒソヒソ⋯⋯。な?」
「分かりました。協力しましょう」
鼻森岡の娘は美人なのだ。
「じゃあ頼んだぞ」
「お任せください!」
鼻森岡と耳筍はおててを繋いで鳥貴族へ向かった。
「さて⋯⋯」
「はい!」
3階派の男が手を挙げた。
「えっ⋯⋯あ、はい、じゃああなた、どうぞ」
若干動揺しながらも指名する疾虎。
「さっきあなた『ありませんよ』って言ってましたけど、11人以上相手にするAVありますよ。○○○とか××とか☆☆☆☆☆☆とか、あと△△△△△なんかもありますね」
ただのAV博士だった。
「はいはいワロタワロタ。それではお話を聞いていきますね。せっかくなので真ん中から行きたいと思います。6階のあなた、お願いします。自分が当てられると思ってなかったでしょ。1階か11階の人からだと思ってたでしょ」
「思ってました。ていうか、『6階のあなた』って言われると私が6階に住んでる人みたいですねハハハ」
「さっき鼻森岡さんにいろいろ聞かれたと思うんですけど、なにか言い忘れてることはありますか?」
「そういえば、私が見た女性は半透明でしたねハハハ」
「ハハハじゃねーよ! 幽霊じゃねーか! なんでそんな大事なこと言い忘れてんだよ! アホか!」
疾虎は激怒した。普通こういうことは言い忘れないからだ。
「いや、11人が見たって言ってるのに遺体がなかった時点で幽霊なのはほぼ確定だったでしょ。だからわざわざ言うことでもないかなと思ったんです」
「あ、ほんとだ。怒鳴ってごめんなさい」
「あの」
11階の女性が口を開いた。
「私が見たのは思いっきり実体だったんですけど⋯⋯」
「えっ」
不思議そうな顔の6。
「あの、俺はほぼ透明でした」
1。
「僕のとこは実体でしたよ」
10。
「私のとこは30%くらいかな」
3。
「えっと、つまり、下になるにつれて薄くなっていってるってことですかね?」
「「そうなりますね」」
1〜11。
「でも、10階の方も実体だったと仰いましたよね?」
11階の女性。
「気づかなかったんじゃないですか?」
疾虎がそう言うと、10が反論した。
「いや、1ミリも透けてなかったと思います。どう見ても100%でした」
「そ、そうですか⋯⋯」
疾虎は「そんなわけねぇんだけどな」と心の中で思いながら彼の話を肯定する身振りをとった。
「俺のところマジでほぼ透明だったんで、多分階ごとに10%ずつ薄くなってて、俺のところは10%だったんだと思います」
1。
「キモい幽霊だなぁ」
疾虎。
「じゃあ0階には0%の完全な透明人間がいたかもしれませんね、ふふふ」
7階のエロい女が言った。ジャイ子みたいな顔と体型で、肩に「エロい」とタトゥーが入っているのだ。
「あの、0階ってどこですか」
4が訊ねた。
「⋯⋯どこだろう」
7は黙った。
「それにしても、黄色の全身タイツでしたっけ? その幽霊面白いですね」
まぁそういう疾虎も全身黄色なのだが。顔も。
「それはアレじゃないですか? 落ちる時に丸見えになっちゃうからじゃないですか?」
もはや誰が発言したのか分からない。疾虎は人の顔が覚えられないのだ。だからもう11人を1個体として見ている。11重人格の人と喋っている感じである。
「どういうことですか? 丸見えって、パンツがってことですか?」
「はい、パンツです。スカートが暴風時の傘みたいに真っ逆さまになっちゃって丸見えになっちゃうんです」
「えっ。飛び降りなら大丈夫じゃないですか?」
「あ、もしかして探偵さん、頭から行ったと思ってます?」
「違うんですか?」
「違いますよ。普通に縦です」
「普通に縦⋯⋯?」
「8階から普通に縦に落ちました。今僕がこうやって立ってるみたいな形で、そのままストンって落ちました」
「いや2階ですよ」
「3階だよ」
「9階ですって」
「7階だってばよ!」
「それもういいんでやめてください!」
疾虎はおかしくなりそうだった。これまではしっこの事件だったとはいえ、常識の範囲内の、1本筋の通った、解決のしようがある事件だったからだ。
それが今回はどうだ。幽霊の飛び降りで、目撃者が11人いて、なぜか透明度のグラデーションがあって、しかも普通に縦で落ちてて。
「大丈夫ですか? 刑事さん」
「僕は探偵です。刑事はさっきの変な2人組です」
ぷろぷろぷろぷろぷろぷろ
疾虎のスマホが鳴った。鼻森岡からだった。なにか情報を掴んだのかもしれないと思い出てみると、まっっっっったく違う内容だった。
「もしもし」
『お前今俺達のこと変な2人組って言っただろ。娘貸さんぞ』
「申し訳ございませんでした! それだけはどうか勘弁してください!」
『次はないぞ』ブチッ
ここの会話が筒抜けだったのだ。
「ふーっ、深呼吸深呼吸⋯⋯⋯⋯ということは、ベランダに座った状態から飛び降りたという形ですかね? 足から落ちるってそれくらいしか思いつきませんもん」
「いや、ベランダの外に立ってました」
「え? 外のベランダじゃなくて?」
「はい、ベランダの外側に立ってました。そこがスタート位置です」
「どういうこと?」
「ベランダの外側としか言いようが⋯⋯」
「浮いてたってこと?」
「そうなんですかねぇ? それか、ベランダに背中がくっついてたか⋯⋯」
「全身黄色タイツの女がベランダにくっついてて、それが落ちてきた、と」
「はい」
「みなさん全員同じ意見ですか?」
「はい」
「では11個すべてのレイヤーを統合すると、その11階建てマンションの全部の階の角の部屋のベランダの外側に全身黄色タイツの同じ女性が貼っついてる画像が出来るということですね」
「はい、それで同時にそれが落ちてます」
「変だなぁ⋯⋯」
「えっ?」
「いや、変だなと思って」
「ああ、変ですよね」
疾虎は「今回僕関係なくない?」とずっと思っていたが、鼻森岡の娘とのヒソヒソのためになんとかモチベーションを保っていた。
「あの、僕たちが嗅いだしっこの匂いってなんだったんでしょうか」
「うーん⋯⋯まぁ、しっこの幽霊⋯⋯なんですかねぇ」
「幽霊のしっこじゃなくてですか?」
「そこ突っ込みます? 同じじゃないですか?」
「違いますよ、幽霊のしっこは幽霊のしっこですけど、しっこの幽霊はしっこが幽霊ってことじゃないですか」
「⋯⋯⋯⋯?」
「だから、えーっと、幽霊って生き物の死後の姿じゃないですか」
「はい」
「だから、もともと命がなかったものはそれ自体が幽霊扱いになるんじゃなくて、あくまで幽霊の付属品だと思うんですよ」
「⋯⋯⋯⋯う、うん」
「まあいいや、どっちでもいいです。しっこの幽霊でいいですよ」
「ヨシ!」
「?」
疾虎は現場に行ってみることにした。
11人の大人を連れて歩く疾虎は、デカ幼稚園のデカ先生になった気分だった。
「あっちの角です」
「ふむふむなるほど⋯⋯くんくん、くんくん、しますね、しっこの匂い」
「しますか!? 僕達は分かりませんけど」
「します」
疾虎は人より鼻が利くのだ。
「ここにしっこがあるんですか?」
地面を指さす11人。
「いえ、あっちですね」
「マンションがしっこ!?」
そう、マンションがしっこ臭いのだ。
「行ってみましょう」
1階の角部屋のベランダを嗅ぐ疾虎。
「微かにしっこの匂いがしますね」
「すごいですね。僕達どれだけ嗅いでも分かりませんよ」
「それより、上からここより濃いしっこの匂いがします」
「入ってみます?」
「行けますかね?」
「無理だと思います。飛び降り事件は起きてないことになってますから」
「じゃあ言うなよ」
「ふえぇ」
不機嫌な疾虎に怯える11人。
「おーい疾虎〜」
そこに飲み会帰りの2人が合流した。
「警部、酒臭いですよ!」
「これは消毒のアルコールら! 俺あ酒なんて飲んれねえ!」
「警部、このマンションに入りたいんですが」
「分かった、じゃあちょっくら催眠術かけてくるわ」
「お願いします」
こうして全ての部屋の鍵を手に入れた疾虎は、角の部屋を回る前に少しイタズラをしてみることにした。もちろん11人も同行している。
203号室からだ。
カチャリ。鍵が開いた。
こっそりベッドルームに入ると、中年の男女が激しく愛し合っていた。
「ちょっと待ってくれ⋯⋯そんな、こんなことって⋯⋯!」
2の男が動揺している。
「何があったんですか?」
疾虎が訊ねた。
「あれは俺の妻で、あいつは妻の職場の同僚だ!」
「えぇーっ! でも今は事件優先でお願いしますね! 次向かいますよ、次!」
次に401号室を開けると、4の人が「あれ?」と言った。玄関に脱いである靴が高校生の娘のものと同じだそうだ。
ベッドルームに入ると、女子高生とハゲたおじさんがおせっせしていた。
「美香ぁ〜〜〜!」
号泣する4。父の日に20万円のネクタイを貰ってから考えないようにしていたことだったが、目の前に突きつけられるとううぉあぁぁあぁぁぁあああああ!!!!!
「事件優先なんで、次行きますよ」
「じゃあ寄り道なしでやれよな」
「フン」
耳筍のツッコミを無視する疾虎。
708号室。
「お邪魔しま〜す(小声)」
ここでも男女があの行為をしていた。都会のマンションというのは昼間からこんなことをしている人間ばかりなのだろうか、と疾虎が漏らすと、AV博士の6がメガネをクイッとして喋り始めた。
「見てくださいこの張り紙」
洗面所の壁にメンズエステ店の名前の入った注意書きの紙が貼ってあった。
「調べたところこのお店は風俗エステではなく、健全なお店⋯⋯」
「つまり!?」
「この子、違法営業してますね!」
「ヒョアァーーーーッ! 次行きますよ!」
「あ、はい」
109号室。1階の角部屋だ。
「さ、謎を解く鍵を見つけますよ」
「さっきまで人間のクズみたいなことしてたくせになにカッコつけてんだ」
鼻森岡が呆れたような顔で言った。娘を売るようなクズほど自分のことは棚に上げるものなのだ。
「お邪魔しま〜⋯⋯あれ? ここ空き部屋ですね」
「ほーん」
興味無さそうな11人。
「やっぱり匂いは薄いですね。一般人では気づけないレベルだ⋯⋯」
「一般人⋯⋯」
209号室もほとんど同じだった。そして、空き部屋だった。
「警部、これってもしかして」
「ああ」
309号室も同じく空き部屋だった。匂いは少し濃くなっている。
「警部! これってもしかして!」
「ああ!」
409号室も空き部屋。匂いも少し増。
「警部ぅ! これってもしかしてぇ!」
「ああ!!」
509号室空き部屋ァ! 匂うゥ!
「警部これもしえぇ!!」
「アァーーーーー!」
609号室も空き部屋。匂う。とはいえ、まだまだ一般人には分からないレベルだ。
「警部、これってもしかして角全部空き部屋なんじゃ⋯⋯」
「アァァァァァーーーーーーッッッッ!」
709。以下同文。
「学校で賞状もらう時こんな感じでした」
「イカだと思ってたよな」
809。同じに決まってるだろ。
「でも実は僕賞状もらったことないんですよね」
「俺もだ」
909。以下同文。
「悲しいですね」
「悲しいな」
1009。イカ。
「みんな帰っちゃいましたね」
「ああ。でも楽になったな」
「はい」
1109号室。
「警部! ベランダに出られないようになってます!」
「管理人に聞いてみよう!」
聞いてみたところ、過去に1109号室のベランダで首を吊った女性がいたらしく、そこだけは開かないようにしているのだそうだ。
「飛び降りじゃなくてですか?」
疾虎が訊くと、管理人が怒りをあらわにした。
「ワシが首吊りだって言ってんのになんで飛び降りとか言うんじゃ! 話聞いとらんかったんかお前! アホ! うんこ! バカ! うんこバカ! バター!」
「ベランダで首吊りって、具体的にどんな感じなんですか?」
「なんでお前みたいな尿探偵とかいう変な輩に教えにゃならんのじゃ! おバカ!」
「警部、催眠術を」
「よしきた! くらえぇ!」
そう言って鼻森岡は細い針金を管理人の耳と鼻に突き刺して押し込み、1分ほどガチャガチャやって引き抜いた。
「鼻森岡しゃんだぁいしゅきぃ! ワシ鼻森岡しゃんのためならなんでもしちゃうぅ! シャワー浴びてくるねぇ」
「すごい変わりようですね」
「だろ。掻き回してやったぜ」
「ワシのことたっぷり可愛がってねぇ」
「その前にベランダ首吊りの件を教えておくれ」
「ふむ、それはじゃのう⋯⋯」
管理人はめちゃくちゃ小さい声で話してくれた。なんで老人って声がバカでかい時とクソ小さい時があるんだろうか。
11年前、1109号室に住んでいた全身黄色タイツの女性は借金を苦にして自殺を図った。室外機にロープを巻き、反対側を自分の首に引っ掛けてベランダから飛び降りたのだそうだ。
そして、11階と10階の間で落下は止まり、女性はそこで息絶えた。その際、女性は失禁していたという。
洗濯物を干そうとした1009号室の住人がカーテンを開けると、窓の上の方に人の足が見えた。それで通報して事件が発覚したのだという。
「ところで、なんで黄色い全身タイツで自殺したんでしょうか」
疾虎が1番引っかかっていた部分だった。
「それは特に意味はないじゃろ」
「なぜですか?」
「あの人、あれが普段着だったから」
「ヤバ。そんな格好で借金までして一体何やってたんだろう」
「パチンコじゃよ」
「全身黄色タイツでパチ屋に!? 名物になりません!?」
「そのパチ屋では特段珍しくもなかったらしいぞよ。全裸のやつとかもいたらしいし」
「ほーん」
自分から聞いておいてあんまり興味無さそうな疾虎。
「警部、そろそろ帰りますか」
興味無さすぎな疾虎。
「そうだな、帰るか。それにしても、結局首吊り自殺した女の幽霊だったなんてなぁ。しっこ関係でもないのに呼んで悪かったな、疾虎」
「そんなことないですよ」
「ん?」
「あれは女性の幽霊ではなく、しっこの幽霊だったんですから」
「は? 何言ってんのお前。しっこの幽霊ってなんだよ。女の幽霊のしっこだろ?」
「違いますよ警部。女性の幽霊だった場合、幽霊は首を吊るはずですから」
「別に死因になったことを繰り返すとは限らないんじゃないか?」
「まあそう言われればそうかもしれないんですけど、幽霊が下に行くにつれてどんどん薄くなってたの、覚えてます?」
「なにそれ、その話知らない」
「そっか、警部のいない時に話してたから⋯⋯」
「で、なんなのそれ」
「10階から下に行くにつれて10%ずつ透明度が上がっていくんですよ」
「じゃあ0階は完全な透明人間ってことか?」
「0階なんてありませんよ」
「あ、そっか」
「女性の幽霊だとしたら薄くなっていく意味が分からないんですが、しっこだと分かるんです」
「しっこでも分かんねーよ。そもそも幽霊自体俺は信じてないんだから」
「11階のベランダで首を吊ったまましっこをした彼女はそこで死にましたが、しっこは下へ下へと垂れていってたんですよ」
「なんとなく分かってきたけど別に俺しっこの話なんて聞きたくないんだが」
「止まって固まっても雨に打たれて復活し、また下へと垂れていきます。それが繰り返されて彼女の怨念が全ての角部屋に移ったのではないでしょうか」
「うんうん、迷惑な話だな。分かったからもうしっこの話はやめてくれ」
「で、11階にも怨念があった理由ですが、それは彼女が全身タイツで死んでいたことが関係していると思われます」
「というと?」
「しっこが染み込んでおしりの方まで広がって、ベランダに塗りたくられたのではないだしょうか」
「結局しっこの話かよ。しかもパンツでも同じことだし。てめぇ殺すぞ」
「だから、その遺品のタイツがある場所にも霊は出ると思うんです。とびっきり濃いのが」
「もう殺します。さようなら」バキューン
鼻森岡は拳銃を抜きその場で発砲し、撃たれた疾虎は帰らぬ人となった。まあ次回までには帰ってくるんだけどね。めでたしめでたし。