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停滞記憶日記  作者: 福野 良夜
第一章
2/3

2

待ってた人も待ってなかった人もお待たせしました。

2話目です。

これから「停滞記憶日記」の更新は、月1くらいになります。

 今は昔。


 出会いの良し悪しなんて、とうに決まっているのだ。日頃の行いとか、前世の行いとか、そんな占いのようなものに振り回されることはない。生まれたその瞬間から、運命として定められている。生まれつき体が弱いとか、そういう境遇の人たちを救う手段として神様が考えたのが、運を与える、良いご縁に恵まれるようにする、そういうものだと私は小さく思った。いい例が、「私」だと私は思う。


「はい座って〜」


 よく漫画に出てくるような展開。パンパンと手を叩きながら声を張る、クラスのリーダー的存在の彼女のことは、よく知らなかった。とにかく話が上手い。お世辞に敬語も十二分に心得ていて、かつ嫌味がない。


 私の目には完璧に映っている彼女は、私に妬ましいという感情を抱かせたことすらなかったが、それがさらに不気味だった。


「も〜マジで。怒られるのアタシなんだから、座って座って〜」


 典型的な、堅物できっちりしすぎている優等生とは違う。ニコニコしながら、彼女は座るように促す素振りを見せる。彼女の強みは、自分の中に自分がしっかりといることだった。自分の意見がある、そんな彼女が、羨ましかった。


 不意に、誰かの声が耳に入る。もう聞き慣れた声だ。いつものジャージ姿とは違い、正装で現れた先生は、選択ミスとしか思えないほど場違いなネクタイを着けている。


「はい、始業式お疲れ様〜。改めておはようございます」


 先生は、そう言って長い体を折る。私は、眠かった。「おはよう」なんて、この人生で何回聞いたことだろうか。何回言ったことだろうか。今日で通算16回目、もう飽き飽きだ。その視界はどんどん重くなる瞼のせいで、眼鏡を外したときのようだった。この寝不足の理由は、音信不通な私の頭にある。私がどんなに問いかけても、眠ったままの頭は答えてくれない。そのせいで、私は眠れなかった。なんとも言えない虚しさを感じることは、私の頭では到底無理だろう。


 視界は完全に真っ暗になった。不思議と、聴覚が冴えて、みんなの声が聞こえる。耳からの情報量が増えて、私的には背徳感があるけど、更に眠気を加速させるのが難点だ。視界を遮ると、人を物理的に見ることはできなくなる。みんなそうだったら、まだいいのだ。誰も、誰の姿さえも見ることができなければ、どんなに幸せなのだろうか。


「ねぇ、紗栄子(さえこ)、今日部活あるの?」


 誰かの、いや晴音(はるね)の声が、私の耳を刺した。ちくりと痛い。先生にも聞こえる声量の、今話すべき内容ではない会話のせいで、私の背徳感はトゲのある罪悪感だけになって消えた。


「いや〜雨降ってるから中止っしょ」

「マジか。じゃぁ放課後、駅の方行く?」

「お〜い。話を聞け〜。中川」

「せんせ〜。なんで私だけなんですか?」


 クラスにどっと笑いが起きる。先生も公認のこのギャグを―どこに冗談の要素があるのかは全くもって不明だが―2学期初日から聞けるとは、正直思ってもいなかった。贅沢な笑い声は、半分眠っている私の耳に、癒しをくれる。


 私は、少し笑ってしまった。嬉しかったのかと聞かれると、そうではない。楽しかったのだろう。それにしては不気味な笑いだった。久しぶりに味わったこの(ほが)らかな雰囲気を横目に、何も考えなくていい、という開放感を味わえるのは、とてもお得で、先生には感謝しかない。中川さんにも、感謝しかない。


 とはいえ、何の変化も変哲もないこの真っ暗な景色をずっと眺めていると、やっぱり眠くなる。目を瞑ったのは、取り返しのつかないことだったのかもしれない。意識がごっそり持っていかれるような、目の上が気持ちいような、この不思議な感覚を一言で表す日本語はまだ、ない。少なくとも、私が知っている中では、ない。


「張本?大丈夫か?」

「っはっ...」


 一瞬、完全に寝ていた。というか、机に突っ伏していた。おそらく船を漕いでいる状態から、そのまま撃沈したんだろう。先生の「大丈夫か?」にも納得がいく行動を、私は無意識のうちに取っていた。


 まだ眠いのには変わりない。一瞬ウトウトしたときに起こされると、もっと眠くなるのは、全人類の壮絶な悩みだろう。どうしてそうならないように進化しないのだろうか。でも、そうやって頑張って進化した個体たちが、望んでもいない「先天性障害者」として、マイナスの言葉で区別されている。そんな現代社会のシステムに、私はかなり落胆している。


 眠りが深くなり始め、とはいえまだ浅いが、段々とみんなの声が聞こえなくなってくる。真っ暗な視界の中で、聴覚までもが失われていく、とは、言葉だけ並べるとかなり恐ろしい。もちろん、それを実際に体験している私が一番恐怖を感じているのだが。


 正常に「死ぬ」って、こんな感じなのだろうか。「死ぬ」ということは、どうしても恐ろしい。多分みんなそうだ。人間の体は、何度も、何度も生命(いのち)の尽きる瞬間を目の当たりにしても、この恐怖心だけは、抜けないようにできているのだろう。人生を何周しても、きっと恐怖を感じ続けることになるんだろう。

 

 本当は、()を一番恐れているはずなのに、今はみんなが私に注目していることが恥ずかしくて、とても怖い。恐ろしい。悔しい、悲しい、悲しい、悲しい。怒りまで湧いてくる。でも思考停止は治らず、むしろ悪化するばかりで、もう感情もコントロールできなくなってくる。


 ふと、我に返る。そして、また暴走が始まる。思考停止は、我に返った反動で治ったようだ。遅い足を使わなくとも、ものすごい速度を出すことができるこの頭は、私の大切なものの一つだ。唯一の長所と言っても過言ではないこの頭の回転速度は、どう頑張っても数字には表すことができないため、それを長所として認めてくれる人は少ない。


「で、楽しい楽しい夏休みを過ごした後にいきなりだけど、課題のお知らせです」


 頭を大鎚で殴られたときみたいに脳みそが揺れた。眠気は一瞬にして吹き飛んだ。偏差値が35のこの高校では、青春を謳歌するためだけに高校に入った人たちしかいないから、一周回ってまともな人が多い。お気楽な人生を歩むため、ちょっとお馬鹿なこの学校を選んだのは間違いではなかったはずだ。


 誰にも理解されないような御趣味(ごしゅみ)を十数年間愛し続けた私にとって、馬が合う人など()()()いない。現代社会で言う「陰キャ」とか、そういうところに分類されるのは言うまでもないが、想像以上に同じ状況下に置かれている人が少なかったのが、この学校に入学して最も哀しかったことだ。


「おいっ!帰るぞっ!」

「え?」


 気がつけばもう教室には5人しかいない。脳内で「私ワールド」を拡大している間に、約1時間が経過していたということだ。最終的にその時の記憶がないなら、まだ寝てるほうがマシだったかもしれない。体力を大量に使い、それでいて何の成果も得られなかったのは非常に哀しい。というか、虚しい。


「課題って何だった?聞いてなかった。」

「さては寝てたな?」

「寝てない」

「『明日元気に登校すること』だってさ。早く帰るよ」


 色々とツッコむ前に、彼女は私の手を引いて教室を出ていった。無論、引きずられながら私も一緒に。

どうだったでしょうか。

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P.S. ep.1といっしょに書き換えました。読みやすくなったと思うので、許してください。

さらにP.S. 書き換えました。後半変更しました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 悔しいがすべてだ。フォローありがとう [気になる点] いろいろとすごく気になる(続きがね) [一言] 一つ質問していい?これって一話投稿した後にまた2をかける?(続き)あと、文章なおせる?…
[良い点] 2話目ありがとうございます。 「今は昔」の始まり方が良いと思います。 前回よりももっと読みやすくなっていると思います。
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