表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
公爵令嬢に転生したサイコパスは毒と魔術を操って、すべてのクズにザマァする。  作者: 砂礫零
終章 宰相と運命の王女

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/62

5-5. 婚約者との午後は好みのコーヒーとわるだくみで①

「先日は毒の騒ぎで、あなたのお話がきちんと聞けませんでしたからね、ロニー」


「あのとき早めに気づいて、ようございましたわね。そして再びお時間とっていただきまして…… 嬉しゅう存じますわ、陛下」


「ふたりのときは、いつもどおりに呼んでください。ラフィーと」


「 …… では、お茶をいれて差し上げますわね、ラフィー」


 改装もかなり進んだ、もとマルガレーテの室内庭園 ―― 

 前回とおなじく、あらかじめ用意されていたポットを私は手に取った。ゆるやかにカップにそそがれる液体からは、今日は妙なかおりはしない。

 続いて私のカップにもお茶をいれようとするのを、セラフィンが止めた。


「あなたはこちらでしょう、ロニー」


 見れば前回にはなかったドリップコーヒーのセットが乗ったワゴンが、セラフィンのそばにあった。

 セラフィンが慣れない手つきでお湯をまわしかけると、芳ばしいコーヒーのにおいがただよいはじめる ――


「どうぞ、お嬢さま」


「ありがとう。手つきはまだまだですけれど、味は合格でしてよ」


「光栄です」


 セラフィンがてれたように笑った。かわいらしいではないか。

 しばらく、コーヒーのコクとすっきりした苦味を楽しむ。



「 ―― 父とは公爵家の跡取り問題でもめていますの……

 父が生きているうちにいずれ、わたくしたちの子のひとりを公爵家に定めればよい、とわたくしは考えています。けれど父は、養子をとると主張していまして…… わたくしの意見など、最終的には通りませんでしょうね」


 前回のセラフィンとのお茶であれば、この話はただのグチになるはずだった。

 だが、父がひそかにメイドを操って私たちに毒を盛らせた、そのあとでは ――

 父の主張は、王位への野心を裏付けているようにもとれる。

 セラフィンにもそれがわかったのだろう。

 眉をわずかに寄せてしばし沈黙したあと、セラフィンは小さくためいきをついた。


「そうでなければ良いのですが…… もし、その可能性があるのなら、我々は気づかぬふりをして、油断を誘わねばなりません」


「内戦を引き起こさぬよう、ヴィンターコリンズの騎士団には根回しが必要ですわね」


「できますか」


「あら、ラフィー。わたくしを誰だと思っていて? 我が家の騎士のみなさんは、わたくしの味方でしてよ?」


「頼もしいです」


 私とセラフィンは静かに今後のことを話し合った。


 ―― 公爵家の養子の件は、家令に手をまわせば最大限、遅らせることができる。

 父は養子をとるとは言っていても、現段階でそのあてが特にあるわけではないからだ。

 その候補が決まるまえに、父を片付ける ―― 


「私情ではございますが、あのかたには母以上の苦しみと屈辱を味わっていただきとうございますわ…… それに、マルガレーテも」


 私はセラフィンに、父がマルガレーテやカマラと共謀して母に毒を盛らせていた記憶を打ち明けた。

 セラフィンがうなずく。

 

「では、そのように」


「難しくなって、しまいましてよ?」


「そちらのほうが、私たちの初の共同作業には、相応しい…… そうではありませんか?」


 セラフィンがいたずらっぽく片目をつぶってみせた。似合わなくて、笑える。



※※※※※

【マルガレーテ (前王母) 視点】


 人生で最大の失敗をあげるならば、この男に関わったことだろう ――

 マルガレーテはうやうやしく臣下の礼を取ってみせる宰相の、白髪まじりの頭をじっとりとにらみつけた。

 宰相、アーネスト・ヴィンターコリンズ公爵。

 マルガレーテが国どうしの友好の証としてここシャングリラ王国に嫁いできたばかりのころ ―― 彼はこの他国の王女を誰よりも気遣い、便宜をはかり、相談に乗ってくれたものだった。

 マルガレーテよりも先に妊娠した国王の愛妾をひそかに殺す方法を教えてくれたのも、彼だ。

 彼のアドバイスどおり、愛妾には普段から親切にしていたのが効を奏した。

 ―― 愛妾は彼女の贈った 『つわりを軽くする薬』 を疑いもせずに飲み続け、高血圧を発症して(はら)の子と一緒に亡くなった。

 もっとも、下半身モンスターの国王(フィリップ)はすぐに次の女を愛妾に据えて(はら)ませたのだが……

 このときマルガレーテは、赤子が生まれるまでガマンした。愛妾ふたりが立て続けに同じ病で死ぬとなると、疑われてしまう ―― そう、宰相に言われたからだ。

 マルガレーテは身重(みおも)の愛妾をしばしば見舞い、話し相手になった。それだけでなく、乳母を紹介さえしてあげた。

 ―― その乳母には、赤子に毒を盛るよう密かに指示していたのだが。

 このとき、毒や乳母を用意してくれたのも宰相だった。

 しかし、計画は失敗する。乳母は、情がうつったのか、赤子を誘拐して逃げ出してしまったのだ。

 マルガレーテが再び相談すると、宰相は 『ご心配なさいますな』 と自信たっぷりに笑った。

 その後、しばらくして ――

 乳母と赤子、そして愛妾のめった刺しにされた遺体が、街はずれの森で見つかった。

 彼女らは別荘に向かう途中で盗賊にやられた、ということになっており、マルガレーテも宰相も、毛の先ほども疑われなかった。

(それどころか宰相は、報復と称して国王(フィリップ)の名で一帯の盗賊掃討作戦を実行。治安が良くなったと民からは喜ばれた)


 そして、自身に子ができぬことを焦るマルガレーテに宰相が紹介したのが、薬商のトゥーニス・フォルマだった。 

 フォルマ家はそのころまだ準男爵にすぎなかったものの ―― 当主の創薬の才能は、すでに世に知られていた。

 肌をやわらかく滑らかにする美顔水、夫を誘惑する香水、妊娠しやすくなる薬 ―― トゥーニスは若い王妃の望みをなんでも叶えてくれた。それに、忙しい宰相と違い、呼びつければいつでも駆けつけてくれた。

 トゥーニスはマルガレーテに、称賛の眼差しと優しい言葉を浴びせてくれた。それらは夫の国王(フィリップ)が、プライベートでは決して、くれたことのないものばかり ――


 マルガレーテとトゥーニスが一線を超え、男女の仲になったのも、宰相の計略のうちだったのだろうか?

 今となっては、わからない。

 唯一、マルガレーテがわかっているのは ―― 彼女がトゥーニスの子を身ごもったとき、仕える者と支配する者の立場が逆転した、ということだけだ。

 気がつけば宰相は、マルガレーテの弱みをすべて握っていた。

 そのなかで最大の弱みはもちろん、ナサニエル ―― トゥーニスとの間にできた子である。

 不貞の事実を隠して我が子を王位につけるために、マルガレーテは宰相の要求をすべてのみ、彼を後押しせざるを得なくなっていた。


 宰相の妻、美しい社交界の真珠(ローザ)に毒を盛る下品なメイドをかばい、引き立てるように言われたときも。

 マルガレーテには、うなずく以外の選択肢は残されていなかったのだ ――



「宰相 ―― そなた、リザ・カツェルによけいなことを言ったのではないでしょうね?」


「はて、リザ…… 誰ですかな?」


「メイドのひとりです。ナサニエルのこと…… 話したのですか?」


「はて…… メイド相手に雑談をすることはございましても、妃殿下の重大な秘密を打ち明けるようなことは、ございませぬが……?」


「とぼけないで!」


 バン、とテーブルを叩く音が、教会の高い天井に響いた。テーブルの上の茶器が細かく震える。

 マルガレーテは両手をテーブルに置いたまま、深く息を吐いた。


「あなたの娘が言ったのですよ? リザが自白したと…… 」


「娘が? 自白? はて…… 話がさっぱり、わかりませぬな」


「…… ここだけの話ですが、リザはあなたの娘とサープ(セラフィン)に毒を盛ったそうです」


「おお…… それは初耳です。なんということだ」


 この蛇野郎(サープ)め。

 目を見開き驚いてみせる男に内心で毒づきつつ、マルガレーテは憂い顔を作った。


「あなたの娘はわたくしに疑いを持っているようですわ。指示をしたのならば明かすようにと、わざわざ言いにきたのですよ」


「それは…… 娘がとんだ失礼を、いたしましたな」


「もちろん、突っぱねましたが…… あの様子ではまだ、わたくしのことを疑っていそうです」


「ふむ…… で、本当のところはどうですかな? 妃殿下のご指示で?」


「そのようなわけが、ないでしょう!」


「さようでございましたか…… てっきり、私めのために妃殿下が命じてくださったのかと思ってしまいましたが」


「なんですって」


 ふいに宰相の口から音が消えた。


 ―― 妃殿下の秘密を守るのであれば、サープ(セラフィン)より都合の良い者がここにいますよ ――


 色あせた唇がつむぐ声なきことばにマルガレーテは、がくぜんとする。


 ―― この男はわたくしに、こんどは、なにをさせようというのか……


 それでも、マルガレーテにはわかっていた。

 王族としての立場と誇り、そしてなによりも、亡くなった息子の名誉を守り続けていくのであれば……

 彼に従うよりほかは、ないのだ。


「いやいや、冗談でございます。老いぼれの勘違いというものですな。お忘れください」


「まったくです。あきれたこと」


「はっはっは…… のちほど、妃殿下には、お詫びの品を届けさせましょう。お気に召すことと思います」


「まあ。あてにはしませんが、楽しみにはしていますよ」


 軽い口ぶりとは裏腹に、ふたりは意味深な目配せを交わす。

 マルガレーテにはわかっている。

 のちほど宰相からは約束どおり、贈り物が届けられるだろう。

 だが、その中身は ――


 宰相がひきさがったあと。

 ひとりになった応接で、マルガレーテは両手で顔をおおい、じっとうつむいていた。

 できることならば、過去に戻りたい。

 そして、愛の夢と憧れを抱き、この国へと向かっていた愚かな少女をつかまえて、教えてやりたい。


『その門を通るときには、一切の希望を捨てなさい』


 ―― それだけが、平穏で正しくいられる唯一の方法だったとマルガレーテが知ったのは、すべてを間違えたあとのことだったのだ ――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] フォルマ家またかこんにゃろ…!と、あの妹さんがいっそう可哀想になってギリギリ。ネクロ兄弟は血筋も半分兄弟だったと…(遠い目)医療はそんな悪い印象はないので、薬関連は一社(一家)独占なのもま…
[良い点] ああああっ! 朕、滅べ!もう滅んでいた!の方ですかあああっ これは、マルガレーテにはちょっと同情しかけますが……! 手元に書いたフォルマ家の家系図がとんでもないことになっています(笑) さ…
[良い点] むぅ~ん やっぱりクソ親父は、一筋縄ではいきそうにないですね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ