表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
公爵令嬢に転生したサイコパスは毒と魔術を操って、すべてのクズにザマァする。  作者: 砂礫零
閑話②

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/62

閑話②-2. まぼろしのメアリー争奪戦(2)

【テン視点】


 メアリーのことが気になったのは、お嬢 ―― ヴェロニカが彼女を信頼しているからだった。

 最初は、嫉妬も入っていたかもしれない。


 ヨハン王子の命令でヴェロニカの馬車を襲撃した、あの夜 ――

 風魔法と抜群の身体能力であざやかに鞭を使うヴェロニカに魅せられた。

 首を絞められ 『忠誠か拷問か』 と迫られ ―― その自信と強さと冷酷さ、それらがあわさって生み出される絶対的な美しさに心底、惚れこんだ。

 これからは国王でも王太子でもなく、このかたに賭けよう。

 一も二もなく、そう思った ――


 だが、ヴェロニカはテンを便利に使いはするが、さほど信頼はしてくれていない。

 王家の暗部というテンの立場を考慮したうえではあるのだろうが、テンにとっては面白くなかった。

 セラフィンとの差があるのはしかたがない。まず身分が違ううえに、セラフィンは誰が見てもヴェロニカにベタ惚れなのだから。

 だが、身分のそう変わらないメアリーのほうを許容することは、テンにはなかなか、できなかった。

 普通に優秀で気のきく侍女なのだからしかたがない、と思おうとしても…… 遠慮会釈ないヴェロニカへのツッコミについ、イラッとしてしまうのだ。

 そこまで親しくなれない己が身を思い知らされるようで、イヤだった。

 なんなんだこいつ…… そうした気分は伝わるのだろう。

 メアリーとは、会うたびになんとなくギクシャクする。つい張り合ってしまう。そんな仲だったのである ――

 メアリーが、ヴェロニカについて海都の別荘に行ってしまうまでは。


 暗部の長でかつ宮廷画家という立場上、なかなか王都から動けないテンにメアリーはしばしば手紙で、ことの経過を教えてくれた。

 おそらくヴェロニカに言われてのことであり、テンも 『ずりーよなーチクショー』 としか思っていなかったはずなのに……

 いつしか、メアリーからの手紙を心待ちにするようになってしまった。

 経過報告だけなら、誰から聞いても同じだっただろう。

 しかしメアリーは必ず 『今日の海はとてもきれいです』 とか 『王都は寒いでしょう。風邪引かないでくださいね!』 とか、書き加えてくれる。

 手紙を書くうえでの礼儀作法にのっとってのことであるのは知っていたが、それでもテンは嬉しかった。

 ―― こうして、ヴェロニカたちが再び王都に帰ってくるころには……

 テンにとってのメアリーは 『ライバル』 からすっかり 『気になるひと』 へと格上げされていたのである。




「だからって、なんでこうなるー!?」


「メアリーがお嬢さまの()()()()()()()()()の侍女だからです」


 急な呼び出しに公爵邸を訪れたテンを出迎えたのは、珍しくステラだった。メアリーの友だちの侍女で、夕空の色の瞳が特徴的だ。

 そのステラが言うには、ヴェロニカはこのたび、メアリーを愛する男()()のためにトーナメントを立ち上げた。

 優勝者はメアリーへの告白権が得られる ――


「なんだそのノリは? 学園祭か?」


「ですかね…… お嬢さま、学園祭はずっと不参加でしたのですけれど、羨ましかったんでしょうか、実は」


「あー覚えてるわ…… たしか、そのころにはまだ(ハジ)けてなかったんだよな」


「ええ…… まあ今もきちんとした公爵令嬢ではいらっしゃいますけど…… なんといいますか、あのころは 『いかにもな深窓のご令嬢』 という感じでしたから、ねえ…… 」


 過去を思い出しているのか、ふう、とためいきをつくステラ。

 横を歩くテンを、きりっとにらみつけた。


「ですからテン、あなたには全力でお嬢さまを楽しませる義務があるんですよ。わかりましたね!」


「なんでそんな義務が!?」


「まあ! ()()()()()()()()()()()()()()()()っていうのに、義務を負う覚悟もないんですか? では、そのむね、お嬢さまとメアリーにご報告…… 」


「わかった、わかったから!」


 必死こいてステラを止めるテン。

 メアリーのことは異性として気になるし、ヴェロニカはなんというかもう、心の大将くらいの地位ではあるし…… 楽しみのために無茶ぶりされてると思えば腹立つが、断って嫌われたくはない。

 つらい立場である。


「それでよろしゅうございます。では、ルールを説明しますね…… 1対1の総当たり戦で、参加者はテンさん含めて6人…… 」


 テンはステラに耳を傾けつつ、重い足を引きずりトーナメント会場 ―― いつぞやヴェロニカたちが誰かさんで花火を楽しんだ、森の奥の空き地へと向かった。



「…… って、相手、使用人とかじゃないんかーい!」


「あら。大切な侍女をその辺の使用人に渡すわけがないでしょう? 最低でも騎士爵以上…… テン、その意味ではあなたは最下位ね? まあ、頑張るかたを身分で差別はしませんわよ?」


 フローラルでフルーティーな香りを漂わせ、若草色の髪をきれいに結い上げ妖精のようなドレスを着せられて困惑気味にたたずむ…… そんなメアリーに抱きつき、わざとらしく小首をかしげてほほえむ、ヴェロニカ ――

 こいつはたとえ見た目が天使でも、中身は悪意のカタマリだ、とテンはいまさらながら確信した。

 ちなみにテンは宮廷画家として騎士爵を得ているが、慣例として敬称つきでは呼ばれていない。暗部の人間はそもそも名前すら持っていないのだから、当然だ。


 ステラが鐘を鳴らし、トーナメントが始まる。

 まずは参加者挨拶。

 ならんだ6人の男たちを見まわし、あぜんとするテン。


 見たことある顔ぶればかりだが、こいつらがみんな、メアリーを……? ――


 「1番!」 ステラが青色の髪に金色の瞳の美丈夫を紹介した。

 やばい ―― テンは内心、冷や汗をかく。


 こいつ、めちゃくちゃ顔がいい ―― 好きじゃなくても告白されたら()()()()()()レベルだ。

 こいつがその気になれば、全貴婦人を総なめできるに違いない。


「1番! ヴィンターコリンズ騎士団副長、氷の騎士ことザディアス・レイ子爵!」


「あー…… お嬢さまのご命令で、当て馬として参加しました。全力をつくし、早く職務に戻ります」


 いやお嬢さま、家の騎士になにをさせてるんだ。


「2番! ヴィンターコリンズ騎士団副長補佐、ウィリアム・ジョー騎士!」


 こいつ、顔はそこそこだが背が高くてスタイルよすぎる、やばい。俺、確実に負けてる……


「副長と同じく、お嬢さまのご命令で当て馬参加でーす! でも、もし自分が勝っちゃったら一生面倒みるんで安心してね、ステラちゃん!」


「あ…… ええええ!? っと、そうじゃなくて。いまはメアリー争奪戦です!」


「そうだっけ? じゃ、このあと自分とデート行こうねー、ステラちゃん!」


 ああ良かった。

 ただの当て馬以下のやつだった。

 けどメアリーに失礼すぎる。とりあえず○んでいい。


「3番! リオ・テイカー・クリザポール伯爵! クリザポール商会の(ドン)! 彼が勝てば、玉の輿も夢じゃないですね、メアリー!」


「私は剣はあまり得意ではありませんが…… ヴェロニカ令嬢の信頼されている侍女のかたなら、妻として不足はないと思っていますので…… 頑張ります」


 すみれ色の瞳の片方は、黒い眼帯でおおわれている。知的な美男といえないこともないが…… これなら。

 でも財力で確実に負けてるよな、俺……。


「4番! ラファエロ・アッシェライア侯爵! はたして侯爵夫人となるのでしょうかメアリーっ!?」


 顔よし身体よしの高位貴族など全員○ね……!


「私はもし勝ったら、むしろヴェロニカ令嬢にアプローチしたいで…… うぐっ…… 」


 薄青の髪をかきあげながらのラファエロの挨拶が、急に途切れた。

 隣の5番目に、みぞおちにきれいに(ひじ)を入れられたのだ。


「すまないがロニーは私が先約なんだ …… ああ、当て馬で参加している、セラフィン・グリュンシュタットです」


「…… 当て馬の定義が揺らぐ当て馬宣言ですが、とりあえずセラフィン王弟殿下!」


「セラフィンなにしてんだ、おまえ(ヒマ)か!」


「ロニーに頼まれたんだから、しかたないだろう?」


 セラフィン、おまえがそういうやつなことはわかってる……


「さて、いよいよ6番! テン、ナハカイネンナーメン(名前はまだない)! 意気込みのほどをお願いします!」


 テンは前に進みでた。

 正直いって、キレかけである。

 ―― たしかにお嬢(ヴェロニカ)はすさまじいひとだし、ステラも魅力的な女性ではあるが。

 なに全員そろって、当て馬だのステラとデートしたいだのお嬢(ヴェロニカ)のほうが本命だなどと言っているのだ。

 メアリーのテキパキした仕草やさりげない気づかいが、どれだけ場をなごませているのか、誰も知らないのか。

 メアリーの明るい笑顔がどれほどかわいいか、誰も知らないのか。

 メアリーと話すと (おもに容赦ないツッコミが) どれだけ楽しいか、誰も知らないのか ――


「俺は、俺は…… 誰にも、渡さないぞ」


「ほうほう? もうひとこえ?」


「いくら顔がよくても強くても商会王でも侯爵でも! おまえらみたいなふざけたヤツらにメアリーは渡さねえっ! どんな手を使っても勝ってやるからな! メアリーは俺んだ!」


「おおおおおっ……! ついに……!」


 ステラが大げさにのけぞったとき。


 カーーーーン…… 


 気の抜けた鐘の音が響き渡った。

 同時に、拍手…… ヴェロニカとメアリー以外の侍女たち、それにテン以外の参加者たちだ。


「では、優勝はテン  「トーナメントは!?」


「さあ? 知らないうちに、終わったのではなくて? 総当たりトーナメントとなると長引きますものね。時間を感じなくなっても、しかたのうございますことよ?」


「んなわけあるか!」


「あら、ですけれどたったいま…… 熱烈なメアリーへの告白をきかされましたわよね、わたくしたち」


「ですねー」 「情熱的でしたよね」 「ほんと、キュンキュンしました……!」


「テン…… あの、あのあのあの、いいいいいいいまのは……?」


 きゃあきゃあとさえずる侍女たちと顔を真っ赤にしたメアリーに囲まれ、またしてもわざとらしく小首をかしげてほほえむヴェロニカは ――

 間違いなく天使の姿をした悪魔だ、と、あらためて確信するテンである。


「そうですわね。優勝賞品をもうひとつ、追加しようかしら…… 」



 その年の夏。

 ヴェロニカの海の別荘周辺では、若草色の髪の淑女とツンツンした黒いウルフヘアの紳士が仲良く手をつないで散歩する姿がよく見られたらしいが……


 それがまぼろしのトーナメントの優勝賞品であったことは、わるだくみの仲間(参加者)しか知らない秘密である ――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] やったー!メアリーとテンが!!\(^o^)/ 当て馬の定義をくつがえす当て馬さんの出演、グッド(笑) もう、笑わせていただきました! テン、可愛いなあ。
[一言] > きゃあきゃあとさえずる侍女たちと顔を真っ赤にしたステラに囲まれ、またしてもわざとらしく小首をかしげてほほえむヴェロニカは ―― →『顔を真っ赤にした』のは『ステラ』?  【メアリー】で…
[一言] これぞ本来の意味での当て馬ですね( ˘ω˘ )
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ