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爪なき鷹1  作者: 与太郎の与太話
幻想期
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2.02 恍惚と原初

 明晰夢を追憶している時に夢の内容を操れることに気付く以前、私を恍惚の念を抱かせた記憶について記すそう。矛盾を抱えた人間味と言い表せ、単純な優しさや思いやりとは違い、単純に言い表せない複雑さと葛藤が魅力的で興味深い存在にさせ、恐ろしいほどの個々人の知性の生々しさが私を駆り立て恍惚の念を抱かせる。大抵は作品や書物を読んだときに得られるのだが、私の体験の記憶を記す。

 十代前半だった私は善悪の彼岸は存在せず、あるのは善と悪の併存である世界に生き、善意と利己主義の併存で心が乱され、利他主義と芽生える不安・欲望との戦いに苦しんでいた。そんな中、一人の悟った人間に出会った。彼は資本主義社会において資本主義の奴隷・使役者にもならない様、住宅を買わない、車を買わない、恋愛しない、結婚しない、子供を作らない、あまり物を所有せず消費は低水準にし、心の平穏を守っていた。生活は簡素に思想は高く悪意ある人から離れ、心の中でもその恨みや怒りを捨てて、欲望を捨てつつも自分を大切にして生きていた。私に作られざるものを、言葉で説き得ないものを、怨みをいだいている人々のあいだにあって怨むこと無く、悩める人々のあいだにあって、悩み無く、貪っている人々のあいだにあって、患い無く、勝敗をすて怨みを断ち、安らぎに帰し、大いに安らかに楽しく生きる法を教えてくれた。原始仏教に残るブッタの説かれた真理に基づくものだと知ったのは、一・二年後に私が叢書「世界の名著」に手を付けた時だった。正直と温順と柔和と不傷害と耐え忍び聡明を褒め称え、善行でさえ他人の憎悪を招くことを知り世間は常に燃え立っていることを知り、他人が自分の主でないことを知り、この世を不浄なものと思いなし世を厭い、無一物で家なく、非難と賞讃とに動じず、自分の体さえ思うようにならずいずれ朽ち果てるのですでに自己が自分のものではないと知り、感覚器官を抑制し、情欲と怒りと飢渇と迷妄と虚栄を捨てて解脱し、世間から離れた静けさを楽しみ、心を統一し夢想を修し傲慢を滅ぼし尽し心を静める。2500年前から時代が経った現代でも通じる正しく真理ともいえる良く説かれた永遠の法則が人々に受け入れられ、生きるに苦しむ人々に道を与え続けたことに言葉では言い尽くせない感慨が心の奥底に深く刻まれた。などと記述すると「まだ傲慢を捨てられていないぞ」と言われそうだがね。言えることは仏教にかかわらず哲学・宗教の教えは興味深い。

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