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同棲

 その次の日。

 銃を見て恍惚になる男は、ガンショップにはいなかった。私の車のドアにあるスヌーピーの絵には、結構目立つ傷が付いていた。

「夜鶴さん。テレビ点けてください」

 黒のテーブルで奈々川さんが言った。

 私は頭の中では車の修理代で一杯だったが、テレビのリモコンを持った。


「おはようございまーす! 云話事町TVでーす!」

 美人のアナウンサーがいつもの住宅街を背にマイクを一度、隣の藤元に向ける。 

 藤元はなにやら念仏を唱えていた。

「昨日の朝にA区で殺人事件がありました。お悔やみ申し上げます。死亡した……」

 テレビに男の顔写真が出た。

奈賀なか 比企下ひぎしたさん32歳。A区のゴミ捨て場から遺体で発見されています。昨日の警察の調べによりますと、その死体にはハローポイントという銃弾が発見され、犯人は今だ生活中。残念です」

 美人のアナウンサーが頭を垂れた。

 藤元は念仏を唱えるのを止め。

「これでよし。もし、生き返ったら私の事務所へと連絡してください。お願いします」

 美人のアナウンサーが本気でマイクで藤元のおでこを叩いた。

「放送した意味ないでしょ!」


「生き返ってくれればいいのに……」

 黒のテーブルで奈々川さんが俯いてか細く言った。

 それだと……まずい……。

 私は藤元の祈り?が効かなければと願った。

「今日も仕事なのですか?頑張りますね……。仕事が好きなんですね?」

「ああ。って、あれ?」

「どうしたの?」

 奈々川さんがチャーミングなホクロのついた顔を向ける。

「俺って……金のため以外に仕事した時って、あったっけ?」

「わんわ、わん」

 スケッシーは大喜びだ。


「よお。あの男は一体何だったのかな?」

 島田である。

 銃を見て恍惚な顔をする男のことだ。

 私は牛肉をシューターへと入れながら、少し考えた。

「さあ……? 多分、ただの嫌がらせだったのかも知れない。そういう奴って、結構いるだろ」

「それなら、次は銃を抜こうぜ。……どっちでもいいか。会えば銃で撃てばいいし」

「ああ」

 私は今の生活が気にいっていた。とても幸せだ。けれど、結婚なんてできるのだろうか?

「あ、奈々川さんはどうした?」

 島田の興味を持った声に応えようとしたら、

「そうだぞ。奈々川さんはどうした?」

 田場さんが後ろにいた。

「実は訳があって、今一緒に生活しているんだ」

「マジ!」

 島田がひっくり返るように、牛肉を遥か彼方へとポイっと投げた。

「そうか。そうなのか」

 田場さんが納得顔で頷いた。

 津田沼が遠い場所から耳に力を入れていた。


「おめでとう。夜っちゃん」

 津田沼がいつもの日の丸弁当を抱えて、隣の席へと着く。

「あの夜鶴が女と同棲するとはなぁ。大切にしろよ」

 島田は感慨深く言う。

「あ、でも、式は何時なのか決まったのか?」

 島田が小声で真面目な話題に切り替えた。

「そうだ。B区のお嬢様なんだよな」

 津田沼が小声で言う。

「ああ。でも、結婚できるか解らない」

「そんなことねえって、俺が何とかしてやるよ!」

 島田が興奮して弁当片手に立ち上がった。

「おらー! B区の奴らー! 全部まとめて俺が相手だー! やってやるぜー!!」

 B区の奴らが一斉に立ち上がる。私は真っ青になって、島田の暴走を止めるために立ち上がった。

「島田!……あ、何でもない! B区とは揉め事を起こしたくないんだ!」

 少し離れたところにいるB区の男たちに頭を下げた。

「島ちゃん。どうどうだよ」

 津田沼が島田を宥めると、私に向かって小声になる。

「奈々川さんと夜っちゃんが同棲していることが、職場のB区の奴らにバレると血を見るのは必死だから、これから気を付けようよ」

「ああ。……島田はどうするか?」

「あのままじゃ……どうしよう?」


……


 涼しい日光の朝の7時に仕事が終わる。駐車場に止めてある愛車まで島田と歩いていると、また津田沼が血相変えて走って来た。

「B区の奴らが来るぞ! 銃も持っているから早く帰った方がいい!」

 そう息も絶え絶え青い顔をして、言い放った。

「おおーっし! ここは俺に任せろ!」

 島田がベレッタを抜いた。

「いや、俺もやる。これくらのことでへこたれたんじゃ……この先どうしようもないからな……」

「いや、駄目だよ! 仕事中に喧嘩どころか命の危険が増えるだけだ!」

 津田沼が青い顔で捲くし立てた。

「大丈夫さ。田場さんがなんとかするよ」

 私はそう言うと、リボルバーに弾丸を詰め込めた。

 駐車場は結構広い。

 駐車している車は、この工場の関係者だけで駐車スぺースを探すのに苦労しそうなくらいだ。

 回りには帰宅しようとする人たちも疎らにある。

 工場の玄関から数人の男たちが、走って来た。手には銃がある。

「おい! 夜鶴! てめえ! 奈々川お嬢さんと良い仲になっているって! ふざけんじゃねえぞコラ!」

 罵声が数人の男たちの間から出る。

「あ、はははー! 打つぞー!」

 島田が発砲し、私もハローポイントを疑問も付けずに撃った。

「ぎゃあ!」

 一人の男の腹に命中し、その男はアスフャルトの上に倒れる。

 向こうも撃って来た。


 私と島田、そして津田沼は、島田の車の後ろに素早く身を隠す。

車が被弾する。

「ああー! 俺の車に何て事しやがる! 夜鶴!あいつら絶対殺そうぜ!」

 回りの人々が逃げ惑う。

 私と島田は車から少しだけ身を乗り出しては発砲した。相手も応戦する。バリケードの島田の車が、弾丸でべこべこになる。

 何人かの発砲で耳が痛い。

「死ねー!! 貧乏人!!」

 数人の男の中にはウージーを持つ者がいた。

 イスラエル製のサブマシンガンだ。

 大量に弾丸を吐き出し、島田の車が廃車になってしまいそうなので、急いで隣の知らない奴の車へと、私たちは走り出した。

「この野郎―!」

 島田が走りながらベレッタの空になった弾倉を素早く交換した。

私もそれにならって弾倉を交換すると、ゲームのガンシューティングを思い出しながら銃を構えた。

一瞬の出来事だった。

 精神を集中した私はあっという間に、西部劇のガンマン顔負けの腕で、ウージーの奴とB区の奴らを撃ち落としていた。


「夜鶴さん。お帰りなさーい」

 手に付いた硝煙の匂いをそのままに家に着くと、奈々川さんがキッチンでスケッシーと遊んでいる時だった。

「今帰ったよー」

「ご飯は熱々のコンビニ弁当ですよ」

 コンビニ弁当が二人分テーブルに置いてある。

「ああ。でも、俺って朝は食べないんだ」

「え、そうなのですか?栄養取りましょうよ。おいしいですし」

 私はスケッシーの頭を撫でながら。

「この犬も朝は食べないんだ。俺と一緒で」

 奈々川さんが小首を傾げて、

「え、そうなのですか? でも、さっきいっぱい食べてましたよ?」

「え?」

 見ると、スケッシーは大きかったであろうドックフードの塊を食したようだ。口の周りにころころしたものが付いている。

「ね。栄養取りましょうよ」

 私は空いていない腹を気にせずに……。

「解った……」

 奈々川さんが微笑んで、

「あ、そろそろ云話事町TVが始まる頃です。テレビ付けて下さい」

 私と奈々川さんが黒いテーブルに着くと、私はテレビを点けた。


「おはようございます。云話事町TVッス」

 美人のアナウンサーがマイクを握りなおした。背景は珍しくB区のビルディングだ。

「ここB区で殺人事件がとある工場で起きました」

 美人のアナウンサーが声のトーンを少し落として、

「最近多いですね……。けれど、警察の調べが遅れていて詳細はお話出来ません。で……何かが起きているのでしょうか?」

 美人のアナウンサーが藤元にマイクを向ける。

 藤元は神社でお祓いなどで使う棒を一二度振って、

「さあー、解りませんねー」

「解れ!」

 美人のアナウンサーが眉間の皺を気に出来ない程に微笑む。

「では、今日の運勢とお天気は!」

「はい。運勢はA区にある僕の事務所兼マイホームの近くにあるラーメンショップで、ラーメンを二杯食べると……とても良いことが起きます。でも、決して宣伝してるわけじゃありません。そして、今日の天気は……」

 藤元が空を見つめる。

「晴れです……多分」


 テレビを消すと奈々川さんが立ち上がり、

「夜鶴さん。夕食はラーメンにしましょうよ。近所のラーメン屋。そこにしましょう」

 さっきの藤元の今日の運勢どおりの行動を、奈々川さんが実践したがった。

「きっと、いいことが起きるはずです!」

「ああ。そこで食い終わったらスケッシーの散歩を一緒にしたい」

「ええ。いいですよ。私もスケッシーが大好きです」

 私は銃撃戦のせいで、徹夜ハイが通り過ぎて適度な眠気がでるまで、奈々川さんとゲームをした。

 島田の車も無数の弾痕ができて、私の車もスヌーピーの絵のところに傷がある。金がないから修理できないし……。

 弥生も不自由な足の治療も不可能だし……。

 このA区に来たら再び立ち上がれる者なんていないのだ。一生B区の食い物となる運命になる。

 

「うー。わんわん」

 スケッシーだ。

 私は床から起き出して、頭のところに置いてある目覚まし時計を見た。17時少し前。スケッシーは時間に正確だ。隣のベットには奈々川さんが昼寝をしていた。

 私は奈々川さんの寝顔を覗く。目元のホクロがチャーミングなのはもう知っている。向日葵のプリントの付いた黄色のシャツと青のジーンズの姿だ。向日葵が好きなようだ。

 自然に瞼を開けた奈々川さんが、起き上がった。

「ふあ……。さあ、ラーメン屋さんに行きましょうよ。確か二杯でしたよね。しっかりと栄養をとりましょう」

「ああ」

「わんわん」


……


 財布と銃を持って奈々川さんの後を追う。彼女はラーメンショップへとスケッシーをつれて歩いて行く。

「はは。そんなに急がなくてもラーメン屋は潰れないって」

 私は珍しく冗談を言った。

「そんなことありません。現に……お客さんがいませんよ」

 ラーメンショップ(嵐のラーメンという名だ)の店内は客が一人もいなかった。そういえば私はこのラーメンショップの餃子を、島田と津田沼にあげた時があった。まずいが独特の味でまた食べたくなるのだ。


 日課である島田への電話は後でもいい。

 ラーメンショップへと入ると、無愛想な店主と一人の女性バイトがいた。女性バイトが席に着いた私たちに無愛想に「何にする」とメニューを持って来た。スケッシーは私の足元でナルトを要求する。

 店内は少しだけ薄暗くカウンター席だけのようだ。

 店主は奥の調理場だ。

「私。チャーシューメン。夜鶴さん。頑張ってください」

 奈々川さんがメニューを受けずに注文した。

「……俺は餃子と……ラーメン二杯」

 女性バイトがメニューを受け取って奥に行く。

「ねえ。夜鶴さん。私たちって、不思議ですね。何と言うか……私を匿っている……という仲なんですよね?」

 女性バイトの配る御冷やを飲みながら、私たちは小声で会話をする。

「ああ」

 私は下を向いた。

「でも、いつまで……なの……かしら……?」

「うーんと」

 答えがでない。そういえば考えたこともなかった。

「私……ずっと……自由になりたかった。……子供の時から。でも、今は幸せなの。本当に……。何でだろう?」


 ラーメンとチャーシューメンが届いた。


「さあ。栄養取りましょう」

 ラーメンはうまい。

 餃子は……うーん。

 ラーメンを食べ終わると、店主が二杯目を奥の調理場から目を輝かせて作っている。

 店主と女性バイトが何やら目を合せる。

 次の瞬間。

「ハイッ!」

 店主が奥の調理場から空を飛んだ!女性バイトの袂に着地し向き合った!

「ハイッ! ハイッ! ハイッ! ハイ! ハイ!!」

 と両者が両手を信じられないスピードで打ちつける。

 その次は手を繋いで両者は美しいバレリーナよろしく片手を広げ合い。こちらにお辞儀をした。店主がそれを終わらせると、奥に置いてあるラーメンを私の元に静かに置いた。

「百杯目のラーメンです」

 ……

「ラーメン美味しかったですね。また来ましょうよ」

 奈々川さんが私に言う。

「わん!」

 スケッシーもまた来たいようである。

「ああ。餃子をまた食べたいし、来週にでもまたくるか」

「運が良かったですね。特別な百杯目のラーメンですね」

「わん!」

「ああ。藤元に感謝しないと……」

 スケッシーの散歩はまだ続いている。3回と近所をグルグル……。


 途中、藤元さんの家にあの芸能人?の藤元が自転車で帰ってきた。

「あ、藤元さんですよ。そういえば藤元さん家の近くのラーメン屋で……と言っていましたっけ。ご近所だったんですね」

 奈々川さんの家の正面にある藤元さんの家が藤元だった。今まで2年間も何度も通っていたが……。(藤元が云話事町のテレビに出るようになって有名人になったのはつい最近だ。)興味がないので気が付かなかった。

 黒い色の家だった。

「有名人なのに、どうして信者がいないんですかね?」

「さあ。きっと鼻毛が伸びているからだろう」

 私が冗談を言うと、自転車を置いてから藤元が走って来た。

「鼻毛! 鼻毛! 言うな!!」

 藤元が怒っている。

「ああ……。すまん。でも、何で信者がいないんだ?」

 私は顔に近づかれた神社なんかで使う棒を気にせずに言った。

「解りません……。」

 奈々川さんが可哀そうと呟いて、

「あの。百杯目のラーメンを食べて、栄養を取ってみては?信者の人が来るかも……」

「うーん。それしか……無いか……。僕は栄養失調なのかも……。」


 藤元が下を向く。

「テレビで宣伝しても駄目なら……諦めるのは?」

 私が真顔で言うと、

「違う! アナウンサーの人が宣伝の邪魔をするだけなんだ!」

「祈るのは?」

「全然駄目だった……。毎日祈っているんだけどね」

「うーん。やっぱり諦めるのがいいのでは?」

 藤元が泣いた。

 スケッシーが野良犬のメスを発見、早く散歩の続きをと急かす。

「わんわ、わん」

 仕方なく、藤元を置いて散歩を再開した。

「いつかきっと! 信者をたくさん集めてやる!!」

 藤元の断末魔が轟いた。


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