ショッピング
「やっほー!」
島田だ。
全体に青い照明が24時間年中ライトアップしている。その建物は、B区の中央にある。面積は巨大すぎて一日や二日では全てを見ることが出来ないようだ。薄い青で統一された店などは全て外側からガラスの中の商品などが見渡せられるようになっている。高価な宝石からちり紙までを扱っている。フードではハンバーガーからフォアグラまで、いろいろと取り揃えてあり、どれも本格的で値段も本格的だ。そのショッピングモールはB区の金持ちの人たちで毎日ごった返しているようだ。
そこが云話事ショッピングモールだ。
「公さん。私、弥生さんと一緒に12階の婦人服売り場に行きますね。このカードを持っていて下さい。それが、私の予備の財布になります。それと、安い物だけを買わないで下さいね」
晴美さんが悪戯っ子のように微笑んだ。
云話事ショッピングモールは22階建てで、蟻の巣のような広大な駐車場は地下15階まである。
「ああ」
私はカードを財布に挟むと、島田を連れてエスカレーターやエレベーターの近くに必ずある辺りに淡い光線を投影している立体地図へと行った。
「夜鶴、どこに行こうか。ここは初めてなんだよな……俺」
私は一見迷路のようだが解りやすい立体地図を見ていた。私は小さい時に行ったようだが、あの時はもっと凄かったのだから驚愕だ。
「取り合えずは、ゲーセンに行こうか」
そのゲームセンターは二階建てで、遊んでいる人たちは子供から老人まで。照明は七色に人々の頭を彩。まるで巨大なダンスフロアである。
近づいていくにつれ、電気的な音が強くなってきた。
「弥生も云話事ショッピングモールは初めてだったな。金がねえし……」
島田がポツンといった。
私は手頃なゲームへと早速百円を入れ、ゲームをした。勿論ガンシューティングだ。島田はUFOキャッチャーにのめり込んだ。
「うーん」
私が210点のハイスコアをだした頃には、島田はパンダのぬいぐるみを二つ取ったようだ。
しばらく、遊んでいると、通行人を縫うように家具が置いてある店へと入った。
そこは、色とりどりのやや小さめの家具が置いてあるところ。
「あっはー。このソフャなんかもいいな」
島田はレッドのソフャに深々と座り、パンダのぬいぐるみ両手に弾む声を発した。私は黄色のラックを見て楽しんだ。
「次はどこへ行こう?」
再びエスカレーターの近くにある立体地図を見る。
私は今度は晴美さんが好きな向日葵の付いた家具を探そうとした。きっと、喜んでくれるはず。
「おい夜鶴。何か探しているんだったら俺に言ってくれよ。あ、はは!」
ソフャから島田が私の顔を覗いた。
島田の綻んだ顔には、微笑ましいところがあった。
「晴美さんの好きなものを買おうかと……家具がいいな。そう……向日葵の付いたやつだ」
「そうか。なら、あそこさ」
島田が向いの家具売り場にパンダを向けた。
そこには植物や食べ物をプリントしてある家具が置いある店があった。
「俺も弥生に新しい刺繍セットをプレゼントしようかな」
私たちはショッピングを楽しんだ。
奈々川さんのカードで送料込みで色々な買い物を済ました。
後ろには、通路の薄暗い角に不穏な音。撃鉄の音が複数するのを私たちは気が付かなかった……。
昼頃。
私は携帯で晴美さんをコールした。
目の前にあるランチが5千円からの高級中華飯店に入りたくなったからだ。
「夜鶴―。まだかー。俺腹減ったよー」
島田も携帯を取り出した。
「可笑しい。繋がらない……」
私はリボルバーをホルスターから抜いて、島田に合図をした。
島田は合図を受けると、パンダのぬいぐるみを近くのゴミ箱に入れベレッタを抜いた。
「日曜だってのによ」
島田は周囲を警戒したが、時すでに遅く……。
私たちは数人の男女の通行人から巧妙に隠してある銃口を向けられた。
「ここで殺したらさすがにまずいから……そうだねーー。付いて来てもらおうか」
見ると、完璧に少し離れるとそうは見えない変装をした。合田がいた。それに奈賀がいた。
合田は自分は拳銃を持っていないようだ。
「さあ、さっさと歩け」
隠してある拳銃を向ける奈賀に言い寄られ、私たちは抵抗せずに歩き出した。周囲の通行人の幾人かも銃を持ちながら歩く。行先は奥行きのあるエレベーターだ。
地下15階 駐車場
だだっ広い駐車場には、スポーツカーなど高級車が目立つ。
金持ちたちは、今日も呑気に買い物を楽しんでいるのだろう。
「お前ら!俺たちを殺してもすぐに生き返ってやるぜ!」
島田が吠えた。
数人の銃を持った普通の服装の男や女に囲まれ、その奥には武装したノウハウが数体いる。
「ふん。お前ら……後ろを見てみな」
奈賀が私たちの後方を指差した。
見ると、銃を向けられた晴美さんと弥生さんの隣に、藤元がいた。どうやら自転車事故ではなく。捕まったからテレビに出られなかったようだ。
「御免……。捕まっちゃった」
私と島田は顔を見合わせた。
「これで、俺のようには生き返れないぞ。大分前の借りを返す時が来たな……」
奈賀が引き金を引こうとした……。
「ちょっと待って下さい……」
一人の男がこの駐車場に足を踏み入れた。
矢多部 雷蔵である。
「その男を殺しでもしたら。晴美が俺のところへ来なくなるでしょう……」
矢多部は奈賀の銃を降ろさせた。
「矢多部……。どういう意味があるんだ?」
私の質問に笑顔をして、
「結婚早々に悪いけど、離婚してもらうんだ。夜鶴くん。晴美は俺と結婚する」
「な……!」
私は銃を無意識に抜いた……。しかし、島田の分も銃は奈賀と合田が持ち去っていた。空になった手は虚しく空間に浮かんだ。
矢多部の欠落している表情は、晴美さんを……気のせいかな……見て少し赤くなったように見えた。
「お前! 人を道具のように見ているんだな! 晴美さんは人間だぞ!」
島田が珍しく本気になった。
「でも、ハイブラウシティ・B……に、どうしても必要なんだ……。晴美と奈々川首相が……」
矢多部はくっくっと白い歯を見せて静かに笑う。その表情は莫大な金を手に入れるためには人の命をまったく意に介さないようだ。
でも、気付いているのだろうか?晴美さんを見る目だけが少しだけ人間味があるのを……。
「お前……悲しい奴だな」
私はそう言うと、素手で矢多部を殴った。
「痛いな……。それじゃ晴美さん。こっちに来るんだ。離婚届は弁護士を通さないといけないし。処理は手短にしたい。確かB区に在住している人はA区の人と結婚したら、一方的に離婚をすることが出来る権利があるんだっけ。あっ、それに一度離婚をすると二度はないんだよね」
矢多部は頬を摩りながら不敵に笑った。
真面目そうな背広の弁護士らしい男が高級車から音も無く歩いてきた。
数人の男に腕を捕まれていた晴美さんのところへと、弁護士らしい男が離婚届けを差し出す。
「あなたには……何も……あげられません。勝負をしましょう。野球で……。それに勝ったらあなたと結婚します。……ハイブラウシティ・Bにも協力します。……けれど、私たちに負けたら、ハイブラウシティ・Bと……あなたは人間性を持って生きていかなければなりません」
晴美さんが厳しく静かに言う。
「いいでしょう。その代わり三週間後で……。私たちは忙しいんだ。色々と都合の調節をしないといけないし。これからも忙しい。A区がB区に敵うわけはない」
矢多部はとてつもなく大きな運命を決めることだというのに、コクリと頷き欠伸をした。




