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ショッピング

「そうか……晴美は夜鶴くんと…………」

 脂肪を揺らした奈々川首相がポツリと言った。

 薄暗い書斎で、二人が話している。

「ええ……晴美さんにはまいりましたよ。僕のフィアンセは……何というか、扱いにくいですね……。これから、ちょっと野暮用がでてきました。きっと、晴美さんも考え直しますよ。本当に結婚しないといけない人は誰かをね」

 谷多部 雷蔵が白い歯を見せる。その表情はどこか欠落しているようだ。そう……心にあるべきものが無いかのようだ。

「……君に期待しているよ。」

 奈々川首相は、所々薄汚れた書斎で静かに言った。


「どう。今度の日曜日はお互いに仕事休んでさ。ショッピングに行こうや。それと、奈々川さんも呼んでーー」

 島田だ。

「ああ。いいけれど。それと、もう奈々川さんは、夜鶴って名字になったんだけど。……つい最近」

 私は後ろのスケッシーと遊んでいる晴美さんを眺める。

 電話越しにも島田は浮かれているようだ。なにせB区で結婚式を挙げ、首相官邸を重火器でボロボロにしたのだから。勝利とはこんなにもいいものだとは!

「あっははー。悪い悪い。そうだったんだよな。晴美さんその後はどう?」

「いい感じだ。前より明るくなった」

 スケッシーの嬉しそうな吠え声は耳がキンキンとした。

「スケッシー! 凄い!」

 見ると、スケッシーがじゃれながら、メス犬を誘う求愛行動の宙返りをしていた。

「あ、そうそう。しかしなー。ハイブラウシティ・Bはまだ進行しているんだよな。もう一回首相官邸に行って、弾丸を撒き散らすか?」

 島田が電話越しにも解る不敵な笑いをした。

「うーん。……いや、国会に晴美さんが話に行くって。それからどうなるかだな」

「国会かー。俺的にはやっぱり銃を使いたいぜー」

「ああ。でも、なるだけ穏便にしていってもいいんじゃないか? 結構時間も掛かることだし……。それに、奈々川首相と矢多部もどっかに居て……今頃作戦会議なんじゃないかな?  

これからどうするかって?」

「あははははー-。いいねーーー」

 電話が終わる。仕事へ行こう。

 

 私は晴美さんと仲良くキスをしてから愛車へと歩く。

 駐車上の愛車は目立つ傷がなくなりピカピカの光を放っていた。晴美さんがお金を出してくれたのだ。それと、島田の車と弥生の足も治った。

 夜風が冷たくなってきた。けれど、車の窓を開け放って、夜の云話事町を走る。私はこの町が好きになった。今、幸せ中だ。

「お、今日も頑張れ!」

 田場さんが受付にいた。

「夜鶴さん。凄い。B区の首相官邸に殴りこんで、奈々川お嬢様と結婚したの?」

 受付嬢が感心して笑い出した。

「ああ」

「俺も参戦したぜ」

 田場さんだ。

 着替えのためにロッカールームへと行くと、島田が着替えを済まして今出るところだった。

「夜っ鶴―! 楽しかったなー!」

「ああ」

 私はB区の連中がひしめき合うロッカーで着替える。勿論、ピースメーカーはズボンのホルスターの中にある。島田も武器を携帯している。

 何だかんだで、私たちの活躍の一部は云話事町TVで放送されて、世間を騒がしているようだ。藤元も関係者になっている。

 これがA区の底力なのだ。

 B区にいる田場さんと津田沼の力も借りたけれど。

 後はハイブラウシティ・Bだけだ。でも、きっと……そう、きっとだ。きっと、なんとかなる。

作業中もロッカールームでもB区の連中は大人しかった。



休憩時間。

「夜っちゃん。ほんと凄いよねー俺たち。後はハイブラウシティ・Bを止めさせれば今まで通りに労働も出来ていつもの生活だ。でも、新聞によると今だにハイブラウシティ・Bは進行中ってある。きっと、奈々川首相たちは諦めていないようだね。」

 津田沼が日の丸弁当片手に隣の席に着く。

「ああ」

 私は晴美さんが買ってくれた愛妻コンビニ弁当を食す。

「そんなことねーって! オラー、B区の奴ら俺が相手だー! 一人残らず始末してやるーー!!」

 島田は銃を抜いて、立ち上がった。

B区の連中は大人しい。

「島ちゃん。どうどうだよ。」

 津田沼が島田の暴走を丸く収める。

「確か国会には反対勢力もあるって?」

 プチロールキャベツを頬張りながらの私の問いに、津田沼は日の丸弁当の梅干を摘み。

「ああ。そうさ、夜っちゃん。ハイブラウシティ・Bは強引かつ効率的で金儲けができる企画だけれど、やっぱり新しいものは、出る杭は打たれるのさ。政治家たちには、ただそんだけだけど、俺たちにとっては儲けものだよ。奴らは支持率を気にして、俺たちは生活を気にする。そんだけさ。結構共存しているでしょ?」

「ああ。確かに経済的にはハイブラウシティ・Bの方がいいに決まっている……。けれど、俺たちの生活がかかっているんだ。何とかその勢いに乗じてハイブラウシティ・Bをなくさないと」

 突然、島田が首を傾げる。

「夜鶴。気がついんだけどさ。それって、短い期間だけじゃね?」

「……ああ。確かに」

「驚いた。島ちゃん……賢い。その通りだよ。ハイブラウシティ・B自体はなくせないのさ。俺たちがどう頑張っても……。きっと、次の案ではこうしよう、次の案ではああしよう、ってなるんだ」

 私と津田沼は唸った。

「それじゃあ。意味なくね?」

 島田も唸る。

「うーん。……何とか全面的にハイブラウシティ・Bを止めさせることは……出来ないだろうか?」

 私は不安な心をどうにかしないといけないと考え出した。


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