結婚式
――――
トラ箱の中に警察の人に連れられて入る。
警察の人はこの署内には一人だけだ。後はアンドロイドのノウハウが数体派遣されてきた。治安を改善するために、最初に金の流れるところは、やはりこういったところである。
昨日から治安に専心している政治になったのだろう。
夜でも警察の人は交代して一人だけ、後はノウハウだけだ。
前は少人数の警察の人が寝泊まりしていたようだが。
警察所は広くはなく。二階建の建物だ。治安が悪いのは前からだが、今からはノウハウが活躍しようとしている。
トラ箱の中では、
「お飲み物は?」
ノウハウがぼさばさ頭に食事とコーヒーを与えている。
「あー、いやだねー。飯は不味いとんかつとコーヒーだけってのが。」
ぼさばさ頭は何だかんだ言って、とんかつを食べ終わりコーヒーを飲んでいる。
「あ、夜鶴さん。百杯目のラーメン貰って来たかい?」
ぼさぼさ頭が首を向ける。
「いや、無いんだ。」
私は気分が悪く弱い口調になっていた。
「えー。さっき面会で貰って来たんだと……」
私はぼさぼさ頭を一瞥してベットに横になった。
「夜鶴 公さん。お食事は?」
私の隣に来たノウハウがとんかつとコーヒーを持って来た。
私はいらないと言って、すぐに眠る振りをした。
ノウハウは厄介だ。
数体もいるし、銃がないと歯が立たない。島田が何とかしてくれるだろうか?
……
私は夢の中で、野球のエースになっている。
その格好は青いラインの服で、背番号は良く見えないが、自由を得るために必死になっていた。
次の夜。
私は鉄格子を開けるために、島田から貰った針金を持つ。
頑丈な南京錠に針金を通し、しばらくいじくる……。
開いた。
ぼさぼさ頭は眠りこけている。
私は早速、殺風景な廊下へと出た。確か右に行けば外へ出られる扉がある。しかし、すぐ近くにノウハウが立っていた。
ノウハウは無言で立っている。
何も話すことが無く。その金属製の甘いマスクには何も読み取れない。
「こ……故障かな?」
「動かないほうがいいぞ……」
後ろを振り向くと、ぼさぼさ頭が立っていた。
「多分、今端末に通信しているんだ」
「通信?」
私は首を傾げた。
「ああ。誰かと通信しているんだ。警察の人か誰かと」
ノウハウが動いた。
私の腹に鋭いフックを浴びせた。
私は地面に倒れる。
鉄の匂いがするものを口から吐いた。
「どうなっているんだ?! ノウハウが殴った?! こんなに危険なアンドロイドだったのか?!」
ぼさぼさ頭が叫ぶ。
「夜鶴 公。あなたを殺します。不正プログラムの行使。マスターからの殺人許可。それらを遂行します」
私はぜえぜえと息をしながら、何とか立ち上がり、ノウハウから逃げる体勢になった。次に私は顔面を殴られた。
重いパンチだった。顎の骨にひびが入るほどだった。
そして、頭部にもパンチを浴びせられ。
私は眩暈がするほど意識が遠のいた。
――――
奈々川さんが笑っている。
私に何かを話しているが、声が聞こえない。その大きく開けた口からは何も聞こえなかった。何かを必死に訴えているようにも感じる。……悲しい表情になった。
「夜鶴。大丈夫か?」
島田の声だ。
弱弱しく目を開けると、
「ノウハウは田場さんが片づけた」
「う……」
私の顔はどうなっているのだろう。何とか立てるようだが、立ち上がると、島田と田場さんと津田沼が狭い廊下に立っていた。みんな重火器を持っている。
「さっすが! 田場さんのフルオート式ライフル。威力が違うねー!」
島田は私に肩を貸してくれている。
「夜っちゃん。大丈夫。多分、ノウハウが谷多部か奈々川首相の命令で殺人許可を遂行しているんだ。警察の人とぼさぼさ頭の人は逃げて行った」
私は眩暈と吐き気をしながら島田と歩く。
「……奈……奈々川さん」
「駄目だ。夜鶴くんは気を失う寸前だ。俺たちだけで片付けよう」
田場さんが赤いモヒカンをいきり立たせ、ライフルをぶっ放す。ノウハウがわらわらとやって来た。
銃弾はノウハウの顔面に当たり、青い火花が飛んだ。
島田も軽量式マシンガンを乱射。
津田沼は手榴弾を両手に持っていた。
再び目を開けると、田場さんの車の中だった。
仕事の時に見た時がある。黒のジープだ。
「お、起きたぞ。夜鶴。俺の事解るか?」
「……う…………」
私はまだ朦朧としているようだ。
「田場さん! 病院はまだかよー?!」
「もうすぐだ!」
運転席の田場さんはかなりのスピードで走る。
「夜鶴! 死ぬなよ!」
島田の真剣な顔は珍しかった。
「おはようございます。云話事町放送です。昨夜起きた云話事町中央警察署の脱走事件は、今現在ノウハウが数体がかりで捜索し……。続きまして、今日の天気は……」
テレビの音声で病院のベットから目を覚ました。
朝の陽ざしが顔に当たる。
「ここは……B区だ」
私はそう呟いた……。云話事町TV・BはB区にだけ放送している。
「夜鶴くん……目を覚ましたのね。あなた。起きたわよ」
弥生の声で横を見ると、島田が隣でコーヒーを飲むところだった。
「おお! 起きた!」
島田の足元にはスケッシーが尻尾を振っていた。
「奈々川さんは?」
すると、弥生が下を向き、
「……」
「?」
「一週間後。矢多部 雷蔵と結婚式を挙げるって……」
私は眩暈の酷い頭で起き上がった。
上半身だけ何とか起き上がる。
「夜鶴くん、気の毒に……」
弥生が心配な表情でコーヒーを私に渡そうとした。
だが、私は島田の持っているベレッタを握る。
「まだ、寝ていろ。俺が何とかするよ!! 今から矢多辺を殺しに行ってやる!!」
島田は不敵な笑みでギラギラとした目をして叫んだ。
「島田。俺も連れて行ってくれ……。田場さんと津田沼は?」
「しょうがねえな。今、田場さんは武器の調達。津田沼は弾薬や弾丸の調達さ。ノウハウにかなりの弾を使っちまって。すっからかんだ」
私は頭の包帯を取り外し、
「ノウハウはそんなに頑丈なのか?」
島田はコーヒーを一口飲んで、
「ああ、あいつら以外に硬いんだ。結構……弾を使ったな」
「…………ハローポイント……」
「?」
私はスケッシーの頭を撫でた。
田場さんの車の中、助手席に私は座っている。私は島田から借りた一丁のベレッタに、ハローポイントを詰めた。殺傷力が高く。貫通性も強い。これならばノウハウの体を破壊出来るはずだ。
そして、行先は首相官邸だ。
「なあ、多分だが。首相官邸にもノウハウがたくさんいるんだろう?」
田場さんだ。
「ええ。きっといるはずです……」
私は頭を二三回振った。眩暈が少し出てきた。入院はまだ2・3週間あるのだが、途中で抜け出してきたのだ。奈々川さん……。
「夜っちゃん。実は、留置所のノウハウが強すぎて……俺たち命からがらだったんだ」
津田沼が静かに言った。
「大丈夫だって。俺にかなったら、い・ち・こ・ろ・さ。何たって、新品の弾丸は一昨日の三倍さ。ノウハウがどんなに硬くても俺たちの弾丸の雨霰で何とかなるぜ」
島田は不敵な表情をした。ジープの荷台にはこれでもかという弾丸の多さが目立った。
「夜鶴くんの持っているハローポイントなら、何とかなるかも知れないしな」
田場さんは運転席で前方を見つめる。
もうそろそろ首相官邸だ。
「本当にやるの? 夜っちゃん。矢多部を殺して奈々川 晴美さんを連れ出して、そのまま結婚なんて?」
津田沼は声を低くして後部座席から、私を見つめる。その表情は低い確率を気にしている顔だ。
「ああ、何とかなるさ。弾丸を全部使ってしまうことを考えないとな」
「うっひょー! 最高な……スーリール! だぜーーー!!」
島田は車の中で腕を振り回し大喜びだ。
首相官邸
伝統を重んじる広大な日本家屋には所々、煙が立っていた。
辺りに銃撃戦の発砲音が鳴り響く。それも一つや二つ、飛んで四つではない。連続する発砲音は数えることが馬鹿馬鹿しいほどだ。
「おらおらーー! 谷多部はどこだーーー!」
新製品のアサルトライフルを乱射している島田だ。
武装したノウハウが数十体も屋敷に警備をしていたのだ。
マシンガンとハンドガンを持っていた。
地面には警備員と背広の人の死体が何十人と横になっていた。私たちの乱入に血相変えて、床に沈んだ。
私はベレッタでノウハウの頭部を狙い撃つ。
一撃で青い火花が飛ぶ。
私たちはみんなで固まって、周囲に発砲しながら長い廊下を歩いていた。
「夜っちゃん! 早いとこ晴美さんを見つけないと!」
津田沼も歩きながらアサルトライフルで撃ちまくり、警告してきた。そう、弾丸の数には限りがあるのだ。
田場さんはフルオート式ライフルを装備し、警備員とノウハウを狙い撃ち、
「夜鶴くん! 早く!」
ノウハウは無言で撃ってくる。
せせこましい廊下を四人で歩きながら、銃撃戦をしていると、突き当りに出くわす。
「どうやらここらしい……」
日本家屋には似合わない造り、西洋式の部屋にネームプレートがあった。晴美だ。
「奈々川さん。俺だ。開けるよ」
私は眩暈がする頭でドアを開ける。
中は、白で統一されていた。
端にはベビーカー、それと、白いシングルベット。白い机とイス。教科書と漫画がたくさんある棚。
4LDKくらいの大きさで冷蔵庫とトイレがあるが、キッチンがない部屋だ。
「夜鶴さん。ここは私の生れたところです……」
部屋の奥には奈々川さんが机に俯ぶせし、弱い口調で話した。目には涙を湛えていた。
「ここは?」
私はこの部屋で、特別気になったことがある。
一つは年季の入ったベビーカー。小さい赤ちゃんが使った形跡がある。
冷蔵庫には黒のマジックペンで、幾つかの横の線がある。それは子供の身長から大人の身長くらいのところだ。
「君は外へ出たり、誰かと一緒に遊んだりした時がないんだね?」
「ええ、父はとても忙しくて。回りには堅い仕事をしている人たちしかいなかった……」
「悲しい過去だね……」
静かになった首相官邸の中、私たちは奈々川さんと歩く。
「ええ……。でも、それはもういいの。昔のことだし…………。私は気にしていません。それより、こんなに……人を殺して…………」
首相は選挙で選ばれ続ければ、何代でも存在できる。
奈々川さんは、悲しみの涙を流し続ける。
「君に教育していた人は家庭教師だね?その人くらいしか人と出会わなかった?」
「いいえ。屋敷の人たちとは会えました。夜鶴さんって、賢い人ですね。私に起こったことを尽く知ってしまう」
奈々川さんが涙の見せる顔を私に向ける。
島田たちは警戒しながら、少し先を歩いている。
「ああ、何となくそんな気がしたんだ……。君の生い立ちを少し話してくれないか?」
「ええ……」
奈々川さんが少しだけ、涙を拭いて、
「私は、物心ついた時には、もう母はいませんでした。それからは、父はとても忙しくて私の面倒をまったく見てくれなかった……。私の少女時代は友達もいませんでした。相手は屋敷の人と政治などを教える家庭教師と……後はボディガードだけです。家庭教師は能面を被っているような人で、暖かい心は持っていませんでした。食事はその家庭教師が毎日だいたい同じメニューを作っていました。外へ出る時にはボディガードがいないと出られません。屋敷の人たちも……あまり話せなくて……。唯一の自由は漫画の世界だけでした。物心つくと、忙しい父に無理を言っては漫画家を家に招いて、話していました……」
「……」
やっぱり、奈々川さんは悲しい過去を持って、生きてきたんだ。私はこの時に自由の重みがどれくらいなのかを知った。それは、到底一人では持ち切れない。きっと、大勢の悲鳴が必要だ。私は島田から借りたベレッタを握りしめた。
「そういえば、谷多部と首相は?」
「いえ、知りません……」
私たちは、長い廊下を出て広い玄関へと着いた。
少し先に行っている島田たちは、もう外へと出ている。
「奈々川さん。君は矢多部との結婚を承諾したのかな?」
「いいえ。父と矢多部さんが勝手に式を挙げることにしたようです。そんなにも私が必要なのですね。私は最後まで抵抗するつもりでした……」
奈々川さんが、下を向いた。
外へと出ると、相変わらず気分の悪い体調で辺りを見る。谷多部と数十体の武装したノウハウが玄関を取り囲んでいた。




