1.目覚め
初投稿です。よろしくお願いします。
皆さまの誤字報告とても勉強になります。ありがとうございます!
私には前世の記憶がある。あれは7歳になったばかりの嵐の日であった。雨が窓を打ちつけ、稲光が轟く夜のこと、近くで大きな音と空気が揺れた。雷の恐怖に苛まれながらも、きっと近くの森に落ちたのだろうと眠気まなこでそう思った。あと少しで夢の世界に堕ちるその時、さらに近くで雷鳴が響き、ハッとする。その瞬間、脳内に日本で生きた25年間の情報が一気に流れ込んできた。そう、前世というやつだ。自分の名前も顔もぼんやりしているが、生まれてから死ぬその時まで、前世の人生が走馬灯のように駆け巡る。突然のことで、幼い身体は驚いたのであろう。キャパオーバーとなり、私はそのまま意識を手放した。
嵐は過ぎ去り、陽の光を感じ目が覚める。喉がカラカラだ、水が欲しい…。呼び鈴を鳴らすと、侍女のマリアがものすごい勢いで寝室へと飛び込んできた。
「お嬢さま!!!?」
そう、現在の私はお嬢さまである。ラングトン王国のフォードヒル侯爵家第一女オリビア・フォードヒルである。深みのある青いサラサラなストレート髪、エメラルドのような翠色の瞳。自分で言うのもなんだが、まぁまぁな美少女である。少しつり目のいわゆるクールビューティーだ。おっと、詳しい自己紹介は後ほどするとして、現在に戻ろう。
「お嬢さま!!!?お目覚めになられたのですね!!」
「…おはようマリア、喉がカラカラなの。水をちょうだい。」
「うぅぅ…すぐにご用意いたします!はっ!旦那さまー!奥さまー!!」
と、涙を浮かべて水より先に飛び出して行ってしまったマリアは、私付きの侍女である。明るく朗らかで優しいのだが、すこーし落ち着きがないのが玉に瑕だ。そんな慌てん坊のマリアが飛び出していってしまったため、ベッドサイドにある水差しを手に取り、水を1杯2杯と飲み干す。染みる…随分と喉が渇いていたようだ。すると、寝室の外が騒がしくなり、今度はこの家の女主人である母カーリーが飛び込んできた。
「オーリー!!!!」
「お母さま!!おはようございます?」
貴族である我が家は、母親が起こしにくる習慣はないため、思わず疑問系になってしまった。やってきたお母さまも涙を浮かべ、この小さい身体に抱きついてきた。それはもうギュウギュウと。苦しい…。お母さまに苦しいと訴えようとしたところ、次に登場するのは、この家の主トーマス・フォードヒル侯爵である私の父だ。
「オーリー!!!!」
その呼びかけに応える間もなく、がしっ!と音がするほど強くお母さまごと抱き込む。これまたギュウギュウに。苦しいに痛いが追加されたのは言うまでもないだろう。
「お父さま、お母さま、くっ、苦しいです!」
「おぉぉ、すまんな。」
「オーリー!オーリー!私たちのオーリー!!」
と、お父さまは離れてくれ、お母さまは腕を緩めて私の顔を覗き込む。ふぅ痛かった。
「おはようございます。お父さま、お母さま。お二人とも、今朝はどうしたのです?」
「もう!あなたは3日間眠り続けていたのよ!何度声を掛けても、身体を揺らしても目を覚さなかったのよ!お医者さまに診せても眠っているだけで異常はないって言って、全然役に立たないし…。あぁ、でも良かった。どこも辛いところはない?大丈夫??あぁ、良かった…。」
「心配で心配でお前を失うのではないかと思うと、本当に辛かった。目が覚めて本当に良かった…。」
何と言うことだ!!前世を思い出したせいで、脳がオーバーヒートしたのだろうか?3日も寝ていたなんて!そら水が染みるわけだ。グゥーー。自覚したらお腹が空いてることを思い出したようだ。わかる、わかるがお父さまたちの前では恥ずかしい。時を選んでくれよ我が腹よ。
「うふふ。お腹が空いたのね。そうよね!すぐに準備させるわ!マリア!」
「はい!奥さま!ただいま準備いたします!」
そして、もうしばらく休むよう言われ、お父さまお母さまそれぞれが両頬にキスをし、私はお言葉に甘えてベッドから見送った。休んでいると、フルーツとリゾットのようなものが運ばれてきた。フルーツは瑞々しく、リゾットは優しい味…当家の料理人は優秀だ。消化に良さそうなものを適度な量で用意してくれたため、完食することができた。マリアに手伝ってもらいながら湯浴みをし、身綺麗にしてから状況を整理する。