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第7話「10万人に1人の逸材」

 この世界には、「ライセンス」というものがある。


 たとえば冒険者協会が発行する「冒険者ライセンス」、魔法評議会が発行する「魔導士ライセンス」などだ。


 他にも、国や色々な団体が発行する各種のライセンスがある。


 当たり前のことだが、この世界には冒険者だけではなく色々な人々が生活しているのだ。

 パン屋さんもいれば、修道士や大工さんもいる。


 そして、その中にはライセンスを取得していないだけで、実際にはとんでもない実力を持っている隠れた猛者達がいた。

 


 今、俺の目の前にいるエルフ修道士「フィン・フィルディン」がまさにそうだった。


 


 この男はライセンスでいえば、【D級聖職者】しか持っていないが、もし実力が正当に評価されたならA級上位に分類される実力を持つ男だ。


 専門ではない冒険者になったとしてもA級になれるだろう。


 にも関わらず、彼は色々と事情があってD級に留まっているため、彼の実力は身近な者たちしか知らない。


 まさに、隠れ強キャラである。


 ちなみに、バリエッタ王国は7000万人の人口を誇る大国だが、それでも個人(ソロ)でA級ライセンスを取得している者は、冒険者だけで20数人。全種類のライセンスを合わせても、()べ300人ほど。


 しかし、ライセンスを持っていない隠れた実力者を合わせると、A級相当の者は700人ほどになる。

 そう聞くと多いように思えるかもしれないが7000万もいて、たった700人。


 10万人に1人の逸材だ。



「…こ、こんにちは!ソージといいます。

 突然来てしまってすみません。」

「いえ、いいんですよ。

 トルシェから聞きました。

 大怪我をなさっているのでしょう?」



 フィンの丁寧な口調は、上品な暖かさと鋭さを併せ持っていた。


 透き通るような黄緑色の短髪。

 頭を覆わないタイプの、真っ白な修道服。

 白く輝く健康的な肌。

 モデルのように見事な8頭身。

 希望に輝く活力に満ちた瞳。

 そして、エルフの特徴である縦長の耳。


 あまりに幻想的な佇まいに、俺は答えるのも忘れ、息を呑んでいた。



「…ソージさん?どうされましたか?」

「…ぁあ!すみません!なんでもないです!!」

「ふふっ。

 フィンさんに初めて会う人は

 みんなそうなるんですよ。

 わたしもそうでした!」



 慌てて返事をする俺を、フォローする様にトルシェがそう言った。



(ふぅ〜、びびった。

 エルフってのは直に見るとこんな綺麗な生き物なのか……。

 男なのに思わず見惚れちまったぜ…。)



 一応言っておくと、俺はソッチ系と言うわけではない。

 ただ、造形物としてのあまりの美しさに圧倒されていただけだ。



「それでは、ソージさんの傷を診せて頂けますか?」

「はい、よろしくお願いします。」



 フィンは、ソファに座っている俺の前に片膝をつき、胸や首の傷を診はじめた。



「確かに、これは深い傷ですね。

 とても薬草では治りきらないでしょう……。

 生き延びることが出来て、ほんとうに良かったですね。」

「そうですよね!

 わたしも見た時ビックリしました!

 ソージさんは天に守られているとしか思えません!」

「はは…ありがとうございます。」



 裏ワザの力とはとても言えないが、ある意味それも天の力と言えるのかもしれない。



「なるほど、傷の状態は一通り分かりました。

 それでは、治癒しますね。」



 フィンはそう言うと、

 患部に手を当てて目を閉じてから言った。



「『天と地の造り主である神様。今、ここに癒しの力を注いでください。』」



 それは祈りの言葉だった。

 落ち着いていてとても静かだったが、

 それでいて力強くハッキリと聞こえる声だった。


 “祈り”は魔法ではない。

 魔法は人間の魂に宿る魔力を解き放つ力だが、

 ”祈り”は、()()()()を解き放つ力だ。


 そう言うと、何でも出来るかのように聞こえるかもしれないが、実際にはそんな都合の良いものではない。

 自分の力ではないからこそ、許された範囲でしか力を発揮できない。

 つまり、神の御心に沿って、正しい心で、正しい目的のためでなければ、祈りは力を発揮しないのだ。

 さらに、日々の生活を神と密接に生きていなければ、強力な祈りにはならない。



 ところで、多くの場合に“祈り”というと神聖で厳かなものを思い浮かべるかもしれない。

 しかし、フィンの祈りは意外にそうでもなかった。

 もっと血が通っていて、心を込めて日常の挨拶をするような、そんな感じだ。


 フィンにとって”祈り”とは、特別に荘厳にやるようなものではなく、日常の中にあるものなのだろう。


 だからこそ、神との繋がりは強いものとなり、日常の中にその力を解き放つ。



 フィンが祈り終えると、彼の髪色と同じような、

 黄緑色の穏やかな光が、傷口を包み込んだ。


 暖かく、心地よい感覚が広がる。

 傷口から活力が流れ込んでくるようだ。


 しばらくすると、光は消え俺の傷はすっかり治ってしまっていた。



「…すげぇっ!全然痛くねえっ!!」

「良かったですね!ソージさん!!」

「無事に治ったようですね。

 一応、この後も様子を見て、

 また痛むようでしたら言ってください。」

「うおお!…動く!体が動くぞ!?」

 

 久しぶりの健康な体に、俺は歓喜していた。

 というか、コッチに来てすぐに怪我したから、

 ある意味、まともな健康体は初めてのようなものだ。


 無職とはいえLv.100になり、

 裏ワザで年齢も17歳と若返ったのだ。


 すこぶる調子が良い。

 こんなに体が軽いと感じたことはない。

 

 俺は気分が良くなり、いつもの病気が発生した。



「———クク。ククク!クゥーッハッハッハァ!!

 よくぞやってくれた!

 エルフの修道士フィン・フィルディンよ!!

 実に大義であった!!

 この俺を助けた功績は偉大であるぞ?!

 褒美をくれてやろうじゃぁあないか!」 

「…!そ、そーじさん?!」

「…どうしたのですか?!

 ……はっ?!まさか!

 盗賊に襲われた際に、遅効性の精神干渉魔法をっ?!

 おのれ、盗人(ぬすっと)!何と卑劣なことをっ!!」



 急変した俺の態度に、トルシェはキョトンとし、

 常に冷静だったフィンは、初めて慌てた声を上げて、推測を始めていた。

 

 しかし、フィンの推測は全くの見当違いだ。


 俺はニヤリと、口角を上げた。

 気色の悪い笑みを浮かべて、

 そして、真実を告げた。



「——エルフよ。それは間違いだ。

 俺の精神ならば、既に26年前からヤっている。

 貴様の祈りでさえ、治らない程度にな!!」

「そーじさん!?なにを言ってるんですか?!」

「……どうやら重症のようですね。

 人格破壊に、記憶障害まで与えるとは。

 この魔法を掛けたのは相当なやり手のようです!」



 うん、まだ勘違いしてるみたい。

 まぁ、いいや。

 だって俺の(たかぶ)る厨二魂は、

 こんな中途半端な所で止まれないだろう?


 というわけで、2人の反応をガン無視して、続けた。



「———述べよ。」

「へ?」

「は?」


 …。

 しばし流れる沈黙。



「———述べよ、エルフ。

 貴様の望むものを。

 この傷を癒してくれた恩、

 必ず報いてみせよう!

 何でも望むものを言ってみろ!!」

「…え?

 傷の治癒を自覚し、

 恩に報いようとしている…?!

 まさか……

 精神干渉魔法を受けたわけじゃ…ない?」

「そうだと、言っておるだろう!!」

『えええーー!?!!』

 

 フィンとトルシェが同時に叫んだ。

 どうやら、やっと気付いたようである。

 

 彼らが驚くのも無理はない。

 精神干渉魔法でないとすれば、

 真性のキチガイ以外の何者でもないのだから。


「クククッ。

 この姿こそ、真の俺。

 光栄に思え。

 貴様らは、俺の真の姿を見ることができたのだからな!?!」

「あ、ありがとうございます…。」



 合わせるしかないと悟ったのだろう。

 ひくひくと、顔を引き()らせながらトルシェは礼を述べた。



「…はっ?!まさか!

 実は、ソージさんは凄く立場のあるお方なのでは?!

 どこかの国の失われた王家の血筋とか?!」

「…いや、違う。」


 

 うん、フィンは天然なのだ。




「とにかく、欲しいものを述べよ!

 フィンだけではなく、トルシェにも世話になった。

 2人とも、遠慮せずに言えい!!」

「え、えーっと、それじゃあ……あ!

 裁縫道具!裁縫道具を!

 最近、古くなってきて困ってたのよね〜。」

「…ふむ。ちと、庶民的すぎるが、まぁよかろう!」


 反応に困っていたトルシェが、

 しばらく考えてから言ったのは、

 えらく現実的なものだった。


 次に、ようやく、()()だと理解したフィンが、クスクスと笑いながら聞いてきた。



「ふふふ。何でもいいのかい?」

「無論だ。」



 心なしか、口調が砕けている。



「じゃあ、私は”フェアノールの聖弓”で。」

「…ぶふぉっ!!」

「ふふ。さすがに無理だったかな?」


 

 今度はとんでもない物を言ってきた。


 フェアノールの聖弓とは、

 古の龍王を倒したとされる古代七勇者(こだいしちゆうしゃ)の一人、

 エルフ族のフェアノールが使った弓のことだ。

 

 彼の弓は、無敵の龍の鱗さえ貫いたと言われ、

 エルフなら誰もが憧れる代物だ。

 その聖弓は世界のどこかに

 必ずあると言い伝えられているが、

 一万年もの間見つかっていない。


 そんなものを言うとは、、

 どうやら、完全に冗談だと思っているようだ。


 しかし、俺は制作者。

 当然、聖弓の在処(ありか)を知っている。

 もちろん、簡単に行ける場所ではないが。



「よかろう!

 この俺の名誉に掛けて、

 いつの日か、必ず貴殿に、

 かの聖弓を進呈しよう!」

「うん、楽しみに待っているよ!」



 微塵も信じていないであろうフィンは、爽やかにそう応えた。

 

 ククク。

 本当に持ってきて、そのイケメンマスクを、

 驚愕の表情に塗り替えてやるのが楽しみだ。




 ぐぐぅう〜〜っ!!!


 

 と、唐突に鈍い音が鳴り響いた。

 俺の腹の音だ。


 そういえば、俺はこの世界に来て以来、未だに何も食べていなかった。

 傷の痛みが消えたことで、脳が空腹をキチンと認識してしまったようだ。



「…あらっ。ソージくん、ぜひ、食事もしていって!」

「…!ト…トルジぇざん、、

 たずがりまずぅうー!!

 ありがどゔございまずぅうーー!!!」



 天使のような一言に、

 涙ながらに謝意を伝える。


 いや、冗談抜きで助かった。

 俺は今、一文なし。

 こんなに有り難いことはなかった。



「ふふ。

 ソージくんが来てくれて、私達も嬉しいよ。

 しばらくしたら、子供たちも帰ってくるから、

 良ければ遊んであげてくれるかい?」

「はい、喜んで!

 ところで、フィンさん。

 まだ、キチンとお礼を言ってませんでした。

 治癒して頂いて、本当にありがとうございました!!」

「いや、当然のことをしたまでさ。」

 


 礼も言えないようでは、厨二の名が廃るというものだ。

 

 ところで、俺の厨二病が全力で発症したことで、どうやら二人との距離を縮めることができたようである。

 気がつけば、二人の口調が親しみを感じる柔らかいものになっていた。

 呼び方も”さん”から、”くん”に変わっている。


 普段、子供たちを相手にしている人達だ。

 本来はこちらの方が自然体なのだろう。


 ゲームでは、これは味わえない。

 人との関係の些細な変化。

 

 それを、自分が作った世界の人達と味わえる喜び。

 俺は少しだけ嬉しい気持ちになったのだった。







つづく

 







————



※補足 (フィンのステータス)




【フィン・フィルディン】

 妖人(ようじん)耳長族(エルフ)),男 , 706歳

 国 :バリエッタ王国

 所属:聖ウノ教会>アデル修道会ヴェルニカ

 職業:修道士〔 中:Lv.22〕


【ライセンス】

 聖職者〔D〕


【既修職】

 祈り人〔超〕 聖詩人〔超〕

 弓士 短剣士 狩人 学者 水魔法使い

 聖戦士〔特〕


【特性】

 信仰心 勤勉 忠実 不動心

 銀鈴の歌声 聖眼〔初〕 光の加護〔初〕


【称号】

 《陰の祈り手》

 《密室の祈り手》

 《不屈の賛美者》

 《聖なる求道者》

 《聖威〔上〕》


※本日20時までにステータスに関する設定資料を載せます。

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