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第36話「破壊王」

 その日、通達された作戦は至ってシンプルだった。


 まず、チューニートの稲妻竜巻(サンダーストーム)で可能な限り敵を減らし、その上で砦は防衛に徹すること。

 

 これだけである。


 まあ、チューニートに任せておけば1日辺り約7万の敵を減らしてくれるのだ。


 敵が数十万の大軍だろうと、数日かければ確実に勝てるのだ。


 無理にリスクを犯さず、安全に勝利を掴むための作戦を取るのは当然だろう。


 稲妻竜巻(サンダーストーム)だけでは、上位の屍人は倒せないが、全体の数を減らせば、それも幾らでも対応のしようがある。


 余程のことがない限りは、大丈夫だろう。


 

 そういうわけで、俺は今、昨日と同じようにクリム、ミモザと共に邪竜の背に乗って、ルギアスの上空を飛んでいた。


 空から見る戦場の景色は壮観である。



 ルギアスの街を囲む城壁は壮大で、その上にはズラリと並ぶ屈強な軍人達。

 こんな砦が落とされることはあり得ないとさえ思える盤石ぶりだ。

 

 しかし、それに対峙するのは、果てしなく続くように見える屍人の大軍。


 途方もない数の力。

 さらに上位個体に至っては個人でも圧倒的な武力を誇る。


 この戦力であれば、ルギアスの砦を落とすことも可能だろう。


 ——しかし、それは俺たちがいなければの話だ。



『よし、それでは始めるぞ。』

「ああ! やってくれチューニート!」



 邪竜はゆっくりと大きく旋回を始め、徐々に速度が上がっていく。


 次第に風が吹き荒れ、竜巻が巻き起こった。


 そこにチューニートが稲妻の光線を浴びせると、竜巻はバチバチと雷光を発しながら、人を蹂躙し始めた。

 



「フハハハハ!!!

 何度見ても壮観だな!!」



 理不尽なまでの破壊の嵐を見ながら俺は意気揚々と叫ぶ。

 同時に、大量の経験値が入る。


 ちなみに、転職は今日の戦闘前にちゃんと済ませており、今の俺の職業は【奇人】である。


 今の攻撃でレベルは、〔見習い:Lv.1〕から〔中級:Lv.67〕まで上がった。


 さすがに三つ目の職業ともなると、2万の屍人の経験値でも雑魚ばかりでは一気に【修職】とまではいかなかった。


 だが、問題ない。


 この調子で毎日敵を屠っていけば、上手くいけば戦争が終わる頃には【夢人】になれる可能性もある。


 そうすれば、俺は一気に最強。



 クク。

 ククク。


「クゥーッハッハッハッハァ!!!!

 始まる!

 始まるぞ!!!

 俺様の時代がぁあ!!!」

「きゃあっ!

 ちょっと、ソージさん!

 戦闘中なんですよ!?

 いきなり叫ばないでください!!」

「だまれ、このクソビッチが!!」

「な!? び、びっちですって?!??」

「ククク!

 キサマ、昨日の夜、酔っ払ってどんな痴態でセスクに迫っていたか覚えてないらしいなぁあ?!」

「…え? わ、わたし、そんな変なことして??」

「大丈夫ですよ! ミモザさんは、いつも通りでした!!」

「そ、そうですよねクリムさん!

 …よかったぁ。

 ソージさん! あなたには騙されませんよ?!」

「…ククク。

 クリムよ。お主も悪よのぉ。」

「ふふ。知らない方が幸せなこともあると言うでしょう?」

「フゥーッハッハッハァア!!

 その通りだな!!! 魔導士よ!!」

「ふふふふふふ。」

「…え? ちょ、クリムさん??」



 と、まあ、俺達はチューニートの背に乗りながら和気藹々としながら、戦闘を行っていた。


 そんなに余裕をかましていられたのは、邪竜の力によって、ほぼノーリスクでの勝利を確信していたからだ。


 このまま、敵の攻撃の届かない安全圏から稲妻竜巻で敵戦力を削ぎ落とし、生き残った上位個体を軍の精鋭部隊に始末して貰う。


 後は、作戦通りに遂行するだけ。

 言わば作業のようなものだ。


 決して油断していると言うわけではないが、不安もない。


 だから、冗談を言う余裕もあったのだ。



 ——ところが、事態は予想通りに進んではくれなかった。




『…む? あれはなんじゃ??』



 突然、屍人軍の中央付近が空間ごと紫色に染まり出した。


 それは急速に広がり、辺り一体を覆う。

 

 ドス黒い紫色の何かは、不気味な空気を孕んでおり、見る者に恐怖を与える恐ろしさがあった。



「…まさか転移魔法か??」

「転移魔法?! 闇魔法の禁忌に分類される秘技ですか?

!」



 俺の呟きに魔法に精通しているクリムが反応した。

 


「ああ、多分そうだ。」

「多分…?」

「俺も直に見るのは初めてなんだ。

 だが、転移魔法を発動する場合、ドス黒い紫色の空間が広がるはずだ。」

『…ふむ。 問題は、一体誰が転移してくるかじゃのう。』

「そうですね。 敵か、味方か。」

「闇魔法の禁忌を使うような奴だ。多分、敵だろう。

 …それも転移魔法を使えるくらい強い奴だ。」

「ええ、身を引き締めないといけませんね。」



 俺達は意識を集中させ、緊張しながらドス黒い紫の空間に現れる存在を待った。


 まず最初に出て来たのは、地を這う巨大な赤黒いサソリのようなバケモノだった。


 次に出て来たのは、濁った緑色をした巨大蜘蛛の怪物。


 次に、不快な羽音を撒き散らすグロテスクな蝿の群れ。


 そして、全身を藍色の長い毛で覆われた獅子のような何か。



 ソイツらは四種の屍獣だった。


 膨大な魔力を秘め、醜悪な見た目の化け物たち。


 昨日、屍竜を倒したことで、コイツらを送って来たのかもしれない。


 だが、それだけなら、まだ想定内だった。


 問題はその後に出てきた。


 ソレは昨日倒したのと同じような屍竜に乗っていた。


 人型の形をしているが、人には見えず、見るからに凶悪で、獰猛な獣のような姿をした巨漢。


 顔は歪んでおり、醜悪な目つきで、見ているだけで恐ろしくなる。


 尋常ではない程の存在感を放っており、ソイツの周囲の空間は歪んでいた。


 さらに特筆すべきは、その姿を確認した屍人共がこぞって地に伏せ、頭を垂れたこと。


 屍人共がそんな態度を取る存在は限られている。


 当然、俺はソイツを知っている。



「…破壊王、だと?」

「…!? まさか、屍王自ら!??

 そんなの聞いたことありませんよ!?」

『破壊王? なんじゃそ奴は…?』



 ツー、と。

 額に冷たい汗が流れるのを感じながら、俺は邪竜に答えた。



「…チューニート。 

 お前が、100%の力を解放しても勝てるかどうか分からない怪物だ。」

『…なんじゃと?』

「…そ、そんなに強いんですか!?

 やばいじゃないですか!!

 どうしま……!??」



 ドゴォン、と。

 ミモザが言い終わらない内に、背後で激しい轟音が鳴った。


 振り返ると、鉄壁を誇るルギアスの城壁に大穴が空いていた。



「…え?」



 思わず、間の抜けた声を出してしまうミモザ。



「イクゾ!! 街を攻メ落とセ!!!」

『ウォオオオォオオオオ!!!』



 次の瞬間には屍人達が大声を上げて、大穴からルギアスの内部へ侵入するべく突進を開始した。



「…くそっ! チューニートッ!!

 急いで稲妻竜巻(サンダーストーム)を発生させろ!!

 街に近づく屍人共を蹂躙するんだ

 ひとりも街に入れるな!!」

『了解じゃ!』



 ところが——



「…がはっ!?…ぐぁ……」



 次の瞬間、激しい衝撃と共に視界が揺れる。


 気がつけば俺たちは吹き飛ばされており、城壁に叩きつけられていた。


 破壊王の攻撃を受けたのだ。



「ぐぁあおああ!!!」

「…え、"全体回復(エクスヒール)"」



 一瞬でボロボロにされた俺たちだったが、クリムが何とか全員に回復魔法を掛けてくれたことで持ちこたえた。


 俺はそれと同時に右腕に短剣を突き刺し、大量の血を流し、チューニートに力を与える。


 だが、次の瞬間には破壊王が俺の目の前に立っていた。

 つまり、チューニートの背の上に——。



「…な!?!!」

「ソージさん、離れて!!!」



 咄嗟にミモザが俺を、引き離すように弾き飛ばし、その勢いのまま破壊王に斬り掛かる。


 そこにクリムが反応し、ミモザへの支援魔法と、屍人を弱体化するための祈りを発動した。


 A級魔導師の支援を得たミモザの鋭い斬撃は、世界最強の存在へと容赦なく襲いかかる。


 だが、破壊王はそれを防ごうとすらしなかった。


 ミモザの剣は対象に触れることすら出来ず、その手前で何かに押し留められるように止まってしまった。


 そして、その化け物は俺たちのことなど気にも留めず、邪竜に対して話しかけた。



「ケハハハハ。

 屍竜を倒したドラゴンと聞いて、期待していたが案外大したことないな…。

 おまえ、力の制限を受けているのか?」

『…む? それが分かるのか??』

「ああ、そのくらいのことは見える。」



 破壊王の言葉は、屍人族とは思えないほど流暢で、それが逆に不気味さを増していた。



「まあ、俺様が用があるのはドラゴンだけだ。

 他の雑魚どもには死んでもらうとしよう。」

「…!?」



 そう言って、奴はこちらに手をかざした。


 圧倒的な力を前にして、俺たちは何もすることが出来ない。


 恐怖のあまり声も出なかった。


 おそらく、破壊王が特性【威圧】を発動したのだろう。


 だが、本来であれば破壊王と同格のチューニートだけは、口を開くことが出来た。



『待つのじゃ! 我に用があるのじゃろう?

 そやつが死ねば、我も消えるぞ?』

「…ほう? それはどういうことだ?」

『我はそやつの右腕を媒介として、異界から召喚されておるのじゃ。

 そやつが居なくなれば、我は異界から出てこれんくなる。』

「なるほど。 興味深いな。

 それなら、とりあえずコイツらもまとめて連れて行くとするか…。」



 破壊王は真横に左手をかざし、空中に黒っぽい紫色の空間を産み出した。


 さっき、屍獣と共に破壊王が転移してきたソレだ。



『そうはさせん! ぬぅん!!』



 チューニートは、連れて行かれまいとして、破壊王を振り落とすように空中で暴れ回る。


 だが、破壊王が手の平で邪竜の背を軽く触れると、ものすごい勢いで地に叩き落とされ、身動きが取れなくなってしまった。



「クククク!

 素晴らしいぞ!!

 制限を受けていて、それだけの力があるのか!

 ますます、楽しみになってきた!!」



 そして、次の瞬間には邪竜もろとも俺たち全員が、破壊王の魔力によって空中に持ち上げられ、黒っぽい紫色の空間の中へと放り込まれた。



 俺たちは、一切の抵抗が出来なかった。


 それどころか、声もあげられなかった。



 圧倒的な暴力。


 腕力も、魔力も、スピードも。

 何もかもが桁違いで、考える余裕さえくれない。


 これが、破壊王。

 これが、八屍王。


 まさか、屍王が直接戦場に乗り出してくるとは思わなかった。


 だが、なぜそこに思い至らなかったのか。


 ここが現実ならば、屍王が戦場に出てこない理由はどこにもないのだ。


 あれほど、思い知らされてきたはずなのに、どうやら俺はまだゲーム感覚だったらしい。


 油断して、失敗して、反省して、成長した気になって、また失敗する。


 同じことの繰り返し。


 自分で自分が嫌になるが、後悔している暇はない。


 何とか、この状況を打破するために行動しなければいけない。


 幸いなことに、今は周囲が濃ゆい黒紫の空間に包まれて、何も見えない為なのか、【威圧】の効果が薄れている。


 霧が晴れて、転移先に出る前に今できることはないか?


 そう考えて、俺は持ってきていた回復薬などを入れている携帯用の腰掛けバッグからあるものを取り出した。


 おっさんずクラブで作って貰った、厨二武具である。


 サングラス、ガントレット、マント、無駄な装飾を施した漆黒の衣服。


 俺は素早くそれらを身にまとい、全身を厨二装備で固めた。


 これで精神力が高まり、【威圧】が発動しても動くことくらい出来るだろう。


 残念ながら、厨二武具は自分の分しかないが、精神力を高める装備なら、【落ち葉の指輪】が幾つかある。


 その辺に落ちて枯れた葉っぱを素材に使った、正真正銘のA級武具である。


 それをミモザとクリムにも渡して装備させた。



 ----そして、いよいよ霧が晴れた。



 視界に飛び込んできたのは巨大な玉座。

 その両端には獅子や、竜の形をした気味の悪い銅像が建っている。

 玉座の上の方には、大きな屍人の文字。


 その部屋は暗くて広大な洞窟の中の様に思える。

 天井は高すぎて見えない。


 玉座からは、真っ直ぐに黒紫の絨毯が伸びて部屋を縦断し、それを取り囲む様に左右に屍人共が整列していた。



「…こ、ここは?」



 精神力を高める指輪を嵌めて、なんとか喋れるようになったミモザが困惑の声を上げた。


 当然、俺も初めて来る場所だが、ここがどこか制作者である俺には分かる。



「…破壊王のアジトだ。」



 それは恐怖と絶望の巣窟。

 

 メガトラオムの歴史に置いて、ここまで足を踏み入れて、生きて帰ってきた人類は存在しない。



「ケハハハハ!!!

 ようこそ、我が領地へ!

 ドラゴンとその一行よ!!」



 この日から、途方もない地獄の日々が始まることになった。







つづく

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