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第33話「罪責感」

 その夜、俺達はルギアスの砦に、1人1部屋ずつ宿泊部屋を用意して貰った。


 ただでさえ英雄セスクの仲間なのに、敵を大勢倒した活躍も相まって、指揮官クラスの重鎮が使うようなVIP待遇の部屋をハザック将軍はあてがってくれた。


 その際、ベイムラスだけは「卑しい鬼人族に上等な部屋を使わせていいのか」と配下からのクレームがあり、少しゴタゴタがあったのだが、ハザック将軍が「この方達に無礼を働くな!!」と激怒し、無事に同じ待遇を受ける事が出来た。


 ハザック将軍も、普段は多少鬼人差別をしているようだが、今回の俺たちの圧倒的な活躍では流石に気が引けたらしい。


 そんなこんなで、最高級の部屋を用意された俺たちは、明日の戦いに備えて各自休息を取っていた。


 ふかふかのベッドに、座り心地の良い椅子。

 上品な食卓と、その上に乗っている色とりどりの果物。


 まるで貴族かのような豪勢な部屋で、俺は物思いに耽っている。


 今回の戦争についてだ。


 本来の歴史では、あり得ないタイミングで戦が始まった以上、俺の存在が原因であることは否めない。


 先ほどは、セスクの特性である【勇敢】を共有してもらうことで、何とかいつも通りに振る舞っていたが、それが消えてしまうと途端に不安が押し寄せてくる。



『お前のせいでこんな事になってしまったんだぞ』


『何が戦争を止めるだ!

 逆のことをしてるじゃないか!!

 謎と危険の森(ミスティリスク)でも同じだっただろ!!』


『お前が行動すると不幸が起こる。もう何もするな。』

 


 そんな自分を責め立てる声が、次から次へと心の中に響いて仕方がない。



 ——コンコンッ、と。



 俺が頭を抱えていると、ドアがノックされた。

 


「——ルシウス・プリメイラと申す者ですが、ソージ様はいらっしゃいますか?」



 たしかその名前は、今日戦場で助けた兵士だ。

 気を失っていたが、目を覚ましたようだ。



「はい。 いますよ。 どうぞお入りください!」

「ありがとうございます。失礼致します。」



 扉が開く。

 そこにいたのは、桜色の髪をした壮年の戦士。


 やはり、昼間に助けた人物だった。

 つまり、逃げ遅れた避難民の囮になった兵士の最後の生き残りだ。

 


「この度は、命を救って頂き、誠にありがとうございました!!」



 開口1番、誠心誠意の感謝を口にする男。

 深々と下げ頭を一向に上げようとしない。


 だが、感謝するのはこちら側だ。


 というのもハザックから、この男はルギアスの第三軍団を率いる軍団長で、囮になることもこの男からの直訴だと聞いている。


 つまり俺が原因で死ぬかもしれなかった数万人の一般人を救ってくれたのだ。


 それも、3000人もの仲間を犠牲にし、自らも死ぬ覚悟で。


 だから、俺は未だに頭を下げている男に言った。



「ルシウス軍団長、どうか顔を上げてください。

 ハザック将軍から貴方のしたことについてお聞きしました。

 お礼を言うのはむしろコチラの方ですよ。

 民を救ってくださり、ありがとうございました。」



 俺も、目の前の男に負けないように深々と頭を下げる。



「…いえ! 私は当然のことをしたまでです!

 礼を言われる筋合いはありません。」

「…そうですか。

 では、この感謝は犠牲になった兵士達に。」

「そういうことでしたら…。

 受け取らないわけにはいきませんな。」



 頭を下げている俺は、ルシウスの表情は見えない。

 だが、その声は彼の心をありありと反映していた。


 嬉しそうで、悲しそうで、誇らしそうで。

 きっと亡くなった仲間たちの事を想っているのだろう。


 その様子に俺はギュッと胸が締め付けられる


 いくら兵士達が一般人ではないとはいえ3000人が亡くなった。


 もちろん、俺が殺した訳ではない。

 それは、わかってる。

 かと言って、簡単に割り切れる訳でもない。


 だから、今度は俺がいつまでも頭を下げ続けた。



「…ふふ。

 一度は捨てたこの命。

 彼らに恥じないよう立派に生き抜かなければいけませんね。」



 

 俺を安心させるような穏やかな声。

 そして彼は続けた。



「実は、私にはヴェルニカで暮らす一人娘がおりましてね。

 敵将(ゲイドーム)に討ち取られそうになった時、彼女の顔が浮かんだのです。

 あなたのお陰で、また会う事が出来ます。」

「それは…よかったです。」

「ええ、本当に。」



 少しだけホッとした。

 彼の娘の話を聞いて、ほんの僅かだが罪滅ぼしを出来た気がしたからだ。



 ルシウスは最後に再び丁寧に礼を述べてから、部屋を出て行った。


 どうやら、自分を救ってくれた者達を一人一人訪ね、挨拶して回っているらしい。

 

 彼を見送った後、俺は再び物思いに耽るのだった。



 

















「ソージ殿、いるか?」



 再度、来客があった。



「はい、いますよ。」

「失礼する。」



 入って来たのは、セスクだった。



「休んでるとこ、すまないな。」

「いえ、大丈夫です。 どうしましたか?」

「いや、ソージ殿の様子が気になってな…。

 なにやら思い詰めている様だったから。」

「…!?」



 いつもと変わらない様に過ごしていたつもりだったが、どうやらセスクには見抜かれていたらしい。



「もしかして、戦争の経験は初めてか?」

「…はい。」

「そうか。

 今日は我々の圧勝だったとはいえ、沢山の死体を見たのだ。

 ショックを受けない方がどうかしている。」

「…はい。」



 たしかに、ルシウスの部下達の死体や、屍人共の亡骸はショッキングだった。


 だが、それ以上にその死体の原因が俺にあることが、問題だった。


 だが、制作者うんぬんの話を知らないセスクがそんな事分かるわけもない。



「そこでだ! 戦の夜は飲むに限る!!

 どうだ? 一杯やらないか?」



 なるほど。

 たしかに今のままでは寝付きが悪い。


 軍人は戦の夜に酒を飲むイメージがあったが、きっとこういうことだったのだろう。


 目の前で仲間が死んでいき、血と死体の転がる戦場で自らも命を賭けて戦う。


 そんなの飲まずにやってられるわけがない。


 俺は別に見知った者が死んだわけではないが、酔わずにやっていられないという意味では同じだった。


 だから、俺は酒が苦手なくせに、英雄の誘いに乗ることにした。



「いいですね。 ぜひ、飲みましょう。」

「うむ! そうこなくては!

 どうする? 皆も呼ぶか??

 それとも、2人でやるか?」

「そうですね。 …今日は2人で。」

「うむ。 わかった。

 それでは、厨房に酒を取りに行こう。」


 

 この要塞では、戦があった日は軍人なら誰でも酒が貰えるらしい。


 それも、今日のような勝利の日は相当に良い酒である。


 兵士の士気を高める方法だそうだ。


 ちなみに、俺は設定上17歳となっているが、バリエッタ王国では15歳から飲酒が認められているので問題はない。


 そんなわけで俺達は酒を持ってくると、晩酌を始めるのだった。

 
















「ところで。

 ソージ殿が落ち込んでいるのは、単に戦争を経験したからというだけではないのではないか?」



 酒も進み、程よく酔いが回ってきた頃、不意にそう聞かれた。



「え…どうしてですか?」

「いや、なに。

 チューニート殿の背に乗ってルギアスまで来る時、不安そうにしていたのでな。

 最初は、戦場へ向かうことへの不安かと思ったが、様子を見てるとそれだけではないような気がしてな…」

「はは…。セスクさんは凄いですね。」



 どうやら、制作者うんぬんの話を知らなくても、そこまで見抜いていたらしい。


 最初から核心に迫らず、酒で心をほぐしてから話すと言うのも流石だ。


 きっとこれまでにも、自分の部隊に所属する兵士達をこうして気遣ってきたのだろう。


 俺はそんな所までキャラ設定を作った訳ではない。


 だが、今目の前にいるセスクは、俺の設定を超えて人間味があって、暖かく、頼り甲斐のある存在だった。


 だからだろうか。


 俺は気がつけば心の内にある思いを、話し出していた。



「実は……この戦争の原因は俺にあるんです。」

「…? どういうことだ?」

「今日、戦った敵がコチラにドラゴンがいるという情報を掴んでいたという話は作戦会議でしましたよね?」

「うむ。 だから、敵はドラゴン対策に『屍竜』を送ってくるかもしれないという話だな。」



 これは、先程まで行われていた作戦会議の内容だ。



「はい。

 ですが、俺の右手がチューニートと繋がったのは、賢者様に特性を付与してもらってからです。

 その存在を知る者は、昨日までセスクさんと、ミモザ以外に、黒蜘蛛達しかいなかったはずです。」

「たしかに、そうだな。」

「だとしたら、きっと黒蜘蛛から何らかのルートを辿って、俺達の情報が破壊王へと伝わったのでしょう。」

「うむ。そう考えるのが自然だな。」

「奴らは、その情報を手に入れるなり攻め込んで来た。

 …つまり、俺のせいでこんな戦争が起こってしまったんです。

 俺が魔王クルエルの引き起こす戦争を止めようなどと余計な事をしたばかりに…」

「いや! なぜ、そうなるのだ?

 敵は元々攻撃してくる予定だったかもしれぬだろ?

 そこに偶然、我々の情報が伝わったと考えるのが自然ではないか!?」



 セスクの強い否定の言葉には、俺を守ろうとする優しさが滲み出ていた。


 だが、俺は本来の歴史を知っているのだ。

 それはあり得ない。


 俺の行動が、破壊王の攻撃開始に繋がったのは間違いないのだ。


 まあ、そんなこと説明のしようもないが…



「ははは。 うまく説明できないんですけどね。

 なんて言うか…俺には分かるんです。」

「…それも、思し召しか?」

「いや、そうではないんですが。

 …でも、俺のせいで戦争が起こったのは間違いないです。」



 酒が入ってるからだろうか。


 テキトーに話を合わせて「思し召し」ということにした方が分かりやすいのだが、変な所で正直になり、そのくせ全部を話せないから、結果としてワケの分からないことを俺は言っていた。


 セスクは納得できない様子だったが、確信めいた俺の様子に降参した。



「…ふぅ。 まあ、ソージ殿は不思議なところがあるからな。

 皆まで聞くまい。」

「はい、ありがとうございます。」

「その代わり、俺の話を聞いくれるか?」

「…! はい、もちろんです!」

 


 セスクはグイッと酒を煽ると、徐に話し出した。



「昔、『ある男』がいた。」

「ある男…ですか?」

「ああ。 ソイツは小さな町を守る兵士でな。

 敵の攻撃があるといつも懸命に戦っていた。」



 遠くを見詰めるように話すその横顔は、酔ってなお真摯にキマっている。


 相変わらずのイケメンぶりだ。



「そしてある時、屍人族が人類の領域に大軍勢で攻撃を仕掛けてきた。

 多くの都市や国を丸ごと押しつぶすような大軍勢だ。」

「ヴォルデス…ですか?」

「うむ。その通りだ。

 その男の町は屍人の軍勢からは離れていたのだがな。

 ヴォルデス軍はあまりに強く、戦には大量の援軍が必要となった。

 だから、男が援軍として戦に参加するのも時間の問題だったのだ。」

「…セスクさんと同じですね。」


 

 その声に、一瞬話を中断し俺をじっと見つめるセスク。

 そして話を続ける。



「——だが、敵は強かった。

 その男は敗北に敗北を重ね、親友と共に多くの仲間の亡骸を葬ることになった。

 …そしてある時、その親友がこう言った。

『ヴォルデスを我らの町に誘い込もう!

 そして、我々で奴を倒すのだ!!』」

「…! それって!?」

「…ああ。私だ。」



 どうやら、『ある男』とはセスクの親友のことらしい。

 俺はそんな設定を作った覚えはない。


 だが、これはこの世界で生きているセスクが通ってきた現実なのだ。



「最初、木人の里(トレンティア)では大反対だったよ。

 まあ、いくつもの村や町を滅ぼしている軍隊を、自ら誘き寄せようというのだ。

 反対して当然だな。

 …だが、二人だけ私を支持してくれた人がいてな。」

「…その男ですね。」

「ああ。 それと、アルボルン様だ。」



 なんと、そんなことがあったのか。


 俺がメガトラオムの歴史設定としてデータに入力したのは「セスクの提案は、木人(ドライアド)の間で初めの頃は劣勢を極めたが、進軍を続ける屍人軍の脅威と、セスクの粘り強い説得によって次第に賛成の声が高まっていった。」というだけのものだった。


 しかし、考えてみれば当たり前である。


 歴史上の一文の中には、数え切れないほど沢山の人の思いや、出来事が詰まっているのだ。



「しかし、次第に勢力を増していくヴォルデス軍は、時間が経てば経つほど強くなってな。

 木人の里(トレンティア)のみんなも、このままではやがて自分達も危ないと感じ始めていた。

 そこへ、私の親友がみんなを熱く説得してくれたのだ。

 それが機運となって、倒すためには少しでも早く私の作戦を実行するしかないと理解してくれたよ。」



 実際には、自分自身も半端ではない労力と時間をかけて説得したはずだ。


 だが、セスクは自分の努力については一言も語らない。



「だがな、親友の妻だけは最後まで反対だった。」

「…!? そう…だったんですね。」

「ああ。 しかし、殆どの者が賛成へと転じたことで、作戦は即座に決行されることになった。

 後に伸ばすほど、敵の勢力は拡大するからな。

 タイミングを逃すわけにもいくまい。

 ——そして、あの日が訪れた。」

「…作戦決行の日ですね。」

「うむ。

 その日、我々は連合軍と協力し、屍人の大軍の中からヴォルデスとその部下100名のみを謎と危険の森に誘い込むことに成功した。

 後は我々木人(ドライアド)が奴を仕留めるだけ。

 …だがな。

 屍将の力はそんなに甘くはなかった。

 森の木髭(エント)達の力を借りてなお、多くの木人(ドライアド)達が犠牲となったのだ。」

「…まさか!?」

「うむ。 私の親友も殺されたよ。

 ヴォルデスの刃から、この私を守ってね。」

「…そんな。」



 親友の死。

 そんなショッキングな話を、セスクは驚くほど淡々と語っている。



「私は友の犠牲によって生まれた隙を突き、ヴォルデスを打ち倒すことができたのだ。

 だから、私は英雄などではない。

 多くの仲間を犠牲にし、その屍の上に立つただの罪人だよ。」

「…!? そんなことありません!?

 その犠牲の上に、人類の平和が取り戻されたのですから!!」



 俺は思わずも叫んでしまう。



「ふふっ。 まあ、それはいいんだ。

 私が話したいのは、ここから先なんだよ。」

「…?」

「戦いが終わって、私はアイツの妻に報告をした。

 私の盾となったアイツの死に様を正確にね。

 それが責任だと思ったんだ。

 当然、私は憎まれたよ。」

「…っ!?」



 これは、何も言えない。

 奥さんの気持ちになれば、それも仕方ないのかもしれない。


 だが、だからと言ってセスクがしたことは間違っていないはずだ。



「おまけに、ヴォルデスの呪いによって、我々は里から一歩も出られなくなってしまった。

 大半の人は私を庇ってくれたのだがね。

 当然、責める人も沢山いたよ。

『だからこんな作戦反対だったんだ』

『お前のせいでこうなったんだ』とね。」

「…そういう人もいるでしょうね。」



 これは俺の設定通り。

 だから相槌を打つことしか出来ない。



「一番辛かったのは、誰に責められたことだと思う?」

「…ん? やっぱり、その奥さんですか?」

「ふふ…。自分さ。」



 ああ、たしかに、それが一番辛いかもしれない。

 今の俺にはよく分かる。



「この100年、何度も自分を責めたよ。

『お前のせいで森は呪われたのだ』

『あれほどの犠牲を出した作戦は正しかったのか?』

『多くのものが死んだのに何故リーダーのお前がのうのうと生きているんだ!』とね。

 自分自身の心の声からは、どこに行っても逃げられない。

 皆から英雄などと呼ばれるようになって、その声はますます大きく頭に響くようになっていった。」

「…どうやって、それに打ち勝ったんですか?」



 それは俺にとって、今一番欲しい答え。

 だから、セスクが話すのを待たず、思わず尋ねてしまった。



「向き合ったのさ。自分の罪と。」

「向き合う…?」

「ああ。

 まず私は何が自分の責任で、何がそうでないのかハッキリさせるために、自分のしたことを一つ一つ振り返ってみた。」



 なるほど、不必要に自分を責めないためか。

 


「作戦を実行した段階で、ヴォルデスがあんな呪いを使えることは誰にも分からなかった。

 だから、これは私が背負うべき責任ではない。」



 うむ。

 たしかにその通りだ。



「一方で、自ら奴らを森に誘き寄せたのだ。

 奴らが強大であることを知った上でな。

 だから、戦闘によって出た犠牲は俺の責任だ。

 つまり、あの作戦によって失われた多くの同胞の命。

 これは私の罪だ。」

「そんな、罪だなんて…。」

「ふふ。言い方が悪いか?

 まあ、そういう言い方の方が、かえってストレスが軽くなることもあるのだ。」

「…それは分かります。」



 確かに、「俺は正しい」と思い込んでいる時より、「自分が悪い」と心から認めている時の方が落ち着くことはある。



「…とは言っても、自分の責任ではないと思うようにした『呪いの件』についても何度も自分を責めてしまったがね。

 だが、頭でそう理解することで随分と楽になったよ。」

「ああ、それもよく分かります。」

「後は、とにかく自分が出来ることに専念した。

 木人(ドライアド)の精鋭部隊を組織し、森の呪いを解くための屈強な戦士を育て上げること。

 ただ、それだけに。

 …そうして100年経った時、君が来たのだ。」



 ニコッと笑う英雄。

 その笑顔は、100年の苦しみや葛藤を微塵も感じさせない。



「…やっぱり英雄ですよ。セスクさんは。」

「な!? 今の話で分かっただろ??

 俺はその呼ばれ方が嫌いなのだ!!」



 思わずも一人称が『俺』になったセスク。

 そんな様子を見て、クスリと笑いながら続けた。



「そんなこと言ったって、あなたは英雄すぎますよ。」

「…はぁ。まあいいさ。」

「ふふふ。 ところで一つ聞いてもいいですか?」

「ん?なんだ??」



 少し場がほぐれたことで、俺は気になったことを尋ねてみる事にした。



「自分を責めてきた人達のこと、憎くなかったんですか?」



 本来なら、これは余計だろう。

 無神経で失礼極まりない質問だ。


 だが、酒に酔っ払って判断力の鈍っている俺は、不躾に尋ねてしまった。


 だが、セスクは思いの外、明るい表情で答えた。



「最初は複雑な思いがあったよ。

 だが、彼らが責めるのも無理はないし、当然のことだからね。

 俺が彼らを憎むなんて筋違いもいい所さ。」

「…やっぱり、英雄だ。」

「っておい!!」



 いいな。

 今度からセスクをおちょくる時は「英雄」と連呼しよう。


 ——すると唐突に。


 ずっと淡々と話していたセスクの瞳から、ポロリと一筋の涙が溢れた。

 


「え! す、すみません!!

 英雄って呼ばれるのそんなに嫌だったんですか!?

 ほんと、ほんとにごめんなさい!!」

「いや、いやいや! こ、これは違うのだ!!

 そうではない!!」

「…? じゃあ、どうしたんですか?」



 セスクともあろう人間が、涙を流すのだ。

 それなりの理由があるはず…



「ソージの質問で思い出してな。」



 あ。

 呼び方が『ソージ殿』から『ソージ』になっている。

 少し嬉しい。



「実は、今回、里を旅立つ時に、アイツの妻が私のところへ来たんだ。」

「…!? セスクを憎しんでいた親友のお母さん!!」



 ついでに俺も厨二モード以外では初めての呼び捨てをする。



「ああ、そうだ。

 向こうから訪ねてきたのは、それこそ100年ぶりだったよ。

 そして……うぅっ。 ぐっ…ひぐっ。」



 驚いた。


 壮絶な戦争も。

 親友の死も。

 罪責感との戦いも。


 そのすべてを淡々と話していた男が、大粒の涙をボロボロと溢して泣きじゃくっている。


 その様子から、俺は悟った。



「…赦して貰えたんですね?」

「ああ! ああ!!」



 きっとセスクにとって何よりの重荷だったのが、親友の奥さんだったのだろう。


 かけがえのない友の最愛の女性。

 その人と和解できたのだ。


 この100年、いったいどれ程辛かったのだろう。



「はは。 …よかった。 

 うぅっ…よがっだですね!

 ひっく!!」

「ああ! ごれも! ソージのお陰だ!!

 森を…!!

 解呪しでぐれて…ぅう!! ありがどう!!!」

「お、俺なんて!!

 ひっく…あなだにぐらべれば!!

 なんにもしでまぜん!!!」

「なにをいゔ!!

 おまえこそ、英雄ではないか!!!」

「ふははっ!! ぞうでずね!!

 俺たち、英雄同士です!!」



 こうして、俺たちは更に飲み続けるのだった。













 最後、セスクが自分の部屋へ戻ろうと立ち上がった時、思い出したように言った。



「…ああ、自分の罪を乗り越えるためにもう一つ大切なことを忘れていた。」

「なんですか?」



 すると、彼は酒で赤くなった顔でニッコリと笑って言った。



「神に祈ることだよ。」



 そして、セスクは自室に戻っていった。


 その後、俺はしばらく考え事をしていた。


 セスクのように、自分の責任とそうでないものを整理する事にしたのだ。



 そうと決めた俺は、起こった出来事と、自分の行動を一つずつ振り返っていく。


 俺は元々、魔王クルエルにかけられた呪會王の呪いを解除するために旅をしていた。


 その目的は「3ヶ月後に起こる戦争を止めること」。


 ところが、突然に破壊王の軍勢がバリエッタに攻め込んできた。


 本来の歴史と違う以上、俺の行動に起因していることは間違いない。


 では、俺は何をしたのだろうか。



 まず、この世界に転移して来て、黒蜘蛛に襲われた。


 次に、ヴェルニカに行って孤児院へと行った。


 それから、闘技場(コロシアム)で金を稼いだ。


 差別されているベイムラスや、親のいない子供達に触れて、戦争を止める決意をした。


 謎と危険の森(ミスティリスク)の呪いを解いた。


 木人の里(トレンティア)を出発すると、再び黒蜘蛛に襲われて戦闘になった。

 この時の情報は何故か破壊王に伝わっている。


 それから、アンノールに来て塵中の紅玉(ダスティンルビー)や、おっさんずクラブを訪問した。


 ——そして、戦争が勃発した。



「…ふぅ。」



 結局、戦争が始まった明確な理由は分からない。


 だが、自分の行動を具体的に振り返ったことで、少しだけスッキリした。

 

 今回の戦争で、俺が背負うべき責任は何処にもないと分かったからだ。


 セスク風に言うなら「自分の罪」。


 奴は、屍将が手強いことを分かった上で、ヴォルデスを森に誘き寄せたのだから、そこで発生した犠牲は自分の罪だと言った。


 しかし、呪いの事などは誰も分からなかったから、それは自分の罪ではないとも言った。


 無論、「分からなかったら何でもしていいのか」という話になったら、それはまた別の問題である。


 だが、少なくとも自分の心と向き合う為に、とても分かりやすいスタンスだ。


 これに俺の行動を照らしてみると、今回の戦争について、俺の罪はないことになる。


 なにせ、破壊王の攻撃がこんなに早く発生することなど、俺には予期できなかった。


 それが、注意が足りなかったが故に想定できなかったなら問題だが、今になって振り返っても防ぎようがなかったと思う。


 だから、俺は自分を責めることを止め、前を向く事にした。


 どうせ、嫌が応にも罪責感は襲ってくるだろう。

 それはきっと、一生消えないないと思うし、むしろ忘れてはいけないような気もする。


 だが、俺の行動が生み出したものは、悪いものばかりではなかったのだ。


 ルシウス軍団長はまた娘と再会できるようになった。

 セスクは、親友の妻と和解できた。

 そういえば、ミモザが森の外を見た時に流した感動の涙もそうだ。


 これらは全て俺の行動がなければあり得なかったのだ。

 良いものもちゃんと生み出している。


 ならば、俺はこんな所でいじけていないで、あの英雄のように今出来ることをするべきだ。


 俺が動けば不幸が起きるかもしれない——なんて自意識過剰もいいとこ。


 人は誰もが何かをする度に、良きも悪しきも巻き起こすものなのだ。


 だったら足を止めず、この戦争を止める為にやるべきことをやろう。



「うしっ!」



 考えが纏まった俺は、グッと拳を握りファイティグポーズを取ると、空を切るようにパンチを繰り出した。


 そして、いつものモードを発動させる。



「ククク!

 この俺様を誰だと思っている!??

 制作者だぞ!??」



 それは、今日の戦場でしたような、迷いを振り払うような叫びではない。

 純粋な厨二心による魂の咆哮だ。



「見てろ!!!

 破壊王だろうと、呪會王だろうと、クルエルだろうと!!!

 誰だろうとぶっ飛ばして吠え面かかせてやる!!!

 そして、人類に平和を取り戻すのだ!!!!

 フゥーッハッハッハッハァア!!!!」



 戦争を起こして来た連中に、目にものを見せてやろうと。

 俺は強く意気込んだ。



 きっと明日からの戦いで、屍人族はチューニート対策で()()を送ってくるだろう。


 だが大丈夫。


 なにせ俺は制作者。

 普通は知らない敵の弱点も知っている。


 やってやるさ。



 そうして、俺はフカフカのベッドに潜り込み、戦いに備えて休息を取るのだった。








つづく

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