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第29話「家族」


 俺はおっさんずクラブのオヤジたちにA級武器を作って貰った後、ベイムラスの家へと来ていた。


 今、目の前には玄関の扉がある。


 ベイムラスへは何の知らせもなし。

 突然のアポなし訪問である。

 きっと、驚くに違いない。


 俺はワクワクとしながら家の扉をノックした。



「はーい、ちょっとまってくださ〜い。」



 聞こえたのは女性の声。

 おそらく、ベイムラスの奥さんだろう。


 ガチャリ、と。

 扉が空いた。



「どちら様でしょうか?」



 出てきたのは、家庭的な雰囲気の鬼人族の女性だった。


 薄い赤色の髪。

 おでこから生える小さな一本の角。

 優しそうな垂れ目。

 白い肌に纏うのは綺麗なオレンジ色の長袖。


 間違いない。

 ベイムラスの奥さんである。



「ベイムラスさんはいますか?」

「ああ!主人ならさっき帰ってきたばかりです!

 ちょっと待ってくださいね。

 今、呼んできます。」

「ありがとうございます。」



 ベイムラスの奥さんは、明るい笑顔で受け応えると奥に引っ込んでいった。


 そして、すぐにまた扉が開いた。



「…! おお!

 ソージではないか!?」



 俺の顔を見たベイムラスは、驚いて大きな声を上げた。

 

 その表情はどこか嬉しそうな感情を孕んでいる。



「突然の訪問で悪い。

 実は、頼みたいことがあってな。

 少し話せるか?」

「もちろんだ!

 恩人であるお前の頼みを断りはせん。

 さあ、上がってくれ。」

「ああ、ありがとう。」



 俺は一言礼を言うと、家の中に入った。


 すると、そこはすぐにリビング。

 質素で小さな家だった。


 部屋にはさっきの女性と、少年がいる。



「モニカ。 ベオメル。

 この人が話していた恩人のソージさんだ。」

「…まあ。この方が…?」



 モニカと呼ばれたベイムラスの奥さんは、驚いたように応えると、徐に言った。



「…あなたが、主人を自由にして下さったのですね。

 ホントに…本当に感謝しています。」



 モニカは、涙を堪えながらお礼を述べた。



 うむ。

 出会っていきなり、こうなるとは思っていなかった。



 だが、何年もの間離れていた家族なのだ。

 これが普通なのかもしれないな。


 と、そんなことを考えていると、隣の少年…ベオメルがポツリと言った。



「…なんだ。

 この人が変人のソージか。

 意外と普通じゃん。」



 ……ん?



 ピキッ、と。

 その場の空気にヒビが入った。



「…こら!ベオメル!!あなた何を言ってるの!?」

「ベオ!! そういうことは言っちゃいけない!!」

「え? でも、お父さんソージは変人だって言ってたじゃん?? 

 突然叫んだり、笑ったりするんでしょ??」

「ベオ!! 静かに!!!」



 ……ほう?

 そういうことか。


 クククク。

 良いだろう。

 少年の夢を壊すわけにはいかん。

 期待に応えてやるとしよう。



 俺は、すうっと息を吐くと、低い声で静かに言った。



「…おい。そこの少年。」

「んー?」

「こら!ちゃんと返事しなさい!!

「ベオ!!」


 呑気なベオメルの様子に両親は慌てふためいている。



「…この俺が変人だと?」

「うん!

 だってお父さんがそう言ってたし!」

「いや!違うのだ!!

 ソージ!!話を聞い…」

「フゥーッハッハッハッハァア!!!

 そ!の!と!お!り!

 この俺様こそが『変人の王』にして、

 ゆがて史上最強の厨二へと至る男!!!

 その名もソージである!!!!」

「…!!!」

「ククク。ベイムラスよ。」

「…な、なんだ?」

「——よくやった。」

「は?」

「俺を変人と紹介したことについてだ!

 よくやった。大義であったぞ!」

「……」

「フゥーッハッハッハッハァア!!!」

「うははははは!!!

 ホントに変人だー!!

 わーい!わーい!!!」

「…あなた、ワタシこの人に凄く感謝してるんだけど…

 何故だが、その気持ちが薄れてきたわ…。」

「うむ。俺もそんな気がする。」



 とまあ、いつもの調子でベイムラスの家族と対面したのだった。


 

 その後、何故ベイムラスの家に来たのかを話し、『魔王クルエル解呪作戦』への協力を要請すると、ベイムラスは2つ返事で快諾してくれた。


 危険も伴う仕事のため、報酬に金貨一万枚を提案したが、奴は「恩人から金を取ることは出来ない」と言って無料で手伝うと言ってきた。


 家族も以前、闘技場(コロシアム)で稼いだ時に渡した金で、十分生活できるとのことだった。


 しかし、無料というのは最初は良くても、後々色んな問題が起こるものだ。


 例えそこに悪意がなくとも避けられないトラブルが起こったりする。


 そういうわけで、半ば無理矢理に金貨1000枚を支払うことを納得させたのだった。



「それでは、出発は明後日の朝。

 『塵中の紅玉(ダスティンルビー)』という魔導士ギルドに集合ということで、よろしく頼む。」

「ああ、わかった。」

「それじゃ、また。」

「うむ。」



 俺がベイムラスと別れの挨拶を交わすと、奴の息子であるベオメルが言ってきた。



「ソージ! お父さんを返してくれてありがとな!!」



 うむ。

 自分が儲けるためにベイムラスを利用しただけなのだが、なかなかどうして。


 感謝されるというのは気持ちがいいものだ。


 だから、俺は満面の笑みを顔に貼り付けて言ってやった。



「クゥーッハッハッハッハァ!!!

 小僧!

 それが分かってるなら、この俺様に生涯忠誠を誓い、貢ぎ続けるのだなあ!!!」

「うははははは!!!

 おもしれえ!」

「こら!ベオメル!!」



 モニカは、息子を諌めると改まって言ってきた。



「あの、ソージさん。

 本当にありがとうございました!

 また、いつでも来てくださいね!!」



 最初の時とは違い、今度はとびっきりの笑顔。

 彼女に取って、愛する夫が帰ってきたのは何より嬉しい事なのだろう。


 ベイムラスが、妻と子を愛して奴隷としてのひどい仕打ちに耐え抜いたように、モニカもまた夫を愛して耐え忍んだのだ。


 まったく、良い家族だ。



 厨二魂が滾るぜ!!



「ククク!

 貴様も数々の差別に耐え抜いた良き伴侶よのう!

 幸せそうで何よりだ!!

 これからも、ベイムラスと仲良くやるのだぞ!」



 とまあ、こんな感じで別れの挨拶を交わしたのだった。


 ちなみに、ベイムラスの息子であるベオメルは、先程塵中の紅玉(ダスティンルビー)で出会った少年クレビートと同じく主人公(プレイヤー)候補の1人である。

 

 奴は相当なポテンシャルを持っている。


 まず、ベイムラスの息子なのだから当然、鬼王の血を継いでいる。

 さらに、その中でも選ばれし者しか持たない【鬼王覚醒】の特性を持っているのだ。


 本来の歴史なら、3ヶ月後の戦争でベイムラスは戦死し、その後、冒険者となったベオメルは、かつての父親の部下達と絡み合い、ベイムラスの生き写しであるかのように成長し強くなっていくのだ。


 そうして、やがて戦争を引き起こした根本の原因が呪會王の呪いにあると知り、父の仇として打倒・呪會王を野望として掲げることになる。



 だが、この世界では違う。

 なぜなら、戦争は俺が止めるのだから。


 余計な不幸は起こさせないし、少年が父親と過ごす時間を奪わせはしない。



 俺は3人が家族で揃っている姿を見て、そんな決意を新たにした。



 ふと、辺りを見渡すと、気がつけば夜になっていた。


 しかし、大国の首都であるアンノールの街は沢山の灯りで照らされ、未だに賑わっている。


 人々の往来は昼間ほどではないが、それでも沢山の人が行き交っている。


 ベイムラス達が家族で揃っている様子を見たからだろうか。


 俺は夜の街並みを眺めながら、孤児院の子供達のことを考えていた。



 本来なら、アンノールに来る前に一度アデルフォス孤児院に戻る予定だったのだ。


 それは、フィンと合流する目的もあったが、本音を言うとそれだけではない。


 子供達と会うためだ。


 笑うことの出来ない鬼人族の少女(マーシュ)の為を思い、「また、来いよ」と言ってくれた赤髪少年(アイン)の思いに応える為だ。


 その為に、出来るだけ間を空けず、孤児院を訪れたかった。


 しかし、屍人族や黒蜘蛛との戦いなど、予想外のことの連続で予定が狂ってしまった。


 俺がヴェルニカを出発してから10日である。


 みんなは元気にしているだろうか?


 そもそも、2日しか一緒に過ごしていない俺ごときが心配をするのはおこがましい話なのだが、家族で過ごすベイムラス達の様子を見て、俺はアイン達の所へ少しでも早く戻りたいと思った。


 親に捨てられ、なお逞しく生きるアインと、その仲間たちが堪らなく愛おしくなってきた。



「…出発は明後日か。」



 自分で決めた出発時間だ。

 明日の1日はアンノールの街を満喫するための時間。


 だが、こんな気持ちになるなら、そんなの必要なかった。



「出発したら、痛いけどチューニートを召喚するか…」



 邪竜チューニートを召喚するためには、血を流さなければいけない。

 それは、半端ではない痛みを伴うが、その代わりアンノールからヴェルニカまでの道のりを一気に短縮することができる。


 少しでも早くあの子達に会う為に、奴を召喚するかと。


 そんなことを思ったのだった。



「よし! とにかく、今日は宿に行って休むとするか!」



 考え事を終え、俺は宿に向かって歩き出した。



 そうして、しばらく歩いていく中で。


 俺はあり得ないものを目にした。



 街を取り囲む背の高い城壁。

 その要所要所に設置された一際高い塔。

 その一角に積まれているキャンプファイヤーのように組まれた薪。


 そこに火が灯っている。

 

 もくもくと煙を上げる美しい炎が、暗い異世界の夜空を照らしている。


 幻想的で、綺麗な煌めき。



「お! 城壁に灯が灯ってるぞ!!」

「うわぁ、綺麗。」

「ステキ…。」



 その炎の意味を知らない人々は、感嘆しながら足を止めていた。


 だが、しかし制作者である俺は愕然としていた。



「…うそ、だろ?」



 俺はあの炎の意味を知っている。


 あの炎はここ100年灯されたことのないものだ。


 そして、こんなタイミングで灯ることのないはずのものだ。



 ——それは、屍将ヴォルデスの襲撃以来、一度も灯ったことのない不吉の知らせ。



 遠い三角(トゥリゴノ)山脈から屍人族の大軍勢が出立したことを知らせる緊急の狼煙(のろし)だった——


 






 つづく

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