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第3話「死んだ方がマシ」

 その日、魔王クルエルに仕える暗部組織「黒蜘蛛」は、隣国の調査のため国境を隔てる大森林を渡っていた。


 約20人からなる黒蜘蛛を束ねる隊長ネト=ハルマクラは、凄腕の戦士であり、暗部組織としての隠密行動にも長け、魔王からの信頼も厚い実力者だった。


『疑わしきは殺せ』とは、魔王クルエルのことばであるが、ネトはそのことばを忠実に遂行していた。

 特に彼は情報管理を徹底しており、機密情報を知った者はもちろん、「知ったかも知れない者」も含めて、1人残らず命を奪ってきた。


 彼は自分の正体も隠し、黒蜘蛛のメンバーにさえ副隊長以外には名を明かさいほどだった。

 だから、彼の名を知る者は主である魔王か黒蜘蛛の副隊長ベン・クォークの2人以外にはいないのだ。


 さて、彼らが夜の闇が深まった森林の奥深くを進んでいると、突然にあたり一体が揺れ動き、地響きが起こった。



「‥‥!止まれ!地震だ!」


 ネトは黒蜘蛛の部下たちに冷静に指示すると、揺れに耐えるために身をかがめて木に捕まった。

 しかし、その地震は余りに大きく、まるで世界が丸ごと揺れ動いているかのようだった。


 そして次の瞬間、もの凄い勢いで雷が落ちた。

 それも何本も。



「総員、魔法障壁を張れ!!」

「了解!」


 幾多もの死線を潜り抜けてきた黒蜘蛛は、不測の事態にも淡々と対処していく。

 しかし、今回の出来事は彼らの経験を上回った。



「ぐぁはっ!!」

「おい、お前大丈夫か?!」

「雷が障壁をすり抜けました!」

「なに?!」


 あまりにも突然の脅威。

 経験のない事態。

 無数の稲妻の嵐は、わずか数秒間であったが、激しい轟音と共に森林もろとも黒蜘蛛を蹂躙した。

 いや、実のところ、この森林だけでなく、世界中を襲っていたのだ。



「負傷者は報告しろ!」

「……そ、それが、隊長。

 たしかに負傷したはずなんですが、傷が消えて…

 痛みも無くなりました…。」

「なに?!」

「さっき雷で焼けた森も元通りになってます。」

「一体どういうことだ‥‥?

 気を引き締めろ!敵襲かもしれん。」

「了解!」



(障壁をすり抜け、直撃しても回復する雷…。

 範囲は確認出来ないほど広大。新種の魔法か?)


 百戦錬磨のネトでさえ未知の脅威。

 彼は困惑していた。


 もしこれが、彼らを狙った攻撃なら。

 この場所が彼らの主、魔王クルエルの領地と知っての狼藉なら。


 黒蜘蛛は、その犯人を生かしておくわけにはいかない。

 ネトは犯人を見つけるため、部下たちに辺りを捜索させた。



 しばらくすると、報告が上がった。



「あちらに直径100mほど森が焼け焦げた土地を発見しました!

 その中心に男が1人います。」

「よくやった。案内しろ。」



 ネトは、彼の案内で異常現象の元凶と思われる男の元へむかった。






 ◇






「ぅぁっ、、」



 俺は心臓をネトの剣によって貫かれ、唸り声をあげた。

 経験したことのない、あり得ないほどの痛みが俺を襲う。



「貴様がこの雷の元凶かどうかは知らぬが、俺の名を知っていた。

 貴様が死ぬ理由は、それで十分だ。

 疑わしき者には死んでもらう。」

「ごふっ、ゔぇ、、」

「まだ、息があるのか。しぶとい奴だ。楽にしてやろう。」



 ネトは続いて俺の首筋の頸動脈を切った。



「ぐがぁあああぁあっ!!!」



「痛い」何て言葉では表現できない。


 首筋は焼けるように熱を帯び、痛みを脳に伝える神経が焼ききれたかのような苦痛に襲われる。

 心臓と首。二つの急所をやられた。


 普通なら即死だ。

 しかし、俺は生きている。

 今にも死にそうだが生きている。


 俺は激痛の中で確信した。



(は、はは。ホントに夢じゃなかった。)



 この脳を焦がす痛み。

 呼気が通るだけで、焼ける喉の熱さ。


 この感覚が夢のはずがない。



 そして、何よりも——



(裏ワザ、成功したみたいだな)



 俺が作ったゲーム『メガトラオム』にはいくつもの裏ワザを組み込んである。

 発動条件は様々で、初期から使えるもの、ゲームを進めていく内に使えるようになるもの、特定の場所で使えるものなど沢山ある。


 また、発動の仕方も色んなものがあるが、1番多いのは、チャットスペースに暗号を打ち込むだけで使える裏ワザだ。

 チャットの画面なんて、ここではどこにもないのだが、チャットというのは、そもそも他のプレイヤーと会話するためのもの。すなわち、()()()


 だから、口ずさむだけで使えるのではないかと、一か八か暗号を呟いてみた。


 そして、俺がつぶやいた〔uw . tutorial mode sh 001 〕という暗号は、〔チュートリアルモード〕という裏ワザだ。


 チュートリアルというのは、ゲームの最初によくあるあれ。

 操作の仕方や、ゲームの進め方をナビゲーターに従って覚えていくやつのことだ。


 このゲームでも勿論チュートリアルがあるのだが、そこでは攻撃はくらうが、どんなにダメージを受けても死なない仕様になっている。

 例えるなら、HPが必ず1は残るような感じだ。

 本来、ゲームを始めたその時しか使えないこのモードを常時発動するもの。



 これが裏ワザ〔チュートリアルモード〕。



 つまり、チュートリアルモードは、言い換えると『絶対死なないモード』。

 攻撃を受ければダメージは入るが、死ぬことはない。


 ただ、誤算があった。

 ゲームなら体力が残りわずかでも、普通にピンピンしていて、自由に動ける。

 だが、実際にはめちゃめちゃ痛くて苦しい。

 とても動けたもんじゃない。


 どうやら、裏ワザは成功したようで、生き伸びることに成功したのだが‥‥



(死んだ方がマシだったわ、これ。)



 と、ちょっとした後悔をしつつ、この状態から抜け出すため、何とかもう一つ裏ワザを発動しようと呼吸を整える。

 暗号を口に出すためだ。



「ひゅぅ、、、、ふゅぅ、、」

「……まだ息があるとは。

 おい、こいつを調べろ!」



 ネトは部下たちに命じ、俺の服や体を調べていく。

 何かの魔法や、鑑定系の能力も使い、俺の情報を取ろうとしているようだ。


 しかし、俺はネトたちを無視して、なんとか裏ワザを発動させようと口を動かした。



「uw、、、. 、はあっ、、はあっ!st、、ゲホぁっ!!!」



 だが、ネトが腹に蹴りを入れて最後まで言わせない。



「スペル系の魔法でも使う気か?やめておけ。

 話せるなら、こちらの質問に答えろ。」

「じ、、じってるごとを、、はぁっ、、、こだ、、え、ます」



 俺はとにかく、裏ワザを発動するために喋っても不自然じゃない機会をなんとか作ろうとする。



「いい心がけだ。

 では聞くが、貴様はどこから来た?」

「は、はい、、わたじ、は、、」



 息を切らしながらゆっくりとつぶやく。



「uw 、、. 、stea、lth、 、ゴハァ!」

「デタラメを言うな。そんな国はない。

 魔法の行使ならさせんぞ?」



 ネトは冷淡につぶやきながら、俺の腹に拳を刺す。

 しかし、俺はお構いなしに続けた。



「mo、、、de、、、sh、、」

「貴様!何を言っている?!」



 こいつらは「疑わしきは殺せ」を信条とする闇組織。

 致命傷を受けても死なず、怪しい言葉を口走る俺に対し、ネトは再び剣を手に取った。

 俺はそれを見て、力を振り絞り、一息に言い切った。



「005!」

「だまれ!」



 2人の叫びが重なる。

 その瞬間、振り下ろされたネトの剣は俺の体があったはずの空を切り裂いた。



 俺は裏ワザ〔ステルスモード〕を発動した。




 つづく



明日は午前9時と、午後7時の2回更新する予定です。よろしくお願い致します!

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