第27話「塵中の紅玉」
首都アンノール。
元々、この街は大陸の中心に位置していた為、種族間の交易における中継地として用いられていた。
海路でも陸路でもちょうど良い場所にあったからである。
そのため、必然的にあらゆる種族が集まるようになり、次第に成長を遂げたアンノールは気がつけば巨大な大都市となった。
やがてアンノールは、国となりバリエッタ王国が建国されるに至ったのである。
今ではすっかり、世界の中心地だ。
さて、俺たちは平原で野営をし、一夜を明かすと早速アンノールにやって来ていた。
10メートルはあろうかという高い城壁が街を取り囲む様は壮観である。
ここで戦争が行われようものなら、アンノールは無敵の砦と化すだろう。
だが、さらに驚いたのは、そんな高い城壁であるにも関わらず、街の中心に建っている王城が、街の外から見えることである。
まさに圧巻というやつだ。
俺たちは、門で検問を受け、中に入った。
実の所、俺はまだ国籍の取得をしていなかったから、身分証などを持っていなかったのだが、一緒にいた英雄セスクのお陰で街に入ることが出来た。
ちなみに、門衛は謎と危険の森が解呪された噂が本当だったこと、森の英雄であるセスクに会えたことで歓喜していた。
中に入ると、流石に首都だけあって沢山の人が溢れており、活気に満ちていた。
舗装された道路を行く馬車。
商店街に建ち並ぶ屋台。
カラフルで鮮やかに彩られたの街並み。
ヴェルニカの人々は軍人が多かったため、戦いに適した簡素な服装をしている人が多かったが、こちらでは煌びやかで派手な服装をしている人があちこちにいる。
より平和な分、文化的な側面が強いのだろう。
ある意味、この街ならどんな格好をしていても目立つことはなさそうだ。
だが、俺たち3人は別の意味で目立っていた。
セスクとミモザが木人だったからである。
百年の間謎と危険の森に閉じ込められていた木人はそれほど珍しかったのだろう。
一応、外の世界にいる木人も少しはいたが、その数は非常に少ないのだ。
そんなわけで、思わぬ形で注目を集めてしまった。
本当は、黒蜘蛛の追跡を逃れる為、出来るだけ目立ちたくなかったのだが仕方ない。
俺たちは出来るだけ人目につかない道を選びながら、街の北側にある魔導士ギルド『塵中の紅玉』にたどり着いた。
「…ふう。到着しました。ここですよ。」
「……何というか、その、、すごい所ですね。」
その建物は外壁の塗装は剥がれ、黒ずんでおり、所々腐りかけていた。
とてもギルドの建物とは思えないが、実際にここなのだ。
俺はコンコン、とノックをして声をかけた。
「ごめんください。誰かいらっしゃいますか?」
「はーい、ちょっと待ってくださーい!」
しばらくして、ドアが開いた。
「お待たせしました!何の用ですか?」
出て来たのは人族の少年。
綺麗な茶髪。
クリッとした目。
穏やかで素直な印象を受ける顔つき。
藍色の質素な魔導士用のローブ。
彼はメガトラオムをプレイする際に選択出来る472人のキャラクターの1人。
つまり、主人公になりうるキャラ。
名をクレビート・シェイードという。
「依頼したいことがあって来たんですが、よろしいですか?」
「はい! 散らかってますが、どうぞお入りください!」
俺達はクレビートに中へ通された。
扉をくぐると、受付がある。
その隣には扉があって奥の部屋に繋がっていた。
俺たちはそこに通される。
中はリビングくらいの広さ。
内装は古くはあるが、意外と綺麗だ。
部屋の中央にはくの字型のソファ。
魔人族の壮年の男と、茶髪の若い男が座っている。
クレビートが2人に来客を伝えた。
「マスター! 兄さん! お客さんだよ!」
「…お、なんだ今日は珍しいじゃねぇか?!
いったい、誰が来……ん?」
そう言いながら振り返った壮年の男は、ギルドマスター。
筋肉質な肉体。
黒い肌に張り付いた白いタンクトップ。
サングラスをかけたワイルドなおっちゃんである。
そのギルドマスターが俺たち…いや、セスクを見て目を見開いた。
「…おお?!?
お前、セスクか?
セスク・ウッドポッドじゃねえか!??」
あ、そういえば、元賢者の祈りの武闘派魔導士って設定だったか?
ってことは、セスクと知り合いでもおかしくない。
「まさか……ドンチー?」
「おお!!そうだ!!
俺だよ!フレデリック・ドンチードルだ!!」
「おおお!!!まさか、こんな所で会うとはなあ!?」
「おいおい、それはこっちのセリフだぜ!!
森の呪いが解かれたって噂は本当だったんだなあ!?
いやー、嬉しいぜ!!!」
思いもよらぬ再会。
2人は歓喜に震え、百年もの期間、積もりに積もった話しに花を咲かせ出した。
さらにミモザもセスクの戦友の登場にテンションを上げて会話に入っていく。
その様子を眺めていると、もう1人の若い男が話しかけて来た。
「お客さん、すみませんね。
話が盛り上がってしまったみたいなので、僕がお聞きしますよ。
今日はどういったご用件ですか?」
茶髪に白色のローブ。
長身の背。
クリッとした目つき。
優しそうな表情。
クレビートの兄クリムである。
実は、『魔王クルエル解呪作戦』に連れていきたいのは、主人公候補のクレビートでも、実力派魔導士のギルドマスターでもない。
このクリム・シェイードだ。
だから、俺は包み隠さずに本当のことを話す。
「これを見てください。」
俺は左手の袖を捲って前腕の傷を見せた。
「…!?追跡痕? それもかなり高度なものですね。」
「ええ。実はこれは神聖大魔王国の魔王クルエルに使える暗部組織に付けられたものなんです。」
「…!?」
クリムさんはあまりに突然の話に驚愕していた。
しかし、こんな高度な追跡痕を付けられている事実が話の信憑性を引き上げており、すぐに真剣な表情になった。
「どうやら、とても大変な事態のようですね。
まずは、追跡痕を一刻も早く解除しましょう。
それから、話をお伺いします。」
「ええ。お願いします。」
クリムは俺をソファに座らせると、左手の追跡痕に手を当ててスペルを唱えた。
「”侵入” “解除”」
すると、左手の傷がゆっくりと浮かび上がり光とともに霧散した。
彼は今、追跡痕の術者である黒蜘蛛の誰かと、その対象である俺との間に侵入し、それを解除したのだ。
簡単に出来ることではないのだが、クリムは呆気なく解呪を済ませてしまった。
スペル魔法の天才なのだ。
「もう大丈夫です。解除はすみましたよ。」
「はい。…実はあっちで話している女戦士も追跡痕を付けられているのでお願いできますか?」
「あ、そうでしたか。もちろんです!」
そして、セスクとギルドマスターに混じって会話していたミモザの追跡痕も難なく解除された。
ちなみに、普通ならお金を受け取ってから解除に取り掛かるのが当たり前だ。
しかし、クリムがそれをしなかったのは、たとえ俺たちが払えなかったとしても解除する気でいるからだ。
貧しい人たちも依頼に来れるギルドでありたいという塵中の紅玉の姿勢なのだ。
ククク。
厨二の称号を与えてやりたいぜ。
と、そろそろ真剣な話が始まるな。
「それでは、話を伺いましょうか。」
セスクとギルドマスターの話もひと段落し、俺たちは全員で話をすることになった。
くの字型のソファには俺達3人が座り、ギルドマスターとクリム、クレビートはそれぞれ小さな丸椅子を出して腰掛けている。
俺は3人を見やると、徐に話し出した。
魔王クルエルが戦争を企てていること。
実は呪會王の呪いを受けていること。
戦争を阻止するために、それを解呪したいこと。
賢者の時と同じように、黒蜘蛛に襲われた時に偶然知ってしまった体にして、俺は所々嘘を混ぜながら話を進めていく。
3人は話に聞き入っていた。
「……そういうわけで、私たちは『魔王クルエル解呪作戦』の実行のために旅をしているのです。」
「はぁ〜……これはたまげたな。」
「ええ。そんなに大きな話だったとは…」
驚きの声を上げるギルドマスターと、クリム。
そして、ギルドマスターが、1番肝心な部分を聞いて来た。
「…それで?
この塵中の紅玉へ来たのは何の為だ??」
「はい。クリムさんに私達の旅に同行して頂き、魔王クルエルの解呪に協力して頂きたいのです。」
「…なるほど。ウチとしてもエースのクリムを送るのは痛い所だが、事が事だ。
…どうだ? クリム??」
「そうですね…。どのくらいの期間になりますか?」
うむ。
当然の疑問だな。
「おそらく、最短でも2ヶ月。長ければ3ヶ月かかります。」
「ふむ…。」
すると、クリムはしばらく考えていた。
もしかすると、弟のクレビートのことを考えているのかもしれない。
なにせ彼らは親がいない。
兄弟二人暮らしなのだ。
それだけの長い期間、弟を一人にするわけにはいかないという思いと、戦争を止めるという事の重大さの狭間で悩んでいるのだろう。
だが、これについては俺に勝算がある。
俺は予め用意しておいた懐の麻袋をドンッと机に乗せた。
「ここに金貨1000枚あります。
これは前金です。」
「…な!?」
「い、いっせんまい??!」
「付いて来てくだされば、さらに金貨10000枚を。
作戦が成功すればさらに向こう1年間、金貨10000枚を毎月払いましょう。
全部で金貨13万1000枚の契約です。」
「…な!?そ、そーじ殿そんなに金持ってたのか?!」
「そーですよ!!ソージさん、お金持ちだったの?!」
「…き、きんかじゅうさんまんまい??は、はは。」
「うっひょ〜!!!まじか??
おい、クリム!!13万枚だってよ!!!
行け!行け行け!!
今すぐ、コイツらと行け!!
これで、俺たちも貧乏ギルドからおさらばだあ!!
ガッハッハッハッハァ!!!」
「………すご。」
ククク!
計・画・通り!!
くぅーっ!!
気持ちいいぜ!!
どいつもコイツも驚いてやがるな?
なにせコイツらは良心的なギルドで、貧しい人から金は取らないんだが、そのせいで客は貧乏人ばかり。
売り上げ的な意味ではすっかり業績の伸びない貧乏ギルドになっちまったんだ。
だからこそ、この喜び様。
ククク。
正直な奴らだぜ。
あ、それはギルドマスターだけか。
まあ、金持ちの俺からしっかり稼いで、ますます貧しい人達の力になって貰えばいいのさ。
俺としてはコイツが付いて来ればそれ以外はどうでもいいがなあ!?
クハハハハハハ!!!
「…オホンッ。
で、クリムさん。
付いて来てくださいますか?」
「行け行け!
クレビートなら心配するな!
3ヶ月だろうと、一年だろうと俺が預かってやる!!」
「うん!兄さん行きなよ!
僕、おっきな豪邸に住むのが夢だったんだ!
お城みたいな!!」
「ガハハハハハ!!
ギルドを改築して城にするか?
そんで、俺たちの部屋も入れるんだ!!」
「あ!それいいねマスター!!」
『わーい!わーい!』
「……あ、あの、僕の意見は??」
うむ。
突然の大金に目が眩んでマスターと弟はぶっ壊れてしまった様だな。
冷静なのは兄だけだ。
実際、仕事をするのは彼だし、危険も伴う事だから当然かもしれない。
「…まあいいでしょう。僕も行きましょう。」
「ありがとうございます!!」
「それでは、一応ギルドを通したクエストの依頼書と、契約書を作らせて頂きますね。」
「はい。お願いします。」
こうして、俺たちはクリム・シェイードを仲間に加えた。
今回はベイムラスを買い取った時と違い、契約魔法を行使した。
ちゃんと、支払いをしなければな。
でなければ、俺は支払いを終えるまで魔法の力で自由を奪われることになってしまう。
ククク!
今回もみんなを驚かせるために馬鹿みたいな金額を言ったからな!!
勿論、現時点ではそんな金額持ってない!!!
まあ、大丈夫だ。
また、闘技場に行ってもいいし、他にも稼ぐアテはある。
ちなみに、クリムの能力を説明しておこう。
彼はいくつかの特性を持っているが、中でも特に強力な2つの特性を持っている。
一つ目は、【言語師範】という特性。
これは、言語魔法に関係する職業の獲得経験値を5倍にする上、言語魔法の威力をかなり上昇させる特性だ。
さらに、【魔道聖者】という特性を持っている。
本来〔魔系職〕によって引き上がる能力は、魔系能力でその他は微細な上昇しかないのだが、この特性は、魔系職が成長すると聖系能力も引き上がるという効果があるのだ。
だから、クリムは魔系職を伸ばし続けていたら、気がついたら聖系能力がもの凄く上がっていたという訳である。
彼の実力は、魔導士としても、修道士としてもA級。
戦闘力も高く、聖職者としての能力も高く、回復や支援役もこなせる。
まさに、今回の旅に打って付けと言うわけだ。
「それでは、クリムさん。
明後日の早朝に出発しますので、それまでに旅支度をよろしくお願いします。」
「わかりました。」
こうして、俺たちは『塵中の紅玉』を後にした。
さて、この後は個人行動である。
木人の二人はかつての戦友に会いに魔導士ギルド『大賢者の祈り』に行った。
ちなみに、「ドンチー」こと、塵中の紅玉のギルドマスターも「久しぶりの戦友の昔話に花を咲かせに行こうじゃねぇか!!」と着いていった。
ギルドは、クリム達に任せた様である。
うむ。
ギルドマスターたる者、そのくらい自由じゃないとな。
で、俺の方はこれからとても楽しみにしていた場所に行く。
———そう、世界一腕のない鍛治師達の溜まり場『おっさんずクラブ』だ。
ここで、裏ワザによってA級の武器を量産しよう。
フゥーッハッハッハッハッハァア!!
つづく
昨日は、更新が出来ず申し訳ありません。
生活の変化もあり、今後は毎日更新は難しそうです。
ですが、可能な限りコンスタントに上げたいと思っていますのでよろしくお願いします!




