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第26話「昔話」


 夕方になる頃、俺たちは首都アンノールにほど近い平原に到着した。


 ミスティリスクから歩けば、本来は4日はかかる所を僅か数時間で来れたのだ。


 ドラゴンのスピードというのは凄まじいものである。


 とはいえ、流石にドラゴンに乗ったまま街に入るのは気が引けたので、人通りの少ない近くの平原で降ろしてもらった。


 チューニートが見られないようにするため、街からかなり離れたから、アンノールまで徒歩で数時間くらいかかる場所だ。


 ただ、俺たちの体はボロボロだったので、一旦ここで野宿することにした。


 もちろん野営道具は俺がヴェルニカを旅立った時に揃えていたし、ミモザ達も木人の里(トレンティア)を出た際に持って来ていたから問題なかった。


 俺たちは目立たないよう、小高い丘の陰に隠れるようにしてテントを張り、焚き火を焚く。


 近くには竹林も生い茂っており、ちょうどチューニートの姿を隠してくれていた。


 その邪竜は焚き火と俺たちを取り囲むようにして体を丸め、うずくまっている。


 聞くところによると、俺の右腕から流れた血が全て乾燥しきってから、1時間経つと自動的に右腕を通って異界に引き戻されるらしい。


 ちなみに、この異界は龍人族の間で『地の底』と呼ばれているのだが、実際には地下にあるわけではなく、全くの異世界だ。


 何せ、追放をする先として選ばれた異世界ということもあってそんな呼ばれ方をしている訳だな。


 ところが、厨二病龍人族リミトと邪竜チューニートの2人は追放されてから、地の底の冒険を楽しみ、国を建国して魔王になったらしい。


 う、うむ。

 俺が設定したのは地の底で冒険を楽しむところまでだったのだが……まさか魔王になっていたとはな。


 誇り高き厨二魂を持ったリミトのことだから、きっと素晴らしい国を作ったのであろうな。


 まあ、残念ながらリミトは魔王として8千年生きた後、勇者に殺されてしまったらしいが…


 とはいえ、地の底は半端ではない猛者が蠢く世界。


 その世界で八千年もの間、魔王として君臨したのだから、大したものである。


 その後、チューニートは数千年つまらない毎日を送っていたのだが、ある時突然【右手に封印されし邪竜の力】の特性についての知識が頭に流れ込んできたそうだ。


 そして、今に至ると。

 不思議なものである。



 さて、俺が壮観な竜の姿を眺めて鑑賞に浸っていると、隣にいたセスクが言った。

 


「…しかし、何度見ても信じられんな。

 本当にドラゴンと共に行動しているとは…。」



 彼はチューニートを見ながら感嘆している。


 当然だろう。

 命を賭けて戦い、力尽きて目を覚ましたら、そこにドラゴンがいるのだ。


 もはや理解不能の事態。


 既に、この邪竜が現れた経緯は説明済みだが、未だに自分の目を疑っていた。

 


「正直、僕も驚いていますよ。」

「…ふふ。でも、そのおかげで助かりました。

 わたしたち、厨二無職(チューニート)さんがいなかったら、今頃全滅してたんですから!」

『フハハハ!

 構わぬ!

 我も久方ぶりの地上に出られたわけだしのお!』



 そう。

 実際チューニートが現れなければ俺たちは詰んでいた。

 本当に奇跡的なタイミングだったのだ。



「…で、ソージ殿がアルボルン様より授かった【特性】によってチューニート殿が現れたのだな?」

「……だよな?」

『うむ。その通りじゃ。』



 やはり、そうらしい。


 『邪竜』というワードがリンクして、【右手に封印されし邪竜の力】が発現した俺に宿ったという仮説は、おそらく当たっていたのだろう。

 


「今までにもこの【特性】を持った人はいたんですか?」

『一応、おったがのう。

 【右手に封印されし邪竜の力】が発現するのは極めて稀なこと。

 数千年に一度あるかないかじゃ。

 我が知る者の中ではソージが4人目だの。』

「ほぇぇ…。そんなに珍しいものがソージさんに発現したんですね。」



 まあ、そうだろうな…。

 俺に発現したのはひとえに制作者であるがゆえだ。


 というのも、【右手に封印されし邪竜の力】を持って生まれてくる確率は極めて低い。


 それこそ、全世界で数千年に1人の確率。


 それに対して、賢者に付与してもらう方法での特性は、「本人の願い」と、「後天的に身につけた人格や特徴、資質」によって発現する特性が左右される。


 で、メガトラオムには『厨二とは何か』ということについての定義を俺は入力している。


 それは当然『()()()()()厨二』。


 だから、この世界が俺のことを『厨二の資質がある』と判断してこの特性を発現させたのだ。


 普通ならあり得ない。



「それで、他の3人にはお前が宿ったのか?」

『いや。

 【右手に封印されし邪竜の力】を持っている者でも、我が宿る為には()()を満たす必要があるのじゃ。』

「…と言うと?」



 うむ。

 おそらく、これが『右手に封印されている……()()()()()()』の部分だろう。

 いったい、どんな基準があるのか。



『我の精神との同調率じゃよ。』

「……つまり、キチガイなら宿ると?」

『ワハハハハハ!!

 ただのキチガイではない! 

 筋金入りのキチガイである!!!

 我ほどのキチガイは、リミトの他には滅多におらぬのでなあ?!

 他の3人もこの特性を発現したくらいじゃからいい線は行ったが、足りんかったのう!!

 実際に宿ったのはお主が初めてじゃ!!』



 なるほど。

 だから、俺の元に宿ったのだな。


 何せ、厨二病龍人族リミトとその相棒龍(ペアドラゴン)厨二無職(チューニート)の二人の精神には俺のエッセンスがふんだんに注ぎ込まれているのだ。


 言ってみれば俺の生き写し。

 だから、この俺とチューニートの同調率が高くないわけがなかった。



 クク。ククク。



「クゥーッハッハッハッハァ!!!

 ならば、俺に貴様が宿るのは、もはや宿命のようなものだった訳だな!!」

「キチガイだと言われたようなものなのに喜ぶなんて……ソージさん、どこまでキチガイなんですか?」



 女戦士がジト目で俺を見てくる。

 

 ククク。

 コイツは何も分かってないらしいな!

 そんな目をしても俺が喜ぶだけだということを!!


 すると、意外にもセスクがミモザを諭すように口を開いた。



「…ミモザよ。

 男にはそれぞれのロマンがあるのだ。」

「…た、たいちょう?!??」

「時にそれは周囲の者には理解できない。

 現に私もソージ殿の価値観を理解している訳ではない。

 だが、受け入れ合うことが大切なのだ。」

「…はい//////」



 こ、こいつ。

 自然体で名言を放ちやがった。

 しかも、全くドヤってねえのに、完璧に()()()()いる。


 この売女兵士が惚れるのも分かるってもんだ。

 顔も性格もイケメンなのだからな。



「ところで、今日襲われたあの黒装束の連中は一体何者なのか…。

 ソージ殿は何か知っているか?」



 セスクが神妙な顔で尋ねて来た。

 

 うむ。

 ある意味、チューニートよりも重大な問題かもしれない。



「ええ、魔王クルエルが抱える暗部組織『黒蜘蛛』です。」

「…?!アルボルン様との話に出て来た組織の名だな?!」

「そうです。

 奴らは俺を追って来たのでしょう。

 危険な目に遭わせてしまい、申し訳ありません。」

「いや、そんな事は気にしないでくれ。

 魔王の企む戦争を止めようというのだ。

 向こうが放っておかないのは当然のこと。

 元より危険は承知している。」

「そうですよ、ソージさん。

 それに、お陰で『戦争を止める』という事の重大さや、緊張感が増して身が引き締まりました!」

「そう言って貰えると助かります。」



 うむ。

 2人はどうやら『俺が戦争を止めようと活動しているのを黒蜘蛛が妨害しに来た』と認識しているらしい。


 実際には、黒蜘蛛が襲って来たのは単に俺の存在を追ってのことだろうが、本当のことは説明のしようもないので敢えて訂正はしないでおく。



「やつらはきっと、もの凄い執念で追ってくるでしょう…。」

「そ、それはソージさんが散々煽りましたからね?」



 む。

 女戦士め、俺が下手に出たと思って調子に乗っているな?

 どれ、いっちょ分からせてやるか。

 ククク!



「……セスクさん、そこの女戦士があなたの寝ている間に…」

「キャァア!!!

 スミマセン!!!

 私が悪かったです!!

 余計なことを言った私がわるかったです!!!」

「ククク。売女めが!」

「…いったい、俺の寝ている間に何があったのだ??」

『ワハハハハハ! 愉快じゃのう!!』



 まあ、俺が煽り過ぎたのは事実だがな!



 オホンッ。

 ……話を続けよう。



「とにかく、追跡痕(マーカー)がついたままでは地の果てまで追いかけられるでしょう。

 ですから、アンノールに入ったら真っ先に魔導士の所へ行きます。」

「…ふむ。しかし、この追跡痕(マーカー)はかなり高度なものだ。

 相当な魔導士と、高い金が必要になるだろう。」

「大丈夫です。金ならありますし、

 魔導士も当てがあります。

 『塵中の紅玉(ダスティンルビー)』という魔導士ギルドです。

 まずは、そこに行ってみようと思います。」

「うむ。了解だ。」



 『塵中の宝石(ダスティンルビー)』とは、首都アンノールにある小さな魔導士ギルドだ。


 ここには実力があって、かつお金を殆ど取らない魔導士がいる。

 ついでに、今回の旅に連れて行きたい〔聖職者〕もいる。


 一石二鳥という訳だな。



「…しかし、魔導士ギルドか。久しいな。」

「セスク隊長、魔導士ギルドと関わりがあるんですか?」



 お?

 セスクが懐かしがっているぞ?

 これはもしや、()()()かもしれんな。



「ああ。随分、昔にな。」

「ぜひ、聞きたいです!」

「…面白い話でもないぞ?」

「僕も聞きたいですね。」



 ククク!

 俺の作った設定をキャラ本人の口から昔話として聞くなど、最高じゃないか!?

 聞くしかないだろう!


 俺が促すとセスクは少しだけ嬉しそうな、同時にどこか悲しそうな表情で話し始めた。



「……あれは、屍将ヴォルデスが人類への侵略を開始した最初の頃だった。

 バリエッタ王国と妖人族は共通の敵が現れたことで、手を取り合って戦ったのだ。」

「すごい!国を超えた共闘作戦ですね!」



 ミモザが目をキラキラさせながら聴いている。



「うむ。

 それで、屍人の軍勢にバリエッタのミテレーネが攻撃を受けた時に私も援軍として参加してな。」



 ミテレーネというのは三角山脈に隣接するバリエッタの都市だ。

 破壊王の拠点に近いため、ヴォルデスに狙われやすかったのだ。



「その時、私はヴォルデスと初めて直接刃を交えたのだが……全く歯が立たなかったよ。」

「…うそ。セスク隊長が?」

「ああ。私も驚いたよ。

 屍将というのはこれ程に強いのかとな。」



 うむ。

 まあ、ヴォルデスはその屍将の中でも強い部類だから仕方あるまい。



「私の部隊は奴に追い詰められ、窮地に立たされた。

 その時、颯爽と現れたのが魔導士ギルド『大賢者の祈り(サビオラシオン)』だった。」

「あ!賢者様からその名前聞いたことあります!!」

「バリエッタ最大の魔導士ギルドですね…。」

「…うむ。森が呪われる前は賢者様もよく『大賢者の祈り(サビオラシオン)』と共同で魔法の研究をされることがあったそうだ。」



 うむ。

 さらに前には魔王クルエルもそこに混ざっていたのだがな…。



「彼らは、ヴォルデスの軍を一時的に足止めして、我らを助けだしてくれたのだ。

 だが…さすがの彼らもヴォルデスを倒すには至らず、当時のギルドマスターが奴の手に落ちることになった。」

「…そんな?! 

 王国一の魔導士ギルドのマスターが!?」

「ああ。彼もかなりの実力者だったが、ヴォルデスの方が上手だったのだ。」

「…そうだったんですね。」



 ミモザは少し悲しそうな顔をしていた。

 しかし、セスクは明るい表情で続ける。



「だが、その勇姿は素晴らしいものだった。

 彼は致命傷を負い、自らの最後を悟ると、我らの部隊と共に、ギルドメンバーを無事に返すため、ヴォルデスとその部下達を相手にたった一人で殿(しんがり)を務めたのだ。」

「…素晴らしい人だったのですね。」

「…ふふ。ああ、そうだな。

 その後の戦いでも『大賢者の祈り(サビオラシオン)』には何度も助けられた。

 彼らを忘れる事は決してないだろう。」



 悲しい話のはずだが、不思議とセスクは嬉しそうだった。

 きっと、戦友達のことを懐かしく思っているのだろう。



 すると、隣でずっと黙っていた邪竜が嗚咽を漏らしながら言った。



『…ゔぅっ!

 良き話ではないか!!

 その『大賢者の祈り(サビオラシオン)』とやらにも時間があれば行けると良いのう!!』

「ククク。そうだな!

 黒蜘蛛に追われているから、あまりゆっくりは出来ないが、かつての戦友に会うくらいの時間は取れるかもなあ?!」

「有り難いが、私に構う必要はないぞ。

 予定はソージ殿が決めてくれ。」

「ククク。

 なに、問題はない。

 追跡痕(マーカー)を解除した後は、自由行動の予定だ。

 俺も個人行動をするからな!!」

「…そうか。また、奴らに会えるのだな。」

「セスク隊長!わたしも、『大賢者の祈り(サビオラシオン)』に行ってみたいです!!いいですか?」

「ああ、もちろんだ!!」



 うっとりとした視線でセスクを見つめながら、頼んでいるミモザ。

 隊長も、嬉しそうに答えている。

 きっと、戦友に会いたいという気持ちが嬉しいのだろう。


 うむ。

 2人の時間が過ごせて女戦士には良いアシストになっただろう。



 そんな調子で俺たちは談笑していた。


 しばらくすると、チューニートが突然俺の右腕に吸い込まれた。


 その光景は、まるで俺の右腕がブラックホールになったかのようで、漆黒の邪竜の巨体が渦のようにして戸愚呂を巻いて吸い込まれたものだから、俺たちは驚愕してしまった。


 血が乾いて1時間が経ったという事らしい。



 その後は、すぐに瞼が重くなり休息を取ったのだった。



 明日からは、いよいよ首都アンノールである。

 


 








 つづく








————





※補足





この日、ソージ達がチューニートと話して知った事を記します。






【チューニートについて分かったこと】



 ・チューニートを顕現させる為には100ml以上の血液を右腕から流す必要がある。


 ・顕現したら自由に封印することは出来ず、右手(腕も含む)から流した血が全て乾いて1時間経つと右腕を通じて異界に封印される。


 ・封印されている間は、〔奇系職〕の獲得経験値が10倍になる以外の効果はない。逆に顕現している時は経験値は10倍にならない。


 ・この世界で奴が解放できる力は〔ソージの基礎能力〕と〔右手から出血した量〕に依存している。そのため、今はソージが弱すぎて本来の力の1%も出せていない。


 ・それでもS級くらいの強さはあるが、すぐ魔力切れを起こすのでA級が複数いたり、それ以上の強さになると勝つのは難しい。


 ・制圧(マウント)は100%のチューニートの実力に従って発動する上、魔力を消費しないのでかなり有用である。


 ・飛行は魔力を消費しないが、体力を消費する。


 ・飲食、睡眠、排泄などの基本的な生理的な行為は普通にする。

 

 ・異界でリミトとチューニートは八千年もの間生きて、国を作り、最強の()()()()となったが、向こうの勇者にリミトは殺されたこと。


 ・チューニートはその後数千年年の間、放浪しながらつまらなく生きていた。


 ・ある時、突然【右手に封印されし邪竜の力】についての知識を受けて、4人目の特性保持者であるソージの元に顕現した。


 




 



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